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新たな旅立ち~王子を添えて~


昔のようにストックが完成したらそれまでのストックを投稿するスタイルでいっているのですが……

次話が自分でも驚く程に速く出来上がったので、一週間の壁を越えた更新となります。





ーアプソペリティ帝国

ー帝都門付近

視点 ライト



帝都の外壁の外、帝都のから出て帝国内の街道を少し歩いた所でオレ達は立ち止まった。

いよいよもってお別れの時がきたんだ。


そこにはオレとダークSUNとジェシネスさんの3人がいる。


「お見送りありがとうジェシネスさん、もう別れなきゃ……」


「そうね、これ以上は辛くなるものね……」


「大丈夫、またいつか会えますよ」


「……ふふ、そうねっ」


また会えるから、笑顔で別れたい。そう思ったからオレはそう言った。


そしてオレは笑顔でジェシネスさんと別れた。……ダークSUNは何も言わないし笑顔の「え」の字も見当たらない顔だったけど。




★ ★ ★




「ねぇダークSUN」


「……なんだ」


「兄妹設定便利だから今後も続けよっか」


「……好きにしろ」


「ありがとう、お兄ちゃん♪」


「…………」


ジェシネスさんと別れてからしばらく、オレとダークSUNはそんな事を話しながら静かな街道を歩いていると、後ろから声が近づいてきた。


「おーーーい!」


オレが後ろを向くと、そこには金髪の青年がこちらへ向かって走ってくるのが見えた。

……あ、あれ? 王子じゃね?


「……ふぅ、追いついた」


王子っぽい人は大して息も切らさずに、足を止めた俺達の前にやってきた。


「あ、あなた王子ですよね? 護衛もつけずにどうしたんですか?」


「よくぞ見抜いたライトちゃん。僕はアプソペリティ帝国の第一王子ダール・ワン=ディワロン! ではなく、今は無名の旅人ルックスード。ルックって呼んでね」


……突っ込みたい所が山ほどあるけど、とりあえずダール王子が仲間になりたそうにこちらを見ているのは分かった。


「ねぇどうするお兄ちゃん?」


「……お前の旅路だ。お前が決めろ」


なっ、そんな冷たいこと言わないでよ。仲間でしょ! 兄妹でしょ!

とはいえ、ダークSUNの言うとおりでもあるな。オレが決めなきゃ。


正直言うと、こういうノリで来られると駄目ですなんて言いにくいから最初から仲間にするつもりだ。

でも王子以外に素性が分からないかと仲間として迎えるのはちょっと嫌なので。……要するに知りたいんだ、目の前の人を。

ダークSUNはオレと同じく『神』と接点を持ってるのを目で見て知ってるので例外だ。本気で知りたくなっな時に色々聞けばいい。


「えーと、まずは質問に答えてもらいますがいいですか?」


「構わないよ」


意外とあっさりっ!


「……じゃあ、オレ達に着いていきたいのはマジですか?」


「うん、マジです」


フリでも何でもなく着いてくる気満々だったのか……。


「その理由は? 王子でありながら着いてくる理由は?」


「刺激を求めてるからさ。強い君達兄妹に着いていけば、僕自身強くなるし、なにより楽しそうだからね」


えぇー……。ダークSUNはともかく、オレは強い目的意識もなく適当に旅する予定なのに割と明確な意志を持たれてもなぁ……。そんな危険な所に飛び込むような冒険を想像されてるとちょっと困る。


「王子の役目はどうするんですか?」


「僕はアプソペリティ帝国の第一王子ダール・ワン=ディワロン。でも、第二王子ルックスード・ワン=ディワロンでもあるんだ」


……え? うん……え?

第一王子は第二王子? どういう事なの?


「この国には僕を除いた王子が4人いる。僕は第一王子と同じ母親から産まれた二番目の王子なんだ。でも、僕と兄さん……第一王子ダールの了承のもと、第二王子であるルックスードの存在は僕が七才の時に抹消された」


話が全く見えず、オレはポカーンとするばかりだった。

第一だの第二だの、第二を除いて4人王子がいるだの、会話の中で王子王子と連呼されて頭はパンパンだ……。


「僕と兄さんは双子。何もかもが瓜二つなんだ。ただ兄さんは変わり者でね、鍛錬が大好きすぎる人なんだ。外面の良い僕に名前を貸し与えて仕事させて過ごしてたら2人とも大目玉をくらってね。僕の存在を抹消して2人で1人の役割を分担すれば色々楽になるんじゃないかって父さんに提案したんだよ。父さんはあっさり了承して今に至るというわけさ」


……なんとも無茶苦茶な。

でもドロドロした理由よりは面白くていいかもね。平和で面倒が減ってぐうたらな思考で素晴らしい。

しかし本物のダール王子って良く言えば修行僧、悪く言えば引きこもり鍛錬バカとは随分と珍妙な王子だな……。


「あっ、でもそしたらお兄さんはどうなるんですか?」


分担してたのが元に戻るってだけだろうけど……怠けてるのに慣れてると戻すのも大変だろう。


「知らなーい」


「えぇー……」


責任者としてどうなのよソレ……。


「僕は元々居ない王子だし、関係ないし。兄さんも処世術を学ぶ良い機会だし。ヤバくなったら弟達に全部丸投げしてどっかへ逃げるだろうし。……そういう兄弟なんだよ、僕達は」


「はぁ……」


戦争しまくってる王族とは思えない適当っぷりだなぁ。そんで強いからタチが悪い。


「それに……虫が付かないように見張らないとだし……」


ダール王子……ルックスードは小声で何を言ってるのか聞き取れなかった。

それより、せっかくだから意地悪な質問しちゃおう。


「最後に、お兄ちゃんにあげた物を教えて下さい」


「いいよ」


あ、あっさりしとる……。

もっと悔しそうな苦そうな顔を見たかったのに凄く爽やかに返事された……。悔しい!


「これさ」


そう言ってルックスードが出したのは一冊の黄色の本だった。


「……こ、これは……まさか」


「ライトちゃんもこの本の特別性が分かるのかい?」


「ちょっとよく見せて貰えますか?」


「いいよ。というか、もうこの本は君のお兄さんの物だ」


そのまま手渡された本をオレはよく観察した。

人に力を与える本。要するにスキル書。いや、ハトルの言い方から察するに何かしらの腕前を上げるだけの便利本ではなく、読んだもしくは所有する者の力を著しく増幅させたり特殊な技を覚えさせるとかそんな感じのものだと思う。


いかずちと共に……」


『雷と共に』という題名。そして下には著者真心の文字。オレがよく知っている文字であって、少なくともこの世界の文字でない。間違いなく例の本だ。


「凄い! 読めるのかい?」


「は、はい……まぁ」


ルックスードにズイっと迫られ、後ずさりながらダークSUNの方を見やる。


「…………」


黙ってはいるものの、目線が本とオレを行き来してることから興味があるのは分かった。


「今度読み聞かせてくれないかな。もう黒陽の物だけど、仲間になるんだからいいよね。な、黒陽」


「……構わない」


「分かりました。ハイお兄ちゃん、その時にはお兄ちゃんにも読み聞かせてあげるね」


オレはそう言いながら黄色い本をダークSUNに手渡した。ダークSUNは何も言わず受け取った。……けど、どこかほんの少しだけ嬉しそうな顔をしてる気がした。


「ライトちゃん、僕はもう仲間って事でいいんだよね?」


「……? はい、オレは仲間だと思っていますよ」


「その……あれだ、じゃあなんで敬語なんだい?」


突然何を言い出すかと思ったらそういうことか。

自慢じゃないけどオレは例外を除いてフレンドリーな会話は苦手なんだ。年上や目上の人はもちろん、大人な雰囲気の人から知的な感じの人、年下でさえ年が近ければ敬語を使う。女性には敬語どころか心にベルリンの壁さえ築く。


要は人見知りなんだ。


「……癖、としか言えませんね。言ってる内容は悪口だったとしても、本当に慣れるまでは敬語を使ってしまうんです」


「なるほど、じゃあポロッとタメ口を言わせるよう僕から働きかけないといけないね」


「お、お手柔らかに」


この人見知りは我ながら結構なものだと思う。冒険者なのだから人と関わる事も多いだろうし、早いとこ克服しないと……。

せっかくルックスードがオレによく関わるよって宣言してくれたんだし、しっかり利用してコミュニケーション能力を高めておかないと損かもしれない。


「よろしくお願いします、ルック」


「うん、楽しい旅にしよう」


まだ堅いけど……要は慣れさ、多分。

そう言えば、一度戦った相手には敬語を使ってないなオレ。今度ルックスードと手合わせしようかな。


「……それでお兄ちゃん、次の目的地って何処?」


道なりに沿って歩いてきたけど、オレはまだ行き先を聞いてなかった。……場所だけ聞いたところでって気もするけど。

まぁダークSUNなら目的もちゃんと話してくれるだろう。


「……まずはアプソペリティ帝都の国境を北東側から抜ける」


この国はサウシアの東北東の位置にあるから、どんどんサウシアから離れていく感じになるのかな。


「アプソペリティの北東側を抜けるって……何を言ってるんだい? そっちにはスレッチって港町があるけど、その先は海だよ」


「……海に出るつもりだ。あの海域には魔界の門があるだけの海に晒された遺跡がある」


……なっ、なんですか!? 港町、海、遺跡……そして魔界の門!?

凄くファンタジーじゃないですかやったー!


「魔界の門……凄いね、いきなりそんな所へ行けるなんて。ライトちゃんもそう思わない?」


おお、ルックスードもワクワクしてるみたいだ。案外、オレと気が合うかもしれない。


「同感です。ルックとは早く打ち解けられそうですね」


オレがそう言うと、ルックスードは右手を差し出してきたので握り返してあげた。こういうスキンシップが友好度に繋がるとオレは信じてる。


「そういえば、スレッチに向かうなら馬車でも借りればよかったのに。何で借りなかったんだい?」


「……足で行った方が早いからだ」


ルックスードの質問で『確かに……』ってなったと思ったら、ダークSUNのその一言で『あぁ……』となった。言われてみればそうである。


ルックスードは頭にハテナを浮かべてる。


「オレは方向音痴だからお兄ちゃんに着いてくよ。ルックが驚くかもしれないから、ゆっくり加速してね。出来る?」


「……わかった、そうしよう」


言うが早いか、ダークSUNは常人並の速度で走り始めた。普通に幼女の足で追える速さではない。

ルックスードが『大丈夫かい?』とでも言いたそうな、不安そうな顔をこちらに向けてきたので、オレはダークSUNに追いつける速度で走ってやった。


「……本当に君達は凄いね」


すると、ルックスードも観念したのか遂に走り出した。


ダークSUNはオレとルックスードが後ろから着いてきてるのを確認すると、徐々に速さを上げていった。


「……ま、まだ上がるのかいっ?」


やがてには時速60Kmはありそうな速度に到達した。ルックスードが着いてきてるのに驚いたが、そろそろ最高速も限界のようだったのでダークSUNも加速をやめた。


ルックスードも十分人間業じゃないんだけど、これが全然本気じゃないというダークSUNはもはや人間卒業していると言える。

オレは……自分を棚にあげるマンなので話にあげません。めっちゃ速くても幼女です。幼女は許される存在なのです。今はそう言い聞かせる。


「お兄ちゃん、スレッチにはどれくらいで着きそう?」


「……ルックスードは魔法を使って身体能力を上げている。時折休憩を挟んでも1日掛かるかどうかと言ったところだろう」


「……ご、ごめんね」


オレが言えた話じゃないけど走りながら話すのはやめなさいルック。息が切れるよ。




……こうして、新たに仲間に加わったルックスード。金髪で青い目でイケメンで運動神経抜群で愛想がいい凄い奴。これで男三匹夢街道……

おかしいって! 何で男しかいないんだ!

……いやオレ幼女だけども! 違うんだ違うんだよ、そうじゃないんですよ。


目の保養……紅一点が欲しい。オレは心の底からそう思った。







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