第九十七話「誰にでも忘れられない夏がある」
翌朝、私達は久しぶりにノルディン冒険者ギルドを訪れたのだが。
「ちょうど良い所で会ったわね」
「お久しぶりです、ケイトリンさん」
冒険者ギルドの扉を開けたら、目の前に見知った顔───という程の長い付き合いでは無かったけど、豪雨災害の時に《収納》持ちとしてご一緒したケイトリンがいた。
一瞬驚いた顔をしたケイトリンさんだけど、がしっと私の手を掴み、受付カウンターに歩き出す。引きずられるようにしながら私は挨拶をする。
「仲間が揃ったわ。これで受けられるわね?」
「え、ええ。大丈夫ですが………」
いつぞやの新人受付嬢っぽい方がちらりとこちらを見る。
「あのー、一応私達も予定というものがあるんだけど?」
「この依頼、一人じゃ受けられないのよ。少々危険ってのはあるんだけど、討伐じゃ無くて捕獲依頼でね。今日一日で終わらせるから」
拝むように手を合わせるケイトリンさん。
予定と言ってものんびりノルディンを堪能しようという感じではあるんだけど……。
「上手く行けば、特製濃厚プリンが食べれるわよ?」
「お聞きましょう」
うん、特製プリンと聞いたらシャルちゃんが釣れるわね。グリムで炊き出しした時にでも好物を聞いていたのかも。
ノルディン周辺は草原が広がる台地だけど、北にはレイゲンタットから流れるラシュアン大河。河口では河幅が2メルローにもなる王国の三大河だ。その手前で草原は岩場に変わり、私達の目的地はそこにある。
この岩場、秋になるとちょっとした名所になる。
白冠鳥の繁殖地になるそうで、名前の通りに白い冠のような頭羽根が特徴的なペンギンっぽい大きな鳥が群れている。円らな目にモフモフの羽毛と体の大きさの割りに小さな羽。
「白冠鳥はレイゲンタットの麓で暮らしているんだけど、繁殖期はここに集まって来るの。大河を遡上して来る鮭が目当てとか、天敵が少ない土地とか言われてるわね」
ケイトリンさんが説明してくれるが、私達は目の前の光景に釘付けだ。
「うわ、なにこれ、可愛いすぎる」
「モフモフ天国ですわ」
前世でこういったペンギンのコロニーとかの映像は見た事あるけど、小さな羽を広げてよちよちと歩きながら「きゅいー♪」とか鳴いてる白冠鳥達。中にはペアでごろごろ転がったりしてる子がいる。これは雌へのアピールらしいが、右に左にと転がる姿はぬいぐるみの様で。
乗馬とかの予定だったけど、これはこれで良い物が見れました。
「…………で、これを捕まえるのか?」
「うん、お持ち帰りしたいね」
あれですよ、定番のモフモフ要員。
ロリっ子枠の私とロリ巨乳のシャルちゃん、定番美少女枠のシシリー、ユースはモブ系お人好し主人公でアークはそのフォローをする知性派の相棒か。
うん、私達に足りないのはモフモフだ!
ケモ耳娘とかペットか召喚獣とテイムモンスターで狼とかは癒し要員は定番よね。
「狙うのは特殊個体の卵よ。お肉は固いし筋張っていて余り美味しくないのよ」
「あれ食べたんですか……」
近くの白冠鳥が「きゅい?」と首を傾げる。
確かに生きる為には食べないといけないとは言ったけど、人を怖がらないのか集まって来るこの子達を狩るのはダメな気がします。
「………珍しい食材ばかりを扱う店があってね。実物を見たのは後になってからよ。食材ハンターとしては興味深い店なんだけどね」
くあぁっと欠伸をする白冠鳥を見ながらばつが悪そうにケイトリンさん。
ああ、ダチョウとかワニとかの変わったお肉を食べれるお店とかあったなー。特別美味しいとは思わなかったけど、そういう食材は当たり外れは多そうだ。
「ちなみに、この子達生きた魚しか食べないから飼うのはおすすめしないわよ。まあ、可愛いけど魔物だし?」
「それはちょっと大変そう………」
この見た目だけど、危険度は2。単体でもそれなりのスペック。レイゲンタットの麓で暮らしているのは伊達じゃないようだ。
活魚しか食べないとなると流石に連れて歩けないよねぇ。残念。
「……で、依頼の特殊個体は─────あ、あれね」
「いや、あれ、特殊個体って言うか?」
「もはや白冠鳥には見えませんね………」
特殊個体───有り体に言えば、その種のレアかボスエネミーみたいな物。大体は色が違ったり、角とか増えてたりする。速度が三倍だったり?
まあ、基本的には元の個体をカスタマイズした外見だったりするんだけど………。
「あれはデブチョコ⚪?」
大きさは普通の子が1メルク位なのに大して約2倍。でも横幅は4倍位ありそうな、丸々と太った体型。それはそれで可愛いかもだが、目付きが悪い。こちらに気が付くと「ああん?なんじゃワレ?」と言わんばかりにガンを飛ばして来る。
「皇帝白冠鳥。アイツだけは狂暴よ。危険度は4。今回の依頼はあれの卵なんだけど、特殊個体は数が少ないから倒すのは無しで。卵が採れなくなっちゃうからね」
成る程、あれを巣から引き剥がして卵だけゲット。強さはそれなりだけど倒しちゃいけないとなると結構大変だね。
そうなると、誰かが引き付け役をする訳だけど………うん、皆の視線が私に集まるよね。
「あー、はいはい。やっぱり私か」
んじゃ、いっちょ目付きの悪い皇帝さんの相手をしますか。
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