暗い仕事のお手伝い
はやくガッツリファンタジーを書きたい!
でもまずは響さんの日常を終わらせないといけない!
響さんの日常はフラグ不足で最終章へ入れない!
ジレンマは終わらない!
ーアプソペリティ帝都内
ーギルドエリア付近
視点 ライト
ギルドエリア。
冒険者ギルドのアロットギルドを始め、様々なギルドの支部が並ぶそこは国や街の中でも1、2を争うくらいに人の行き来が激しい区画。
そんな区画は大きな国でなくとも国や街にだいたい二カ所はある。そう、外側と内側に1つずつは。
そして今、ダークSUN とオレは外側のギルドエリアに来ている。もちろん隠れながら。……まぁオレは隠れるもなにも透明なんだけどね。
しかしまぁ夜に外に出るってのはいいね。なんかこうワクワクするよ。
照明魔法みたいなのが街灯代わりになっててなんかオシャレ。
「……姿が見えないが……本当に着いてきているのか?」
ダークSUN が呟くようにそう言った。
オレはダークSUN の左手を握ることで証明した。
「……隠密の腕前は俺より遥かに上のようだな」
「ねぇダークSUN 、まさかとは思うけど……こんな人の多いところで?」
現在は夜。
しかしこの外側のギルドエリアはまだ人がいたりする。
仕事柄朝と昼が逆転している人もいれば夜に生きる方々もいるから不思議ではないらしい。
「……ターゲットが少ないのなら何時何処でやっても同じだ。だが今回はターゲットの後を追ってもう一つのターゲットを見つけ排除するのが目的だ」
「それで?」
「……このエリアでは夜であろうと誰が壁の外へ出てもなんとも思われない。ターゲットは誰にも怪しまれずに帝都の外へ出るためにこのエリアにいる」
「なるほど、ターゲットと思われる者が門を通ったらこっそり着いていくんだね」
「……そう言う事だ」
でもこの帝都の外ってすんごく広い草原じゃなかった?
ターゲットを追ってもう一つのターゲットを見つけるってことはターゲット達は待ち合わせをしていることになるんだろうけど。ヤバいブツの取引とかなら帝都内でも出来るだろうになんでわざわざ外に出るんだろ……。
「……行くぞ」
「えっ?」
ダークSUN は突然飛び上がりどこかのギルドの屋根の上に乗った。
オレは残像を活用してダークSUNのように飛び上がり屋根の上に乗った。
「……俺達が下手に門を通ると感づかれるかもしれない。このまま屋根を伝って壁を飛び越すぞ」
壁を飛び越す? あんな十何mもあるアレを?
……というかオレは透明だから門なんて番兵さんに出くわさずに通れるんじゃ……まぁ着いてくけど。
「わ、わかった」
そして門へ向けて屋根から屋根へと飛び移っていると変な事に気づいた。
「…………?」
そう、夜といっても街灯っぽいのがあるのだから屋根にも多少の光が届く。つまりダークSUN も脚くらいは光が当たってもいい筈……なんだけど。
なんと、ダークSUN の体には一切光が当たってなかった。
さっきダークSUN はオレの隠密スキルの高さを評価してたけど、ダークSUN もかなりの隠密能力を持ってるじゃない。
……そして、帝都の外側に着いたのか目の前に大きな壁が立ちはだかった。
「……こ、こんなの登れるの……?
」
「……来れないのなら無理せず帰れ」
言うが早いかなんとダークSUN は壁を掛け登り始めた。こんなの人間技じゃねぇっ!
……とここでオレはライトリングをはめている左腕を天へ掲げた。
「『吸い寄せられモード起動』」
するとオレの身体は宙へ浮きそのままダークSUN を追い越した。
この吸い寄せられモードはライトリングを向けた方向に吸い寄せられられるという謎のモードだ。そしてリングを天へ向けるとあら不思議、宙に浮けるのだ。
ちなみに宙に浮いている間は完全に重力を無視するので平行飛行も楽々できるとか。
今は透明だから良いけれど、透明じゃない場合は端からみたら普通に空を飛んでいるようなものなのでダークSUN よりよっぽど人間技じゃないように見える。
そんなこんなでダークSUN より先に壁の外へ降りたオレは透明化を解いて待機した。
ほどなくしてダークSUN がやってきた。
「……いつ追い越した」
「壁のところ」
「…………」
少し動揺したように見えるダークSUN をよそにオレは再度透明化の魔法を掛けた。
ふふーん、そのよく見ないとわからないくらいの小さな動揺が見たかったのだよ~。
「……お前だけは敵に回したくなくなった」
よい心掛けじゃ。
……と言いたいところだけど、多分戦闘時じゃ緊張してあんまり頭回らないからこざかしいマネなんて出来なくてダークSUN には勝てないと思う。
「……ターゲットは既にここを通った。追うぞ」
「了解」
ダークSUN は音も立てずに物凄いスピードで走り始めた。
オレは残像を使ってダークSUN と等速で走った。
オレの方がずっと小さいとはいえ、残像を使わないと着いていけないなんて……。流石ダークSUN というか……。
砂漠のようにずっと続く草原。
その夜の草原でちらほらと見える我が物顔で動き回る強そうな猛獣。
そして二本脚のごっつい怪物が数十体が……ん? 人がいる……。
「あぶっ」
ダークSUN が突然止まったのでぶつかってしまった。
「突然止まんないでよぉ……」
「…………あれだ」
ダークSUN はより一層声を小さくして怪物達の方を指さした。
その先には怪物達の他に男女2人組がいた。何か話しているようだ。
「あ、あの人達は……?」
「……ターゲットだ」
自分から頼んでついて来ておいて今更何かが押し寄せてきた。
それがなんなのかは生唾の飲み込んだ事で判明した。
……そう、俺は怯えているんだ。ヘマしない限り生きていける程のこの力を持ちながら。
何に怯えているのかというと……まぁ、うん……。
「……さっさとすませて帰る。お前はそこにいろ」
「……ちょっと待って」
オレは彼らへ仕事をしにいこうとしたダークSUN の服の袖を引っ張り止めた。
「……なんだ」
「オレにも手伝えることはないかな……?」
「……そうだな。俺があの2人を始末するからお前にはあのパートゥパームを頼む」
「パートゥ……なんだって?」
「……あの怪物のことだ。アレは知能は大して無くアレを操る心得のあるものなら難なく従わせられる。それと、かなりの力を持っていて冒険者ルーキーには厳しい相手だ。だがお前なら問題ないだろう」
数と威圧的にはそのパートゥなんとかって怪物の群の方が圧倒的に上。あの2人組を倒す方がずーっと楽。
でも今のオレにはそれは出来ない。ダークSUN は気を遣ってくれたんだ。
「……お前はこちらを気にせずあの怪物の相手をしてこい。断末魔が聞こえてもこちらを見るな。いいな」
「……ありがとう、ダークSUN 」
「……行くぞ」
ダークSUN が駆け出し、オレも後に続いた。
2人組は突然現れたオレ達を見てギョッとしていた。
オレは2人を追い越し怪物のところまで来た。
「……グルルルル。……チイサイオンナ……ウマソウダ……」
こ、こいつ話せるのかっ……?
「……ゴチソウ……ゴチソウ……グルルルル……!」
「「グルルルル……!」」
他のは唸ってるだけで喋らない。この喋ってるのはリーダーなのかな?
少なくとも平和的なコミュニケーションはとれなさそうだ。
よし、いつもは半分全力で戦っちゃうから今回は軽めの力にして戦闘における立ち回りを学んでおこう。
そんでもって今回活躍してもらうのは破壊魔法の氷系『コールドスピア』だ。
こいつはオレがアイススパイクをナメプ兼戦闘学習用に改良したもので、スピアというよりは超冷たい割り箸を飛ばすような感じの魔法だ。
割り箸といっても発射速度は秒速20mはあるので当たると洒落にならない。それに超冷たいので相手の動きをみるみる遅くさせる。
要するにチクチク刺す嫌がらせ魔法だ。
とりあえずオレは両腕にコールドスピアを込めた。
両手の掌からは涼しげな見た目のオーラが纏い、いつでも発射OKとなった。
「グルルァ!」
怪物の一体が飛びかかってきた。
オレは瞬時に反応し、両手のコールドスピアを飛ばしてやった。
「ゴグォッ!?」
見事に命中して怪物はよろめいた。
オレは隙を逃さず次々とコールドスピアを生成しては投げ生成しては投げた。この間実に3秒のことであった。
「……グ……ゴォ……」
怪物の一体は体温が急激に下がった為か殆ど動けなくなっていた。
「「……グ……グルルルル!」」
どうやら怪物達を怒らせてしまったらしい。怪物達はオレを取り囲んだ。
「……ふぅ、さてどうしよう」
手を抜くと決めた。残像は使わない。
ならばどうする? 正直わからない。
……よし!
オレは怪物達の足下に火の玉を撃った。いわゆる牽制だ。
牽制が効いたのか怪物達は前へ出てこなかった。
火の玉の当たったところの草は消えてなくなり、真っ黒焦げの地面が見えた。
「くらえっ!」
怯む怪物にコールドスピアをペチペチぶつけまくってやった。
あまりにもの冷たさに唸り声を上げる事なく怪物達は倒れていった。
「……やった?」
倒した。倒したんだけれども、それは倒しただけだ。
相手は魔物とか怪物とかそんな感じの生き物。きっとまだ死んではいない。
トドメをささないと……。
「瀕死の生き物を葬るなんて……」
鈍く動く怪物の前で葬る為の意味深な動きをする。ライトニングテンペストの準備だ。
せめて一撃で、砂となってその身を晒し続けないように……。
「ご、ごめんよ……」
何を謝ってるんだろう。
両手から凄まじい電撃を放ちながらオレは怪物に向かって謝っていた。
国民性というか、性格というか、元いた平和な世界で更に殺しとは無縁な生活をしてきた為に養われたとことん平和ボケな思考。
この世界をよく知っているわけではないが、この世界でこの思考は身を滅ぼす要因となるかもしれない。
それでも今のところはこの思考は捨てきれないだろう。とんだ甘ちゃんだ。
「…………ふぅ」
処理を終え、ダークSUN を探そうとすると既に後ろにいた。
「……済ませたか?」
「うん。さっきの人たt……帰る?」
「……ああ」
あの男女がどこにもいないのが不思議だったから聞こうとしたけど辞めた。
殺したなら死体があるはずなんて理論が通じないのはオレの仕留めた怪物の果てを見ればわかることだもの。
きっとあまり考えたくないことが起きたんだろう。
★ ★ ★
ー広間
宿屋へ戻り、なんとなく外へ出たオレはこの帝都で一番だだっ広く整備されてる綺麗な場所へ来ていた。
そして何をする訳でもなくベンチに座ってただボーッと夜空を見上げていた。
こっちの世界に来る前、意味もなく宛もなく金が尽きるまで日本中をグルグルだらだら巡ってた時もこうして夜空を見上げてたな。それしか夜の楽しみが無かったってのもあるけど。
別に星に詳しい訳じゃない。でも、全く詳しくなくても夜空には吸い寄せられるものがあった。
それは今も変わらなくて、見た目は随分違えど綺麗な夜空はオレを相変わらず惹き込んだ。
「……こんな所にいたのか」
「…………っ」
突然の人の気に身震いして振り向くと、そこにはダークSUN がいた。
言葉が浮かばずに黙っているとダークSUN はオレの隣に腰掛けた。
こうして横から見るとやっぱりダークSUN って大きい。
こういう時、オレはちっちゃな女の子になった事を認識させられる。
「……今回は助かった。感謝する」
「ううん、オレが無理に着いてっただけだよ。むしろ嫌がらないでくれてこっちが感謝したいくらい」
「……そうか」
それにどうせオレが手伝わなくともダークSUN なら余裕だったろうし、感謝される覚えはないんだよね……。
「……ところで、こんな所で何をしていたんだ?」
「ん? あぁ、空を眺めてたんだ」
「…………。それだけか?」
「うん、それだけ。ダークSUN も一緒に見る? 綺麗だよ~」
「…………。そうだな、たまには良いかもしれない」
なんだかダークSUN らしからぬ程にノリが良いね。
「……お前は星を眺めるのが好きなのか?」
「好きというより……なんだろね、やっぱり好きなのかも」
「……ライト、お前は随分変わった奴だ」
「それほどでもあるかもね~」
「……だが、いい趣味をしてる」
そうダークSUN はほんの少し笑みを浮かべながら言った。
「ダークSUN は好きなの? こういうの」
「……そうだな。どこへ行っても環境が変わっても夜空を見た時の感覚は変わらない。そんな変わらず自分を迎える夜空は結構好きなのかもしれない」
随分とロマンチックなお方だ。
でも……なんだかわかる気がするな……。
見知ったもの、馴染みのもの……そういったものには安心感というかそんな感じのものを与えられる。
星空はいつも同じじゃないけれど、オレが星空に求めているものの本質的なところと、それに対し星空がオレに与えてくれるものは異世界へ行ったって変わらない。
「オレね、昨日よりも少し前よりも星空が好きになっていってるんだ」
「……ああ、俺もそうかもしれない」
不思議といつもダークSUN から感じられる壁みたいなのが今はとても薄いような気がした。
しばらくの間、オレとダークSUN は黙って夜空を見続けていた。