水無月家の執事になる前の話 2
Hi,It’s nice to meet you!
そうそう、俺は一路のお兄ちゃんの鈴木海斗だよ。イギリスと日本のクオーターでイギリスの血が四分の一なんだけど、金髪碧眼で顔も向こう寄りっていう日本人には到底見えない容姿なんだよねぇ。俺の可愛い弟も童顔だけどどうみてもハーフ顔だし、肌や髪、瞳も日本人よりずっと色素が薄いしね。
俺が六歳、一路が五歳の時に父さんの仕事の都合で日本に引っ越してきたんだ。最初はやっぱり大変だったよ、俺も日本語は苦手だったし、母さんと一路に至っては英語しか喋れなかったからね。ばあ様も日本人だけど子供の頃に渡英して以来だから日本語は殆ど覚えてなくて、父さんは純日本人で日本語ペラペラだったけど仕事で殆ど居なかったから日本語を覚える機会がなかったんだよね。それに文化って言うのも全然違うし、俺と一路の容姿は何より目立つし。生まれて初めて来た日本って国はロンドンよりずっと太陽が見られるのは嬉しかったけど、色々と苦労はあったよ。
まあそれでも今じゃ楽しく充実した日々を送ってるけどね。
今も幼馴染と幼馴染の家の執事(俺は友達だと思ってるんだけどね)と一緒に箱根に来てるよ。
「落ち着いた部屋だな、やっぱり畳はいいよな。うちにも欲しい」
「兄ちゃん、和室好きだよね」
リュックサックを放り投げて俺は広々とした畳の上に寝転がる。ソファの上に鞄を下ろしながら一路がくすくすと笑っている。
「お兄ちゃん、雪ちゃん、このベッド大きい!」
「四人で寝られるよ!」
はしゃぐ双子が広いリビングを横切って畳の部屋の向かいにある部屋のドアを開け放って飛び込んでいく。
ここは箱根にあるミナヅキグループが経営する旅館だ。普通じゃ宿泊なんて出来ない特別室だ。とはいえ水無月家本家の長男が宿泊したいと言えば否は返って来ないのである。定員は四名となっているが泊まろうと思えば広さから言って余裕で十人は泊まれるだろう。本館から少し離れた竹林の中に立つ平屋の一軒家で2LDK、露天風呂完備で主寝室には大人が五人くらい余裕で眠れそうな特大のベッドが一つ。俺の居る畳の部屋は十二畳くらいだけど、布団を敷いて眠ることが出来る。俺は断然畳派だ。尤も主寝室に水無月家が寝るなら問答無用で俺達兄弟と執事のみっちゃんはこっちだけどな。
「ちぃちゃん、咲ちゃん、ベッドの上でぴょんぴょんしたらだめよ」
「そうだぞ。せめて荷物をおろしてからにしろ」
「もう、真尋さん。そうじゃないでしょ」
はっとするほどの美男美女が部屋に入って来て、チビ達を窘める。
俺には二人、幼馴染がいるんだ。皆、知っていると思うけど、そう今現在、十八歳と十七歳の新婚夫婦とは思えぬ落ち着きぶりで部屋に入って来た水無月真尋と雪乃。ついこの間まで黛雪乃だったけど今年の六月に籍を入れたから今や二人は立派な夫婦だよ。もともとイチャイチャラブラブしっぱなしの熟年夫婦みたいな二人だったけど、色んなものを乗り越えて来たって知ってるから、感慨深いよ。
真尋っていう男はさ、美しいって言葉が陳腐に思えるほど整った顔をしてんの。俺、中学のテストで「眉目秀麗の意味を答えよ」って問題で「水無月真尋のこと」って書いちゃったもんね。それでいて性格も、まあ多少は難があるけど良いし、スタイルだって抜群。出来無いことは掃除と洗濯と料理だけっていうチートを極めた男なんだよね。
そいつのお嫁さんが雪乃っていうこれまためっちゃ美人な女の子でね。運動は禁止されてるから出来ないけど、それ以外のことに努力は惜しまない頑張り屋さんで、性格はおっとりしてるけど一本芯の通ったレディだよ。雪乃は病弱で出会ったばかりの頃は基本、ベッドの中にばかりいたし、何度か覚悟を決めたこともあったけど、高校に入るころには随分と体も安定して、今じゃ真尋のお嫁さんって夢を叶えたんだから凄いと思うよ。あとあの真尋の面倒を見られるのも凄いよ。あいつ、あんな綺麗な顔してるし優秀だけど自分のパンツがクローゼットのどこにしまってあるか知らない男だからね。雪乃が居ないと生活はできない男だからね。
「みっちゃん……いつまで泣いてるの?」
ソファに座った一路がリビングの入り口で鼻を啜る水無月家の執事を振り返って呆れたように笑う。俺もよっと体を起こして胡坐をかいてみっちゃんに顔を向ける。いつもの執事服じゃなくて、真尋のお下がりだっていう洋服姿だけど白いハンカチを手にぐずぐずとまだ鼻を啜っている。
「だ、だって、真尋様がっ、私のためにこんな旅行を計画して下さってっ」
膝から崩れ落ちそうなみっちゃんに俺と一路は顔を見合わせて、やれやれと肩を竦める。
主寝室に荷物を置いて出て来た真尋が「まだ泣いてるのか」とため息を零した。
「真尋くん、泣かしたんだから責任とりなよ」
「そうだそうだ」
俺たちが茶化すと真尋は、肩を竦めてみっちゃんのところまで行って、その手を取って連れて来るとソファに座らせた。
「とりあえず、水を飲め、水を」
そう言って真尋が隣に腰掛けた。水を飲めとか言っておきながら用意はしないらしい。一路が立ち上がって、備え付けのキッチンに行き冷蔵庫からミネラルウォーターの入ったガラス瓶とコップを手に戻って来て、封を開けるとコップに注いでみっちゃんに渡す。みっちゃんは、泣きながらそれを受け取ってちびちびと飲む。
みっちゃんが泣き出したのは、この宿に着く少し前のことだ。俺の家の運転手の市村さんが運転してくれている車の中で、真尋が今回の旅行の目的を告げた。
『今回の旅行はいつも頑張ってくれている園田へのご褒美旅行だ』
そう告げた瞬間、みっちゃんはぽかんと口を開けて固まり、たっぷり十秒は経ってから「え?」という短い言葉を漏らした。
真尋がもう一度説明するとみっちゃんは、感動と喜びに泣き出して、今に至る。迎えに出てくれた女将さんや従業員たちも最初は何事かと困っていたが(そりゃあ二十代の男がしくしく泣いてたらね)、双子が説明をしたら微笑ましいといった眼差しで迎え入れてくれた。
「あ、みーくん、まだ泣いてるー」
「もう、みーくんは泣き虫なんだから」
双子さんが雪乃と一緒にやってくると真智がソファの背もたれ側からみっちゃんに抱き着き、真咲がみっちゃんの膝に乗ると自分のハンカチでみっちゃんの涙を拭う。
「ま、まざぎざまっ、まぢざまぁっ」
さらにわんわんと泣き出して、膝の上の真咲を抱き締めるみっちゃんに真尋は片手で顔を覆って天井を仰いだ。
「ふふっ、充さん、困ったわねぇ。お夕食の前にお風呂に入ってさっぱりして来たらどうかしら」
雪乃がみっちゃんの隣に座って、よしよしとあやすように肩を撫でながら言った。
みっちゃんが「はぃぃ」と情けない声で頷いた。
「雪ちゃん、僕、お兄ちゃんと雪ちゃんと一緒が良い!」
みっちゃんの膝の上にいた真咲がそんなことを言い出した。
「いいぞ。そこに露天風呂があるからな」
やったぁ、と双子がはしゃぎ出す。だがしかし、え?一緒に入んの、と俺は雪乃を振り返るが雪乃は相変わらずニコニコしている。
「あら素敵ね。なら一くん、海斗くん、充さんのこと宜しくお願いね」
「あ、はい」
思わず俺は素直に頷いた。双子が「お着替え!」とはしゃぎなら寝室に戻る。真尋が「俺も仕度を」と立ち上がろうとすると雪乃が制する。
「あなたの分は私がするから、充さんたちを見ててね」
これを俺達幼馴染が意訳すると「あなたがやると散らかる(鞄の中身を全部出す)からここにいて」ということになる。
「分かった」
真尋が頷くと雪乃はみっちゃんの頭をよしよしと撫でてから双子が彼女を呼ぶ声に応えて主寝室に行く。
もうなんでもいいや、と俺は鞄を手繰り寄せて中から替えの下着を取り出す。一路も自分の分を取り出して、二人分を纏めて持参したビニル製のバックに入れる。みっちゃんも泣きながら、自分の鞄から必要なものを取り出し始めた。
「なぁ、真尋、浴衣とかってねーの?」
「あるぞ。俺とお前と園田は上背があるから特別に作らせた。贔屓筋の呉服屋で作ってこっちに送らせたから気に入ったら持ち帰っていいぞ。それと家族風呂を予約してあるからな、大浴場の方にある」
そう言って真尋が立ち上がり主寝室に行って、雪乃に声を掛ける。
俺もあいつもみっちゃんも百八十超えてるからねぇ。俺なんか百八十八もあるし、三人の中で低いって言ったって真尋も百八十三はある。みっちゃんは、百八十五ね。ちなみにうちの可愛い弟は日本人の男子高校生の平均身長よりは下だ。言うと拗ねるから黙って置く。
「海斗も一路も容姿が目立つからじろじろ見られるのは嫌だろう? 俺の名前で予約してあるから受付には俺の名前を出せよ」
「thank you」
戻って来た真尋から浴衣と帯を受け取って俺達は、本館の大浴場へと向かう。漸く、鼻を啜るだけになったみっちゃんは、泣き過ぎて目と鼻が真っ赤だ。
「みっちゃん、目ぇ真っ赤だよ? 大丈夫?」
一路が心配そうにみっちゃんを見上げる。
「はい、すみません、ご心配とご迷惑を……」
「ご心配もご迷惑もかかってないから安心しなよ。それより旅行、楽しもうな」
俺の言葉に、みっちゃんは「はい」と嬉しそうに笑って頷いた。
「私、旅行なんて初めてですし、こういった大きなお風呂も初めてなんです。失礼がありましたらご指摘くださいね」
「普通にしていれば大丈夫だよ。とりあえず先に体を洗ってからお風呂に入ればそれでオッケー」
「分かりました。あ、風呂上りにはコーヒー牛乳を飲むのが通なんですよね、真智様と真咲様が教えて下さったんです」
「僕はフルーツ牛乳のほうが良いなぁ、楽しみだねぇ」
みっちゃんはわくわくした表情で同じく顔を輝かせる一路に言った。
俺はこういう高級旅館にはそういうものの準備があるのだろうか、いっそのこと女将に言って風呂上りまでに用意してもらおうかと笑顔の下で慌てていたが、大浴場に着いて拍子抜けする。
大浴場の入り口の脇に高級旅館に不似合いなピカピカの新品のガラス張りの冷蔵庫にずらりと瓶の牛乳が並んでいた。自販機では無く冷蔵庫だ。
「あ、みっちゃん、あったよ!」
「凄いですね、前にテレビでみた銭湯にこういうのがありましたよ!」
二人がきゃっきゃっとはしゃいでいる。
冷蔵庫には「風呂上りの牛乳特別キャンペーン お一人様一本まで無料!」という手書きの札が掛けられていた。ご丁寧にあの紙製の蓋を開ける係の人が側に控えていて、ダンディなおじさんが係の人に頼んでいる。ダンディなおじさんの隣の奥さんが「まあ、ドラマで見たやつだわ」とはしゃぎながら牛乳を受け取っていた。
後で知ったことだが真尋が手を回していた。可愛い弟達と執事が風呂上がりの牛乳をとても楽しみにしていたので用意させたのだそうだ。
大浴場の入り口の脇に有った看板を頼りに細長い通路を進んで行くと、こぢんまりとした家族風呂に出た。入り口のカウンターにはスタッフがいて名前を告げて予約の確認をしてもらい、中へと入る。貴重品は全て部屋に置いて来たので、服を脱衣所の籠に入れて大浴場へと入る。ヒノキと温泉と石鹸の匂いが香る湿った温かな空気に包まれて、ふっと息を零す。家族風呂は、屋内にヒノキの風呂があって外に素晴らしい景色を眺めながら入れる露天風呂があった。
俺たちは体を洗ってから、待ちきれずに露天風呂へと入る。
旅館自体が高台にあるから、実に景色が良かった。紅葉した山々は鮮やかで緩やかに広がっていく夕景が息を飲むほど美しい。眼下に広がる町はだんだんとまるで宝石のような輝きを灯し始める。
「これが露天風呂ですか、気持ち良いですねぇ」
みっちゃんが蕩けた顔で言った。
「大きいお風呂は気持ちぃよねぇ」
一路も、ふーっと長く息を吐き出す。俺もその隣で全身の力を抜いて温泉を楽しむ。少し低めの温度だがじわじわと体が温まって来るのを感じる。家族風呂とはいえ俺やみっちゃんでも足を延ばして余るくらいには湯船は広い。
「真尋様に感謝しなければいけませんね。こんなに素晴らしい体験をさせて頂けて、本当に私は恵まれた執事です」
「みっちゃんが来て、もう五年? 六年?」
「来週の火曜日で丸々五年、六年目に入ります」
「もうそんなに経つのか」
俺は、しみじみと呟く。
振り返れば、一路の向こうでみっちゃんは律儀に頭に白いタオルを乗せて(これも双子に教わったらしい)、穏やかな表情で湯に浸かっている。
「真尋様がいなければ、私は、園田充はこうして温泉には入れなかったでしょうね。神様がどういう方かは存じ上げませんが、真尋様に出会わせてくださったことはとてもとても言葉にしきれないほどに感謝しております」
そう穏やかに告げるみっちゃんの体には、色んな傷痕が未だに残っている。腕には煙草を押し付けられた丸い火傷の痕が赤くうっすらと残っているし、何かで引っ掻かれたような傷痕がわき腹にあったり、背中にあったりする。もうそこに鮮やかに咲いていた痣は無いけれど、本人は傷が出来た理由も経緯も覚えていないというけれど、それでもその体には、これまでみっちゃんが頑張って生きて来た証が残っている。
多分、真尋が家族風呂を予約したのはみっちゃんの為だろう。ああ言ったのはみっちゃんが変に恐縮しないようにするためだ。口さがない人間は、どこにでもいるものだ。みっちゃんは、基本的に一年中、あの執事服を着て殆ど肌を見せない。夏場に私服の時でも基本は長袖を着ている。半袖では腕全体にぽつぽつとある火傷の痕を隠せないからだ。この傷痕を見ると双子が泣き出しそうな顔をするのがみっちゃんは辛いらしい。
「みっちゃん、みっちゃん、景色が綺麗だよ、凄いねぇ。まだまだ真っ盛りとは言い切れないけど紅葉も良い感じに鮮やかだね」
「ああ、本当ですねぇ。紅葉とはこんなにも美しいものなのですね」
風呂の縁の方へと二人が言って、緩やかに水面が波立つ。一路とみっちゃんは子供みたいにはしゃぎながら紅葉を楽しんでいる。
「みっちゃんは、こんなに良い子なのになぁ」
俺は風呂の縁に寄り掛かってそんな二人を眺める。
五年前、あと少し真尋がアパートに行くのが遅れていたらみっちゃんは死んでいたかも知れないんだよな、と膝立ちになって何かを指差すみっちゃんの脇腹と右の太ももに残る刺し傷に俺は、あの時のことを思い出す。
「災難だったな、お前も」
「……この顔は本当に良くも悪くも厄介だからな」
無表情に心無しか疲労を滲ませて真尋が車に乗り込んで来た。
向かい合うように特別に作られている後部座席の一路の隣に真尋は腰を下ろして、ふーと息を吐きだした。俺の向かいに座った真尋は、やっぱりいつもより無表情が酷くなっている気がした。
「正直、俺よりも周りが、というか母さんが特に過敏になっていてな」
「そりゃあ夜中に自分の息子の貞操に危機が訪れたら過敏にもなるだろ」
「そうだよ。まさかあの人があんなことするとは思わなかったけど……」
一路の言葉に真尋は、目だけを向けて「まあな」と頷いた。俺はうちの運転手の市村さんに車を出すように頼む。市村さんが頷いて、車はゆっくりと水無月家の前から走り出す。
真夜中、水無月家に忍び込んだ女が真尋を襲ったのは、夏休みが始まったばかり七月の終わりだった。
今年の春に真尋の親父さんの代から水無月家で家政婦をしてくれていた時塚さんが年齢を理由に退職することになり、新しく雇ったのが二十九歳の若い女だった。大きな家政婦派遣会社から紹介してもらった身元のしっかりした女性で俺も真尋の家に遊びに行った時に会ったことがあった。特別美人という訳ではないが親しみやすい顔立ちで大人しく控えめな女性という印象だったが、その女性が真尋の家の裏口の鍵の合鍵を作り、夜中に家に忍び込んで眠っていた真尋を襲ったのだ。
「最初は、真智か真咲が怖い夢でも見て布団に入って来たのかと思ったんだ。だがあいつらは兄の股間を触るような真似はしないから、おかしいと思って目を開けたら全裸の女がいた。流石の俺も驚いた」
あまりに淡々と告げられ過ぎで臨場感どころか「え?本当に驚いた?」レベルだが、それでも本人が驚いたというんだから驚いたんだろう。
「すぐに蹴り落として組み伏せて警察に突き出したが、俺が未成年なのに変わりはないからな。父と母に連絡が行って、先に帰って来た母が怒り狂って大変だった。母さんがプライベートジェットで帰って来て、俺はそのまま双子と一緒に母さんの今の拠点だったフランスに連行されて、父とは向こうで落ち合った。母さんの日本滞在時間なんてほんの二時間かそこらだぞ? そこからずっと、行ったきりだ。メリットなんてフランス語をマスターしたことくらいだ」
「ひゃあ、お疲れ様。よく帰ってこれたね」
「……大変だった。母さんが帰国を全く許してくれなくてな。こっちの学校に転校しろだことの、こっちの永住権を取れだとことの無茶ばかりだ。だが俺は雪乃のいない国に興味は無いから、母さんには悪いがこうして帰ってきた」
「ちぃと咲は?」
「お兄ちゃんと一緒が良いというから一緒に帰って来た。母さんは大分駄々をこねていたがな。今日は雪乃が二人を見ているから、息抜きをしてきたらと送り出してくれて、時塚さんと村山がお前たちとなら出かけて良いと言うから」
真尋は不貞腐れたように言って、シートに身を沈めた。村山というのは、真尋の父さんの秘書だ。真尋が帰国して一週間、柔道有段者の村山さんが真尋父の命令で常駐しているらしい。引退した筈の時塚さんも一時的に戻ってきてくれていると言っていた。
「雪ちゃん、退院したんだ?」
「俺が帰国する少し前にな。今は大分安定しているぞ。黛のご両親が一週間だけ仕事で海外に行かなければならなくて、昨日からうちに居るんだ」
「じゃあ会いに行って良い?」
「勿論。今日はその誘いも兼ねている。雪も喜ぶ」
そう言って真尋が車に乗って初めて表情を和らげた。ふわりと微かに微笑んだ真尋に俺も一路も表情を緩める。一路は嬉しそうに笑って「なら明日会いに行くね」と早速、約束を取り付ける。
「ねぇ、真尋くん。今日行くクレマチスって喫茶店はお菓子もあるの?」
一路がわくわくと目を輝かせながら問いかける。話題を変えようという試みのようだ。俺は弟の優しさに感動しながらその話に乗っかる。
今日は真尋が稽古の帰りに偶然見つけて行きつけになった喫茶店に行こうと誘ってくれたのだ。真尋は食にはうるさい男なので、そんな男が気に入る店なら絶対に美味いと決まっている。
「紅茶は? 辛いものはあるのか?」
「辛いものは無いが、紅茶も美味いぞ俺はもっぱらコーヒーだが、ここのカツサンドが絶品なんだ。そんなに品数は無いがどれもこれも美味い。あと俺は頼んだことは無いがパンケーキがあるぞ。前に食べているのを見たが、果物と生クリームとアイスが添えられていたな」
「僕、パンケーキ!」
ぴんと手を挙げた一路に真尋がふっと笑って肩を竦めた。俺は勿論、そんな可愛い弟を写真に納めた。
「Lovely!」
パンケーキを頬張った一路がぱぁっと顔を輝かせる。柔らかに熟した桃とたっぷりの生クリームとアイスに彩られたふわふわのパンケーキに弟は上機嫌だ。俺は、シンプルにバターとたっぷりのメープルシロップのものを頼んだが、ふわふわのパンケーキは小麦粉本来の良い香りがして、バターのしょっぱさとメープルシロップの甘さが更にパンケーキを引き立てている。
「真尋さんのお友達はモデルさんみたいねぇ」
マスターの奥さん・早苗さんがにこにこと笑いながら言った。人の良さそうな温かな笑顔だ。カウンターの向こうではマスターの武明さんがそうですねえ、とのんびりと頷く。
「家が隣でな。幼馴染なんだ。海斗は俺の一つ上、一路は俺と同い年で二人とはもう八年の付き合いになる」
カウンター席に座ってコーヒーを飲む真尋の言葉に早苗さんが「まあ、同い年?」と少し驚いていたが、一路は幸いなことにパンケーキに夢中だ。小さくて声変りもまだの一路は、女の子に間違えられるほどには愛らしく、その童顔も相まってまずもって中学生には見られない。この間は、父のクライアントの娘と同じ小学三年生の少女だと勘違いされていた。
真尋の行きつけだと言う喫茶店・クレマチスはこぢんまりとしたお店だった。趣味の良いアンティークの調度品が雰囲気を出している。三人で座れる席は無かったので俺と一路は窓際のテーブル席に座り、真尋がカウンター席に座っている。他に客はいない。
「真尋くんもこんな素敵なお店を独り占めにしてるなんてずるいよ、もっと早くに教えてよ」
「だから教えただろ」
真尋が肩を竦めて言った。一路が「もう!」と頬を膨らませるが真尋はどこ吹く風だ。
齢十三でカウンター席とコーヒーが似合う辺りが流石真尋だ。
「ところで早苗さん。あれからあいつは来たか?」
ナイフとフォークでパンケーキを切り分けながら耳を傾ける。
一路がフォークに刺したパンケーキを口に運びながら真尋を振り返った。
「それがね、あれから一度も来てくれないのよ……何度かね、会いに行ってみたの。一週間前に漸くアパートの前で会えたんだけど……もう来ないでくださいって言われちゃったのよ」
「随分と窶れていてね、顔色もあまり良くなかったんだ。目の下の隈も酷かったよ」
武明さんがカップを磨く手を止めて言った。
「俺もバイト先や家を訪ねたんだが会えなくてな。それに生憎とタイミング悪く俺も色々とあってこのひと月はそもそも日本に居なかったからな……ただ、調査させたところ、あいつ、バイトを一つ増やして休みなく働いているらしい」
「真尋くん、お友達出来たの?」
一路が驚いたように言った。
「俺の生徒だ」
真尋が振り返らずに言った。
「あ! はいはい、いつだったか言ってた勉強を見てる年上の人ね!」
「あれってここだったのか?」
俺も二か月くらい前にそんな話を一路から聞いたのを思い出した。
ああ、と真尋は頷いてコーヒーを飲む。
「藤谷充って言ってな。十八歳。……親はなく遠縁の四十代の女が保護者替わりらしいんだが、どうも日常的に虐待を受けているようだったから児相と警察に連絡して探らせている。だが、本人が十八歳で口が聞ける上にあの馬鹿は馬鹿の癖に頭が回る。踏み込ませないんだ」
「つまり保護出来ないってことか?」
「ああ。だから今日は強制的に保護しようと思ってこうしてやって来たわけだ」
「真尋くんさぁ、それ、ちゃんと雪ちゃんに言ってきた? 面倒みるのは君じゃなくて雪ちゃんとか時塚さんなんだよ?」
「雪乃は「何をなさる気かは知りませんけど、怪我はしないでくださいね」と俺を送り出してくれた」
「真尋くん、雪ちゃんに隠し事できたことある?」
一路が最後の一口を放り込んで尋ねる。俺は紅茶を飲みながら答えを待った。真尋は少し悩んだようなそぶりを見せた。
「……ないな。隠し通せた試しがない」
「そういうものですよ。僕も早苗さんに隠し事は出来た試しがありませんからね。それより真尋さん」
武明さんがふっと真面目な顔になる。
「いくら真尋さんが大人びてしっかりしていても、貴方はまだ十三歳の子どもです。充さんの家に行くなら、僕も一緒に行きますよ。大人が居た方が絶対に良いですからね」
「一緒に来てくれるなら有難いが、店はいいのか?」
「いいのよ、だってお客さんは真尋さんたちしかいないもの。そうと決まったら早速、閉店の札を掛けなきゃ!」
言うが早いか早苗さんはカウンターの内側から「CLOSE」と書かれたプレートを取り出して、店の外へと出るとドアへとそれを掛けた。武明さんが「この格好は目立つから着替えて来ますね」とカウンターを出て店の奥、厨房へ続くドアの方へと消えた。早苗さんが「私も仕度してくるわ!」とその背に続く。
「それで、真尋くん、僕たちは何をすればいいの?」
「一路は、雅也に連絡を取って、病院の手配を頼む。部屋は個室で水上先生にアポを取るように言ってくれ、一応、先日、話はしておいたから確認だけになると思うが」
「りょーかい」
「海斗は、兵馬さんに連絡を入れてもらえるか? こっちも相談はしてあるんだ」
「OK」
兵馬は俺と一路の父である。
俺が返事をすると真尋は、上着のポケットからスマホを取り出してどこかに電話をかけ始めた。俺も自分のスマホを取り出して、父親の番号を呼び出した。
喫茶店のマスター夫妻と一緒に向かったのは、喫茶店から徒歩十分もかからない近くのアパートだった。
ボロボロのアパートは階に五部屋、下にも五部屋で計十部屋で全ての部屋にカーテンが掛けられているからこんなにおんぼろでも満室のようだった。奥の方は、目の前に立つ真新しい三階建てのアパートの影になって昼だというのに日陰になっている。
「兄ちゃん、ここ倉庫?」
「倉庫じゃなくてアパートメントだよ」
真顔で振り返った弟に俺は苦笑を返す。
水無月ほどではないにしろ、うちも金持ちに分類される。こんなボロボロの小さな建物に人が住んでいるのが我が弟は不思議だったらしい。
「藤谷の部屋は、二階の一番奥だ」
そう言って真尋が表へ回る。
「この時間、あいつの保護者であるレイコは、出かけて居る筈だ」
真尋がスマホを操作しながら言った。
「でも、その藤谷充さん、だっけ? その人はバイトとか行っているんじゃないの?」
一路の問いに真尋が、いや、と否定し、スマホをジャケットの内ポケットにしまった。
「あいつの鞄に仕込んだ発信機の信号はここから出ているからな、家に居る筈だ。参考書の入った鞄は見つかると厄介だから常に持ち歩いていると言っていた」
「それ、下手したら犯罪だからな」
「善良な市民による善意と言ってくれ。マスターと早苗さんは、階段の下に居て何かあったらすぐに警察に連絡をしてくれ、電話は持っているな?」
「持っているけど本当に大丈夫かい?」
「大丈夫じゃなかったらここへ来ない。一路、海斗、行くぞ」
心配そうに首を傾げた武明さんに真尋は微かな笑みを返して階段を上がっていく。気を付けてね、という早苗さんの言葉に真尋は手を挙げて返した。
二階へと階段が伸びているが鉄製のそれは錆びついていて、一段一段上がるたびにギシギシと嫌な音を立てた。一路がおっかなびっくり上っている。俺も穴でも開きそうで少し怖い。
真尋は部屋の前に立つと指を彷徨わせた。真尋の指は、多分、インターホンを探したのだろうがそんなものは見当たらなかった。真尋がコンコンとノックをする。
「こんにちは、藤谷充さんは御在宅ですか?」
しかし、返事はない。
真尋は今度は少し強めにドアを叩く。どんどんという音が静かな住宅街に響く。
「こんにちは! 藤谷充さんは御在宅ですか?」
けれどやっぱり返事は無かった。
「……なら」
そう呟いたかと思ったら、突然、真尋がドアを蹴り上げた。ガッタンというすさまじい音がして安っぽいドアが凹んだ。
「ま、真尋くぅうん!?」
一路が俺の後ろに隠れる。マスター夫妻が「真尋さん!?」と下で驚く声がした。アパートの住人が何事かと顔を出す。
「レイコ!! てめぇ、借りた金はきっちり返しやがれ!!」
十三歳とは思えぬドスの効いた声が怒鳴るように言った。声変りがまだのうちの弟には絶対に出せない声である。俺だって無理かもしれない。俺はしがない十四歳の少年だ。
「俺が似合いの仕事を紹介して、返済の目途を立ててやるから出て来い!! 風呂屋になる準備はしとけって最初に頭下げに来た時にいっただろうが!! 世の中にはてめぇみてぇな年増のババアが良いっていう変態もいんだよ!!」
俺と一路は、この時、真尋の言葉の意味が全く分からなかったが、数年後、その言葉の意味を知って、ちょっと引いた。
真尋が一度、言葉を止めて辺りが静寂に包まれた。うるさいと文句を言おうとした隣人の中年男も真尋に睨まれて、押し黙った。そして真尋がもう一度、何かを言おうとした時だった、中で何かの動く音がした。トン、トン、トン、とのろのろとした足音が聞こえて来る。
少しの間を置いて、ガチャリ、と鍵の開く音がした。キキッと立て付けの悪いドアが嫌な音を立てて数センチだけ開けられた。思わず俺は息を飲む。目がぎょろりとした化け物みたいな女の目がその隙間からこちらを覗いていた。一路が俺の背中に隠れる。
「……金は、返す」
酒に焼けたガラガラの女の声が弱々しく言った。
「もう待つだけ待ったろ」
真尋は冷たく言い捨てた。
多分、真尋はその藤谷充のこともこのレイコとかいう女のことも全て調べ上げたのだろう。
「お前が引き取った子供に稼がせてんだろ? かなりの額を稼がせて、全部、奪い取ってテメェの懐に入れてんだろうが」
「違う、そうじゃなくて、全部じゃなかったんだよ、あいつ、あたしに嘘ついてやがったんだ。給料を少しずつ、どっかにため込んでたんだよ。その金を見つけたら利子分くらいは払えるから。聞き出したらすぐに払うから」
女の目玉が忙しなく左右に揺れている。顔色が悪くて、荒れた唇は血色が悪くて紫色をしている。何か変だ、と思った。何かが可笑しい。
「……藤谷は?」
真尋の問いに女の目があからさまな動揺を見せた。
「いな、い。いないよ、バイトに行ってる」
「なら中で待たせろ」
「駄目だ!」
女の金切り声に耳がキーンとする。
やっぱりこのレイコとかいう女は可笑しい。どうやったって真尋は、高校生には見えても大人には見えない筈なのに真尋を完全に借金取りだと思い込んでいるし、その後ろに居る俺や小学生にしか見えないだろう一路に気付いていない。俺から女が見えると言うことは女からも俺と一路は見えている筈だ。
「あいつは夜中まで帰って来ないよ、だか、だから、来るならまた夜に来てよ、あたしだって仕事に行かなきゃいけない! あいつはいないんだ、いないんだってば!!」
女がドアを閉めようとするが、真尋が咄嗟に足を入れてそれを妨害する。俺と一路もドアに手を掛けて開けようとするが、女のどこにそんな力があるのかドアはなかなか開かない。
「いねぇ筈はねーだろ」
しかし、思わぬところから女の嘘が露呈する。
真尋に睨まれて口を噤んだ隣人の中年の男が首を傾げている。
「あんたは朝からあの兄ちゃんをずっと怒鳴ってたじゃねぇか。俺が壁を殴ったって聞きやしなかった。それにこの子供たちが来る直前まであんたの金切り声が響いてうるさかったんだから、あの兄ちゃんは部屋に居るんだろ」
「適当なこと言ってんじゃねぇよ!! 部屋には誰もいないっていってるだろ!!」
女が半狂乱になって叫ぶ声が耳に鬱陶しい。
「嘘じゃねえよ。こんなおんぼろのアパートの壁は薄いんだからよ、ぜーんぶ筒抜けだっつの! おい、兄さんちょいと退きな! こんなうるさくされてちゃおちおち寝ちゃいられねえ!」
中年男が部屋から出て来て、ドアに手を掛けた。真尋が場所を譲り、俺と一路も手を離す。中年男の逞しい腕は力こぶがぐっと浮き出そうなほどだ。日に焼けた肌から多分、土木関係の仕事をしているのではないかと窺えた。
「居ないって言うなら、居ないという証拠を見せろ年増ババア!」
中年男がドアに掛けた手に力を込めれば、ドアは呆気無く開いて女が転がるように出て来た。安っぽいドアは、耐えきれずにガキンっと音を立てて蝶番が壊れて外れてしまった。
俺たちは息を飲んだ。外れたドアに構う余裕など誰にも無かった。
「お、おまっ、その手っ、ひっ、ひぃっ!!」
中年男が目を見開いて、手に持っていたドアから慌てて手を離した。
女の手は真っ赤だった。ドアノブにべったりと真っ赤な血がついている。
誰よりも早く我を取り戻した真尋が靴のまま中へと踏み込んだ。俺は一路に下に行くように言って、その背に続く。うちの玄関よりも狭いアパートはカーテンが閉め切られて暗い。数歩の廊下を通り抜けて、暖簾の掛けられた部屋へと入る。むせ返るほど鉄臭い血の臭いが散らかった部屋に充満していて、唯一の窓の下に人が倒れていた。
「藤谷!」
真尋が倒れている青年に駆け寄る。
腹から太ももにかけて真っ赤だった。日に焼けた畳の上にどす黒い血がじわじわと広がっている。
「い、生きてるのか?」
俺はしゃがみ込んだ真尋の背に問いかける。真尋は青年の手を取り、手首に指を当てながら「藤谷、藤谷」と青年を呼んだ。青年の顔は血の気が失せて最早青白くではなく、白くなっている。しかし、青年には意識があった。ぼんやりとした目が真尋を見つけて、驚いたように揺れた。
「そこの青い服の人は今すぐに救急車を! おい!あんたはタオルをありったけ持ってこい!!」
部屋を覗き込んでいた住人が慌ててどこかに散っていく。俺は部屋の中を見回して、プラスチック製の箪笥の中身をひっくり返す。粗品、と書かれて袋に入ったままのタオルを見つけて中身を取り出して真尋に渡した。真尋は青年の服をたくし上げて傷口を見つけるとそこにタオルを押し当てた。
「ま、ひろ、さ」
「喋るな馬鹿野郎。黙ってろ。海斗、ここ代われ」
「え!?」
「早くしろ」
「わ、わかったよ……っ」
俺は半泣きになりながら真尋の代わりに傷口を抑えた。出血はゆっくりとじわじわと溢れている。真尋は青年のズボンをビリビリと破り出した。今度は何をと思わず目を瞠るが、青年は太ももからも出血しているのに気付いた。多分、そこも刺されたのだろう、腹よりもそっちの方がずっと出血が酷かった。
真尋は辺りを見回すと俺がひっくり返した箪笥の中身からスカーフを手に取ると太ももの上の方を縛り上げて止血を試み始めた。十三歳の中学生とは思えぬ冷静な対処である。
「腸というのは案外弾力性に富んでいるから刺されても傷つかないことがある。腹は出血量から見ても内臓は無事だろう」
「へ、へぇ」
しがない十四歳の少年である俺には、そんな返事しか出来ない。
「そいつが、そいつが悪いのよ」
狂気じみた声が聞こえて顔を上げれば、女が暖簾の前に立っていた。手には、この青年を刺したのだろう血まみれのナイフが握られていた。女は、口元に歪んだ笑みを浮かべている。真尋が立ち上がり女と向き合う。女の後ろには、じりじりと距離を詰めるあの中年男とその後ろにマスターがいた。
「そいつが金を隠すからいけないんだよ。だから叱っただけ、あたしは悪くない」
「こいつが稼いだ金は全部、こいつのものだクソアマ」
「真尋ぉ、煽るのはやめよ? な? な!?」
俺の口から情けない言葉が漏れる。
「違う。違う違う、ちがぁぁぁあう!! そいつはあたしが引き取って、飯を食わせて、住む場所だって用意してやったんだ!! だからそいつはあたしのものだ!! 返せよ、返せぇぇええええ!!」
「真尋!!」
女が真尋に向かってナイフを手に突っ込んでくる。
しかし、真尋は然して動じた様子もなく女の攻撃をかわすと女の手を蹴り上げてナイフをふっとばし、掴みかかって来た女の腕を取ると一気に捻り上げた。女が痛みに悲鳴を上げたが真尋は構うことなく、女の足を払って引き倒すとその背に馬乗りになった。
「おい、おっさん。そこのビニル紐を寄越せ」
「……は、はい」
呆気に取られていた中年男が雑誌の束の上にあったビニル紐を真尋に渡した。真尋はこれまた手際よく女の手と足を縛り上げて、ぎゃあぎゃあ喚くのが五月蠅かったのか、適当な布を女の口に突っ込んだ。
「真尋さんは、つ、強いんですね」
マスターが呆然と呟いた。
「護身術は三歳の頃から習っているからな、家に金があると蛆虫が湧くんだ」
真尋は女の身柄を中年男に任せるとこちらに戻って来て、青年を覗き込んだ。外からサイレンの音が聞こえて来た。
「……わたし、しぬ、んでしょうか」
青年が真尋に問いかける。
「馬鹿を言え。死ぬわけないだろう、これしきの傷で」
真尋の言葉に青年は、何故か可笑しそうに目を細めた。
「もういちど、まひろさんに、あいたかったんです」
掠れた声は聞き取り辛かった。真尋が青年の頭の傍に膝をつく。
「あんな、ふうに、おれいも、さよならもいえなくて、ほんとうに、すみませんでした」
「さよならなどいらないだろう。またね、が正しい」
真尋は青年の言葉を否定して、訂正を入れる。
しかし、青年はその言葉を受け入れようとはしない。
「……私は、このまま死んだら……もうあすに、おびえなくていいんでしょうか」
独り言のように吐き出された言葉は、外野の喧騒に呑み込まれてあっという間に視えなくなってしまう。それは、平凡に生きて来た俺なんかには推し量ることの出来ない感情が詰め込まれた言葉のように思えた。
「相変わらずお前は馬鹿だな」
真尋が呆れたように言って、青年の額を弱くはたいた。ぺちりと些か間抜けな音がした。
「明日とは楽しみにするものだ。怯えるためのものなんかじゃないんだ」
そう言って真尋は、青年の手を取った。二人の手はどちらも血まみれだ。その血まみれの手を取り真尋は徐に小指をからめた。
「これが何か分かるか?」
「ゆびきり、ですか」
青年の言葉に真尋が、ああ。と頷いた。
「藤谷充。いいか、これは約束だ。指切りしたからには、約束を破ったらどうなるか分かっているだろう?」
青年の目が真尋に向けられる。
「お前は俺が助けた時点で、今、この瞬間から俺のものだ。髪の毛一筋、細胞の一つに至るまで全て、この水無月真尋のものだ。つまりお前は俺の下僕になる訳だ」
青年の目は疑問符に溢れていた。いや、青年だけじゃない。この部屋に居る皆が、真尋の言葉の意味が分からず困惑している。だって瀕死の怪我人に吐くセリフとは到底、思えない。
流石にないだろ、と俺が口を開きかけた時、真尋がその先の言葉を続けた。
「よって、俺の許可なく死ぬことは、何があろうとも今後一切、絶対に赦さない」
青年の目がゆっくりと見開かれて、じわりと潤んでいく。
ただ真尋の指が絡んでいただけだった彼の小指が真尋の指に応えるように動いたのに俺は気付いた。
「俺は下僕であろうと、俺のものには優しくする主義だ。お前にはありとあらゆる知識を与え、俺の役に立ってもらう。そして、俺がどうしようもない馬鹿なお前に幸福を教えてやろう」
青年の目じりから一筋の涙が落ちていくが、その涙がどんな理由で溢れているのかが俺には分からなかった。
「俺がお前に孤独以外のものを全て教えてやるから、死ぬんじゃない。分かったな?」
「…………は、ぃ」
青年が唇を震わせながら頷いた。
絡んでいた小指がするりと離れる。
「これは約束だからな絶対に破るなよ」
真尋は、ふっと優しく微笑んで頷くと聞こえて来た足音に顔を向けた。救急隊が部屋に入って来る。中年男とマスターが邪魔にならないようにと女を風呂場の方へと連行していき、俺は救急隊の人に言われて漸くタオルから手を離した。
俺はどうにか後ろへと這いつくばるようにして抜け出す。救急隊があっというまに応急処置を施して、青年は担架に乗せられる。真尋が電話をしながら救急隊の質問に答えて、搬送先の病院を指定していたが、それが終わるとこちらにやってきた。
大丈夫か、と差し伸べられた血で汚れた手の主を見上げる。まあ俺の手も汚れてるんだけどね。
「真尋さぁ、下僕はなくない?」
真尋は無表情のまま首を傾げた。俺と真逆の黒い髪がさらりと揺れる。
「友人とか仲間とかいうよりもインパクトがあった方が意識がはっきりするかと思ったんだが……」
この友人は天才だけど少しずれてるなぁ、と俺は笑う。
「とはいえ、あんだけベラベラ喋っているんだから、あの馬鹿は早々死なないだろうがな。多分、寝不足と過労だろ」
その言葉は真尋らしいっちゃ真尋らしいものだ。尊大で偉そうだけど、何だかんだこの友人はとびきり優しいのだ。
「なあ、真尋」
「何だ? というかさっさと立て」
「腰、抜けた……立てない」
こちとら見た目は金髪碧眼と日本人にあるまじき容姿だが中身は至って平凡な十四歳の少年なのだ。腰だって抜ける。
やれやれと肩を竦めた真尋にこの後、姫抱っこされて辱めを受けたことを俺は一生恨むつもりでいることはまた別の話だ。
「真尋様! 雪乃様! 風呂上がりのコーヒー牛乳は格別でした!!」
部屋に戻れば、風呂から上がって浴衣に着替えて寛いでいた真尋と雪乃の下にみっちゃんが嬉しそうに駆け寄る。みっちゃんは、風呂上がりのコーヒー牛乳をいたく気に入った様子で瓶だけではなく、紙の蓋まで記念に貰っていたほどだ。
「良かったですね、充さん」
雪乃も真尋もまるで我が子でも見守るかのような優しい表情を湛えてみっちゃんの話に耳を傾ける。
「はい! あのですね、大きなお風呂はヒノキの香りが素晴らしいものでした、外のお風呂も景色が本当に綺麗で!」
はしゃいだ様子で二人に報告するみっちゃんを眺めながら俺はキッチンに向かい、冷蔵庫から水の瓶を取り出して蓋を開けて飲む。一路は着替えを和室に置いて空いているソファに座る。
「あ、みーくんだ!」
「みーくん、おかえりー!」
主寝室から出て来た双子がみっちゃんに駆け寄り飛びつく。みっちゃんは嬉しそうに双子を受け止める。
「真智様、真咲様、私、ちゃんと頭にタオルを乗せるの忘れませんでしたよ」
「僕と咲もちゃんと乗せたよ、お兄ちゃんと雪ちゃんも!」
「お兄ちゃんは忘れてたからね、僕が乗せてあげたの! それでね、背中洗いっこしたんだよ!」
やっぱり本当に一緒に入ったんだなぁ、夫婦だもんなぁと俺は一路の隣に腰を下ろしながら何とも言えない気持ちになる。
「みーくん、明日は僕たちとそこのお風呂入ろうね!」
「背中流してあげるからね、約束だよ!」
「はい。では私にもお二人の背中を流させてくださいね」
「いいよ!」
「みーくん、夕ご飯までにまだ時間があるからね、探検行こう! お兄ちゃんがみーくんが一緒ならいいよって!」
「探検、ですか?」
みっちゃんが首を傾げて真尋に顔を向けた。
「本館の方だ。明治の初期に建てられた建物だからな。上階の客間の欄間や襖絵が見事でお前たちに見せてやろうと思って向こうの客間を一つ、押さえてあるんだ。勉強がてら見て来ると良い」
「分かりました」
「みーくん、早く、早く!」
「焦ると転びますよ、部屋も私も逃げませんから」
「行ってきまーす!」
「行ってらっしゃい、向こうじゃ大きな声でお話ししたり、走ったり、騒いじゃ駄目よー?」
雪乃の言葉に双子はくるりと振り返る。
「はーい! みーくん、こっちだよ、こっち!」
みっちゃんの手を引きながら無邪気に手を振る双子に俺たちも手を振り返して、行ってらっしゃいと見送る。みっちゃんが、ぺこぺこと頭を下げていれば、早くと急かされて連行されて行った。双子のテンションは下がることを知らない。朝からずーっと元気だから、夕ご飯を食べたらバタンキューだろう。
「ふふっ、充さんたら子供みたいに嬉しそうね」
雪乃がくすくすと笑いながら言った。
「お風呂でもね、大きいお風呂って言ってはしゃいでたよ。真尋くんの家のお風呂だって大きいけど、やっぱり温泉とは違うもんね」
一路が卓上の菓子鉢から一口サイズの饅頭を手に取りながら言った。透明な包装を剥がして口に入れると一路はふわふわと表情を緩める。
「咲ちゃんとちぃちゃんもおおはしゃぎだったの。転ばないかヒヤヒヤしたわ」
雪ちゃんがそう言いながら立ち上がる。
「お茶の仕度でもしますね。温かいのと冷たいのどっちが良いかしら」
「俺は冷たいのでいい」
「じゃあ俺も。一路は?」
「僕は甘いのが良いな」
「ふふっ、じゃあほうじ茶と牛乳が余っているからほうじ茶ラテを淹れてあげますね」
雪乃がそう言って微笑んで立ち上がり、キッチンの方へと行く。手伝おうか、と声を掛ければ「大丈夫よ、ありがとう」と柔らかな声で返事が返って来る。淡い薄紫の浴衣にやけに大きな紺色の羽織姿の雪乃の姿をぼんやりと見つめる。多分、あの羽織は真尋のだな。
「真尋くん、顔緩んでるよ」
一路の呆れかえった声に顔を向ければ、真尋は無表情をふわりと緩めて雪乃の姿を目で追っている。家に居る時もそうだが基本、真尋は雪乃が居ればずーっと雪乃を見ている。
「愛しい妻が俺の羽織を着てれば顔も緩む。彼女は小さいから、俺の羽織がやけに大きく見えるし、可愛い。あの項の白さが堪らん」
「あっそ。ごちそうさまです」
一路がお腹いっぱいという様に手を振って真尋の惚気を突っぱねる。
真尋は面白くなさそうに少し眉を寄せたが、あ、と何かを思い出したのか声を漏らした。
「そういえば、この間、あいつの父親とかいう男がうちを尋ねて来たんだがお前たちの家にはまだ来てないか?」
真尋が徐に言った。
俺と一路は、誰の父親かが分からずに首を傾げる。
「あいつって誰?」
「園田」
「え? みっちゃんの父親?」
「行っておくが、園田の方じゃない。藤谷の方だ」
「待って待って、藤谷ってみっちゃんの旧姓だよね? え? もしかして本当のお父さんってこと?」
一路の顔に困惑が浮かんでいるが、多分、俺の顔にも同じものが浮かんでいるだろう。
真尋だけが涼しい顔をしている。
「そうだ。あいつのDNAの半分を占める男だな。あいつ、顔は母親似らしいから似てなかったが、背格好はそっくりだった。遺伝子とは愉快なもんだな」
「で、でも、みっちゃん、別にいつも通りだったよね? いつ来たの?」
「先週の日曜だったか、園田が夕飯の買出しに行った直後に来たんだ。だからあいつは知らない。来たことも言って無い」
「言う必要なんかありません。充さんはうちの子ですから、おいそれと犬猫の子みたいにあげられませんもの」
雪乃が珍しくぷんぷんと怒りながらこちらにやって来る。真尋がお盆を受け取り、雪乃がそれぞれの前に飲み物を置く。鮮やかな翡翠色の冷茶が涼し気なグラスに注がれている。一路の前には、ほうじ茶ラテが置かれて真尋の前には俺と同じもの、雪乃は湯気の立つ湯呑を自分の前に置いて、真尋の隣に座り直した。真尋がすかさず雪乃の腰に腕を回して引き寄せる。こいつは本当に雪乃に触っていなければ死んでまうのではないかと本気で思うことがある。
「雪乃、それってみっちゃんの本当のお父さんがみっちゃんをくれって言ったってことか?」
俺の問いに一路が「え?」と目を見開く。
「まあ、端的に言ってしまえばそういうことだな」
カラン、と真尋のグラスの中で氷が十一月に相応しくない涼し気な音を立てた。
「どこで小耳に挟んだのかは知らんが、捨てた息子が水無月本家の長男夫妻に目を掛けられていると聞いて惜しくなったようだ。あいつの父親は、離婚後、アメリカに行って起業したんだそうだ。何だったかの輸入雑貨の会社らしいがここ二、三年、業績不振に陥っている。ミナヅキという恩恵にあやかりたかったんだろうな」
「凄く白々しい言葉を吐く方だったのよ? 充のことを忘れた日はないとか置いて行ったことを後悔しているとか。十五年以上も音信不通でご自分のお母様の葬儀にすら顔を出さなかった方らしい言い分だと思わない?」
雪乃は滅多に(真尋以外には)怒らないし、腹を立てないのでこんな風に言うのは珍しいことだった。
だが、真尋に出会うまでのみっちゃんの人生を思えば、俺だって流石に腹が立つ。一路ですら眉間に皺を寄せて不快感をあらわにしている。
「随分としっかり調べて来たようでお前たちのことも知っていた。だからもしかしたらお前たちのところにも行くかもしれないから一応、言っておこうと思ってな」
「万が一、来てしまったら塩でも撒いて追い返しちゃっていいですからね?」
「ははっ、りょーかい」
雪乃の言葉に思わず笑ってしまう。まるで疫病神のような扱いだな、と思いつつも仕方がないか、と思ってしまう。
ずっと音信不通で一度だって連絡を寄越さず、都合のいい時だけみっちゃんを利用するような馬鹿なのだから、それに相応しいおもてなしをしなければならない。おもてなしは、日本の心だからな。
それから明日の予定や先日の文化祭の話をしている間に女将さんと仲居さんが来てダイニングに夕食の支度をしてくれて、それが終わるころにみっちゃんたちが戻って来た。
海の幸と山の幸を惜しみなく贅沢に使った夕食は何を食べても美味しくて、会話にも花が咲く。そして、案の定、夕食を食べ終えると双子はあっという間に眠気に襲われて俺と真尋でベッドに運ぶ。
「こいつらも重くなったなぁ」
俺はキングベッドの真ん中に真咲をおろしながら感慨深く思った。
生まれた時から知っていて、二人が小さな赤ん坊だった時の記憶もしっかりあるから、不思議な気分だ。
「本当に成長とはあっと言う間だ」
真咲の隣に真智を寝かせながら真尋が言った。真尋の手が優しく弟の髪を撫でる。
「最近はお手伝いも任せられることが多くなって、二人とも積極的にお手伝いをしてくれてとても助かるの。ちぃちゃんも咲ちゃんも真尋さんと違ってお料理やお掃除も出来るの」
雪乃が二人に布団を掛けながら穏やかに微笑む。
「俺だって手伝いはあるかと聞くが、君がないって言うんじゃないか」
「真尋さんに任せるとろくなことにならないんだもの。この間だってちょっと目を離した隙に折角炊いた小豆を駄目にしちゃって。お饅頭を作ろうと思ってあんこを作っていたのに」
「そうなのか?」
「甘いのが好きじゃないからって、塩と醤油を勝手に足したの。言い訳が「しょっぱいあんこがあっても良いと思ったから」なのよ? お塩とお醤油だって入れ過ぎでしょっぱくてとても食べられる代物じゃなかったんだから」
「さあ、寝るぞ。ほら雪乃、早く寝ないと体に障る。海斗もさっさと寝ろ」
真尋は分が悪いと悟ったのかいそいそと真智の隣に潜り込む。雪乃が「もう」と頬を膨らませるが、普段は鬱陶しいくらいに雪乃を目で追っている真尋はそっぽを向いたままこっちを見ない。相変わらず料理の才能だけは一ミクロンも存在していないみたいだな、と俺は笑いながら「おやすみ」と声を掛けてドアの方へ向かう。
「海斗」
「ん?」
呼び止められてドアノブに掛けた手が止まる。
振り返れば真尋と眼が合った。
「あいつの父親がもし、この旅行中に現れるようなことがあったら一路と一緒にフォローを頼むぞ」
「現れる可能性があるってことか?」
「愚かなやつほど馬鹿なことをやらかすものだからな」
そう言って真尋は肩を竦めた。
その容姿や家のことで苦労を重ねてきた真尋が言うと妙に実感がこもっている気がする
「分かったよ。何かあったら「ニホンゴワカリマセーン」戦法で行くから安心しろ」
冗談交じりにウィンクを返して、俺は二度目のおやすみを告げて今度こそ主寝室を後にした。
間接照明だけが照らすリビングを横切って和室のほうに行けば、三つの布団が仲良く並んでいた。
「みっちゃんが真ん中だよ、今日はみっちゃんの為の旅行だからね」
「わ、私はあっちのソファでと言ったのですが……」
あわあわしているみっちゃんに俺は苦笑を零す。
「何言ってんの。みっちゃんは俺と一路にとっては大事な友達なんだから、一緒に寝るに決まってるじゃん。今夜はチビ達が先に寝ちゃったからあれだけど、明日の夜は枕投げ大会だからな」
「そうそう旅行に来たら枕を投げないと失礼に当たるからね」
一路がここぞとばかりに話に乗って来て、俺もうんうんと頷く。
ただ、何に対して失礼なのかは俺も知らない。
「そ、そうなのですか? やっぱり枕投げは必須なのですね、真智様と真咲様のおっしゃられていた通りです」
あの双子とみっちゃんは旅行と温泉についてどこで何を調べたんだろうと思いながら俺は自分の布団に寝ころぶ。畳はやっぱり最高だ。ベッドも良いけど、畳も落ち着く。
みっちゃんがおどおどしているのに気付いて、一路が「早く」とみっちゃんの布団を叩いた。みっちゃんが「本当にいいのですか?」と言いながら立ち尽くしている。
「あのねえ、みっちゃん。友達と旅行に来たら一緒に枕を並べて寝るの。それが旅行の礼儀ってもんだよ?」
一路も大概適当なことを言うが、みっちゃんはその言葉に漸く俺と一路の間の布団に寝ころんだ。一路が灯り消すよ、と枕元の行灯型ランプの光を落とす。とはいえ、南向きの縁側に面している和室は、障子越しに月の光が青白く差し込んで部屋の中はぼんやりと明るい。
急に静まり返った部屋の中、川の流れる音と風が葉を散らす音が聞こえて来る。
「……旅行って凄いですね」
みっちゃんがぽつりと呟いた。俺は目だけを横に向ける。
「私の知らないことが沢山ありますが、どれもこれも楽しいので驚きの連続です」
「明日はみっちゃんが見たいって言ってたハシビロコウを見に行くんだから、もっと楽しいよ」
一路の声にはなんだか優しさがたっぷりと込められていた。
みっちゃんは、ふふっと垂れ目を細めて笑い、布団を口元まで引き上げる。
「明日は、ハシビロコウが本当に動かないのか、この目でしかと確かめたいと思います」
明日が本当に楽しみです、とみっちゃんが小さな声で呟いた。
俺はどうしてかその言葉に胸が詰まって「そうだね」としか答えられなかった。一路が「本当に動かないのかな」と呟いてみっちゃんが「前にテレビで見た時は動いていませんでしたよと答える。眠ろうと言った口でひそひそと途切れそうで途切れない話しをしてしまうのも旅行の醍醐味なんだろう。
ただ、ハシビロコウから始まった話が何故か最終的にみっちゃんの「真尋様のここが素敵」談義に代わっていた。
そうして俺の旅行一日目の夜はみっちゃんの「真尋様の素敵なところは星の数ほどもありますが、まず第一にあの神に愛され、神が自らの御手で作り上げたとしか思えない美貌についてお話させて頂きたく思います」という前置きから始まったマシンガントークを子守唄代わりに幕を下ろしたのだった。
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ここまで読んで下さってありがとうございました!!
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色々あって更新が遅くなってしまいすみません……。
スマホ、洗濯機で洗っちゃ駄目、絶対。
次回は本編の番外編で門番の五級騎士と神父様と神父様の子どもたち的な内容のお話を更新予定です。
これの続編は今から書くのでクリスマス後くらいのお届けになります! 多分、真尋視点になるかなと思います。
次のお話も楽しんで頂ければ幸いです♪