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3.


(もう、遅いばか! カッコよさげなこと言う前に早く見つけにきなさいよ! バカユーゴ!)


 見失わせないように気を付けて後ろから追ってくる姿を時たま確認しながら、猫―――アンリエッタはユーゴを目的の場所へと導いていく。

 やっと人を呼ぶことができたが、彼の言う通り時間はない。会わせるために連れていく先に居るその人は、数日でとても衰弱してしまっているのだから――――――。







 ――遡ること2日前。

 両親について行けないことで溜まった鬱憤の解消のために、いつものごとく訪ねてきたチャコの身体を借り、異能を使ってアンリエッタは外の冒険を楽しんでいた。

 今回は街外れからぐるっと外側を一周走り抜けてみようと思いついて川がある街外れの水車小屋へと足を向けた。

 ガコガコと動いているのかいないのかわからない音をさせている古びた水車。

 何度か来たことがあるので相変わらず壊れそうだと感想を呟きながら、アンリエッタはとりあえずスタート地点を決めるべく小屋の回りを歩いた。


 ――ガタッ。


 すると小屋の中から物音が聞こえてくるのに気づく。


(ん? 人がいるのかしら)


 川の点検のために時々ここに来る管理人がいるのかと、アンリエッタは扉に足をかける。

 人の作ったものは猫にはやや利用しにくい。しかも蝶番が錆びているのか開けにくいことこの上なかった。

 管理人だったら扉を引っ掻く音で気づいて快く中に入れてくれるのだが、彼がいる様子はなかった。

 中は日中でも大分暗いので奥まで見通すことはできない。人間なら。

 夜目の利く猫には関係ないので問題なく中を見渡せる。


(んん!?)


 だがアンリエッタはそこで思いもよらない光景を目にした。

 中に、子供がいた。

 いや、それだけなら別におかしくはない。秘密基地として使おうと中に忍び込む子は今までも居た。

 アンリエッタが驚いたのは、その子が足を鎖で柱に繋がれていたことにだ。

 近づいてよく見れば鎖は乱雑に柱に結び付けられて釘まで打ってガチガチに固定されている。そこから少し距離を開けて足枷へとつながっていて、その足枷に子供の足がはめられていた。

 余裕はあるが外せるまではいかない幅の鉄の輪。

 あきらかにこれは事件の匂いがする。

 はまった足はもがいた痕だろうか、少し擦れた箇所が見えた。

 まだ10もいかない子供をこんなところに鎖で繋げるなど、いったいどんな人がやったのかと姿も知らぬ相手にアンリエッタは怒りが湧く。


(なんてことするのよ。こんな暗くて不気味なところに逃げられないようにして置いてけぼりなんて、酷すぎる!)


 子供はさんざ泣いて泣き疲れたのだろう、目を腫らしたまま横になって寝ていた。どうやら先ほどの音は寝返りをうったせいででたようだ。

 その姿から少なくとも数時間はこの状態だったんだろうと推測できた。

 どうにかして助けてやりたかったが、アンリエッタの今の状態では鎖を解くことも、話しかけて安心させてやることもできない。

 せめて会話ができたらよかったのにと思うアンリエッタ。だが、人の言葉を喋る猫にはたして子供は近寄るだろうか。


(う~ん、どうしよう。まさかこんな事態に遭遇するとは思わなかったからなぁ、どうすればいいのかわかんないよう……)


 オロオロと子供の回りをうろつくアンリエッタ。


「……ん」


 気配に気づいたのか、子供が目を覚ました。

 そして状況を思い出したらしい。暗い屋内を見回し、変化がないか確認していた。

 扉が開いているのに気づき、子供は不安そうだ。

 存在を教えてあげた方がいいかと、アンリエッタはなるべく柔らかい鳴き声になるように鳴いた。


「ナ~」


「…ネコ?」


 開けっ放しの扉から太陽の光が差し込んで、さっきよりはマシな程度に部屋を明るくした。

 そのおかげでアンリエッタの姿を捉えることができた子供は、少し気持ちが浮上したようで顔を綻ばせてアンリエッタに触ろうと手を伸ばしてきた。

 それに自分からすり寄って、アンリエッタは子供のすぐそばまで近づいてもう一度鳴いた。

 嬉しくなった子供はアンリエッタを抱き上げ、少しの間はしゃいだ。

 だが途中から力なくだらけ、腹をさすりだす。


「お腹空いたなぁ………。おじさん、昨日は食べ物持ってきてたのに……」


 空腹のようで、涙を滲ませた顔で子供はアンリエッタをぎゅうと今までより強く抱きしめた。


「ネコさん。僕ね、ゆうかいされちゃったんだ」


 気を紛らわせるためか、子供はとつとつと語る。


「よくお店に来てたおじさんがね、お金落としちゃって手が入らないから取ってほしいって頼んできてね、いいよって言ったの。そしたらここに連れてこられて捕まっちゃったんだ」


 無言のアンリエッタは子供の話を心の中で盛大に文句を言いながら聞いていた。


(まあ! なんてやつ。子供の優しさに漬け込んで騙すなんてっ。そいつ見つけたら噛み付いてやるわ!)


「お母さん………お父さん……」


 両親に会いたいのだろう、堪えきれずに漏れた呟きは会いたいという願いがこもっていた。

 出来る事ならすぐに開放してここから逃がしてやりたいが、猫の身体には荷が重い。戻って人の体になったところでまともに取り合ってもらえる気もしない。


(なにかしてあげられないかな………あ、そうだ!)


「ネコさん? わっ⁉︎」


 ジタバタともがきだしたアンリエッタは子供から離れ、一度鳴いてペロッと膝を舐めた。アンリエッタなりのちょっと待ってて、だ。伝わっているかは不明だが。

 アンリエッタはそのままドアを抜け外に出た。駆け出して、まず自宅に戻り一度身体に戻ってから衣装棚から大きめのハンカチを取り出してチャコの首へ苦しくないよう巻きつけた。


「ごめん、今日はもうちょっとだけ貸してね。今度レーズン沢山あげるから!」


 そしてまた身体を交代してもらい街の中のよく餌をくれる人達のもとへと向かった。


「あら猫ちゃん、また来たのね。これ食べる?」


「ようチョロ、なんだまた食いもん欲しいのか? 太るぞおめぇ。しゃーねーな、ほれ」


「あ、来たね猫くん。ほーら、今日はこれをやろう。だからうちで飼われない?」


 あちこちでもらう自分への餌。

 全部人が食べるもののお裾分けなので変なものはない。

 アンリエッタはこれらを一箇所に集めて巻いてきたハンカチにつめた。あらかじめ中にものが詰められるように形を作って巻いておいたので猫の身体でも物をつめられる。

 いつも気前よく接してくれる人達を中心に周り、充分溜まったと思ったころにハンカチを首へくぐして自分にぶら下げ、アンリエッタはまた水車小屋へと向かった。


「あ、戻って来てくれたの? それなあに?」


 再び現れた猫に、子供は喜びと疑問が浮かび先ほどより活発にアンリエッタへ寄って来た。


 ナーと鳴いてアンリエッタは首のハンカチを子供へ示し、膝へ置いて自分で外す。

 やけに重みがあるハンカチを不思議がって開けた子供は、中身か判明した嬉しさにぱあっと瞳を輝かせた。


「食べ物!」


 つまっていたのはクッキーやビスケットなどの菓子類や干し肉、少しのパンの切れ端だった。

 猫にやるためにそれぞれ少ししかもらえないが、まとめれば子供の腹にたまる程度には集まった。

 満腹には出来ないが、何も食べないままよりはマシなはずだ。

 案の定、子供は持ってきた食べ物をペロリと平らげてしまった。

 物足りなさそうだが、少し腹が満たされたおかげかさっきよりは陰りが取れた。


「ネコさん、ありがとう」


 アンリエッタの身体中を撫で回して感謝を伝える子供。

 気持ち良さにゴロゴロ喉を鳴らしてアンリエッタはいいってことよ!と内心返事を返す。


(また持ってくるから、頑張って! 絶対助けは来るからね!)


 泣き続けることのないよう、出来る限り一緒にいて態度で励ますが、ずっとはいられないので夕暮れ前にまた食べ物を一度目より多く集めて渡した後、アンリエッタは自宅へ帰った。


 翌日も無理を頼んでチャコに身体を貸してもらい、ナナ目を盗んで隠した朝食のソーセージやパン、自分用の菓子類をハンカチに入るだけ入れてチャコの首にかけ、子供のもとへ向かった。

 小屋の扉は昨日のままで、誰かが来た形跡はない。

 様子見くらい来るんじゃないかと不思議だったが、都合が良かった。この子を攫った怖い人と鉢合わせる可能性はなさそうだ。


「今日も持ってきてくれたの? ありがとう」


 アンリエッタが寄ってごはんの存在をアピールすると、子供らしいにぱっとした笑みで迎えてくれる。

 辛くても笑顔を出せる強い子だ、偉いぞとアンリエッタは子供の膝をポンポン叩いて褒める。


「?」


 食べることに夢中でアンリエッタの行動がわからなかった子供は首を傾げた。

 そうして2日目も同じことを繰り返して、打開策がでないまま時間が来てしまった。

 寂しいと訴えてくる子供の瞳に罪悪感を募らせつつも、帰らないわけにはいかないアンリエッタは髪を引かれる思いを振り切って屋敷へ帰った。

 その帰り道だった、商人の子供が攫われて未だ発見できていないという話しを聞いたのは。

 飲みに向かう通行人2人は子供の行方を推測しながら飲み屋へと向かった。

 アンリエッタは二人に塀を伝って近づき、話を盗み聞く。


「あらかたは探し終えてるらしい。犯人と関係あるとこは全滅だと」


「それで見つからねえのか?変なとこで犯人も頑張ってんなぁ。さっさと見つかればいいなあ」


「知り合いが捜索隊にいて教えてくれんだけどよ、手掛かりもないんで手詰まりらしい」


「最悪もあるってか。家族にゃ辛いな…」


「だな………早く見つかればいいなあ……」


 子供を案じる2人にアンリエッタは自分の知ってることを教えたくて堪らなかったが、猫の身体では何も出来ないし、あまり猫らしくない行動をとるとチャコに迷惑がかかってしまう。何度も身体を貸してくれているのに、迷惑をかけるようなことはしたくない。

 2人から離れて、再び帰路につくアンリエッタ。


(どうしたらいいのかな……、犯人が捕まってるなら、あそこに偶然誰かが来るまであの子はあのまま? 捜索してても的外れなところばっかり探してるみたいだし、まだまだ時間がかかるっぽいなぁ。でもあの子が……)


 もんもんと考えていい案が浮かばずに屋敷に到着し、また明日も貸して欲しいとチャコに頼み込み同意してもらった後、アンリエッタは一人ベッドに寝転がり救出方法を考えた。

 こうやって自分がふかふかのベッドで寝ている間にもあの子供は硬い地面の上で眠っているのだろう、そう思うと現状に罪悪感が募る。


(なんとか捜索隊の人たちに教えられたら……、でも猫の姿でどうやって教えられるかしら。言葉は話せないし字も書けない、服を引く程度じゃうるさがられるだけだろうし……詰め所の人たちはそんなことしないだろうけど結局は気にかけないわよね)


 いつも行く度に優しくしてくれる詰め所の人たちは今子供の捜索に全力を尽くしている、そんな状況で猫に気をかける者は流石にいないだろう。


「あの子の声が届けば……あ、そうか」


 やっとひとつ方法を思いついた。

 これなら、と思った作戦を実行するためベッドから起き上がり明かりをつけて明日の準備を始めた。

 終わってからは気づく人が現れるように祈りを捧げ、再びベッドに戻って眠りについた。

 翌日。

 早速実行に移したくてチャコが早く来ないか待っていたが、ここでアクシデントが起こった。

 両親がなんの前触れもなく帰って来たのだ。

 今だけは嬉しくない訪問にしかし文句をつけるわけにもいかず、子供のことが気が気じゃないまま会話し、両親と昼食を食べて別れるまでに午前中が過ぎてしまった。

 慌ててチャコと交代してもらい食べ物と昨日準備した物を首に下げて水車小屋へと向かった。

 到着した小屋では、子供が横たわったまま荒い息遣いでうずくまっていた。

 慌てて近づけば、子供は閉じていた目を少し開き、アンリエッタの声に笑顔を見せた。


「ネコさん、今日も来てくれたの? あり……ケホッ、ケホッ!」


 咳こんだ子供は次いでくしゃみもし、ぐったりと目を閉じた。顔が赤みを強くして咳、くしゃみとくれば、引きこもりなアンリエッタでも風邪をひいたんだとわかる。

 看病の方法はなんとなく知っているが、いかんせん体が猫だ。できてせいぜいびちゃびちゃにした布を持ってくるぐらいだ。それでは看病にはならない。

 そして問題がさらにあり、アンリエッタが考えて来た救出作戦が実行できなかった。

 食べ物と一緒に持ってきた新しいハンカチとインクを染み込ませてきたペンで子供に助けを呼ぶ文を書いてもらい、それをアンリエッタが捜索隊のひとたちのところへ持っていく手筈であった。

 だが起きるのも億劫な今の子供では字を書くことも辛そうだ。

 作戦は失敗に終わった。

 しかも子供の容態的に状況は深刻さを増した。

 万事休すな状況にアンリエッタはどんどん焦る。


(ど、どうしようどうしようどうしようどうしたら…………ああっ、もうっ! これしかない! チャコごめんね!)


 内心謝罪して、アンリエッタはもってきたハンカチとペンを取り出し、子供が目を閉じているのを確認してから移動し、なるべく平らな場所でハンカチを広げて後ろ足で踏んづけて押さえ、前脚でペンを挟んで構えた。

 だいぶプルプルするが、根性でもって救助の旨を書き始めた。

 猫の身体での限界はあるため文章にはせず、一目でわかる言葉の羅列を書き、いったん乾かす。大分歪んだり大きさが合わなかったりしたがなんとか読めるので良しとした。

 ちゃんと乾いたのを確認してからそれをたたみ、小屋から出て自宅へと向かった。一度体をもとに戻してハンカチをちゃんと身につけさせ、再び体を交代してもらってまた外へ出た。

 この時に人間の身体に戻った時に書いておけばよかったと後悔したが、書き直す時間も惜しいのでそのまま捜索隊の人を探しまわった。

 そうして見つけたのが、休憩中らしきユーゴだった。

 ややおっちょこちょいでよく構ってくれる彼なら、このハンカチに気づいてくれるだろうと、アンリエッタは一刻でも早く渡したいのをぐっとこらえ、猫らしい動作で近づいてハンカチを主張した。


(早く、早く気づいて。これ取って中を読んで!)


 頭をこすりつけて主張する。


「はは、お疲れ様ってか? ありがとうな。今日は誰に構われてたんだ? カッコよくしてもらって良かったな」


(ちっがああああう!)


 気持ちよい撫で方に喉が鳴るが、アンリエッタの心は苛立ちで満ちていた。


(これ取って! 中見て! 早く!)


 じれったいと脚で取ってみせる気で爪に引っ掛けようとすると、もう一人の仲間がやめろもったいないと取ってくれた。


(いよし! ナイス! 早く読んで助けに行って!)


 予想通り、文字に気づいた2人はすぐさま行動の相談を始めるが、ここでアンリエッタに盲点だったのが、水車があの小屋だけでなく他にも数カ所あったことだ。

 一つずつ確認に行くとなると、時間を短縮できてもまだかかる。

 風邪の子供には一分一秒だって辛いだろうに、まだ待つ羽目になってしまう。

 これが自分の限界かと落ち込んだアンリエッタ。だが続く言葉に驚いた。


「……サビ、こいつを着けてくれたやつのとこに案内してくれ、頼む」


 猫に犬の真似事をさせようとする人をアンリエッタは初めて見た。

 だがユーゴの真剣な顔と好都合であることを考え、少々猫の常識からは外れるが案内することにした。

 こっちだと報せるために鳴いて、ついてきだしたのを確認してアンリエッタは水車小屋へとユーゴを誘った。




 到着した小屋の扉を引っ掻き、中を示して発見させれば、もうアンリエッタの役目は終わりだ。


「大丈夫か⁉︎ 助けに来たぞ!」


 子供を抱き起して容体をみるユーゴに、もう大丈夫だろうと安心したアンリエッタはそっと小屋から出て屋敷へと帰った。

 身体を猫へ返し、約束通りレーズンをたっぷりと食べさせて、猫と別れた。


 その日の夕方、ナナから誘拐事件の話を聞き、無事子供は両親のもとへ帰れたのを知った。


「それは良かったわね。両親と会えない日々は辛かったでしょう、良かったわ」


「ええ、本当に。それにこれで捜索に加わってた警備の方達も戻ってこれますし」


「めでたしね」


「はい! ……ただ、不思議な話も出たんですよね」


「なに?」


 首を傾げ頬に手を当てながら、ナナは続ける。


「救助した子供は風邪で弱ってはいたそうですが、数日の間何も食べていないはずなのにそこまで衰弱はしていなかったそうです。なぜなのか尋ねた人に、子供は『猫が食べ物を届けてくれた』って言ったそうなんですよ。ネズミならまだしも、猫がそんなことできませんよねえ」


 カラカラと笑うナナにアンリエッタも同意を示して、捜索に奔走してくれた警備の人たちへ差し入れを送るよう命じてからアンリエッタは部屋へ戻った。


(良かった。もうあんなこと起こりませんように)


 アンリエッタはベッド横でそう祈ってから就寝した。




 その後、子供は風邪と精神面による衰弱で2、3日寝込んだようだが、日の経過とともに回復して元気に友達と走りまわっているのをアンリエッタは屋根の上から見守っていた。

 数日経ってからまた猫へ頼み、子供の様子を見にきたわけだが、もう心配いらない様だ。

 ほっと安堵する。

 そうしてアンリエッタは誰も気づかない助っ人を終えて心配ごとはなくなったと、いつもの散歩に戻った。ちなみに、今日のおやつは詰所の各員がどっさり用意してくれたので実に幸せな時間になった。






☆☆☆



 とある男爵が治めるなんの特徴もない街では、時に不思議な事が起こる。


 それは誰もが目にしているのに気づかない。ほんの少し、困っていることに手を貸しているだけだから。

 それはふと落し物をした老人に、猫が鳴いて気づかせたり。

 女性がいる頭上の棚から木箱が落ちそうなのを小鳥が木ノ実を落として知らせたり。

 一人川で滑って溺れかけた少年を、駆け付けた犬が助けてくれたりと…動物たちが助けてくれることだった。

 街の者は何故動物たちがこんなにも丁度良く現れるのか不思議ではあったが、誰も深く考えたりはしなかった。ただ、幸運だったと皆が語る。そしてそんな感謝を持つ人は、動物たちに優しく接する。

 だからこれが一人の少女が行なっている事だということも気づかなかった。

 そして少女も、誰にも気づかれずに過ごすことを望んでいたため、そんな不思議な話を聞いても他人事の反応を返して素知らぬ振りをした。

 そうして今日もひっそりと、少女の楽しみは続く。時に誰かを助けながら――――。


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