お部屋訪問
気がつくと、フェリスは大きな天蓋つきベッドに寝かされていた。
なんだか涼しいと思ったら、アリシアがベッドのかたわらにしゃがみ、絹の扇子でフェリスの顔を扇いでくれている。
「はれ……? ここは……?」
「姫殿下の寝室よ。王宮のエントランスで倒れていたら目立つから、運んでくださったの」
アリシアは穏やかに微笑む。
「こ、ここが……お姫様のお部屋……とっても甘くて素敵な香りがしますわ……さすがはお姫様ですわ……」
ジャネットはぽーっとした顔で寝室をさまよっている。
「しっかりして、ジャネット。あんまりうろうろしたら失礼よ」
「はっ!? わたくしったら、なにを!? ずっと前からどんなお部屋だろうと思っていたので、つい……」
真っ赤になってフェリスのそばに戻ってくるジャネット。
侍女長がロゼッタ姫に話す。
「やはりまずいと思いますが……。未婚の姫の寝所には、侍女以外は立ち入りを禁じられておりますし……」
「いいえ、良いのです。聞くところによれば、普通の女の子たちは仲良くなるとお互いの部屋を訪問するそうではありませんか。あなたもそうやって育ったのでしょう?」
「それは……そうですが……」
「でしたら、わたくしにも楽しませてください。わたくしはお友達というものがほしいのです」
ロゼッタ姫は憧れるような眼差しをフェリスたちに向ける。
「まったく……姫様は本当に……」
「フェリスは命の恩人、アリシアとジャネットの身元もしっかりしています。付き添いは要りませんよ」
「……かしこまりました。くれぐれも、あまりはしゃぎすぎたりなさいませんように」
仕方ないといったふうに、侍女長は他のメイドたちを連れて退室していった。
ベッドに寝かされているフェリスのところに、ロゼッタ姫が近づいてくる。
「あ、あの、ごめんなさい……。わたし、また迷惑をかけてしまって……」
フェリスが謝ると、ロゼッタ姫は悪戯っぽく笑う。
「構いません。おかげで、フェリスたちを部屋に招く口実ができました」
アリシアが口元に指を添える。
「姫殿下が元気いっぱいだという噂は流れてきていましたけれど……、王宮暮らしは飽き飽きといったご様子ですね」
「あら、分かりますか?」
ロゼッタ姫はおかしそうに眉を上げた。
「ど、どうしてですの!? 王宮暮らしだなんて、羨ましすぎですわ!」
ジャネットが驚く。
「だったら、わたくしと代わってみますか?」
「え!? そ、それはそのっ、わたくしにはラインツリッヒという家がありますしっ、あまり軽々しくはっ……!」
ロゼッタ姫が笑みを漏らす。
「冗談ですよ。魔術師団長の黒い噂はよく聞きますが、娘のあなたはとっても可愛らしい人なのですね」
「そ、そそそそんな……もったいない……」
ジャネットは赤い顔を伏せて縮こまった。
「食事もこの部屋に持ってこさせることにしましょう。その方が、邪魔をされず女の子同士のおしゃべりができます。おなか、空いていますか?」
「え、えと、その……」
くー、っとフェリスのお腹が返事をする。
「よかった。ちゃんと召し上がってもらえるようですね」
「うぅぅ……」
くいしんぼと思われそうな気がして恥ずかしくなるフェリス。
ロゼッタ姫から学校やトレイユの街のことを聞かれ、おしゃべりに花を咲かせているうちに、時間はどんどん過ぎていった。