13.目撃
「何処まで行かれるのですか?」
人気の少ない路地裏を通り、どんどん薄暗い場所へと進んで行くパーシヴァルへとルクレツィアは声を掛けた。
「そりゃまぁ、帝都でしょうよ」
「街をそのまま出ないので?」
「ははは、奇襲したウィダルド達を全滅させたんでしょ? つまり姫さん方にはまだ切り札がある」
ウィダルド達の全滅は結果的にはそうなったというだけで、ドエムもきちんとルクレツィアに味方すると明言した訳ではなかった。
その為ドエムを自分達の切り札と呼ぶには抵抗があったルクレツィアだったが、しかしパーシヴァルは勘違いしている様だった。
「なんの対策も無しに堂々と出て行くのはちょっとね〜、あの伯爵が自分の街に俺たちが足を踏み入れた事を察知できない筈がないし、本当は何処かで隙を窺ってたりして」
確かに伯爵は今朝のドエムの様子を不審がり、そして常に集めさせていた街の細かな情報から何かに思い当たったように屋敷を出て行った。
いったい何時からパーシヴァルがこの街に潜伏していたのかは分からないが、それでも伯爵はルクレツィア達が到着した翌日には気付きかけていたのは事実である。
常に自分の街へ気を払い、丁寧に統治していなければ、こんなに大きく人の往来も多い街で数十人が増えた程度では襲撃の可能性に気付きはしない。
「……敵を褒めるのですね」
「敵っていうか、そりゃまぁおじさんは別に王党派って訳じゃ――」
「隊長」
パーシヴァルの言葉を部下の女性が遮る。
「分かった分かった、そう怒らないでよ」
「無駄話はそれくらいにして下さいね」
「分かったってば……ルーシーちゃんはホントお堅いんだから」
「隊長」
二度目の警告にパーシヴァルはお口にチャックのジェスチャーを取った。
(気安い関係のようですが、コチラへあまり情報を渡さない為の演技? 結局どこへ連れて行かれるのかも聞けませんでしたね)
自然な会話の流れで出来るだけ多くの情報を集めようとしたルクレツィアだったが、ルーシーと呼ばれた女性が睨んでいるためこれ以上は難しそうだった。
「おっと、姫さんも抜け目ないね」
そして今しがたこっそり垂らしていた魔力の糸もパーシヴァルに見破られ、引きちぎられてしまった。
「降参したフリしてまだ諦めてないんだ」
「……」
「若者の根拠のない希望っていうのかな? 諦めない心? 必死に足掻くのその姿がおじさんには眩しく見えちゃうよ」
ここまでされては仕方ないと、ルクレツィアは今この瞬間の救助を諦める事にした。
何処に連れて行かれるかは分からないが、いつか必ず訪れる監視の目が緩む時を狙って脱出するしかないと。
少なくとも聖騎士パーシヴァルが食事や睡眠などで、自分達から目を離す時を狙わなければ絶対に成功しない。隙がない。
伯爵邸に聖騎士パーシヴァルと戦える人材がレオノーレしか居なかったこと、突然の奇襲だったこと、単純にあの場での戦力が足りなかったこと、それらの要因から無理に戦闘を長引かせるよりは戦力を温存し、体制を立て直して援軍を準備した伯爵に救助されるのが一番だと思っていた。
(レオノーレ、分かっていますね?)
(もろちんです)
やはりレオノーレを一緒に連れて来て正解だったとルクレツィアは考える。
パーシヴァルは目の届くところにルクレツィア配下の中で警戒すべきレオノーレを置いておきたかったという事と、政治犯として裁く必要があった為、同時に連れて行く事にしたのだろう。
ルクレツィアが隙を見て敵の手中から脱出しようと思えば、レオノーレの力は必要不可欠。あの場で瞬時に出来る唯一の保険だったが、従順に配下共々投降すると見せ掛けて、彼女と離れ離れにならなくて良かったと最悪は回避できて胸を撫で下ろす。
「ここは……地下倉庫ですか」
「そ、ちゃんと合法的に取得した物件だから安心してね」
その言葉でルクレツィアは街の中に、市内に協力者が居るのだろうと察した。
そしてそんな彼女の背後でパーシヴァルがルーシーから肘鉄を食らっていた。
「姫様に不埒な真似をしてみろ、刺し違えてでもお前を殺す」
「お〜、怖い怖い……おじさんはそんな事しないから安心してよ」
地下倉庫へと足を踏み入れる前にレオノーレが釘を刺し、パーシヴァルは分かったから早く入れと面倒そうに剣を突き付けて脅す。
そんな中で覚悟を決めたルクレツィアが率先して一歩を踏み出し、その様子に複雑な表情を浮かべながらもレオノーレ達も後に続いた。
「……なんかヤバそうな現場を見ちゃったのニャ」
その場面を、拠点へ帰宅途中の路地裏爆走少女のメンバーが偶然目撃していた
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