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ふしぎなほこら

お陰様で、書籍版の2巻が5月31日に発売されます! ジャネットが報われる巻です。大幅に改稿しておりますので、どうぞよろしくお願いいたします!

公式ページはこちらです(http://herobunko.com/books/hero45/6753/)

 瘴気の祓われた後に出現した祠の前で、ミランダ隊長が大きくうなずく。


「よし、入ってみましょう!」


「だ、大丈夫ですの?」


 ジャネットは地下へと続く階段の入り口を怖々見下ろした。


 魔力汚染の中心になっていた祠は、とても普通の場所には思えなかったのだ。階段の周りを囲んでいるアーチ状の建築物も、見たことがないデザインで、どこまでも古めかしい。


「ざっと見積もった感じ、大丈夫かどうかは五分五分ですが、大丈夫じゃなくても大丈夫です!」


「それはどういうことですの!?」


 ジャネットは混乱した。


「いざとなったらフェリスが助けてくれる気がします!」


「ふえ!? わ、わたしですか!?」


 突然振られてフェリスも混乱した。


「私は思うのです。どんな状況になっても、たとえ世界の反対側にいても、必ずフェリスが助けてくれると……全人類を助けてくれると……!」


「む、無茶ですようっ!」


「私はフェリスを信じます……フェリスなら私が死んでも天使として復活させてくださるでしょう……」


「なんだか宗教じみてきたわね」


 アリシアだけは混乱せずに穏やかな微笑みをたたえていた。


「ダメな大人がここにいますわ……」


「ダメではございません! 私はフェリスの能力を客観的に観察して客観的な評価を下しているだけです」


 思い込みの激しいミランダ隊長だった。


 フェリスたちとミランダ隊長は、ゆっくりと下り階段に近づいていく。


 隊長はたいまつに火を灯すが、階段に足を踏み入れるとそれはすぐに立ち消えた。


「空気が薄いのでしょうか……」


 仕方なく、灯りの言霊を唱える。


「黎明の光よ、万物の原初たる清浄の光よ、我が道先を照らせ――ブライト」


 ミランダ隊長の手の平から、火の玉のような光の塊が浮き上がった。だが、小さい。階段の暗闇はほとんど失せず、ミランダ隊長の顔が下から照らされて怪物のような形相に見える。


「ちょ、ちょっと! もっと明るくできませんの!?」


「最大限の出力にしているのですが……、変ですね……。どうも、この祠自体に魔術を抑え込む特殊な結界が張られているような感じがします」


「わ、わたしもやってみます」


「それはやめておいた方がいいわ」


 フェリスが上げようとした手をアリシアが即座に握り締めた。屋敷を全壊させかけた魔術の威力を思い出したのだ。今はコントロールが上達しているとはいえ、地下にいるときに祠が崩落したらたまらない。


「え? どしてですか?」


 フェリスは小首を傾げた。


「どうしてでもよ。お手々は繋いでおきましょうね」


「はい!」


 よく分からないが、アリシアと手を繋げて嬉しいフェリスである。


「アリシアだけは一生許しませんわ……」


「なんでよ!?」


「け、けんかはダメですよー!」


 などと言いながら、階段を下りていく。


 闇の中からなにが飛び出してくるか予想もつかないから、フェリスはびくびくである。


「ミ、ミミミランダさあん、あんまり先に行かないでくださあい……」


 アリシアにしがみつき、震えながら歩いている。


「し、心配しなくても大丈夫ですわ! お化けが出てもわたくしがフェリスを守ってさしあげますからきゃああああああ!?」


「ひゃー!?」


「きゃー!?」


 ジャネットの悲鳴にフェリスもアリシアも跳び上がった。


「ちょっとジャネット!? 急に叫んだらびっくりするわ!」


「だ、だって、あそこに! あそこに爛々と光る猛獣の眼が……禍々しい眼が……!」


 ジャネットはパニックに陥って指差した。


 その先にうずくまっていた猛獣は……、


「チュチュッ!」


 と小さな鳴き声と共に走り去っていく。


 手の平サイズの体、長い尻尾。


「……ネズミね」


「……ネズミでした」


 アリシアとフェリスがじーっとジャネットを眺める。


「そ、そうですわよね! そうだと思っていましたわ! わたくしの読み通りですわーーーーーーー!」


 ジャネットは冷や汗をだらだら流しながら胸を張った。


――このジャネット・ラインツリッヒ、万が一にも怖がっているなどと気づかれるわけにはいきませんわ!!


 なんて考えているが、もちろんとっくにバレている。


「ジャネットさん……手、繋ぎませんか?」


「ええ!? ど、どうしてですの!?」


 フェリスにまで気遣われている。が、どんな理由であれフェリスとくっつけるならジャネットは大歓迎だった。


「いいから繋ぎましょ。ほら、手を出して」


「どうしてアリシアと繋ぐことになるんですの!?」


 当てが外れて愕然とするジャネット。


 とはいえ、アリシアの華奢な指に自分の指を絡めていると、少しだけ安心する。アリシアのなめらかな肌の感触を心地良く感じてしまい、頬がわずかに熱くなっていく。


 そんなふうに騒ぎながら、少女たちはミランダ隊長の後について階段を下りていった。


 やがて、暗闇に満たされた地下にたどり着く。


 奇妙な匂いの漂う廊下を進むと、大きな広間に出た。


 広間の真ん中には、祭壇のようなものが置かれている。


「これは……聖堂なのかしら……」


 アリシアの疑問に、ミランダ隊長が返す。


「というより、慰霊用の納骨堂に見えますね……。いつの時代のものなのかは不明ですが……かなり古い建築様式かと……」


「のうこつどう、ってなんですか?」


 フェリスはきょとんとした。


「亡くなった人の骨を納めるお堂です。地位の高い人とか……、もしくは祟られそうな相手とかを祀ったりするのですが」


「ほ、ほね!?」


 思わずアリシアの腕にしがみついてしまう。


「祟られそうな相手って、それは侵入したわたくしたちも祟られてしまうのでは!?」


「大丈夫です! フェリスがいますから!」


「すごい信頼ですわね……」


 でも大人が十歳の女の子に頼り切りでよろしいのですかしら……と感じるジャネットである。


 調査のため、四人は祭壇に歩み寄る。


 すると、突如として祭壇の上に女性が現れた。人間離れした雰囲気を漂わせていて、空中に浮いている。そして、なにより体が透けている。


「お、おばけですううううううううう!!!!」


 フェリスの悲鳴が響き渡った。


「本当に出るなんて……!」


 杖を構えるアリシア!


「フェ、フェリスには手を出させませんわっ!!!!」


 真っ青な顔でフェリスを腕の中に抱き締めるジャネット!


「つ、潰れちゃいます! ジャネットさん! わたし潰れま……むぎゅ」


 恐怖のあまり力加減のできないジャネットの腕の中で潰れるフェリス!


「幽霊とは興味深いです! 是非調査にご協力を!!」


 狂喜乱舞するミランダ隊長!


 混沌に満たされる納骨堂で、体の透けた女性が口を開いた。


「わらわはお主らに害をなしたりはせぬ。そう恐れずともよい」


「……話が通じるのね。急に押しかけてごめんなさい。あなたは誰?」


 唯一冷静なアリシアが問いかけた。


 女性は闇よりも深い漆黒の瞳で少女たちを見下ろす。


「名前はとうの昔に捨てた。人はわらわを、黒雨の魔女と呼ぶ」

というわけで、『黒雨の魔女編』スタートです。実は職場体験に出かけた辺りから黒雨の魔女編なのですが、ネタバレになるので伏せていました。

黒雨の魔女さんはゴスロリが似合う良キャラなので、書籍版でもいずれ黒雨の魔女編も刊行できたらいいなあと願っております!

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