17、水球やってました
「なんだコイツ⁉︎」
巨大な何かがカワムツにまとわりついている!
細長い。
カマキリのような奴だ。
カマキリ…?
「ミズカマキリか?」
俺の知っているミズカマキリよりマッチョというか、かなりイカツくて禍々しい。
その巨大ミズカマキリが巨大カワムツに腕の鎌と口を突き立てている…!
なにしてやがる、それは俺の獲物だ!
水中では動きにくいが、構うものか。
ミズカマキリに向けて銛を投げつける。
ズパッ! バキン!
ミズカマキリはしがみついていたカワムツを離し、片方の鎌で銛を払いのけた。
素早い動きだ。
やるね。
カワムツはもうピクリともせず、水底に沈んでいく。
ミズカマキリはこちらを伺うようにじっと佇んでいる。
お尻から伸びた長い管の先端が水面に突き出しているから、呼吸中か。
やはり虫は感情が見えないからやりにくい。
「きたっ!」
充分な呼吸を終えたのか、4本の足をオールを漕ぐように交互に動かせ、俺に向かって突っ込んできた。
早い!
流石は水生昆虫!
人間は水の中では無力な存在である。
水中では呼吸もできないし、投げの威力も全然出ない。
大ピンチだ。
しかしながら我が天現捨投流は水中でも戦うことを想定して訓練しているのである。
主に滝壺に落とされるだけだが。
あの野郎!
…なので俺は水の中で全く動けないこともない。
それだけじゃない、俺は…
「水球もやってたんだよ!」
両親が亡くなったあと、お師さんと暮らし始め、秘匿道場で厳しい修行に明け暮れた毎日が続いた。
そんな殺伐としたある日、お師さんはこれではいけないと思ったのか息抜きにプールに連れて行ってくれたことがあった。
そのプールにたまたま水球の練習をしているチームがいたのだ。
美しくも激しい投げに見惚れてしまい、当然のように混ぜてもらった。
そしてそのチームに入会し、小学生の間は通ったのだが他の投げも忙しく、水球用の水深のあるプールがあるところは家から遠く離れていたのでいつしか行かなくなった…。
それでもあのときの泳ぎの技術や水上での投げの技術は、今でも俺の中に息づいている。
得意だったのは引き足で方向転換してからのシュートだ!
腰の触角ベルトに差してあった投げナイフを引き抜いた。
「シュート!」
ズパッ!
逃げると見せかけてからの引き足で方向転換し、上半身が浮き上がるぐらい水を蹴り上げた。
そして水上から水の中のミズカマキリに向かって投げナイフを投げつけた!
投げナイフはミズカマキリの首の後ろの背中あたりを断ち切り、水底の岩に激突して砕けた。
力を失ったミズカマキリの前半部分が沈んでいき、後半部分は気づいていないのか、なおも前進を続けている。
目の前を後半部分が通りすぎていく。
長い。
体の部分だけで2mもあるだろう。
そしてそれと同じぐらい長さの呼吸のための管が横切っていった。
今また別の生き物に襲われると手元に武器がないので危険だ。
急いで水から出ないと。
槍が刺さったままのカワムツ、銛、そして力尽きたミズカマキリを回収してなんとか陸にあがった。
「は〜びっくりした…」
でかい魚だけでなく、でかいミズカマキリまで狩ることになるとは…。
ミズカマキリはまだ少し動くので怖い。
カワムツは水の中では大きく見えたが、陸にあげるとそれほどでもないような…。
「あれ?なんかフニャフニャになってる…」
カワムツの長さは俺の身長と同じぐらいの180cmぐらいだが、体の張りがなくなっている。
溶けてきているような…。
急激に腐るはずもないだろうし…、これはもしかしてミズカマキリの毒か?
サシガメの中には鋭い吻で獲物を突き刺し、毒を注入して溶かしてから吸い取るという種類がいる。
ミズカマキリも確か分類的にはカメムシの仲間だ。
「やられた…」
毒を注入されてるなら食べるのは危険だ。
せっかく獲れたのに…。
動画ならなんでじゃーって吠えて編集さんに面白おかしくしてもらえるところだが、これはリアル。
結構なダメージだ。
湖の水が汚染されないよう、また丘の向こう側まで持って行って焼却処分するか…。
ミズカマキリもカメムシの仲間だから、食べるのはイヤだし肉は焼却だ。
ミズカマキリに似ているタガメを食べる国があるのは知っているが、イヤだ!
まだそこまで飢えていない!
でもこのミズカマキリの外骨格はいろいろ使えるぞ。
細長い足の節は70cmぐらいあるから短い槍などの柄に、腕の鎌は槍か銛の穂先かな。
呼吸用の管も長くてしなやかだし、何かに使えるだろう。
食料は得られなかったが、素材はいろいろゲットできた。
やったぜ!と思っておこう。
毒を含んだ体液を浴びないように気をつけて、丘の向こう側まで持っていき、解体と焼却処分をした。
中身を抜いたミズカマキリの殻は乾燥させておこう。
さて、食料が増えた訳ではないので、もう一度漁に挑戦するか。
投げナイフは壊れてしまったが、槍と銛はまだ使える。
武器庫に戻って投げナイフを補充しようか…。
さっきの漁では魚は突けたけど、回収が結構難しかった。
上から見てるとわかるんだが、泳いで取りに行く途中に獲物の場所がわからなくなるんだよな。
何か良い方法はないものか…。
水の中で目印となるもの…。
ミズカマキリの呼吸管はパイプ状だし、槍の柄の石突側にセットしてみようか。
そして先端に何か浮きみたいなものを付ければ、回収するときに分かりやすいはずだ。
…山でクロスズメバチの蜂の子を獲るために、巣に帰る蜂に目印を付けて追っかけたのを思い出すな。
まぁ上手くいくかどうかわからないけど、それほど投げるのに邪魔にならなさそうだしやってみよう。
加工は簡単にできた。
石突部分を尖らせて管に差し込むだけだ。
管の先端にも同じように尖らせた木片を差し込んだ。
「よし、投げ再開だ!」
目印付きの槍1本、普通の槍1本、投げナイフ2本、赤石を携帯して高台に戻ろう。
銛はイマイチだったから置いていった。
今度こそ、食料ゲットするぞ!