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かくれんぼ

 掘っ立て小屋の並ぶ村の中を、フェリス、アリシア、ジャネット、ミランダ隊長の四人は、慎重に進んでいく。


「荒れ果てた村ですわね。人が住んでいるのが不思議なくらいですわ」


 ジャネットが信じられないといったふうにささやく。


「まあ、王都の貧民街もこんな感じですけどね。危険ですから、私から離れないようにしてください」


「は、はい!」


 注意するミランダ隊長に、フェリスが全力でしがみついた。


「……あの、さすがに歩きづらいです」


「あ、ご、ごめんなさい! 離れないでくださいって言われたので!」


「さすがに限度があると思うわ」


「あぅぅ……」


 どうやら変なことをしてしまったらしいと気付き、フェリスは赤くなる。


 そんなフェリスに、ジャネットが気後れがちに告げる。


「えっと……フェリス? わたくしから離れたらいけませんわよ?」


「分かりました!」


「……………………」


「……………………?」


 なにかを期待するかのように見つめるジャネット、きょとんと首を傾げるフェリス。


「離れたら、いけませんわよ?」


「わ、分かりました?」


 ミランダ隊長に注意されて懲りたフェリスはジャネットに抱きつこうとしない。


 ――時の流れを戻す魔術さえあれば……わたくしが先に言いさえすれば!!


 ジャネットは絶望した。涙目である。


 アリシアの父を捜して四人が村の中を進んでいると、道の向こうからガデル族の女性が歩いてきた。


「まずい! 隠れましょう!」


 焦るミランダ隊長。


 四人は近くの納屋に駆け込むが、その納屋にもガデルの村人が入ってくる。フェリスたちは大慌てで毛皮の山のあいだに潜る。


 押し合いへし合い。


「せ、せまいですーっ!」


 フェリスが悲鳴を上げる。


「ちょっと、フェリス!? そこは触っちゃダメですわーっ!?」


 真っ赤になるジャネット。


「これ、私の手よ?」


 容赦のないアリシア。


「なにをしてるんですの!? く、くすぐったっ……やめてくださいましっ!」


「お嬢様たち、静かに! 気付かれます!」


 ミランダ隊長が警告する。


 フェリスとアリシアとジャネットはお互いの口を手の平で塞ぎ、ぴたりと動きを止めた。ジャネットが力を入れすぎたせいでフェリスが窒息しそうになってしまい、ジャネットは急いで力を緩める。


 四人の隠れている毛皮の山に、足音がゆっくりと近づいてきた。


 ――こ、来ないでくださあいっ……。


 フェリスは心の中で願うものの、足音は遠ざかってくれない。


 足音の主は納屋をしきりにうろつき回り、作業の物音を立て、そして。


「だ、誰だ!?」


 毛皮を持ち上げて叫んだ。


「ごめんなさあああああいっ!!」


 毛皮の山から飛び出すフェリス、逃げ出す少女たち。


 なりふり構わず納屋を脱出し、手近の建物に飛び込む。


 それは他の民家とは異なり、広々とした草葺きの建物だった。


 真っ平らにならされた土間には、チリ一つ存在しない。


 そこであぐらを掻いて精神統一していた男が、突然の来訪者に顔を上げた。


 眉間に皺を刻んで振り返ったその男の名は、バルフ。


 ガデル族一の戦士にして、暴虐無比な長。


「なんだ……お前らは」


 バルフは斧を手に取り、ゆっくりと立ち上がった。

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