お出かけの約束
既に出来ていたのをすっかり忘れてました。
こっちは完成してても出し惜しみして貯め込んじゃうんですよね……。
一応失踪していないという証拠にと……
ー商業地区
ー雑貨屋オリド
視点 ライト
「ねぇジェシネスさん」
「なーにライトちゃん」
客が来るまでの休憩中の間、オレはジェシネスさんに魔法について少し聞くことにした。
ちょっと引っ掛かるところがあったから。
「ジェシネスさんってどんな魔法を使えるの?」
「…………」
「……あ、ごめんなさい。オレ、無神経でした……」
「ああいや、違うのよっ? こちらこそごめんなさい。ちょっとだけライトちゃんの事を密告者か何かなんじゃないかと疑っちゃった」
「密告者?」
なにそれかっこいい!
……いや、でもこの場合はジェシネスさんからしたら悪い奴みたいな扱いになるのかな。
「私もとんだ臆病者だわ……。ライトちゃんみたいな小さくて可愛い子が密告者な訳ないのにねぇ」
ジェシネスさん……それ、あかん考えですよ……。臆病者と言う割にはとんだ甘ちゃんってヤツだねこれは。
でもまぁ、普段おっとりしながらもテキパキしてるデキるお姉さんって感じのジェシネスさんの意外な一面が知れてちょっとラッキーかも。
「ああそうそう、魔法の事なんだけどね。多分ライトちゃんの喜ぶようなのは覚えていないと思うわよ」
「いえ大丈夫です、是非教えて下さい」
「そう? えーと……まずはテレポートの魔法。これは知っているわよね。後は冷たい系の魔法とか熱い系の魔法とか風を出す魔法とか。他には物を軽くする魔法があったかな……」
物を軽くする魔法はともかく、風かぁ~。そういや風系の魔法はオレも持ってなかったなぁ。
風自体なら『残像』を使って手で扇げばあっという間に突風が出来るんだけど、ちょっと興味あるかも。
「へぇ~、やっぱり攻撃に使えそうな魔法を持ってるんですね。流石はエルフです」
「人から種族の事で良く言われるなんてなんだか変な感じねぇ。そういえばライトちゃんはどうしてこんな事を聞いてきたの?」
そう、大事な事はここから。
サウシアで知ったオレの魔法と他の人の魔法の違い。
まずは人間の魔法。
人間が体にため込める魔力の量はあまり多くない。ので、人間の使う魔法は使用する魔力量を抑える為に自然にちょっとした切っ掛けを与えるだけのものという変わったものだ。
それでもサウシアで見た限りじゃ戦闘にも活用できるので決して弱い訳ではない。
あと、オレの使う魔法。それは体に宿る魔力を直接力に変えてそれを放つというもの。環境に左右されず安定して効果的な結果をもたらすが、その分アホみたいに魔力を要する。正直人には扱えない。
そしてエルフを含む人ならざる者の魔法。オレの予測では魔族側の種族の魔法は人間の魔法とはまた違うものだと思うんだ。恐らく。
こんなこと知って何に活かすんだと聞かれると……正直なんにも思い浮かばない。というか考えてない。
でもほら、知識が多けりゃその分優越感に浸れるじゃん? しょうもないけどさ。そういうのって割と大事だと思うんだ。
「魔法の研究……? みたいな感じです」
「魔法の研究かぁ。こんな小さいのに博識だったりなんか凄い魔法使えたりするんだもの、納得だわぁ。私の情報が役立つと良いけど……」
「きっと役に立つハズです。ジェシネスさんも何か使いたい魔法があったら言ってくださいね。近い魔法があったら教えたいので」
「それは嬉しいわね。ちょっと考えておこうかなぁ」
「はい♪」
俺はジェシネスさんに注いで貰った紅茶を飲んで息をついた。
「あ、そう言えば今更なんだけど、ライトちゃんのお兄さん……黒陽さんだったかな? ダール王子と試合してなかった?」
ハッと思い出したかのようにジェシネスさんはそんなことを言った。
「黒陽……あっ、ダークSUN のことですね。確かにこの前戦ってましたよ」
「やっぱり! ダール王子とあそこまでやり合うなんて驚いたわぁ!」
「ジェシネスさんも闘技場にいたんですか!?」
「ええ、言うの忘れていたんだけどね。だからライトちゃんが謝る必要なんてなかったのよ。ごめんなさいね」
衝撃の事実! 知らなかったよそんなの……。
でもちょっとだけ気が楽になったかな?
「ふふ、途中で試合見に行っちゃう程お兄さんが好きなのね~♪ 今時珍しいしっかり者かと思ってたけど子供らしいところもちゃんとあるみたいで私ちょっと安心したわ」
こ、子供らしい…………。
「その旨は本当に申し訳ありませんでした……」
「だからいいってばぁ。にしても本当に凄かったなぁ。ライトちゃんのお兄さんと思えば納得の強さだったわぁ」
お兄さんお兄さんと……。うーんムズ痒い。
……お兄さんかぁ。一人っ子だったオレにとっては無縁のものだったからなぁ……。ふふっ、ちょっと良いかも。
「ダークSUN は……結構自慢の兄ですよ。なんせオレより強いんですから」
「ふふ、あんな動き出来る人なんだものライトちゃん兄妹って凄いわねぇ」
やっぱり褒められるのは気分が良いものなんだな……。
そんな事を思っていたら、ふと気になることが出てきた。
「そういえばジェシネスさん、テレポートってどうやってやるんですか?」
そう、テレポートだ。オレの覚えている魔法にそんなのは無い。
もしオレも使えるなら使ってみたくなったんだ。
「あら、てっきりライトちゃんなら使えるのかと思ってたんだけど」
「いやぁ、覚える機会がなくて……」
「それは惜しい事態ねぇ。ライトちゃんの持ってる凄そうな魔法と合わせれば恐ろしい力になるのでしょうに」
「……えっ? 確かに言われてみれば……」
「ふふっライトちゃんなら悪用なんてしないだろうし、今度暇な時に教えちゃおうかな」
「ホントですか!?」
「ホントよ」
「~~~♪」
久々に凄く感情が溢れて思わず笑みをこぼした
「それじゃあちょっとした感謝の印にオレのミニテレポート的な技を披露しますね」
「ミニテレポート?」
ただの自己満というか自慢というか、気をよくしたオレはちょっと調子に乗っているのかもしれない。
「…………ふぅ、では……」
ブウウウウン……
オレは残像を使い、まずは速度の調整をした。
限りなく0に近い時の流れにし、他の地点に移動しようとしたところであることに気付き残像を解いた。
音から何からが元の通りに感じられるようになり戻ったことを確認した。
「……すみません、やっぱりここじゃ出来ません……」
「あら、大丈夫? 何かあったの?」
本当は残像を使って別の地点に移動した後で残像を解除し『そこにいたのにいなかった!』をしたかったんだけど……
「風圧が凄すぎて店が滅茶苦茶になっちゃうかもしれなかったので……」
いやぁ危ない危ない。調子に乗ったまま続けてたら最悪店が吹き飛ばされてたよ。
周りの速度が限りなく0に近い状態でオレが動き回ろうものなら飛行機が飛び去った後よりずっと凄い風が起こるもの。多分。
オレの能力は今まで融通の利くものばかりだったから大丈夫かもしれないけれど、そうでなかったら大変だもんね。
「そうなの。ちょっと残念ねぇ」
「すみません」
「いいのいいの。気にしちゃダメよ。……うーん……そうだわ! 街の外れに私の魔法練習ポイントがあるんだけど、今度そこで見せてもらえないかしら。私の魔法も見せたいし」
「……え? も、もちろんです! 是非お願いします!」
落ち込むオレにジェシネスさんはありがたい提案をしてくれた。
「それじゃあ時間は……明日でいい? 明日の正の刻」
「はいっ!」
「決まりね♪」
★ ★ ★
ー宿屋
「とまぁこんな感じで明日お互いに魔法とかを見せ合うことになったんだぁ~♪」
「……そうか」
オレは宿屋に戻った後、ダークSUNと話をしていた。
相変わらずダークSUN の返答はあっさりしているが、この人は元々こんな感じな気がするから気にしない。
「新しい魔法を覚えられるかもしれないと思うと凄くワクワクするよね」
「……ほう、お前がまだ習得していない魔法か」
「おお? ダークSUN も少し興味があったり?」
「……ああ」
珍しい。食いついてきたぞ。
「それじゃあ着いてくる?」
「……そうしても構わないのならそうしよう」
そういう訳でダークSUN も明日着いてくる事になった。
日が昇ってる時にダークSUN と行動するのは何気に久しぶりな気がする。