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気付けばただのデート



ー魔界の都市ミールグ

視点 ライト



ダークSUNを先頭にオレ達は魔界の都市の1つへと辿り着いていた。アプソペリティ帝国とは違って引き留めもなくあっさり門を通過できた。

遠くからでも街は輝いて見えていたけど、実際に街の中は結構明るい。でも上を見上げれば真っ黒な空が見える。人工の灯りがあちこちにあるってなんだかお祭りみたいな所だ。

そして、流石に魔界というだけあって人型じゃない生き物の方が多い。そのせいか人型4人のオレ達に視線が集中している気がする。


建物は人間界のものと変わりがないように見える。むしろ整っているようにさえ感じる。今着いた宿屋だって、優しくお洒落な雰囲気の良い感じの建物だ。灯りの補正で綺麗に見えるのかな?


宿屋に入りカウンターへ向かうと、そこには長く綺麗な金髪のお姉さんがいた。人型だけど長耳が堂々と出ている。人間じゃないみたい。


「あら、貴方達、エルフ?」


「……いや、このメンバーにエルフは居ない。吸血鬼が1人、人間が2人、どちらでもない者が1人だ」


「へぇ~、そこの首輪を着けてる方は吸血鬼ね。何かの遊びなの?」


「ふふ、観察よ。良い主人に巡り会えると捗るの」


良い主人ってオレの事なのかな。

て、照れるなぁ……。そんなに好感を持って貰えてるとは思わなかったよ。……あぁでも、『都合の』良い主人って意味かもしれないな……。


「上位の種族の考える事は理解できないわね。それはそうと、大小関係無しに1人一泊10G、食事付きよ。一部屋20Gね」


「……1つの部屋に4人収まりそうか?」


「貴方達のサイズなら余裕で入るわ」


「ちょっ、黒陽!? まさか4人で一部屋にするつもりかい?」


ルックは慌てたようにダークSUNの肩を叩きながらそう言った。

ルックは王子の癖にうぶだなぁ。女の子と泊まるのくらい平気だと思ってた。


でも確かに、オレは良くてもエイルがちょっと可哀想だな。……そもそもからして、実質男3人のパーティーに引き込んだオレが悪いんだけど。


「……今日だけだ。今後の方針について話す必要がある」


「だってエイル。大丈夫?」


「私は平気です。ライト様こそ大丈夫ですか?」


「オレも平気かな」


「ライトちゃん達が良いのなら……」


「……そういう事だ、4人一部屋で頼む」


言うなりダークSUNはカウンターにジャラジャラと代金を置いた。


「確かに60G頂いたわ。部屋に案内するから着いてきて」




★ ★ ★




さて、今オレ達は2手に分かれて別行動を取っている。綺麗に男女別だ。つまり、オレは今はエイルと行動している。

先ほど宿屋の部屋で話し合ったんだ。この魔界では基本的に2人組に分かれるって。理由は極力目立つのを避ける為。人型が固まってる光景はどうしても目立つんだとか。

本当は1人行動が好ましかったみたいだけど、ここでは右も左も分からないオレとルックに気を利かせてくれたんだろうとエイルは推測してた。


女の子2人で行動させる事自体危険なんだけど、ダークSUN曰くオレ達なら問題ないとのこと。オレ達の能力を信頼してくれてるのかな……。


というわけで、ぶらぶらしながら片手間に情報収集する事になった。


「この街……ミールグっていったかな。エイルの家はこの近くにあったりするの?」


「いえ、私の住んでいる所は近くにはありません。ソメロという街の外れにあります」


「遠い?」


「そんなに遠くはないですね」


「1人暮らし?」


「ええ、まぁ」


「それじゃあ帰ったら掃除とか大変そうだね……」


あれれ、どうしてオレはこんな話をしているんだ?


「手は打ってあります。今帰っても私の家は清潔を保っている筈です」


「それじゃあ、今度泊まりに行っても大丈夫だね♪」


「歓迎しますよ」


「ほんと!? ありがとうっ!」


「……こうもまっすぐ感謝されると悪くない気分ですね」


ああ、分かった……友達の家。そう、遊びに行きたいんだ、オレは。

久しく忘れてた、友達の家へ行くという……1つの幸せの行為。ずっとずっと求めていたのに、しなかった事。


「…………? 浮かない顔をしてますよ?」


「……ん、そんな顔してた? ぃよしっ、本題に戻ろうか。案内よろしくねっ」


笑顔も加えて元気アピール。


「作り笑い、下手ですね」


「…………。気にしてるのに……」


ついまた暗くなってしまい、慌てて気を取り直してエイルを見ると、何を思ったのか少し笑っていた。


「ふふっ、ライト様って弱いところを突けば素が見れるんですね」


「ひ、人はみんなそうだよっ!」


「そうですね、ライト様にも人間味があることを知れてなんだか安心しました」


なんか今までオレに人間味を感じなかったような風に聞こえるけど気にしないでおこう。中身と外見が不一致なのは間違いないし。……そろそろ幼女っぽい素振りの訓練が必要かも。


でも、なんだかちょっとだけエイルの表情が柔らかくなってたから、まぁ今は良しとしよう。


「んじゃっ、案内よろしくね」


「はい」




ということで魔界を練り歩いている最中なんだけど、ここで気付いた点でも整理しておこうと思う。


まず、魔界の街並みは恐ろしい程に綺麗だ。例えるなら平安京のような……つまるところきっちり区画整理されている。

規則的で、建物の違いも少なく、見ているだけで自分もシャキッとしちゃいそうになるけど、同時になんだか少しもの寂しい気分にもなる。流石は魔界……街並みからして人間っぽくないといったところかな?


次に街灯の存在。街中に同じ間隔で白い珠が浮いてるんだけど、それが光ってるんだよね。

空は真っ黒なのに街中は昼間みたいに明るいのはこの白い珠のおかげなんだと思う。

静かな夜の人間界も良いけど、活気を呼び込む光溢れる魔界もいいよね。田舎者の如くついキョロキョロしちゃう。


そして人。人間じゃなくて人。

獣が二本脚で立ってるようなのから、頭部だけ魔物っぽいの。耳とか尻尾とか人間じゃない感溢れるワンポイントの付いたほぼ人間のようなの。耳が長いだけの。

そういうのが沢山いるわけだけど、やっぱり前者の魔物風な人のが多くて、人間っぽいのは少ない。


……今はこの3点かな。まだまだ気付きが足りないけど、まぁ他は後々気付くだろう。


そういえばオレとエイルって見た目は人間にかなり近いのに思ったより視線を感じないなぁ。なんでだろ? 聞いてみようか。


「エイル、ちょっと聞いていいかな」


「はい、なんでしょう?」


魔界ここにおけるオレはどんな種族に見える?」


「……そうですねぇ。魔族の生き物の見方を当てはめても、ライト様は何にも成り得ません。要するに不明です」


ふ、不明? オレはカテゴライズできない未知の物質と見なされてるということ……?


「普通そういうのって視線を集めない……?」


魔界ここに居る大抵の魔族は見た目ではなく対象の魔力保有量などを見て相手の位付けをします。本来なら出る杭は打たれるのですが、出過ぎた杭は並の者では手さえ届かないので……要するにスルーするのです。なにしろライト様の魔力保有量は途方もないので……」


「近寄り難し、高嶺の花と」


「はい。……ライト様、しっかり視線はありましたよ」


「えっそうなの?」


「……危機管理能力が無いのですね。ここには貴女のことを気にならない魔族など1人とて居ません。何かあっても遅いので、近い内に特訓をしましょう」


そ、そんな……キョロキョロしてる時に見られてる感じはしなかったのに……。魔族ってのはこう……高度な視察能力でもあるのかなぁ。


それにしても特訓かぁ。なんだろう、不思議と寒気が……。


「特訓は遠慮しても?」


言った途端に更なる寒気が走った気がした。


「…………お手柔らかに?」


「主の為です。手は抜きません」


「……あぁぅぅ」


そうだ、話を切り替えよう。


「ねぇエイル、魔界ここも情報が集まる場所といったら酒場なの?」


「……そうですねぇ、私はそういった場所にはあまり行かないのですが、お酒には口の滑りが良くなる効力があるのは確かです。情報を集めるなら適切な場所である事にはどこでも変わらないでしょう」


話のすり替え成功。なんだか割と食いつきがいいな、お酒好きなのかな?


「酒場にあまり行かないって、お酒は1人派?」


「はい、1人で静かに飲むタイプですね、私は」


「上品だなぁ」


「吸血鬼ですので」


うん、なんだかエイルって吸血鬼のお嬢様のように見えてきた。素朴な服装がむしろお淑やかさを現してしまうくらいに気品があるものね。


そんな子を奴隷に…………はっ!?

エイルが有名な吸血鬼お嬢様だったとしたら、それを名目上奴隷にしているオレはとんでもない罰当たりな奴になるんじゃ……?


「お嬢様? エイルってお嬢様?」


「いえ、単なる家持ちですが。それに前に言ったじゃないですか、私は元人間だと。元人間の吸血鬼のお嬢様なんて居ませんよ」


「……ふぅ、よかったぁ」


「私がお嬢様だと何か不都合でも?」


「ううん、別に」


不安も解消されたところで、さっそく建前聞き込み本音飲酒で酒場に行きますかー。


「それより早く聞き込みに行こっ?」


「……お酒、好きなんですね」


「なんのことやらー」


エイルの手を取って歩き出す。

後ろを見やればそこには小さな笑みがあった。






程良いテンポ感が欲しいですね

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