ちょっと変わった
「今度、みんなで遠征トレーニングをしまーす! これまでの魔術の訓練の成果が試されるから、各自しっかり準備をしておくよーにっ!」
朝のホームルームでロッテ先生が発表すると、生徒たちはざわついた。
「ついに……この刻が来たか」「きゃー! どんな服を着てこー!」「トータルコーディネートは私にお任せアレ!」「俺、この遠征で、大好きな子に告白するんだ……」
などなど、みんなして浮き足立っている。
「遠征……って、なんですか……? 戦争するんですか……?」
編入生のフェリスは事情がよく分からず、小声でアリシアに尋ねた。
アリシアはくすりと笑う。
「戦争じゃないわよ。荷物を持って森とかに入って、決められた獲物を捕まえてくるの」
「つまり、ピクニックですか!?」
フェリスは目を輝かせた。
「そうね、ピクニックに似てるかもね」
「わーい! わたし、本で読んでからずっとピクニックしたかったんです!」
と、はしゃでいるところにロッテ先生から声がかかる。
「おーい、そこ! あんまり無責任に能天気なこと言わなーい。仕留めるのは魔物だし、ちゃんと仕留めてくるまでは何日だって野宿してもらうんだからねー」
「わたし、野宿は得意です!」
「フェリスちゃん……」「フェリス……」
フェリスの天真爛漫な言葉に、クラス全員が涙する。
ロッテ先生は苦笑いした。
「とにかく。これは、軍に所属したり冒険者になったりしたときのための実習を兼ねてもいるの。結構危険なトレーニングだから、単独行動は厳禁だよ。当日までにチームを組んで、いろいろと話し合っておいてね」
遠征トレーニングのしおりが配られ、そのホームルームはお開きとなった。
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休み時間。
教本を机にしまい込んでいるジャネットのところに、フェリスがてててっと駆け寄る。
「ジャネットさん! おはようございます!」
「フェリス!? な、なななななにかしら!? この高貴なわたくしにいきなり声をかけるなんて、ぶぶぶぶ無礼と思いませんの!?」
声がうわずってしまうジャネット。
フェリスから朝の挨拶をされたのなんて初めてで、心臓はバクバクである。そのせいでつい悪たれ口を吐いてしまったが、瞬時に後悔する。
「ちょ、ちょっと、ジャネットさん!? どうしていきなり自分の頭を叩き始めるんですかー!?」
「わたくしがバカだからですわ! こんなもの! こんなもの! この口も裂けてしまえばいいんですわーっ!」
「口がちぎれますから! 血が出ちゃいますからーっ!」
自らの唇をもぎとろうとするジャネットと、それを必死に止めようとするフェリス。
このままでは余計に悪口を言ってしまうと怖くなり、ジャネットは立ち上がる。
「きょ、今日はこのくらいにしてさしあげますわ! わたくしは用事があるからこれでっ!」
「待ってくださいっ!」
急いで立ち去ろうとするジャネットの腰に、フェリスが飛びついた。
(きゃー!? フェリスが! フェリスが! なんて大胆ですの!?)
ジャネットは心臓が凍り付き、もはや微動だにできない。
「な、ななななななななんですの……!?」
「行かないでください! せっかくお友達になれたんですから、もっといろいろおしゃべりしたいですっ!」
「あわわわわわわわ……」
「あ、あの……わたしのこと……やっぱりきらい、ですか……?」
フェリスが涙目で見上げる。ぷるぷると子犬のように震えている。
そんなフェリスに抗えるわけもなく。
「大好きに決まってるでしょっ!」
思わず叫んだジャネットは、クラスメイトの視線が集まっていることに気付いてたじろぐ。
「大好きって……」「あのラインツリッヒさんが、告白……」「これはスクープよ!」「ラインツリッヒさんって、ああいうキャラだったっけ……」
ささやきかわすクラスメイトたち。
ジャネットは顔が火を噴きそうになる。
「良かったぁ……。わたしのこと、大好きでいてくれるんですね!」
「え、ええ……だ、大好きですゎ……」
もはや羞恥プレイである。
「だったら、お昼ご飯、一緒に食べてもらえませんか……?」
「え、ええ……」
フェリスのお願いに、ジャネットは真っ赤な顔でこくこくとうなずくことしかできなかった。