19、ゴブリンの群れ
石英の塊と思われる白い石。
太陽に透かして見ると、ところどころ透明感がある。
美しいが、岩壁に投げてみよう。
この世界での石は、投げやすい石か、投げにくい石かの2種類だ。
緑石は別。
あれは癒し。
「よっ」
シュッ ズガン!
相変わらずのこの威力。
白い石英の石はやはり傷ひとつ付いていない。
当たった岩壁は少し砕けている。
「ん?なんかキラキラしているような…」
石英が当たったあたりがキラキラと輝いて見える。
石英の細かい欠片でも舞っているのか?
観察していると輝きはフッと消えていった。
もう一度別の岩壁に石英を当ててみても同じ現象が起きる。
やはり石英が引き起こしている現象のようだ。
夜にやると綺麗かも。
キラキラを触ってみても、何も感じない。
輝く以外は特に変わったこともないし、とりあえず検証は終了しよう。
さて、陽はまだ高い。
狩りを再開しよう。
狩場の高台に戻って槍を構えて獲物を探す。
異常なしっ。
昨日聞いた激しい水音は、カワムツよりも大きい奴が出した音だ。
絶対にもっと大物がいる。
広範囲に探ってみるも動くものは見つからない。
「んん?」
湖に獲物がいないので、ふと寝ぐらの高台から見つけた動く影を確認してみると、影が増えている!
なんか動きが大きいぞ。
「あぁ、やっぱりゴブリンだ!」
見えた!ゴブリンが岩陰から姿を現した。
頭が赤く見えるので、前に来た奴らと同じく赤いバンダナを巻いているのだろう。
おしゃれなの?
と、思ってみていると次から次へとゴブリンが湧いてくる…!
「これはヤバい!」
大群がゾロゾロと開けた岩場に集合しつつある。
こちらから入り口は見えないが、ゴブリンの巣があるに違いない。
「あれが攻めてきたら大変なことになる…」
でも向こうもこの湖は見えているはず。
あれだけの人数、飲み水もかなりの量が必要になるだろう。
あの巣穴に潤沢な飲み水があるとは思えない。
これは絶対こっちに来るよね…。
昨日来た3人は偵察部隊で、戻ってこないから軍を組織してきた、とか?
いやいや、もっと平和的なパレードかもしれないぞ。
お困りですか?って助けてくれるかも…。
ないか。
ないな。
昨日の奴らは有無も言わさずに襲ってきた。
絶対に戦闘になる。
そのために武器庫に大量の兵器(石)を用意してきたではないか。
「あ、ひときわデカい奴がいる!」
周りのゴブリンより一回り大きいのが出てきて、なにか喚いている。
ゴブリン語でなにか指示を出しているのかもしれない。
そいつだけ上半身に服か鎧を着込んでいるように見える。
なんとなく偉そう…。
全軍が揃ったのか、その大きなゴブリンの号令のもと、群れは動き出した。
進行の方向は、やはりこちら、か…。
やるしかないな。
数はおよそ100人。
遠距離からの投げで迎撃するしかない!
まだ射程距離には届かない。
今のうちに体制を整えよう。
急いで武器庫に戻り、アトラトルと石槍2本、ゴブリンの槍3本を脇に抱え、石の円盤5枚を狩場の高台に運んで投げやすいように並べておく。
もう群れの先頭はアトラトルの射程範囲内に入っている。
当然ゴブリンも俺に気づいているようで、ギャーギャーと喚きながら殺気を込めた視線を向けている。
アトラトルに石槍をセットする手が震えている。
緊張か、興奮か。
「闘いに臨むつわものは皆、我の前に在りて陣列をなす」
大規模な戦闘を前に武者震いが起こるも、忍者先輩の教えてくれた呪いを口にした途端にピタリと心も体も鎮まる。
お師さん、忍者先輩、師匠、バクシ、お父さんお母さん。
この世界で雄々しく生き抜くと決めた。
俺は今から鬼となって人を喰らう。
「……投げる!」
シュゴッ! ルルルル……ズドンンッ!
アトラトルから投げ放たれた槍は唸りをあげて飛び進み、狙い違わず大きめのゴブリンの胸を貫いた!
槍はなおも突き進み、後続のゴブリンを蹴散らした。
よしっ!
混乱している間にさらに投げ込むぞ!
「我がツワモノどもは無敵なりっ!」
シュゴッ! シュゴッ! シュゴッ……!
石槍とゴブリンの槍3本をゴブリンがかたまっているところに投げ込んだ。
凄まじい戦果だ。
群れは混乱しつつも、まだ士気が高いようでなおも向かってくる。
士気が高いというより、興奮状態だ。
戦いに酔っている!
まだまだ戦いは終わりそうにないな。
槍は尽きたが、まだ石板がある。
まさか円盤投げを戦いで使うとは思わなかったな。
石板を指の関節に引っ掛けるようにして持つ。
上半身を回転させ、徐々に大きな力へと変換させていく。
ステップは踏まない。
命中率重視だ。
「投げるっ、オラッ!」
シュバッ! ゥゥゥゥゥ…ズカガガッ!
凄まじく回転する円盤はゴブリンを粉砕し、なおも地面を滑るように進む。
さらに石板を投げようとするも、ゴブリンは学習したのかバラバラに進んでくるようになったので的が絞れない。
岩陰に身を隠しつつ進む奴も多い。
仕方ない、先頭のゴブリンを優先的に仕留めよう。
「投げる!」
シュバッ! シュバッ! シュバッ…!
「ハァハァハァハァ…」
石板も全て尽きた。
ゴブリンは散開しつつ、なおも攻めてくる。
だいぶ数は減らせたが、広範囲に散らばってしまい数が把握できない。
…ここまでは上手くいってる。
初っ端にデカいゴブリンを倒せたのは僥倖だ。
よしっ、次は武器庫で迎撃だ!