スタッコウト
……何ヶ月ぶりの投稿でしょう
だ、大丈夫です……失踪はしないつもり……です
―???
視点 三人称
ライトはハトルの力で何処かへ飛ばされている途中に気を失っていた。
それをハトルが叩いて起こすとライトはハトルに怪訝な表情を向けながら起き上がった。
「……なにも頭を叩かなくたっていいじゃん。これ以上バカになったらどうしてくれんのさ」
「大丈夫だ。お前の脳は前よりは賢く出来ている。多少叩いても問題ない」
ハトルがそう応答すると、ライトはハトルの声の出方が先程前とは違う事に気づいた。
「あれ? なんか声変じゃない?」
「どういう事だ?」
「いやね、さっきまで四方八方から聞こえるいかにも神様な声の出し方だったのに今はなんか普通だな~って」
「ああ、あれは演出だ」
「うわぁ……」
「なにが『うわぁ……』だ。神は人にあらず。声の出し方であっても人と区別のつくようにしなければならないのだ」
「でもさ? 音声出力機器のついたファンネルとマイクがあれば人だってそれが出来るじゃん」
「何の話をしているのだ? それを作る技術もそれを扱える存在もお前の世界には居なかったではないか」
「まぁそうだけど……」
「……ふむ、だがこの世界でなら操縦者の周囲を飛び回り操縦者の指示で動くような魔道具なら作れそうだな」
「おお~。でもどうやって作るの魔道具って」
「それはお前の力を使えば……いや、今のお前には出来ない事だ。その内教えよう」
「ふーん……ちょっと残念」
そう言ってライトは辺りを見回し目を見開いた。
空が真っ黒かったのだ。
それは夜空ではないのかと普通は思うがこの空らしきものは普通ではないと言える要因がそこら中にあった。
地面がちゃんと見える。白めの石のような地面。ハトルの姿も見える。遠くの城みたいな建物も見える。しかも形も明確に。
夜……暗い筈の空間でここまで物がはっきり見える訳がない。
ライトはそれをすぐに理解し、目を見開いたのだ。
「な、なにこれ……」
「ああ、お前達の常識では空が青ければ明るいと感じ、空が黒く染まれば暗いと感じるという認識だったな。だがそれはお前達の住んでいる場所での話だ」
「…………?」
「理解していないようだな。ここには地面とそこらの建物しかないのだ。大気が無ければ周囲も青く染まらない」
「大気が!? で、でも俺、息してるよ!?」
「我がさせているのだ」
ライトは何が何だか解らなくなって黙ってしまった
「難しい事は考えるな。ここではこれが普通なのだ。お前の知識から例を挙げるとひらがなの『あ』やローマ字の『A』とはなんなのかというくらい面倒くさいことになるぞ。これが普通、これが常識なのだ。細かく考える事ではない」
ライトはハトルの言うとおり難しく考えるのをやめた
「(見えればいいんだ。息が出来ればいいんだ。難しく考えるのは学者の仕事だ)」
そしてライトは大きく背伸びをし、再び辺りを見回した
「ん~、あ~ぅ……ふぅ……。ん? あれ……どこかで……」
「どうしたのだ? む?」
ハトルはライトの視線を追い、あるものを見つけた
そこにはライトがいつかの時にいった遺跡にあった2つの像があった
「なんでこんな所に……」
「……先程から見つからないと思っていたがこんな所に……」
「(……? なにやらこの像は訳ありって感じだな)」
「この像がどうしたの?」
「いや、この像自体は今はどうもしないのだが……。まぁ見ればわかるだろう」
そう言うとハトルは自身の何倍もある大きさの像を軽々と持ち上げた
「……え!?」
ライトは驚きを隠せなかった。
なぜなら像の下にダークSUNが横たわっていたからだ。
「ね、ねぇハトルのおっちゃ……おじ様。なんでこんなところにダークSUNが?」
「……ライトよ、お前ふざけていないか? まぁよい。如何にもそこにいるのは黒陽と呼ばれる者だが。その者は我がここに連れてきたのだ」
「え? なんで?」
ライトがハトルにそう問い掛けた時、ダークSUNはもぞもぞと動きだした。
「…………。……?」
そして起き上がり、辺りを見回した。
「……こ、ここは? ぬ?(ライトか? それとライトの隣にいる男は……?)」
「ふむ、問題はなさそうだな」
ハトルが小さく頷いているとダークSUNは少しふらつきながらハトルに近づいてきた。
「……何故この俺がこのような禍々しい所で寝ていたのか説明出来るのはあなただな?」
言葉遣いは悪くないが、彼の変な音を立てている右手が彼が怒っていることを証明していた。
「喧嘩腰はよくないな。うむ、聞きたいことがあるのから聞くといい。答えてやろう」
「……そうか、なら聞かせてもらう。ここは何処でどうすればアルスフィガーデンへ帰れるのだ?」
「答えよう。ここは虚無の手前、外外空間だ。ちなみに虚無を含め外外空間はアルスフィガーデンに含まれる。ここを出たいのなら我に素直に従っておればよい」
「(虚無? 外外空間? 訳わかんないよもうっ!)」
「ライトには難しいことだ」
「ぐぬぅ、読心術とはきったない神様だ」
「これは神のデフォルトスキルの1つなんでな」
「(うへぇ、さすがは神様だ。憎たらしいくらいに高スペック)」
「……で、あなたは俺達に何をさせるつもりなんだ?」
「ここでは何もさせようとはしない。ただ話す事を話してから帰すだけだ」
「……そうか、ならば素早く終わらせて素早く帰してくれ。……俺にはまだしなくてはならない事がある」
「(しなくてはならない事?)」
ライトは黒陽の言葉に疑問を抱いた。
「そうだな。では話を始めるとしよう」
ハトルは軽く咳払いをし、話を始めた。内容は以下の通り。
これから2人にはアルスフィガーデンに散らばった『本』を探してもらうということ。
そしてその本には特殊な力が備わっているということ。
「ね、ねぇハトル? もしかしてその本ってルイスが持ってたあの本じゃ……」
「いかにも。本の1つはあの少年に託した。あの少年はいずれ最強の魔法使いになるだろう。お前達を除いてな」
「な、なんでそんなことを?」
「あの国の王はそれなりの実力を持ってはいるがどうしようもないほどに臆病者だ。我が優遇しようと言っても恐らく安心はしないだろう。そこであの少年を強化することにした」
「……話は変わるが、俺達はなぜ本を集めねばならない。そんなものに頼らなくとも俺はそこそこ強い」
「自惚れてはならないぞ。お前達に集めさせる本は普通のモノではないのだ。そして、その本を持つ者には割と凄い能力が与えられ、少なくとも人力を超える強さになるだろう。例え赤子や動けない老人でもな。ライトはともかくお前では適わないだろう」
「(ダーク,SUNが適わない!? そんなに強いの!?)」
「……なるほど、俺より強いか。
……それなら仕方がないな」
「あらら、ダークSUNって案外自信家じゃないんだね」
「……当たり前だ。今は分からないが、その昔は俺より強い者は山ほどいた。主もその1人だった」
話がズレ始めようとしているのを察したハトルは話の軌道を元に戻す為口を開いた。
「それでお前達は了承したと受け取っていいのだな」
「……うーん、まぁ他に目標らしい目標ってないしいいよ」
「……俺はライトに付いていく事にした」
「そうか、わかった。それではこの話は終わりとしよう。次はライトの話だ」
ハトルはそう言ってグッと力を込めた。
するとハトルの背後からすぅっと1人の小さな、だいたいライトと同じくらいの大きさの女の子が出てきた。
女の子はライトの元へ駆け寄っていった。
「……?」
「こうして対面するのは初めてかな? ライトちゃん」
その女の子を見て、ライトはすぐに気づいた。
「き、君はあの日暴れた子じゃ!?」
「ご名答! ……いや、ちょっと違うかな? 動かしたのは私だけど動いていた身体はライトちゃんのだし
」
「…………うぅ、オレは……」
「いいのいいの気にしない! ライトちゃんの力でも弾け飛ぶくらいに脆い人間が悪いんだから!」
「……この娘は何者だ?」
疑問に思ったダークSUNはハトルに聞いてみた。
「ああ、こいつはルゥ・エスリ、と言えば分かるか?」
「……ルゥ・エスリ。魔王か? そうは見えないが」
「そうだろう。なにせこの世界における魔王の表現は各所各所で異なる。つまり誰も見たことはなかった。……いや、見てはいたのか」
「……そうか、その容姿に誰も魔王とは気づかなかったんだな」
「そう言うことだ」
ハトルとダークSUNはライトと話して無邪気に笑うルゥを見た。
「……勘違いとは恐ろしいものだ」
「そこが人間の愚かなところだ。目で見たものを信じるのは悪くないが、本質を見抜けなければ意味がない」
「あのね、ライトちゃん。私お願いがあるの」
「な、なにかな?」
ルゥはライトに甘えるように抱きついた。
端から見れば小さな女の子同士で仲良くじゃれ合っているという微笑ましい光景だ。
ライトの内心は穏やかでは無いようだが……。
「(こ、こんな小さな女の子がオ、オレにににに……)」
「私はルゥ。ルゥ・エスリって言うんだ。この前ライトちゃんに遺跡で助けられたんだ。覚えてる?」
「……ん~。あぁ、もしかしてあの時の? つまりルゥは封印されてたって事?」
「(……ライトが馬鹿やらかしたあの遺跡か。しかし魔王が封印されていたとはな……)」
「そーなんだよー。全く酷いよねー。……とと、それでお願いなんだけど」
「う、うん」
「あなたに私の身体を受け取って欲しいの……」
「……え?」
ルゥはライトに抱きついたまま話しだした。
「見ての通り私の魂は復活したんだけどね。私って結構前に封印されたみたいで魂も身体も変になっちゃったみたいなの。そのせいか魂はこうやって動かせても身体が動かせなくなっちゃったみたいで……」
「……え、えと……よくわかんないんだけど、その身体はどこにあるの? というかオレの目の前のルゥは身体あるじゃん」
「あははっ、流石はライトちゃん! 話が早ぁ~い♪ 私のこの姿はただの魂。私の身体はあそこだよっ!」
「え? あ、あれって……」
ルゥの指差す先にあったのは、先程ハトルが動かした10メートル近くはある女の子の像だった。
「あははっ! 凄いでしょ~。魂と身体を別々に保管するためにあんな像にしたらしいんだって。私は魂がおかしくなっちゃって魂の無い媒体には入れなくなっちゃったからもうあの身体をひとりでに動かす事は出来ないんだけど。一応正常な魂を持っているライトちゃんなら……」
「ほぇ~……」
ライトは色々と思考を巡らせたのちに変な声を漏らした。
「不安?」
「……まぁ、そりゃまぁ……。だって……なんとなく分かっちゃったんだけどさ。ホントは融合なんでしょ?」
「……気づいちゃった?」
「いや、なんというかオレのファンタジーに関する無駄だと思われていた知識がそう言っていたから。なんというか木でできた模型のなんたらギアがそれまで主人公が使っていたなんたらギアとぶつかってなんたらジャスティスが出来る的な……」
「ふぁんたじー? なんたらジャスティス? よくわからないよ。……それで、ライトちゃん的にはおっけー?」
ルゥの言葉に、ライトは少しの間考えて頷いた。
「ああ、ルゥの身体、オレより結構小さいから不安だけど……。でもいいの? オレなんかに身体あげちゃっても」
「大丈夫。だってもう私じゃ使えないんだよ? そんな身体要らないもん。だから有効活用してもらおうと思って。それに像の自分を見るの、結構辛いんだ」
「……なるほどねぇ。まぁオレからしたら……。うん、大丈夫(また身体が変わるだけなんだよなぁ)」
「うんうん、大丈夫みたいだね。しれじゃ、始めよっか」
「……へ?」
ルゥはライトから遠ざかると、両手を合わせた。
するとライトの身体は浮き上がり、手足を広げてまるで大の字に掛けられているような体勢になった。
「ち、ちょっと……ルゥ……さん?」
「それは拘束されてるだけだから安心してね」
「な、なんで!? あわわわわわ……」
「すぐに分かるよ」
訳もわからず慌てるライトをよそに、ルゥは再び手を合わせた。
その他の1人? と1神は黙って見ているだけだった。
程なくしてルゥと同じ姿をした像はその巨体を色付けながら小さくなっていった。
やがて、手を合わせるルゥと拘束されたライトを挟むようにして像だったルゥと同じ姿の女の子がその場に立った。
「じゃあ始めるね」
「……う、うん」
「「我、ルゥ・エスリはこの身をスターライト・エクスシーションに捧げる」」
魂と身体のルゥが同時に唱えると、身体の方のルゥから煙のようなものがうっすらと出始めた。
「「化! 化! 化! 化!」」
「「集! 集! 集! 集!」」
煙は移動を始め、ライトを囲んだ。
「わわわっ!?」
「収! 収! 収! 収!」
「……あ……ぐ……っ!」
煙はライトの身体に吸い込まれるようにゆっくり消え始めた。
「うううう……っ! うううう……っ!! (なんだっ!! これっ!? 体がっ! 何かに押しつぶされそうだっ!!)」
相当苦しいのかライトは悶えてうごめいていた。
『た……けて……ルゥ……おっちゃ……ークさ……』
ライトは掛かった衝撃に耐えられず、瞳を徐々に黄色くさせながら虹彩を消していった。
「………………」
ライトは入っていく煙が消えた頃には既に気を失っていた。
「……ふぅ、やっと終わった……。お疲れさま、ライトちゃ……あれ?」
「……ライトはとっくに気絶したぞ」
ルゥは黒陽の言葉を聞いて申し訳なさそうにライトに近寄った。
「……わぁ。目を開けたまま気絶してる……。この拘束のされ方とか光のない目も相まって酷いことされた女の子みたいになっちゃってる……。ごめんなさいライトちゃん……」
ルゥはライトの拘束を解き、優しく瞼を閉じさせた。
「変わったのは髪と目の色くらいなのだな」
ハトルは安らか……ではないが眠っているライトの頭を膝の上で寝かせているルゥにそう言った。
「……? ああ、これね。えへへ、私とお揃いの色でいいでしょ~。紅い目に金髪だと忌々しい不諦勇者だけど、黄眼白髪だと神出鬼没魔王。面白いでしょ?」
「悪いが紅眼金髪はアルスフィガーデンの神である我のポイントだ。勇者のポイントではない」
「……で、このあとどうする。……ライトはこんな状態だ」
変わっていきそうだった流れは黒陽によって正された。
「おおっとそうだったな。これからお前とライトには『アブソペリティ』という国に向かってもらう」
黒陽はハトルの言葉を聞いて渋い顔をした。
「……アブソペリティ。確かサウシアに侵攻してきた国だな」
「そこが目的地なのだから仕方がない。それにお前達がサウシアに関係のある者だということは分からない。気にする事はないだろう」
「……そうか、それならいいんだ」
「よし、それでは今からお前達をアブソペリティ付近の平原へ転送するぞ。ちょうどライトが目覚める頃に転生を完了とする」
「……助かる」
「それじゃあライトちゃんをお願いね」
「……お願いとはなんだ?」
黒陽はルゥが渡してきたライトを無表情でお姫様抱っこの形で受け取りながら返答した。
「だから、ライトちゃんの特訓。人を少し殺したくらいで、しかも私がやったというのにショックを受けてメソメソしているような心の持ち主なんだよ? きっと戦闘とかそういうのはダメダメだと思うんだ」
以前ライトと戦闘経験のある黒陽は疑問を持たざるを得なかった。
「……たしかにライトの動きは素人そのものというか、とても戦術的ではなかったが……それではあの魔法に関する知識はなんだ?」
ルゥは黒陽の言葉を聞いてクスリと笑った。
「あなたって意外と鈍感なのかな?」
そう言われて黒陽はハッとし、後ろの方を向いた。そこにはハトルがいた。
「……そういう事か。便利なのだな、神というものは」
「勘違いするな。お前の言うライトの扱っていた魔法はあくまでライトの力によるものだ」
「……だが関与はしているのだろう?」
「なぁに、我はきっかけを与えたに過ぎない」
「……そうか。ではそろそろ送ってくれ」
「ああ、そうしよう」
ハトルは黒陽とライトから少し離れ、軽く右手を上げた。
すると黒陽とライトのすぐ近くの地面が光り始めた。
「今からでも転送は可能だ。そこのルゥと軽く話をしてから行く方が良いだろう。では私はこれでさらばだ」
言うが早いかハトルはもう黒陽達の視界から消えていた。
「(……話す事など特に無いのだが……)」
黒陽が少し困っていると、ルゥの方から話し掛けてきた。
「あなた、見た感じそこそこ強いみたいだけど」
「……? ああ、多少は強いと自負してる。それが?」
「この時代にあなた程の実力者がいるなんて珍しいなって思っただけ」
黒陽はルゥの言葉に違和感を覚えたが、なんとなく聞かない事にした。
そしてそのまま光の場所まで行こうとして、ふと何かを思って立ち止まった。
「……ルゥ・リスエと言ったな。お前は我が主を知ってるか?」
「アザーモヌット」
「アザーモヌット、主が主より上の者から貰った異名か」
「あら、あの人の名前で反応するなんて。黒陽さん、あなた何者?」
「……主の物以外の何者でもない。もう行く。いつかまた会えればその時は主について語り明かそう」
黒陽は何か言いたそうなルゥを置いて、何処か嬉しそうに光の中へと入っていった。
その空間では女の子の魂がただ一つ、ポツンと置いてかれた。