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第九十五話「大冒険はお弁当持って」



「よし、こんなものかな?」

「いつもの事ながら、カトレアさんの収納オカシイですね………」


シャルちゃんはそう言うが、季節の変わり目だ。そろそろ夏野菜は終わりだし、出回り始めた秋の味覚もクロフォードじゃ手に入り難い物は買っておきたい。

特に海の幸は向こうじゃ鮮度の問題で干物とかくらいだしね。

当分はダンジョン攻略に掛かりきりになると思うし、ここは大人買いでしょう。


「大人と言うより商会の仕入れみたいですわ」


山積みの野菜達を《空間収納》に入れていく私を目を丸くして見ている市場のおじさん。

うん、お構い無くー。



一連のゴブリン騒動は一先ず終わった。いや、バルバロッサは七日毎にリポップするし、マドカさんが来てなんとかしてくれるまで倒し続けないといけないんだけど、騎士団とゴブリン傭兵団を中心とした討伐隊が頑張ってくれるので、高ランク冒険者が必須では無くなり、漸く解放された訳だ。


討伐後に騎士に肩を叩かれるクロガネ達が印象的だったな。こうして信頼を得ていけばゴブリン達と共存出来るだろう。

言葉の問題もあるけど、片言だけど話せるようになってきてるみたいだしね────精鋭ゴブリンの一人が。うん、クロガネ頑張れよ。

南のゴブリン村、正式にクロガネの配下になったらしい。群れ同士のハナシアイでクロガネが南のロードをセットクして長に収まったとか。初回の時にロードっぽいゴブリンが居たけどあれが元南のボスか。現在では片腕として働いているようです。

魔物の国───なんてラノベとかで見掛けたけど、あっちはあっちで文化的改革中なようだ。いやホント、その内ゴブリンの街とかになりそうだよ。



そんなこんなでゴブリン騒動がとりあえずだけど片付いたので、私達はクロフォードに出発前の準備中。ダンジョン実装は一あと月くらいだし、そろそろ戻りたい。昼過ぎから市場や武具店などを手分けして回って買出しが終えた。


「お待たせー。明日の朝イチの便が取れたよ」


シャルちゃんと中央広場の噴水前で待っていると、馬車便の予約に行っていたシシリー達が戻ってきた。


そうそう、馬車便は王都~クロフォードの便は無くなって、グリム~クロフォード間を毎日便が出るようになったそうだ。元々ノルディン、グリムの間には乗合い馬車はあったので、クロフォードまでは乗り継いで行く形だ。

今までは時折商人やギルド関係来るくらいの僻地だったのが、グリムのお店が出来たり冒険者などが来るようになったからだけど、バス旅行的な気分は悪くなかったから少し残念かも。


「後は……冒険者ギルドに行っておかないとか」

「一応出発前に挨拶はしておかないとだね」


冒険者は自由だ。多くは金銭的な問題もあって拠点とする町に滞在しているけど、依頼によっては遠出もするし、何より「冒険」を求めて新天地を目指す者もいる。

悪く言えば住所不定の日雇い労働者なんだけど。


そんな彼等の仕事を斡旋してくれるギルドとしては、それなりの人材───まあ、鉄ラノベ以上の冒険者の所在は出来れば把握しておきたい。今回のバルバロッサ討伐みたいに高ランク冒険者を確保したい時とかあるからね。

なので、義務化されてはいないけど町の出入りの際に挨拶くらいはしていくのが通例だ。


「なんか、如何にも冒険者って感じだねー」

「だな」


シシリーがそんな事を言うけど、つい最近までは銅ランクで依頼を受けるのも苦労してたし、やっぱり物語の冒険者っぽいのが嬉しいのだろう。


他愛もない話をしながらギルドに顔を出すと。


「カトレアちゃん、おはようー」

「馬鹿姉、もう昼過ぎだ」

「ん。飲み過ぎ、良くない」


テーブルに突っ伏したアネットさんと、カップを二つ手に持ったイザークさん、アネットさんの隣でいつもの無表情なメルディ。

昨晩の打ち上げがあったんだけど羽目を外したアネットさんは二日酔い、同程度飲んでいた筈のメルディがけろっとしてる。イザークさんも変わり無くカッコいいです。


「とりあえず水を飲め」

「ありがとー」


イザークさんからカップを受け取って、ぐいっと煽るアネットさん。

まあ、やっとバルバロッサ討伐から解放されたって事で待望のドレイク肉で焼き肉パーティーだったしね。かく言う私も食べ過ぎで朝とお昼は軽く済ませた。

ちなみに打ち上げメンバーは私達とアネットさん達、〈紅蓮花〉。〈春雷〉と〈叢雲〉も誘おうと思ったが早々に王都を出立したそうだ。王都内のお店でやったのでクロガネ達は不参加だったが、報酬に現金ではなく食料やお酒を貰っていたので、あっちはあっちで楽しんでいるんじゃないかな?


「カトレアちゃん達はそろそろ?」

「明日の馬車便でクロフォードに戻ります。アネットさん達は、しばらく王都ですか?」

「そうねー。お嬢の用事が済んだら副都かな?クロフォードのダンジョンも興味はあるんだけどねぇ」


水を飲んで少し気分が回復したのか、アネットさんは体を起こす。


「ん。そのうち竜狩りに行く。待ってて」

「いや、亜竜が美味しいから竜がもっと美味しいとは限らないんだけど……」


ふんすと意気込むメルディにアネットさんが言うけど、聞いているのやら。まあ、金ランクの彼女達のPTならレイゲンタット中腹も行けそうだけど。


「うん、待ってる」

「………そうね、また会いましょう」


久しぶりの再会だったけど、ここでまたお別れだ。

でも、また会えるよね。その時はもっと成長した自分を見せられるように頑張らないとだね。


アネットさんがきゅっとハグをしてくれる。

ちょっとお酒臭かったけど、これも思い出になるのかな?




お読み下さりありがとうございます。

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