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オレは受け体質でした(前編)


思うに、作者の方がライトさん以上に奴隷というキャラを欲していたんだと思います。

はい、このままだとライトさんは男キャラとばかり話してしまうので。



ーアプソペリティ帝国領内

ー港町スレッチ 裏市場

視点 ライト



裏市場……名の通り表の通りにはない独特の雰囲気を醸し出す、とにかく良くない商売をしているエリア、知っている者はそう呼ぶのがここだ。

本来ならとっとと海を渡って海上で波に打たれてる遺跡へ向かわなければならないのだが、オレの我が儘でここへ来ている。


事の説明には昨日まで遡らなければならない。





★ ★ ★

《回想》





ー港町スレッチ 宿屋



帝都を朝に旅立ったオレ達3人がこの足二つのみでスレッチに着く頃には日も暮れ始めていた。

流石にルックスードもへとへとみたいで、今日はひとまず休んで落ち着く事にした。……いやよくやったよルックスードは。休みながらとはいえ、身体能力強化魔法を半日使っても枯渇しない保持魔力量は常人並ではないってダークSUNも褒めてた。


さて、今の今まで宿屋は部屋を分ける事なく兄妹? 仲良く一緒に使ってた訳だけど、3人一部屋で借りようとしたらルックスードが反対してきた。

曰く『女の子が男と一緒の部屋で寝たらダメ』とのこと。あんたヒロインか何かか? オレより女子力高いなおい。……なんて突っ込みを入れる訳はなかった。


これをダシに女の子を仲間に入れられるのでは? と謎の頭の回転の速さが働き『女の子加入作戦』を思いついた。

善は急げと作戦を実行。『1人は寂しいんです……』と寂しがりな妹の演技をすると、心打たれたのかルックスードも了承し、3人で一部屋借りて今に至る。


「今更だけど、ライトちゃんってお兄さんにべったりな様子なくない?」


いつも通り剣の手入れをしているダークSUNに目もくれないオレの様子にルックスードも流石に疑い始めたみたいだ。オレのさっきの台詞を『遠回しにお兄ちゃんと離れたくないと言っている』と受け取ったからだろう。


「……居るのと居ないのでは違います。そこに居るだけで安心できるんです」


「ライトちゃんって年の割にサッパリした子だと思ってたけど、思いっきり可愛いじゃないか」


我ながらナイスな切り返しだと思う。この流れなら話を切り出し易いぞ、超ツいてるっ♪


「でもルックが言った通り普通はマズいですよね……」


「ううん、僕が悪いんだ。ちょっと王族の感性で言っちゃったのかもしれない。ウチは男女交友にとことんうるさかったから。つい癖で女の子と同じ部屋で寝る事を拒否しちゃったんだ。はは、怒る人なんて今はいないのにね」


……うーん、流れが変わったぞ。目的に繋げ辛くなった。

ルックスードはここまで沢山のプラスなステータスを披露してきたけど……まさか順応性まで高いなんて。この都合人間っ! 優しすぎて泣きそう! 女泣かせ! ロリ泣かせ! 犯罪者!

やーい……やーい……このぉ……。やめよう、心の中で泣くって結構辛いよ。


まだ繋げられる筈だ。口を開いて嘘でも何でも辻褄を合わせるんだ。


「ルック、お願いがあります。聞いてくれますか?」


「なんだい?」


「奴隷が欲しいです。女の子の」


「……え?」 


ルックスードがポカンとなったところでオレはハッとした。

ストレートに言う馬鹿がいるか馬鹿野郎ぉー! オレ馬鹿ぁ~っ!


「えーと、理由は?」


「友達が欲しいからです」


「…………」


またストレートに言ってしまった。他に言いようあっただろうに……。


……しょ、しょうがないでしょ? オレは自分に自信がないんだからっ。奴隷の女の子なら友達になれそうだし、奴隷の女の子は主と仲良くせざるを得ないし、つまりはオレでも女の子と仲良くできるし!

何考えてるのかオレですら分からない理論だけど、要するに自分より弱い子としか仲良くできそうにないの!

情けない? 何か問題でも? オレはチキンオブチキンだぜっ。


「……なるほど、黒陽あってこのライトちゃんありか。なかなか変わってるね。よし、それじゃあ明日奴隷を買いに行こうか!」


「わぁ、ルックありがとう! ……あっ」


思わず崩れた話し方。オレは口を押さえた。


「これで僕との壁も少しは壊れたかな? ふふっ」


「そ、そう簡単には崩せませんからね。……でも、心の壁は突つけば突つくほど脆くなります。いつかは崩して欲しいなとオレも思ってます。決してルックを嫌ってる訳ではないですよ? むしろ、オレがルックを好きになるよう頑張って下さい。オレも頑張るので……」


「そ、そう言う発言は異性にすると誤解を招くからやめた方がいいよ」


言われてオレも気付いた。さっきのは口説いてる台詞だ……。


「あ、ち……違いますよっ? そういうつもりはないですから! ただ、仲良くなりたい……それだけです……」


「ライトちゃんってある意味恐ろしいかもね……。じっくり話してみて君の魅力が倍増しになったよ。いや、それ以上かも」


こいつも人の事言えないじゃないか。そんな言われると心に染みるよ……。嬉しくてちょっと泣きそうだ。





《回想終わり》

★ ★ ★




ー港町スレッチ 裏市場




というわけでルックスードの案内の下、裏市場なる所へやってきた訳だが……王子ともあろう者がなんで知ってて放置してるんすかね……。


「ライトちゃんなら理解してくれそうだから言うけど、良い暮らしをしている人と同じくらい良くない暮らしをしている人がいる。世の中はそうやって成り立ってるんだ。ことわりを乱す事は僕にはとても出来ないよ」


ルックスードは裏市場へ入る通りに行く前にフードを被っているからオレ達以外にこのフード男が王子だとは知らない。……世渡りも上手いのかなこの人。


「偉大な人は多忙ですからね。ルックはそれが嫌なんでしょう?」


「……痛いトコ突くねライトちゃん。その通り、面倒だから現状維持だけしてればそれでいい」


ホント、戦争してる国の王子とは思えない発言だな……。アッティラとモンテズマからガンジーが産まれるくらいおかしい。いかんゲーム脳が……ああゲームしたい。


「さぁ、ここが奴隷市場だ」


目の前に建つ小綺麗な小屋。他のゴチャゴチャした建物とはまた格の違った雰囲気を出している。そう、ちょっと綺麗で際だっているから逆に不気味だ。


「奴隷市場は地下にあるんだ。奴隷達は日の光を拝む事はできないものの、悪くは扱われていない筈だ。ここの奴隷市場は高級指向だからね。ただまぁ、買われた後の責任は取れない……そういう所さ」


「詳しいんですね」


「情報は命だからね」


なるほど……。色々深いですね……。



階段を降りて少しすると扉があった。

それを開けて中へ入ると、細身の男がお出迎えしてくれた。


「どうぞおいで下さいました。失礼ですが、お嬢さんには少し刺激が強いのでは?」


出会い頭に子供扱い……。まだ慣れないなぁ。


「気にしないで。客はそこの男2人じゃなくて、オレなんだから」


「……これは失礼致しました。また失礼な事を言いますが、ここの奴隷は最低でも7000ゴールドはする一級品ばかりです。お手持ちはいくらで?」


面倒なので純金貨(10万G)を見せてやった。細身の男はそれはもう驚いた顔をしていたので少し面白くなった。


「安心して、細かいのも持ってきてるから」


「失礼致しました。どうかお気を悪くしないで下さいませ」


「それよりも案内よろしくね」


「喜んで!」


うーむ……自画自賛するつもりはないけど、幼女が今のやりとりしてるの想像したらめっちゃカッコいいってなった。

実際格好良かったとも思う。オッサンがやったら殺されるだろうけどね。


ちなみに、10万Gというのは日本だと安い家なら建てれちゃう金額……だいたい千万くらいだ。7000Gは課金パラダイスコース……だいたい70万くらい。


よくよく考えて70万で人が売られるってヤバいよね。……まぁ瓶のキャップ500個で買い取られる世界よりかマシだけど。

いかんまたゲーム脳が……禁断症状か?


そうこう考えながら細身の男に着いて歩いていると、細身の男は檻の前で止まった。


「お嬢様に相応しい、この場ではお嬢様しか買えないようなとびきりの目玉商品がこちらに入っている奴隷でございます」


細身の男の態度が変わった事も気にせず鉄格子の中を覗く。


「こ、これは……!」


そこには薄着の美少女がいた。

無駄な肉など無い……強いていうならおっぱいが豊か。多きすぎないCとDの間くらい。オレの戦闘力を遙かに上回っている。是非裸を見たいが、意地悪な事に際どい薄着でしっかり隠されてる。ずるい!

そして美少女特有の美しさを兼ね備えた未完成なのに完璧な、幼さを残した綺麗な顔立ち。つり目に紅い瞳。

座っているから分からないけど予想される身長は150cmあるか無いか。少なくともオレより20cmは高い。その体には氷のような綺麗な髪を背中まで流している。


「おいくらですか?」


思わず敬語になってしまうくらいの圧倒的な購買欲促進剤。(実質)男3人パーティーに相応しいまさに紅一点。


「ご購入ですか? 3万Gになります」


……実は金髪でもっと背の高いお姉さんが良いんだけど、この子を逃すのもかなり惜しい。

優しいお姉さんに会いたければシェリルさんやジェシネスさんの所へ行けばいい。そう考えることにした。


それにしても3万Gか。だいたい300万円くらい……美少女1人300万円!?

安い、安すぎる! 文句なしで買いでしょ!?


オレが嬉々として金貨3枚を渡そうとした瞬間、手を掴まれた。


「ちょっと高すぎないかい? ライトちゃんもほら、そう簡単に大金を渡さない」


ルックスードだ。こいつ何言ってんだ? 破格も破格、超お買い得ですぜ!?

美少女がっ!

300万ッ!

安いよ!!


……いかんいかん、この世界の感性に慣れないと。いやでも普通に買いだと思うけどなぁ……いかん、他人に耳を貸さねば。


「値段には理由があって付けられます。この娘は実は吸血鬼なんですよ」


吸血鬼ってあの血をちゅーちゅー吸う奴? この世界にもいるんだ。


「吸血鬼の捕獲は困難でして、自然と値段が跳ね上がります。何より貴重なのです」


「理はあるみたいだね」


「ご理解ありがとうございます。お嬢様の方は何か質問はございますか?」


「……うーん、吸血鬼って事は血を吸うんだよね」


「左様にございます」


今時左様って……。


「食事はどうするの? ここに置いとくのにも血は飲ませたんだよね」


「吸血鬼と言えども血だけで生きている訳ではありません。人と同じく、パンでもスープでも肉でも食べます。しかし、長いこと血を飲んでいないと衰弱してしまいます。ここでは直接飲ませたりはせず係員から血を集めて器に入れて与えていました。混合した血だったのでこの娘的には酷い味だったでしょうけど」


「要は定期的に血を与えればいいの?」


「はい、人を襲わせようが殺した者の血を与えようが、それさえしていれば問題はありません。あぁただし、動物の血は吸血鬼のプライド的におすすめしません。ここでは少なくとも人の血を与えているので」


「だいたい分かった。じゃあはいこれ」


オレは細身の男に金貨3枚を渡した。

この人も結構客商売が上手いなぁ……多分。もっと色々な奴隷を見て回りたいところだったけど……まぁまぁよかろう。選べなくなるよりずっといい。


「ご購入ありがとうごさまいます。当店は服飾も取り扱っております、この娘の門出に見繕ってはいかがでしょうか? 奴隷をご購入なさった今なら特別にお安くしておきますよ」


ホント、上手いなぁ……。




少しして、クリーム色の長袖ワンピースの上に土気色のケープ、茶色のブーツに白いハイニーソという素朴ながらハイレベルな可愛さを出す格好でその子は鉄格子の外へ出てきた。

全体的に茶色いのがカントリー風というか、優しい感じでよろしい。奴隷の首輪も釣り合い取れてる……かな?


「オレ、ライトって言うんだ。これからよろしくね」


「死んで下さい」


「え……」


第一声、声は綺麗なのに内容が酷かった。

いくらなんでも、ここまであからさまに拒否反応を起こされた事はなかったよ……。ああ涙腺ヤバいかも……。


「お嬢様、申し訳ありません。この娘はもともと反抗的でして……これも吸血鬼のプライドの一端だと思われます」


「……あ、うん……そうだね」


「あなたお金持ちのお嬢様らしいですね。親の力をそのまま使って良い気分なんて、とても愚かな子供ですね」


ああ、刺さる……刺さるよぉ……。ガラスのハートに釘が打たれてるよぉ……。お金は神様から貰った力で得ましたぁ……ごめんなさいぃ……。


「オ、オレね……友達が欲しかったんだ……。友達になってくれる……?」


「あなたは主、私は奴隷。拒否したくてもあなたの命令なら仕方ありません。奴隷のお友達なんて、寂しい人ですね」


言うなよ馬鹿ぁ~っ……!!


「どうしたんですか? 泣きそうですよ? 何か嫌な事でもあったんですか? 私は今あなたの顔を見て幸せですけどね」


………………。


「うえぇぇえぇぇんお兄ちゃぁ~んっ!」


溜まらなくなったオレは後ろにいたダークSUNに泣きついた。

こんなのあんまりだよ、前世の傷口ごっそり抉られたよ。魂が泣き叫んでるよ……。


「……奴隷とはそういう者だ。見下されてる自分を棚に上げて他人を見下す、世の中を見下す、裕福な者を見下す。そういう生き物だ」


なんとなく分かる。ダークSUNは普通はそんな事言わない。オレを慰める為に気を使って言ってくれている。……それもあるけど、奴隷の子に皮肉としてぶつけてる。、


「……くっ」


「……お前も人の心を持っているんだな」


泣きべそを掻いてるオレにダークSUNはそう言った。


「……ひっく、人だもんっ……泣くよ……! 傷ついたら……泣くよ……う゛ぇぇぇん」


奴隷の子とオレ達の溝が深くなってしまったと思った細身の男は慌てて場をおさめに来た。


「も、申し訳御座いませんお嬢様! お前も何を考えているんだ! ご主人様だぞ!?」


「その男もあなたに媚びてるんじゃありません。あなたがお嬢様だから媚びてるんですよ、フフフ」


もー! ちょっとカチーンと来ちゃったぞ!


「バーカ! 金のねぇ奴に媚びる奴がいるかバーカ! 商人が獲物に媚びんのは当たり前だバーカ! バーカバーカバーーカ! 誰でも知ってる事をしたり顔で言っても馬鹿を晒すだけだぞバーカ! 大間抜け!」


泣き声混じりに逆ギレ。もうめちゃくちゃだった。


「……くぅ」


少女も痛いところを突かれたのか顔を赤らめ、唸って歯をギリギリ言わせていた。……優れた者が勝利する、それだけの事だ。

あ、あははっ……あーっはっはっはっはっはー!



とにもかくにも、オレ達の出会いは最悪だった。






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