まさかの組み手
3ヶ月!
この間作者は何をやっていたのだ! このエタ地獄を抜け出さなければっ……未来は無い……っ!
……と、大袈裟なようでそうでも無い事を言ってみたり。
ーアプソペリティ帝都圏内
ー帝都中心から離れた平原
視点 ライト
ジェシネスさんと魔法の見せ合いを約束した次の日。
オレとダークSUN は頂の刻(正午的な時間帯)に雑貨屋オリドでジェシネスさんと合流し、早速出掛けた。
今は帝都の壁の外へ出て平原を結構歩いたところだ。ちなみにここは帝都の北東辺り。昼間なので危険な魔物とは一切出くわすこともなく至って平和だ。
「……この辺りで良かったかしら」
ジェシネスさんは辺りを見回しながらそう言った。
オレも辺りを見回してみた。
まさに草原の中。来た道を見やれば遠くにうっすらと帝都が見える。
ここから東の方を見ると少し先に森があるのが分かった。
「私はいつもこの辺りで魔法の練習をしているのよ」
「確かにこんなに広々と何もないと安全ですね」
「そうねぇ。もっとも私は攻撃魔法専門じゃないから危ないってことはないんだけど……念の為ね。攻撃魔法ではないとはいえ、魔法を使える者はここにはあまりいないもの。おかしいって思われるのはちょっと世間的に……ね」
「一般人としての立ち振る舞いみたいな感じですかね」
「そうよ。人として世間に混じるには自分を隠すことも必要なの。……って、ライトちゃんよくそんな事分かるわねぇ」
し、しまった。子供らしくしないと!
『自分を隠す』……なるほど確かに重要ですね……。
「ダークS……お兄ちゃんが教えてくれたんです」
オレは着いてきていたダークSUNの側に寄ってそう言った。
「へぇ~、黒陽さんって妹を甘やかしたりしないでちゃんと教育しているのねぇ~♪」
甘やかすって……。ダークSUNがそんな事をする人には見えないなぁオレには。
「……俺は基本的に誰に対しても平等だ」
「この兄あっての年不相応な雰囲気のライトちゃんアリって感じね」
ジェシネスさんは感心したようにそう言った。
「そう言えば黒陽さんは今回ライトちゃんの保護者として来たの? それとも一緒に技の見せ合い?」
「……そうだな、そのつもりだったんだが、久しぶりにライトと手合わせしてみるのも悪くない」
ちょ、ちょっとダークSUN!?
「手合わせって……ダール王子とあんな凄い戦いを見せたあなたがライトちゃんと手合わせしたら危ないでしょ~」
「……そ、そうだよ! お兄ちゃん何バカな事言ってるのっ!」
ジェシネスさんの前で無様な格好はしたくないよ! それくらいのプライドはオレにだってあるよ!
「……王子の時とは違う」
「それもそうねぇ」
えーっ……。ちょっとぉ……洒落になってないよこれは……。
はぁ、仕方ないなぁ。
「お兄ちゃん、危ないからしっかり体を温めてからね」
「……あぁ」
「相手が小さな女の子と言ってもあの闘技場で凄い戦いを見せてくれた人の手合わせよ。……なんだか凄くテンションがあがるわぁ~♪」
ふぅ、ダークSUNには悪いけどちょっと気合い入れないと。というかダークSUNの事だから手合わせと言っても『ガチ練習』と同等とかそんなレベルだろうし文字通り手合わせの感覚でいたら即行でのされる。
「……すーはー……すーはー……ふぅっ。風圧に気をつけて下さいね。じゃあ見いていて下さいジェシネスさん。オレの技『残像』……!」
シュウウゥゥン……
時の流れが急激に遅くなったかのように思える程にオレ以外の何もかもの動きが遅く見えるようになった。
今回は周りにとっての1秒がオレにとっての10秒、そんな速度。
恐らく周りの人が肉眼でもオレの動きが辛うじて見える程度の速度。
多分これが残像という能力名として一番正しい速度だと思う。酸欠にもならないだろうしベストかな。
オレは脳裏にラジオ的な体操的な音楽を浮かべながら準備運動を始めた。大事ですよねストレッチ。
「うわわっ?」
ジャンプすると凄く跳んだ。そして落下はゆったり。
今更だけどこれって残像の影響でオレの1秒間に受ける重力が通常より少ないからなのかな? なんだか凄く楽しいな。
融通が利く事でお馴染みのこの残像の事だから重力どうこう無視して落下速度を速める事も出来そうだけど今はしない。
さてと……体感的には4分くらいは経ったかな? 換算すると24秒ってとこか。
シュウウゥゥン……
「……ふぅ、準備運動終わりました」
意外と風は起こってなかった。
「ラ、ライトちゃん……? 今……えっ? えっ?」
「……何かまだ秘めているとは思っていたが、やはりな」
やっぱりジェシネスさんは驚いているみたい。そりゃそうだよね。目の前で早送り見せられちゃ。
しかし便利だなぁ『残像』。
時間に追われる日本のリーマンや漫画家やアニメーターやクリエーターがこの技を使えたらどんなに良いことか。下手したら過労死するけど。
酸欠を起こすような欠陥をどうにかすれば寝る時間だって短縮できそうだ。これまた加減は必要だけど。
「さてと、後はお兄ちゃんの状況次第だけど」
「……俺ならば問題ない。早速始めよう」
流石はダークSUN。なんというかカッコいいねそういうの。凄く男らしい。
オレはダークSUNと向き合い、動きやすい体勢で備えた。
ダークSUNも刀を鞘から抜い……ええっ!?
「あ、あの……お兄ちゃん?」
「……何だ」
「何故そんな物騒な物を取り出してるんです?」
「お前にはこれでも足りないくらいだと思うのだが? 懐にしまっているその危険なナイフを置いたら俺も武器は使わない」
「ん? あぁ、チートナイ……ってそんな危ないの使わないよ! 手合わせじゃ済まなくなるもの!」
というかよく常備してるって分かったね……。いやまぁ世界観的に刃物の一つでも常備してるのが常識……なのかな? 割と物騒な所もあるらしいし。
と、取りあえずコレ(ナイフ)はジェシネスさんに預けとこう。
「ジェシネスさん。ちょっとコレ持っててくれませんか?」
「ええ。でも女の子にこんな物持たせるなんてライトちゃんの両親は余程過保護なのね」
「い、いやぁまぁ。結構いいかげんな親ですよ」
容赦なく殴ってくるしね。ってこれハトルのオッサンじゃないか。
「ジェシネスさん。そのナイフは恐ろしく切れ味が良いので決して鞘から抜いちゃ駄目ですよ。ブロンズナイフと侮って指に当てようものならあっさりストンと切り落とされますから」
「そうなの? ちょっと気になるけど止めておくわ」
再びダークSUNに向き直ると、ダークSUNの腰にあった刀と鞘はそこら辺に置かれていた。
「……いきなり肉弾戦は芸が無いだろう。最初は撃ち合いでどうだ」
「いいよ」
実は魔法の練習台が欲しかったんだ。
ダークSUNなら練習相手として全く問題ない。
オレは左手にアイススピアを、右手にファイアアローを込めた。
このファイアアロー。アイススピアと同じく炎弾魔法シリーズの下位互換技だ。
オレが生み出したこの下位互換魔法の特徴はいくつかある。
まずサイズ。これより上位の魔法みたいに大人用の靴のような大きさではなく『割り箸のような大きさ』というところだ。
そしてそれにより『消費魔力量が少な目』だ。これによる恩恵を受けた事はない。なんせ魔力切れなんて起こしたことないもの。
そしてこれは予測で、恐らく当たる特徴なのが『込めなくても撃てる』という点だ。
同じ特徴を持つ魔法に『火炎』『氷結』『雷撃』がある。これらは放出系の魔法で他の魔法のように『込める→撃つ』ではなく『撃つ(常時)』となっていて、要するに消火器やシャワーみたいな挙動をする。
そしてこの下位互換魔法の『アイススピア』『ファイアアロー』『サンダーバレット』はオレが頭の中で『右手は○○』『左手は××』とさえ念じていれば最初の一発以外は込めるなどのアクションは行わなくても撃ち続ける事が出来る……筈だ。例えるならばオート銃みたいに永続的に魔弾が発射し続けられる感じだ。
この前ダークSUNに着いていって魔物と対峙した時はいちいち止めて撃ってってやってたけど、オレの推測が正しければその必要は無かったということになる。
この下位互換魔法をわざわざ使って何ができるのかというと、それは弾幕を張れるという事だ。
今まではセミオートみたいなものだったけど、やっぱり時代は何時でもオートマチック。車だって工場だって何だって半自動が一番よ。なんといっても自動的ってのは男のロマンだからね。
そこにロマンがあるのなら、オレは突き進むよ。ただそれだけ。
ここまで言って推測が外れたら正直凹む。
「ふふっ、いくらお兄ちゃんでもこの量を抑える事はできないかもよ?」
オレは早速魔法を撃ちだした。
予測通り、オレの両手からは常に魔法が生成されては飛ばされていた。
小さな氷の塊は風を切り、燃えさかる球はボウッボウッと音を立ててダークSUNへ次々と迫った。
「…………なかなかやるな。だが……」
氷と炎の弾幕はダークSUNを襲った……かのように見えた筈なのに。
「……ま、マジですか」
ダークSUNは傷一つなく平然と立っていた。
「……お前の魔法の中では最弱とはいえそこそこの威力だ。一般的な攻撃魔法にも全く引けを取らず殺傷力も十二分にある。それを惜しみなく撒くという下手すれば相手の原型を留めさせない使い方をする。なかなかえげつない戦い方をするな」
ダークSUNは感心したかのようにそう言った。えげつないって……。
「あの魔法……大きさや速度は私が見たことのある攻撃魔法に近いけど……あんな間入れず連射できるなんて聞いたことがないわ。それに黒陽さんは全く動じてないし。じ、次元が違うというのはこの事なのね……」
「すみませんジェシネスさん。弱い魔法なんであんまり参考にならないかもしれませんが……」
俺は軽くジェシネスの方を向いてそう言って再びダークSUNの顔を視線で捉えた。
「この魔法の地味にウザいところ。お兄ちゃんはちゃんと見破ってるみたいだね。ふふふ、そのポーカーフェイス……なんとかして崩してみるとするよ」
俺はそういって右手のファイアアローをサンダーバレットに替えて再び撃ち始めた。
「…………っ」
飛び交うアイススピアとサンダーパレット。
案の定、ダークSUNはサンダーパレットに対しては特に慎重に大きく避けた。
「ふふ、どうお兄ちゃん」
「……その程度では俺に当てる事はできないな」
「だよね~」
うーん、まぁそうだよね。
オレは魔法をばら撒くように撃った。アイススピアとサンダーパレットはオレからダークSUNへ扇状に拡散しながら飛んだ。
「……ばら撒いても無駄だ。この程度の密度の弾幕では俺に当てる事は出来ないぞ」
ダークSUNはオレの魔法をいとも容易くかわしながらオレへ向けて10発程度の火の玉を撃ってきた。
オレは左手のアイススピアを止めて対魔法障壁魔法の『魔法の壁』を展開して備えた。
ボッドドドドド!
魔法の壁で次々に飛んでくる火の玉を防ぎながらもサンダーパレットは常に撃ち続けた。
「……避けずにその場で防ぐか。だがそれでは攻撃が疎かになるぞ」
「動いたら狙いつけ辛くなるからこれで良いのっ」
残念ながらオレはダークSUNのように避けながら撃つなんて離れ技は出来ない。いや、避けながら撃つ事はできてもその魔法は明後日の方向に飛んでいくだろう。
仕方ない。オレのエイム力は無きに等しいみたいなんだもの。
ダークSUNの言った通り疎かになった弾幕がダークSUNに当たる事は無く、逆に余裕のできたダークSUNの攻撃が激しくなってきた。
「……むぅ」
結構な頻度でくる火の玉に流石の魔法の壁も限界に近付いてきた。このままではまずい。
どちらかの魔力が尽きるまでの持続戦かと思ったので仕方なく両手で魔法の壁を展開した瞬間、ダークSUNのえげつない攻撃が始まった。
オレの両手が塞がり攻撃魔法を撃てない間にもダークSUN は攻撃を続け、少しずつ周囲に火の玉を貯め始めた。
これはもうトドメ用だとすぐに分かった。
魔法の盾シリーズの魔法は受けた魔法を少しだけ魔力に換えて術者に供給する能力があったりするから持続戦なら負けないと思ったのに……。
窮地からまた窮地だよ!
「……防戦一方だな。こんなあからさまな大技を見ても為す術無しか?」
「そ、そんな心配しなくてもどうにかしますやい!」
軽く煽られたので意地を張ってみたが現状はなかなかに厳しい。
…………そうだ!
ダークSUNがあの大量の火の玉を撃ってきた時の隙をついてみよう。
ほら、なんとなくだけど大技ってワンアクション要るというかそういう風潮あるじゃん?
きっと一瞬火の玉攻撃が止むだろうからその時を狙ってダークSUNの攻撃を相殺以上の事ができる攻撃魔法を撃ち込めばいいんだよ。
「……先に言っておく。このままではただじゃ済まないぞ。良くて黒こげ悪くて消し炭だ」
えっ!?
「あ、あのぉ黒陽さん? これは手合わせなのよね……? 随分と力入ってるように見えるんだけどぉ……」
ジェシネスさんがオレの言いたかった事をそのまま言ってくれた。
実際、目の前の光景はまさに死へのカウントダウンのようで、集まる火の玉が増える度に絶望感が増えてくる有り様だった。
正直生身の人間が受けられるようなものには見えない。
「……問題ない。この娘は俺が力を込めるのに相応しいだけの力を有している」
無茶苦茶な!
……ふふふ、でも大丈夫。作戦は既にあるのだよ。
「…………」
「……っ!?」
次の瞬間、オレの予想は思いっきり外れてダークSUNはワンアクションも無しに大量の火の玉を放った。
所狭しと敷き詰められた避ける隙間の無い文字通りの弾幕が凄いスピードでオレを襲った。
咄嗟に対魔法の魔法の砦を両手で展開したが、完全に展開しきる前に火の玉群はオレに到達し、不完全な魔法の砦は砕け散った。
広く、そして何層にもなっている火の玉群は無防備なオレを丸ごと包んだ。
オレは両腕で顔を覆う事しか出来なかった。
「ライトちゃんっ!!」
「い゛っ……!」
容赦の無い熱さがオレの全身を覆い、思わず声が漏れた。
熱い。熱い。熱い。
あまりにも辛い。それだけでオレの頭はパニック寸前にまでなった。
実際に片足片腕は火を振り払おうと暴れまわった。
「黒陽さん! ライトちゃんが死んじゃうわ!」
「…………。こんなはずでは……。やはりまだ若すぎたか……」
死への道を垣間見る時、人はなんか思考が高速になると聞く。
今のオレはまさにそれで、この状況を打破する方法を模索し、善は急げと実行に移した。
「『ざん゛……ぞう゛っ!!』」
オレの世界がゆっくりになっていく。同時に感じる熱さも小さくなっていった。
オレは即座に治療の息吹を使い体中を治療した。
「……全く酷い目に合った」
回復してもなかなか帰ってこない体の感覚に不満を感じながら腕をさすった。
練習なんだから残像なんてガチな力使いたくなかったんだけど……使わないと命が危なかったんだからそんな甘っ考えなんて続かない。
「どうお返ししてやろう……」
そう考えながらオレは回転し出し、徐々に『残像』によるオレの速度を元に戻し始めた。
元の速度に近付くにつれオレの周りで小さいけど強い竜巻が起こっているのに気付いた。そのせいか既に火の玉は無い。
どうやらオレの回転によって竜巻を起こす実験は成功しているようだった。
そしてオレは『残像』を解除しダークSUNの方を向いた。
「きっともう今までのようにはいかないよお兄ちゃん。今度はオレの番だ」
「……どうにかして避けると思っていたが全部受けて吹き飛ばすとは思ってなかったぞ。流石だ」
ダークSUNは少し笑っていた。やっぱりこの人はおかしい。
ジェシネスさんの方を見ると、何かよく分からないものでも見たかのようにポカンとしていた。
「……ふぅ」
どうやって苦しめてやろうか……。そんな方法などあるのだろうか……。
そんな事を考えていたら、左腕にはめていたライトリングから突然不思議な力を感じた。
「こ、これは……?」
分からないけど分かる。ライトリングのもう一つの使い方が……。
「『ガトリングモード発動』!」
オレがそう言うと、ライトリングの周りにビー玉くらいの大きさの白い玉が6つ程出現した。
玉はライトリングを中心とし、その周りを軌道上に沿るように廻っていた。
なんとなく分かる。こいつは魔法射出装置的な物だ。
魔法ってのは思い込み次第で体中のどんな場所からも射出できる。
俺の中での体での魔法の射出場所は両手という認識になっている為に俺の魔法は二つの掌から出る。逆に言えばそこからしか出ない。
掌から指先に認識を代える的な修行をすれば射出場所は一気に10箇所になったりするんだろうけど……まぁそれはさて置き手っ取り早く射出場所を増やしてくれるのがこのライトリングの周りの白い玉だ。
使い方は簡単。出したい魔法を浮かべながら左腕に魔力を送れば後は勝手にやってくれる。
「さあ! 今をもってお兄ちゃんは最強ではなくなった! 存分に苦しむといいぞ、ははははは!」
オレのその台詞にダークSUNが身構えた。
日頃の行いが行いのせいか流石のダークSUNもオレの力量を計りきれずにいるんだろう。いいね。
オレはライトリングをはめている左腕をダークSUNに向けて念じ始めた。手始めに射出する魔法はファイアボルト。
白い玉達は高速で回転しだし、めらめらと炎系の魔法を込めた時のようなオーラを放ち始めた。
「…………っ……なるほど。放出位置の増設、かなり強力な火力を持っている技のようだな。だがそんな力任せの技ではあっという間に弾切れになってしまうぞ」
「ふふん、心配御無用! 弾切れになる前に終わらせてあげる!」
発射待機状態を維持して話している間にこのモードの使い方も少し理解した。
弾切れに関しては大丈夫。ライトニングテンペストを5分間以上撃っても問題ない俺の魔力量ならファイアボルト程度の魔法なら連続千発撃ったって問題ない。
秒間12発撃てることになっているこのガトリング(と呼ぶには少し連射レートの低いこの)モードは取りあえず1分以上は撃ち続けられる。
ダークSUNがどんなに凄くても1分も弾幕に耐えられる訳がない。
……勝ったな。
「発射ぁ!」
ボボボボボボゥ!
轟音と共にファイアボルトが高速で射出され始めた。
凄まじい音を出しながらファイアボルトはダークSUNへ向かって一斉に襲い掛かった。
「…………(いくらライトの狙いが悪くても流石に避けきるのは厳しいな)」
「す、凄い……」
あのダークSUNが避けることしかできていないのを見る限り、まるで無造作に作られたかのような……いや普通に狙えていない弾幕でも数の暴力でなんとかなるみたい。
というか避けれてるってどうなってんすかねダークSUN。もはや人間技じゃないよそれ。……まぁオレも人のこと言えたもんじゃないけど。
「(この魔力、バラまいているとは思えない程に高威力だ。これだけ撃っておきながらまだ魔力が枯渇しないのか。一体どこにそれほどの魔力を溜め込んでいる……?)」
「な、なかなかやるね。じゃあこれはどうかな? エクスプローション!」
俺は魔法をファイアボルトから指定爆破型エクスプローションに切り替えた。
指定爆破型エクスプローションは炎系攻撃魔法のエクスプローションを改造したものだ。
本来は何かに接触したらその場で爆発する魔法なんだけど、この指定爆破型は一定距離を飛ぶと爆発するようになっている。
トリッキーな魔法だけど、間合いさえ合えば連射であっという間に標的は爆発四散って話なんですよ。
「オレをあんなに焼いてくれたんだ。木っ端微塵になってもらうからね」
どうせダークSUNのことだからバラバラにしたって死なないだろうし。たぶん。
「デストロイ!」
轟音を出しながら大量の火の玉が発射されるまではよかったんだけど次が酷かった。
「あがががが五月蝿い五月蝿い!」
そう、ダークSUNの辺りで次々と爆発が起こるものだから常に爆発音がしていた。
正直耳だけでなく頭もおかしくなりそう。
おまけに爆発でダークSUNがどこにいるかさっぱり分からないという酷い有様。こんな筈じゃなかったんだけど……。
「あーもう!」
標的が見えないのでは何にもならない。
オレは撃つのを辞めて周りに集中し始めた。
「……ッ!?」
何かの気配がすぐ後ろにきている気がして素早く身体を動かし構えると、ダークSUNが迫ってきていた。
容赦のないエルボーが飛んできたので両腕で受け止めた。
「……ぐっ!」
神様曰くオレの肉体は人と同程度で扱えないほどの強度だとか言ってたけど、そんなの嘘なんじゃと思わせるくらいに両腕に痛みが走った。
「……お前でも察知出来るほどにあからさまな力業を使わせるとはな。しかもその一撃を腕で受け止めて骨一つ折れた気配が無いとは驚いた」
「ぬかしよる! こちとら痛くてたまんないんですけど!」
言動行動はともかく見た目は幼気な女の子なんですよ!?
もっとこう……さぁ、レディファースト的なさぁ。
……というか骨を折る勢いで攻撃しないで下さい! オレを一体なんだと思ってるの!
「ん~! えいっ!」
なんとかダークSUNを押しのけ、後ろにジャンプして回復魔法を片腕ずつ当てた。
「あ、あのさぁお兄ちゃん」
「何だ」
「肉弾戦やめない? 凄く痛い」
「それはこちらも同じだ」
「だったらさ……、……っ!!」
ダークSUNの跳び蹴りがきたので地面を蹴って大きく跳んで回避した。
何も言わず跳び蹴りをかました辺り肉弾戦をしない方向にはならないようだ。
それにしても……うん、人の跳躍力じゃないねこれ。 3mは跳んだかも。
「(しっかりしてるけどちょっと大人しくて気弱なライトちゃんがあんな凄いなんて……)」
ダークSUNは再び跳び蹴りをかましてきた。
「……っふ、そんな攻撃通じないよ! …………っ!!」
オレがまた跳んでかわすと、ダークSUNはすぐさまオレの着地地点を予測して先回りしてきた。
オレは目を瞑り身構えることしかできなかった。
「……………………」
……………………。
……あれ? 何も起きない。
目を開けて辺りを見回すと、オレはダークSUNに抱えられていることに気づいた
「な、何のつもり?」
お姫様抱っこされているわけだけど、このままプロレス技的なのを決められたらたまったもんじゃない。
オレは慌ててもがいた。
「…………」
するとダークSUNは普通に降ろしてきた。
「…………? どうして……?」
「……あのまま避けるなりカウンターなりしてこようものなら恐らく攻撃していただろう。だがそれらを放棄し身を守ろうとする者に一撃を与えるつもりは俺には無い。それだけのことだ」
「つまり慈悲と……」
「言ってしまえばその通りだ」
ま、まさかダークSUNに慈悲の心があったなんて……。こりゃ認識を改めるべきかな……。
「……手合わせは終わりにしよう。久々に力を出せて楽しかった。ありがとう」
「う、うん」
どことなくダークSUNの口調が丸くなっている気がした。
ダークSUN程の強い人を楽しませるくらいにはオレにもできる事が分かって少し嬉しくなった。
「ライトちゃーん」
ジェシネスさんの声の方を振り向いた。ジェシネスさんは走ってこっちにきていた。
「ジェシネスさん、巻き込まれたりしてませんでしたか?」
「え、えぇ……私は大丈夫よ。それよりライトちゃんこそ大丈夫? あんな凄い魔法に焼かれたり凄く速い蹴りを腕で受けたり……」
「あ、いや……まぁあれは死ぬかと思いましたけど、なんとかしました」
実際死ぬかと思った。
昔からそうなんだけど、人生思わぬ方向に転がるように出来てるよね。
「今更だけど……2人とも本当に人間?」
「……俺は自分が人間であるとは言ってはいない。だが人間でないとも言ってはいない」
「どっちなのさ……。まぁ要するにでどうとでも思えということなのかな」
「なるほど! 妹であるライトちゃん次第ね」
……うーん、オレはダークSUNの妹じゃないんだけど……まぁそういう設定だし適当に濁すか。
「オレは多分人間ですよ。種族なんてのは、見た目さえほぼ同じならそう言い切れるんです。誰も疑いなんかしませんよ」
「……核心を突いてるな」
「えへへ~、どうもどうも」
今日はよくお褒めの言葉を頂く。
デレ期なのかな?
というかオレの言い方がまるで人間じゃないみたいな感じだけど、多分オレは人間だからね!
……って自分に言い聞かせてないと人間じゃなくなりそうで怖いな。
既に人間技ではない事をしてるけど気にしない! 言い訳するには穴だらけだけども都合の悪い事は全力で知らんふりしよう!
「世の中って広いのね……。見た目は人間そのものなのに、力は人間離れしているなんてことがあるだなんて……」
「……上には上がいる。この程度では世界を見たとは言えないな」
「そんな恐ろしいこと言わないでよ。お兄ちゃんより強い人が敵として現れちゃったりしたらオシマイじゃん」
インフレは嫌いです。安定を所望します。
気が付いたら魔王を超えて神を超えて魔王の生まれ変わりを超えてインベーダーを超えて宇宙最強を超えてなんてパターンはオレは嫌です。
命がいくつあったって足りゃしない人生はフィクションでやってて下さい。これは現実。リアルなんです。死んでもまた生き返ればいいさなんて言えないんです。
とはいえダークSUNが冗談を言うキャラとも思えないし……。
あーあ、嫌だなぁ。この遠からずそんな凄い人と関わってロクなことが起きないのが臭ってくる感じ。
「……死にたくなければ腕を上げるんだな。下手に強い力を持ってると面倒な事に巻き込まれるという事を記憶に刻んでおくといい」
「世界は思っていたよりずっとずっと更にずっと嫌になるほど広いって事か……」
「……そういうことだ」
あんま記憶に無いけどハトルのおっちゃんは確か生き抜けるだけの力をくれた筈なんだよね。
……そんなに世界は凄いらしいのにダークSUNに負けてちゃ生き抜けるなんて無理じゃね?
「ねぇお兄ちゃん」
「……なんだ」
「オレも鍛えればお兄ちゃんみたいになれるかな」
「……お前の場合は鍛えるよりは実戦を重ねて経験を積んだ方が良いかもしれないな。お前の持っている技はまさに未知数の力を秘めている。毎回新たな戦いを見せている気がする」
言われてみれば確かに。
みんなお試しで色々使っただけだからだいたい毎回違う技を出してるかも。
「様々なシチュエーションを体験してどの場合にどの技が有効かを定める。多様な技を持つ者だけの特権だ。苦手なタイプの敵が減る故に弱点も減らせる。一つを極めるしかない者とは違って恵まれてはいるが、まず頭の回転が速くないと使い物にならないし器用貧乏に陥り易いのが難点だな」
うーん、なんかゲームっぽい話。
もしかしてゲームの知識って結構現実に基づいていたりしたのかも?
「実戦できる良いところってないかなぁ」
「……この国にはちょうど闘技場があっただろう。あそこでは闘技大会が行われる。お前には簡単かもしれないしそうでない可能性もある。少なくとも行って損は無い」
「見た目的にライトちゃんに闘技大会の参加を勧めるのはよくないかもしれないけれど、私もライトちゃんの活躍はちょっとみたいかも」
「闘技大会かぁ。でも手加減したとは言えお兄ちゃんを負かしたあの王子みたいなのがいっぱいいるんでしょ? ちょっと怖い」
この前のを見た限りじゃお互いオレの知ってる人間技ではなかったな。オレが言えた身ではないけどありゃ化け物だった。
「お前の見た目なら降参しても非難は浴びない。危なくなったら迷わず白旗を揚げればいい」
危なくなればって発言が既に世紀末闘技大会臭を漂わせてるけど、なんだか面白そうな感じがしてきたかも。
「よーし! 参加してみるか!」
「素早く強く物理も魔法もずば抜けてる黒陽さん。戦闘経験はまだまだだけどその力量は計り知れないライトちゃん。とんでもない冒険者が来たものねぇ(今のウチにサインでも貰っておこうかしら……)」
「……この国の住民は闘いを観るのが好きなようだ。ライト、お前の技の数なら観客も満足するだろう」
ちょっぴり微笑みながらダークSUNはそう言った。
戦いの事になると機嫌が良くなるなんて、なんだか危ない人みたいだねダークSUNって。
「闘技大会のノリとはなんか違う感じだね」
「……ここでの闘技大会は『鍛えた己の身体や技術を披露したい』という思いを優先する風潮がここにはあるようだ」
「暴力的なイベントなのに文化的だなぁ」
「……評価すべき点だな」
……さて、大会の事は置いてそろそろ今日の本題に入るか。
「ジェシネスさん」
「うん? どうしたのライトちゃん?」
「ちょっと遅くなってごめんなさい。魔法の見せ合いしましょう!」
そう、約束してた魔法の見せ合い兼教え合いだ。