遠征スタート!
青空に燦然と朝日が輝いている。
その清潔な日光を浴びて、魔法学校の外庭にはたくさんの生徒たちが集合していた。
彼ら、彼女たちは大荷物を抱え、グループごとに固まっている。
フェリス、アリシア、そしてジャネットは三人で一つのチームだ。
「ジャネットさん……大丈夫ですか? すごい荷物ですけど……」
フェリスは恐る恐るジャネットの大荷物を見上げた。あまりにも量が多すぎて、もはやカタツムリみたいになっている。
ジャネットは膝を震わせながらうなずいた。
「だ、大丈夫ですわ……フェリスと遊ぶためのヌイグルミとかカードゲームとかをたくさん持って来ただけですわ……これがないと夢のお泊まりタイムが台無しですわ……」
「お泊まりタイムじゃなくて遠征に行くのよね!?」
アリシアが目をぐるりと回す。
「あ、あのっ、それじゃあ、わたしも持ちます! ジャネットさんだけに負担をかけるのは申し訳ないですからっ!」
「で、でも、フェリスにつらい思いはさせたくありませんわ……」
「へっちゃらです! わたし、こう見えても丈夫なんですよ! ずっと穴掘りしてましたし!」
と胸を張ったフェリスであるが。
ジャネットから荷物を受け取って背負った途端、背中にかかる凄まじい重みに潰れそうになった。
「むぎゅっ……!」
「フェ、フェリス……? 本当に大丈夫ですの?」
「大丈夫です!」
「でも、今むぎゅって……」
「こ、これはわたしの鳴き声ですから!」
「なあんだ、そうなんですのね……」
ジャネットは納得し、二人してぷるぷる震えながら大荷物を持つこととなった。
遠征トレーニングの説明を先生たちがしているあいだも、二人はひたすら震え続け、「地面に置いておけばよかったのでは……?」と気付いたのは出発の時間になってからだった。
大きめの馬車に十人くらいずつが乗り込み、いよいよ目的地の森へと向かう。
生徒たちを歓声を上げて、寄宿舎住まいの魔法学校から出発していった。
特に歓声が大きいのは、フェリスが乗った馬車。
というより、フェリスが十人分くらいの歓声を上げている。
「ちょ、ちょっと、フェリス! あんまり窓から身を乗り出すと落ちますわよ!」
「でもでもっ、ほらほら! すごいスピードですよ!」
「だから危ないんですのよ!」
ジャネットはフェリスが心配で気が気ではない。
そんなジャネットにアリシアが告げる。
「この状態のフェリスは言っても聞かないわ。落ちないようしっかり掴んでおきましょ」
「え、ええ、そうですわね! しーーーーーっかり掴んでおきますわ!」
ジャネットはフェリスを羽交い締めにする。
掴むなどといった生やさしい力ではなく、もはや渾身の力で。
「ジャ、ジャネットさん! 窒息します! 窒息しますから!」
フェリスは悲鳴を漏らした。
半日ほど馬車に乗って移動した後、魔法学校の生徒たちは目的にたどり着いた。
馬車から降り、鬱蒼と茂った森の前で立ち尽くす。
ロッテ先生が生徒たちに告げる。
「はーい、みんなー。揃ってるかなー。前もって説明した通り、今回の遠征はポイント制! 倒してきた魔物のレア度と数に応じて、ポイントが付与されるよ! 1000ポイント達成しないと帰校を認めないから、頑張ってね!」
「それまでに具合が悪くなったら、どうしたらいいんですか?」
アリシアが尋ねた。
「森の入り口に救護班がいるから、治療してもらって。でも、なるべく自分たちで治療しないと、減点対象になるよ。将来の仕事では、体調管理も自己責任だからね!」
「ですわよね……」
ジャネットはうなずいた。
「じゃ、準備ができたチームから入っていいよー! ファイトー!」
ロッテ先生は杖をぶんぶん振り回して励ました。
生徒たちは畏怖を込めて森を眺める。
森の中からはうっすらと霧が立ち上り、ウホウホキエーとなんらかの動物の鳴き声が響き渡っていた。
それだけではなく、強烈な魔力の気配と、毒々しい臭気が漂ってきている。一歩足を踏み入れれば、そこは人外の地。学校で守られてきた今までとは、話が違う。
ジャネットはごくりと唾を呑んだ。
「フェリス、わたくしから離れないようにしてくださいまし。もし迷子になったら大変で……」
「わーっ! たくさん動物さんがいそうですーっ!」
フェリスは小躍りして森へと走っていた。
「ちょ、ちょっと、フェリス!? 一人で走ると危ないわ!」
「でもでもっ、あっちに大っきなウサギさんがいますよ! すっごく可愛いです!」
「あれはウサギじゃなくて殺人グマですわーっ!」
大はしゃぎで疾走するフェリスを、アリシアとジャネットは大慌てで追いかけた。