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招待状

 次の日。


 フェリスは贅を尽くしたエントランスホールの隅で縮こまり、かたかたと震えていた。


 辺りを行き来しているのは、なんだか偉そうな人たちばかり。


 キラキラと派手な衣装に身を包んでいるし、白粉はしっかり塗っているし、香水の匂いは充満しているしで、フェリスは立っているだけで目が回ってくる。


「わ、わたし……もう帰りたいんですけど……」


 フェリスが情けない声で訴えると、アリシアが笑みを漏らした。


「あら、まだ着いたばかりよ? フェリスが帰っちゃったら、姫殿下ががっかりなさるわ」


「主にフェリスが招待されているんですから、ちゃんと胸を張っていないといけませんわ!」


 なんて言いつつ、ジャネットの白タイツの脚も震えている。


 そう、今日はこのメルダム宮殿に招待されてのディナーなのだ。


 王都を救ったのがフェリスだと発表するわけにはいかないし、あの場にいた者以外への表向きは「魔術師団が解決した」ということになっているのだが、それではあまりにも申し訳ないとのことでロゼッタ姫が食事会に招待してくれたのである。


 貴族の子女とはいえ、そうそう王宮に足を運ぶ機会のないアリシアとジャネットは、周囲の光景に興味津々。


 しかし、フェリスは。


「わたし……固くなったパンをもらえればお腹いっぱいなんですけど……」


 完全に逃げ腰である。


 別にお礼や名誉など欲しいとは思っていないし、そんなことよりも安心できる場所に隠れたいのだ。できれば近くの箱にでも閉じこもりたい。小動物の本能だった。


 と、そこへ、ロゼッタ姫が侍女たちを連れて駆け寄ってきた。


「姫様! あまり走ってはなりません!」


「フェリスたちを待たせるわけにはいきませんから! 大丈夫、人にぶつかったりはしませんよ!」


「そういう問題ではないのです! 王家の名が泣くと申しているのです!」


 貫禄のある年かさの侍女からたしなめられながらも、ロゼッタ姫は気にする様子もない。


「フェリス、よく来てくれましたね! わたくしはとても嬉しいです!」


 飛びつくようにしてフェリスの手を握り、全身で歓迎する。


「ふぁ、ふぁいっ! こ、このたびは、おまねきいただき、ありがとございます……」


 一方、フェリスはカチコチである。


「あの娘は……?」「パーティでは見ない顔ですね……」「どこの家の隠し子でしょうか……」「妙に姫殿下と仲が良いようだが……」


 辺りの貴族たち、騎士たちから不思議そうな視線が集中し、一挙一動に注目されて、頭がくらくらしてくる。


「わたし、もう……だめ、です……」


「フェリス!?」


 ジャネットたちが驚く中、フェリスはぱたんと倒れてしまった。

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