18、アトラトル
焼魚改め干魚をかじり、水をがぶ飲みしてから高台に立つ。
やはり静かな湖面だ。
目印付きの槍を持つ。
槍の後ろに2mほどの紐が付いたような状態だが、管は軽いので全く気にならない。
むしろバランサーとして働くので、真っ直ぐ飛ばしやすいかも。
よし、やるか!
「投げる!」
構えた姿勢のままで投げ集中。
視える、視えるぞ…!
遥か上空から獲物を狙う猛禽類になったかのようだ。
しかしながら動くものはいない。
狩りに忍耐は必要。
ここは待ち、だ。
忍耐。
忍耐…。
に…ん…
「待てるかー!」
バシュッ!
思わず槍を投げてしまった。
俺の投げのパトスは押さえつけられない!
投げは投げるまでが投げなんですぅ。
50mほど先にプカ〜っと目印と竿尻が浮かんでいる。
うん、見つけやすい。
目印の具合の確認にはなったか。
…回収しに行こう。
そう言えばこのヘビトンボの羽はものすごく水を弾くな。
蓮の葉のように水滴がコロンコロンと転がる。
水に浸かっても、パッと払えば何も濡れていない。
高性能素材のレインコートだ。
パレオに布団に合羽か…。
しかも頑丈。
すごい素材だな。
ミズカマキリの羽も残してあるが、あっちは透明で繊細な感じがする。
また別の用途があるだろう。
槍を回収。
他の生き物にも襲われることなく帰還。
ちょっと気分転換に湖を一周して何か落ちてないか探索しよう。
今日も良い天気だ。
ここは暑いのだが、灼熱地獄という訳でもない。
水源さえあれば緑豊かな土地になっていてもおかしくない。
ゴブリンやあの腰の毛皮を見るに、あれだけの生き物を生かす環境が近くにあるはずなんだが…。
見渡せる範囲では何もないんだよな。
「あ、槍を構えて投げ集中すれば遠くまで見えるかも!」
探索が終わったら試してみよう。
それとアトラトルな。
これも要検証だ。
「お、石発見!」
膝まで水に浸かり石を拾う。
元の世界の石は6個目だ。
これも大きさは似たりよったりの拳サイズだ。
ただ今回は白くて少し透明感がある。
水晶とまではいかないな、石英の塊だろう。
赤石みたく何か不思議な力を持ってそうに思える。
これも検証案件だ。
探索を続けよう。
「あ、なんか落ちてる」
次に発見したのはペットボトルのキャップである。
ゴミを捨ててはいけません!
まぁそのお陰で拾えたんだが。
つ、使い道は思いつかないけど、今のところ唯一の工業製品だし、貴重だし…。
とにかくキープだ。
その後は何も見つからなかったので、諸々検証しよう。
先ずはアトラトルの加工だ。
加工といっても、拾った枝を槍を乗せやすいように軽く平らに削るだけで良い。
アトラトルとは槍を投げるときの補助具のようなもので、これに槍をセットして投げると飛距離が段違いに伸びる。
命中率は下がるが、アボリジナル・オーストラリアンの師匠は『戦争でよく使ったぜ』的なことを言っていた。たぶん。
と、昔のことを思い出している間にアトラトルの加工は終わった。
早速やってみよう。
竿尻のほうをアトラトルの突起を引っ掛けるようにして柄に沿える。
柄は軽く人差し指で押さえる程度でアトラトルに乗せて握る。
ロケットの発射台のようだ。
槍が短いからバランス悪いかな?
それでも力点、支点、作用点が延長されるので非常に強い力が生まれるはず。
軽く投げてみよう。
「よっ」
ビュン
「おおぉぉ〜」
良いではないか。
軽い力でかなり飛んだよ。
何となくだけど、思いっきり投げたら200mぐらいは飛ばせそうな感覚がある…。
槍にもアトラトルにも歪みがあるから、命中率は低いな。
要練習だ。
よし、次は寝ぐらの高台に登って辺りを見てみよう。
「投げる!」
槍をセットしたアトラトルを構え、投げ集中する。
「おお、すげぇ!」
遥か遠くまで見えます!
しかも倍率を変えられるようで、もっと詳しく見ようとするとさらにクローズアップする仕様のようです。
超便利!
アトラトルを外し、槍だけでやってみる。
ん〜遠くまでよく見えるけど、アトラトルがある方がより遠くまで見えるようだ。
投擲物の飛距離に比例して見える距離が変わるのかな?
何か変化がないか、つぶさに岩の大地を見渡していく。
やっぱり何もない。
生命感がないのだ。
ゴブリンが来た方向はどうだ?
ここからでは湖の対岸にあたる方向を観察する。
倍率を変えつつ、じっくりとしらみつぶしに見ていく。
「あ、影が動いてる!」
岩陰から突き出た影がゆらゆらと動いてる。
距離はここからかなり離れていそうだ。
しばらく待っても岩陰から何かが出てくる様子もないので、投げるのをやめた。
「ふぅ」
だって疲れるんです。
あの場所を覚えておいて、定期的に観察しないといけないな。
夜行性の生き物もいるかもしれない。
夜も警戒しないとな。
次は…そうそう、石英の検証だったな。