前へ次へ
100/116

第九十六話「今日の気分はビーフシチュー」



『ブモォー』


そろそろ陽が傾き夕暮れ前の時間。長閑な牧場。

私達はまったりと散策。


「おー、あれが角牛か?一杯いるなぁ」

「あっちは子牛もいるよ、可愛いー」


王都からノルディンまでは特に事件も起こらず、予定通りに二日目の夕暮れ前に到着した。

私は数回通った街道だが、三人組は王都の北には来た事が無いようで道中は賑やかだった。

それほど急ぐ旅ではないので、ノルディンとグリムでは観光がてら数日滞在予定で、今日の宿を確保して、夕御飯までは少し時間があるし、お腹を空かせる為に牧場見学に来ています。

折角なら途中の領都も堪能したいよねー。前回の帰りは大雨で大変だったし、今回は三人組も一緒だし。


「角牛は気性が荒く飼育が難しいと聞きますが、ここでは普通に飼われているんですね」

「何代か掛けてここまでになったそうだよ」


角牛は茶色い長い毛と一角獣のような角を持つ魔物には分類されていないけど、獰猛な野生の牛だ。

雄一頭に複数の雌で群れを作り縄張り意識が強い。侵入してきた外敵には群れ全員で突進して来る。

肉質は脂が綺麗に入った上質で、高級食材として有名だが、狩りは群れを相手にする為危険で、飼育はもっと危険だが、何代も掛けて飼い慣らしてきたそうだ。


私の説明にアークは納得したように首肯く。


「流石、酪農の盛んなノルディンですね」

「飼い慣らせれば安定供給できますし、狩りが大変な魔物とかも飼育できると良いですわね………ツインランサードレイクとか」


先日の打ち上げとかを思いでしてか呟くシャルちゃん。

…………彼のドレイクとか亜竜が放し飼いにされる牧場………どこのモンスター牧場かジェラシックな島ですか、それ。



牧場を散策して繁華街に戻ると日は沈み夕御飯にはちょうど良い時間。郊外は牧場が広がっているが、領都の中心は旅人や買い付けに来た商人などで賑わう。牧場直営のお店も多い。

ノルディンと言えばお肉と乳製品。夜は肌寒くなったこの季節、暖かい物が食べたいよね。

そんな訳で今日のメインはとろとろビーフシチューが売りのお店をチョイス。大通りから少し脇に入った所にあるレンガ造りの小さなお店だが、隠れた名店な感じだろうか。四つ程のテーブル席は辛うじて一つ空いていた。


「ふう。座れて良かったね」

「すみませーん、ビーフシチューのセットを五つお願いします」


お冷を持って来てくれたお姉さんに早速注文。

しばらくして冷めないように熱々の鉄鍋とパンとサラダが運ばれて来た。


「「「「「いただきまーす」」」」」


まずはメインから。ごろっと大きな角牛のスジ肉、人参、マッシュルーム、ブロッコリーにヤングコーン。野菜も一杯の見た目はオーソドックスな感じ。三日程じっくり煮込まれた濃厚なデミグラスソースはちょっと苦味のある大人の味。


「はふはふ」


香り立つ熱々のお肉を頬張る。

とろとろのスジ肉はスプーンで簡単に切れ、口に入れればほろほろと崩れ、お肉の旨味がじわりと広がる。ごろりと大きな野菜もしっかり味が染みているけど型崩れもなく食べ応えがある。


「ンー、これはお店じゃないと味わえないなぁ」

「おいしー!」

「甘すぎないのも上品ですわ」


お手軽簡単料理は作るけど、やっぱり手間暇掛けた煮込み料理は違うなぁ。

陽が落ちて途端に肌寒くなるので、この温かさもご馳走です。


パンはシチューと相性抜群のバジルが香るジェノベーゼのガーリックトーストにしたバケット。

紫キャベツと生ハムと柑橘類のサラダは華やかで、色味の少ないシチューにぴったりだね。


「………なあ、さっき角牛見学に………」

「それは言わない方が良いと思いますが」


男性陣がちょっと難しい顔をしてるけど、それはそれと思わなければ、お肉なんて食べられない。

美味しい物は美味しい。皆、言葉少なに食べ進め、完食!


「今日は宿に戻るとして、明日はどうしよっか?」


食後のコーヒーを飲みながら、皆に聞いてみる。

とりあえず出発は明後日の便を取ったので、丸一日はノルディンを堪能出来る。角牛牧場は行ったけど、前に行った乗馬体験とか羊さんモフモフとか、デザート類の食べ歩きとかお店回ったりもしたいよね。


「角牛の乳のプリンのお店は外せませんわね。チーズケーキと生クリームたっぷりのワッフルも美味しそうでしたし……」

「王都のお店も良いけど、ここだと新鮮なミルクとか飲めるしねー」


シャルちゃんとシシリーはデザート巡り希望かな?

某高原の少女みたいに牛から直接ってのは問題ありそうだけど、《氷魔法》での冷蔵が出来るとは言えやっぱり新鮮な牛乳は一味違うと思う。


「乗馬もやってみたいかな。そう言えば御者も教えて貰えるみたいだったぜ」

「ああ、覚えておけば自分達の馬車で旅なんてのも良さそうだね」

「あー、それは良いねぇ」


乗合い馬車だと行き先とか時間が自由にならないしね。某有名RPGみたいに仲間が増えたら戦闘メンバー交代に………って別にリアルじゃ四人で戦う必要無いか。

まあ、気ままに旅するなら馬車は欲しいなー。


「じゃ、明日は乗馬体験に行って、午後はお店回ってお茶かな?」

「そうだねー。あ、ノルディンのギルドとかも見ておきたいかな?」

「ああ、依頼を受ける訳じゃないけど、お世話になるかもだしな」

「なら、朝一の方が良いかなー。乗馬体験はお昼前からだし」


そんな感じで明日の予定を立てた訳だけど、予定通りに行かないのが世の常と申します。

お読み下さりありがとうございます。

お休み減ったお陰で、最近遅れ気味ですみません(>_<)

前へ次へ目次