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夢のような大☆草☆原



こっちが進んでるということは響さんがつっかかってるって事なんですよね……




ーアブソペリティ帝国戦外領内 草原

ー視点 ライト




……なんだか爽やかな何かを感じる。それと人の温もりというか……


オレはさっきまで何をしていたんだっけ?

……確かサウシアから変な空間に飛ばされて、女の子に変な事されて……。……変?

あ、いや、別にいやらしい事とかそういうのでは……。……うーん、マジで何だったっけ?


…………!!


「ーーーー!!」


オレは謎の恐怖感で意識を完全に起こし、目を開けた。

するとそこには見覚えのある銀髪の青年がいた。


「だ、ダークSUN……?」


「……やっと起きたか」


オレは身体を起こし、スッと立ち上がると辺りをゆっくり見回した。


「……なんというか、自然というか素敵な草原というか……ファンタジーだな……」


何処もかしこも緑、緑、緑。

多少高低差があったりなかったり軽く整備されている道があったりと、そこにはオレの想像していたファンタジーな草原とほとんど似ている景色が広がっていた。


「オレ達ってたしか広大な砂漠のド真ん中にあるって国に居た筈だよね。……じゃあここはいったいどこ?」


「……ここはアブソペリティ帝国周辺の草原だ」


「アブソペリティ帝国?」


うーん、即席で手に入れた記憶のどこかにあるっぽいんだけど、もうすっかり忘れちゃった。


「……ここ最近少しずつ成長を続けている大国だ。深い森は無いが緑は豊かで人間の食料となる生物が生息しやすい気候や環境が整っている。そのおかげか餓死者は大していないから他国より強い」


そうそう、割と豊かな国だったんだっけ。そんで最近侵略行為を始めて領土を増やしつつ……


「まって!? まさかアブソペリティってこの前の!?」


「……その通りだ。以前お前が滅多滅多にしたり何らかの力で使役させた兵達はこの地で生まれたもの達ばかりだ」


……あわわ、なんてこった……。オレ達は今敵国の領内にいるのか!?


「どどどどどどうしよう!? 見つからない内に早く逃げないと!?」


「……慌てるな」


そ、そんな事言ったって……!


「……お前や俺は今はただの旅人だ。それにアブソペリティの者は俺達が敵対行為をした事を知らないだろう。第一俺達はサウシア人ですらないのだからな」


……そ、そうだった。


「じゃ、じゃあオレ達はこの国で寝泊まりしたり食べ物買ったりギルメンになったりぶらぶら出来るって事なんだね?」


「……当たり前だ(ギルメン? ……確かギルドの者の事だったか)」


「……よかったぁ~」


オレ達はライトにダークSUN!

これからギルメンになったり街中をぶらぶらしたり草原を歩く放浪者! 自由人! 旅人!

……いいねぇいいねぇ♪


「よし! それじゃ街中に繰り出そうじゃないか!」


「…………(調子がいいというかなんというか。だが嫌ではないな)」


完全に気を取り直したオレは広い広い草原を道に沿って歩き始めようとした。……が立ち止まってダークSUNの方を向いた。


「……ん? そういやダークSUNはどうするの?」


「……俺はお前に着いていく。あの国で用事が出来たからな」


「おお! じゃあ泊まる所は一緒にしようよ! これも何かの縁かもしれないしさ!」


「……ああ、そうさせてもらおう」


「うん、じゃあ少しの間かもだけど宜しくね!」


「……ああ、こちらこそ」


そういう訳でオレ達は2人で草原を道に沿って歩き始めた。

取りあえず目指すのは帝国の外壁だ。

ダークSUNによるとのろのろ歩いても夕方までには着くらしい。今が昼過ぎだからあんまり掛からないっぽいね。



~十数分後~



オレは今猛烈に感動している。

夢にまで見た……わけではないけどファンタジーでイコール付けされるくらいに有名な存在に出くわしたからだ。


言うまでもない、モンスターだ。

見た目は小さな柴犬のような、小熊のような可愛いころころしたヤツなんだけど確実にモンスターと言えるところがある。なんと背中に小さな翼が生えているのだ! うーん、可愛い。

しかもそれが4匹。まさに見て体感する天国だよ……。


「あはぁ~。なんか和むなぁ~♪」


オレは高ぶる衝動を抑えきれずに近付いて、その可愛いのを一匹抱き上げた。

……あぁ~癒されるぅ~♪


「……プジェルか。良いものを見れたな」


「へぇー、このちっさいのってプジェルって言うんだ」


えへへーこのこの~、おなか柔らかいぞ~っ♪


「……ああ、一応モンスターで結構強い種族なのだが、人には危害を加えず割と賢い。見た目もあって愛玩用として人に飼われる事もあり、大きくなればより強力なモンスターとなるから番犬として扱われる事もあるらしい。大きくなればラドジェルと呼ばれる」


おお、なんかダークSUNがなんたら図鑑みたい。なんか凄く詳しいね。


「じゃああのプジェル達はいずれ大きくなるんだよね」


「……ああ、そうだ」


こらこら、お前たちオレの口の周りとか手とか足とか舐めたっておいしくないぞ~♪


「あれ? じゃああのプジェル達には親のラドジェルがいるわけで……ひゃっ!?」


あわわ、マントの中にまで入ってきた! こ、こいつオレのおなかまで舐めてきた。とんだ可愛いペロリストだな。許す!


「……大丈夫だ。俺達に感づいて来るだろう」


「え? ……あっ、どこいくのっ!?」


あぁ~プジェル達離れてっちゃった……。


「……親のラドジェルが来たようだな」


親のラドジェル?


オレは辺りを見回して驚いた。

とことこと走っていくプジェル達の先に翼を生やした大きな黒い狼が2体いたからだ。

その狼2体はオレ達の近くまで来ると、まるで品定めをするかのように見回してきた。


「……ゥゥゥ」


「…………」


片方の狼が小さく唸るともう片方の狼は小さく気品溢れる座り方をした。


「……どうやら敵対はされてないようだな」


……ふぅ、よかった。

オレ達なら多分この2体の狼くらい倒せるとは思うけど、なんか後味悪いもんね。平和的に済むなら越したことはないよね。


「え、えーとですね。オレはですね、あなた達のお子さんに危害を加えようとしたのではなくてですね。……えと、まぁその……可愛いから愛でたくなった、といいますか……すみません」


通じるか通じないかは別。取りあえず弁解して謝ろう。生き物にはその生き物の証明のしかたがあるのだから。


座っていた方の狼はスッと立ち上がりオレに近づいてきた。

縦に計るだけでも1mはあるんじゃないかな……。そのくらい大きく、迫力があった。


「どうしまし……ひゃっ!?」


狼は何故かオレのマントの中へ入ってきた。


「ちょ、あぶなっ……ふぃぎゅ!」


縦だけでも1mはあるのかもしれない狼がそんなことをしたもんだからオレは背中から倒れてしまった。


「あ、ひゃひゃひゃ! くすぐったい~!」


狼の体毛はオレの敏感な肌をこれでもかというくらいにくすぐってきた。

敵対してない証拠なのか乗っている前脚の爪は全く痛く感じさせず、しかし肉球のプニプニ感はおなかにしっかり感じさせた。


……こ、こんなにくすぐったくてどうしようもないのに意味の分からないところで頭は働いてやがる……。


「……どうやら子供にされた事への仕返しらしいな。だがこれは悪い意味での仕返しではなくラドジェルらのかなり友好的な仕返しのようだ」


「まじめに考察してないでそ、そろそろ止めさせ……ひゃあ!? へ、へそはだめだってぇ~……。そんなにペロペロしないでぇ~」


ラドジェル(たぶんお母さん側)による愛のある? 仕返しはしばらく続いた……



「……ぅぅ」


「……ラドジェルの真似事が出来るくらいにぐったりとしてしまったな」


「……ひどいよダークSUN。助けてくれたってよかったのに……」


「……世の中経験だ」


「……これだから大人ってやつはぁ~……」


オレが横になったままぐったりしながらペロリストラドジェルを見ると、どこか満足げに座っていた。このやろ……

プジェル達は横たわるオレの顔を舐めてきたりマントの中……というより股や胸やおなかの上で眠るように丸まっていた。とんだ局部大好き動物だ。許す。


「…………(たまにはこういうのどかな雰囲気もいいのかもな。主もこういう雰囲気を好んでいた)」




ラドジェル達と別れる頃には太陽的な星も結構傾いてきていた。

オレもダークSUNも、そしてラドジェル達までもがいわゆるお昼寝をしちゃってたんだよね……

生息しやすい環境というか、ゆっくりしまくれる環境なんだね、アブソペリティって……。





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