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サプライズゲーム(後編)



この空いた期間の長さ! 驚きです!





ー闘技場

視点 ライト



なんの告知もなく突然行われたこの国の王子ダール・ワン=ディワロンとアロットメンバーの腕利きの手合わせ。

この騒ぎの中心の一部と言っても過言ではないアロットメンバーの腕利きはなんとダークSUN のことだった。


『盛り上がってきたところで本日の主役に登場してもらいましょーうっ! ホワイトコーナー、アプソペリティ帝国の王子ダール・ワン=ディワロン様だぁー!』


司会の人がそう叫ぶと観客の歓声はどっと湧き上がり、その本人が姿を現すと更に歓声はヒートアップした。


遠くからじゃ金髪の美青年的なのってくらいしか分からなかった。


「君が手合わせの相手かい? とてもランク4には見えないな」


「……どういう意味だ?」


「どっちかの意味で取ってくれてもいいよ」


「……半分の確率でお前は良い目をしている」


「そうだね。伊達に王子はしてないからね」


『よぉし両者とも、それと審判も準備はオッケー? …………ふむ。了解しました! そいじゃあ早速始めちゃいましょうかねぇ! ギャラリーもウズウズしてるしねぇ!』


あの王子……手合わせで死ななきゃ良いけど……。


『じゃ、疑似爆発魔法が疑似爆発を起こしたら開始としますんで、魔術師さんよろしくっ!』


疑似爆発魔法?


「ねぇモル。疑似爆発魔法って何?」


「疑似爆発魔法を知らないの? 疑似爆発魔法って言うのはそのままの通り爆発に似ているだけの何かを出す魔法だよ。発動させると爆発音がするんだ。上手い人は時間設定もできたりするからこういう行事や単に驚かす魔法としてとても役にたつんだよ」


「面白い魔法なんだね」


要するに運動会とかに使われる発砲音のするアレとか癇癪玉かんしゃくだま的なやつか。


ドゴーン


推測を立てているうちに疑似爆発魔法は発動したようだ。


するとダークSUN とダール王子は物凄い勢いで近付いていき、一度剣を当てあうとサッと引いてお互いがお互いの間合いに入らないギリギリの位置で牽制をし始めた。


『開始から凄いぶつかり合いだぁっ! そしてこれはまさに一触即発の事態ぃ! どちらが先に仕掛けるんだぁっ!?』


「ふう、ランク4だと油断しなくてよかった。やはり僕の目に狂いはなかったみたいだ」


「……一国の王子に誉められるとは光栄な事だ」


「誇って……いいよっ!」


ザンッ! といった感じのダール王子の横振り。

ダークSUN はそれを素早く引くことでかわした。


『おおっ! この灰色の青年、ランク4にしては動きが良いぞっ!』


「……殺すつもりで構わない。王子ならランク4の人間1人くらい殺しても問題はないだろう」


「そこまでの自信があるんだ? それならちょっとだけ気合い入れちゃおうかな」


ダール王子は三歩程下がりガッと踏み込むとそのままの勢いでダークSUN に切りかかった。

その時の風切り音は観客席にまで届いた。


「……今のが当たっていたら少々痛かったかもしれないな」


「そりゃそうだよ。さっきの威力程度でも大木は真っ二つになるんだ。人に当たったらただ事では済まないよ」


『ダール様の鋭い一撃に大して焦っていない様子の灰色の青年っ! こいつはなかなかの肝っ玉だぁ! そしてダール様もあの一撃をかわされた事をまるで気にしてしないっ! 両者共余裕の表情ですっ!』


「ダークSUN に剣で立ち向かうなんてちょっと無茶だよ……」


ダークSUN と接近戦になったら最後、あまりにもの力に吹き飛ばされてしまうんだ。

俺は前にたった一撃の蹴りでのされた。いくら魔法を使えるといってもただの人間だと見くびって残像を使わないナメプをしてたらあの一発KOだ。

あの王子が勝つ確率はかなり低い。


……ん? ダークSUN が攻撃にでるぞ。


「……いくぞ」


ダークSUN は持っていた剣をダール王子へ向けて投げつけ、その剣よりも早く駆け出しダール王子の辺りへたどり着いた。

投げられた剣をかわしたダール王子に、その剣をキャッチしたダークSUN の一閃が送られた。

ダール王子はそれを咄嗟に剣で受け流しかわした。


……凄い……! これが戦い……!


『驚いたっ! 流石はダール様ですっ! 身のこなしも気品が溢れます! そして灰色の青年もとんでもない脚力と腕力ですっ!』


「凄いスピードだね。疾風はやての如く迫る君は正直怖かったよ。まさか殺す気?」


「……いつまでも手加減されてはつまらないからな」


「なるほど、本気にさせたかったんだ。それじゃあ本気の五分くらいは出してみるよ。あっさり死なないで……ねっ!」


次の一瞬、ダール王子の強力な一撃がダークSUN の剣に当たった。

そしてそこからダール王子の怒涛の攻撃が始まった。


キンッキンッといった剣と剣が当たる音がしばらく続いた。

ダークSUN は防戦一方だった。


「ほら、守ってないで」


「…………」


『おおっと攻勢が一気に変わったぞっ! 灰色の青年が防戦一方だぁっ! まるで先ほどまでがお遊びだったかのようにダール様が優勢ですっ! しかしこの灰色の青年も全て剣で受けているあたり負けてはいないぞっ!』


そう、ダークSUN は劣勢に見えているが決して負けている訳ではない。その証拠に後ずさりも最小限だ。

一体何を考えているんだろか。


「見学はいい加減にしてそろそろ反撃してよ」


「……そうだな」


「……っ!?」


一瞬ダークSUN がぼやけて見えた。

そしてダール王子は素早く後ろへ下がっていた。


『おっとどうしたぁっ? 正直私には何が起こったのかわからないぞぉっ!?』


「……ま、参ったなぁ。なんで君のような人がランク4なんだい……?」


「……今の攻撃を予測するとはな。流石は繁栄真っ盛りのアプソペリティ帝国の王子だ」


「ふ、ふふ……君程の実力者に誉められるとは今までの鍛錬が無駄じゃなかったんだね。嬉しいよ」


「……ではその鍛錬の成果の全力を見せて頂けるとありがたい」


「……そうだね。負けるのは嫌だし。……ふっ……すぅ~……。よし!」




★ ★ ★




ー宿屋



結局のところ、ダークSUN は負けた。

あの後ダール王子は素人目でもわかる程に物凄い気迫と力を見せ、ダークSUN の手から持っている剣を弾き飛ばした。


闘技場のルールとして『相手が負けを認めるのも勝敗を決める手段の1つである』というものがあるらしく、ダークSUN は負けを認めた。

普段ならこういう降参の類による勝敗はブーイング待ったなしなんだけど、今回はあまりにも魅入られるものがあったのかむしろ拍手喝采が起こった。まぁそりゃあんな凄いものを見せられたら……ね?


……でもちょっと納得できない。

だってダークSUN は割とチートなオレを倒したんだ。魔法だって使えるのに使ってなかったし。


「ねぇダークSUN 」


「…………」


オレがダークSUN の名を呼ぶといつものように黙ってこちらを向いた。


「なんで手加減したの?」


ぶっちゃけて聞いてみることにした。無理に濁したり遠巻きに言う必要なんてないもの。


「……様々な要因があるが、強いて言うなら勝つ必要がなかったからだ」


「要因?」


「……まず、あの試合は依頼によるものだった」


依頼? ああ、そういえばあの試合はアロットメンバーの腕利きと王子の練習試合って話だったね。


「……内容は簡単だ。『王子を勝たせろ』。これだけだ」


「つまり八百長デキ試合?」


「……そうだ。王子の方は知らない様子だったがな。恐らく王子に『自分は一般ギルドメンバーよりは強い』という自信をつけさせる為の王子を慕う者の計らいだろう」


世の中優しい臣下もいるんだね。


「でもその割には結構力入れてなかった?」


「……当たり前だ。これは王子に自信を持たせると同時に王子の力を国民に見せしめる為の依頼だったのだからな。王子を本気にさせて倒されないと王子の顔をたてることにはならない」


「……ん? 見せしめも必要なんて言った?」


「…………」


……あっ、もしかしてダークSUN 、そういうところも気を利かせて……


「優しいんだね」


「…………」


ダークSUN はオレに背を向けて武器の手入れを始めた。


ダークSUN っていつも冷静でクールな感情の無い変な人だと思ってたけど、結構良い人なんだね。


「その優しさ、いつか報われるといいね」


「…………」


なんとなく口走った言葉。

でもダークSUN には良くなかったのか、気のせいかもだけどその後ろ姿はちょっと悲しそうに見えた。


オレは布団に潜り込み寝ることにした。


「おやすみ、ダークSUN 」


「……ああ」


明日はジェシネスさんに誠心誠意全力で謝らないとなぁ……。…………


「……!!」


わ、忘れてた!! あぁぁぁどうしよう!? 生まれてこの方仕事中に出掛けてそのまま戻らないなんてバカやらかした事ないよぉ~……。



自分がいかに愚かすぎる行為をしたかを精神がグッチャグチャになっていく中で悔いて、あれやこれやと明日どうやってジェシネスさんに詫びようかと考えている内にオレの意識はすっかり沈んでいた。







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