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サウシアとの別れ

こっちは久々の投稿です




―サウシア王宮

―王の間

視点 三人称




ライトが旅立つその日の早朝、ライトを含めたロイ、カースジック、シェリルの4人は王の間に集結していた

ロイは他の3人が集まったのを確認するとカースジックに目配せをした

カースジックは頷くと、王座の辺りに何かを始めた


「ライトよ。昨晩は英雄の名に恥じない凄まじい飲みっぷりだったな。それもイヤイヤ言いながら」


「す、すみません。一度入ると止まらなくて……」


「そして普通なら寝込む筈なのだがちゃんと起きている。やはりお前は祝福されし者なのだな」


「は、はぁ(起きてるっちゃ起きてるけど、今スッゴく眠い……)」


ライト達がそんな話をしているとさっきから王座の辺りで何かの作業をしていたカースジックがロイの元へ戻ってきた


「ロイ様、準備が整いました」


ロイは頷いて返事するとライトの方を向いた


「これからライトをある所へ連れてゆく」


「ある所?」


「そうだ。国の英雄を送り出すにもハトル様の君臨を待つにも相応しい場所だ」


ロイはそう言うとカースジックと一緒に王座の辺りへ行き、力を込めた

そしてライトを王座へ座らせてこう言った


「今からお前は下へ降りる。我々も後に続く」


「……? うわっ!?」


ライトがロイの言葉の意味を理解するより早く王座は下へ降下した



「(凄い……)」


王座が停止して辺りを見回したライトがまず最初に思ったのはそれだった

洞窟のような遺跡のような不思議な空間で、辺りにある水晶やらなにやらが何処からか来る光を拡散させ空間をやんわりとエメラルド色に染めている


「綺麗だ……」


その中でライトは握り拳程の大きさの光る石が数個、交差するように飛んでいるのを見つけた


「良いところだろう?」


「……うん」


ロイは先程からライトが見詰めている光る石を指差しこう言った


「これはサウシアの心臓。魔道具フィーリーンだ」


「魔道具フィーリーン?」


「そうだ。この魔道具フィーリーンは周囲の生命力を著しく増加させる力があるのだ。だから砂漠のど真ん中に不自然な平原が生まれ、国も建つのだ。まぁ我が見付けた時はその魔道具の所有魔力も少なくせいぜいとても小さな集落しかつくれなかったのだがな」


「ここまでにするのってかなり大変だったんだね……」


「そうなのだ。毎日毎日カースジックとここに魔力を注ぎに来ていたのだがほんの少しずつしか効果範囲は広がらなかった。しかしライトにあの指輪を貰ってからは今までの努力が無かったかのように広がるようになった」


「な、なんかすみません……」


「いやいや、私もロイ様も感謝しているのだよ。お前のお陰でサウシアの未来は随分明るくなった」


「えへへ……」


そんな話が始まった頃、どこからか声が放たれた


『もう少し寝ていればよかったものを無理に起きおって……』


「「……っ?」」


落ち着いた様子のライトをよそにシェリルにロイ、カースジックは驚いて身構えた


『ライト、今回はお前の頭に話し掛けているのではない。怯えるその者達に説明をしてやってくれ。でないとお前の要求した事を成せない』


「りょーかい」


ライトは神様の言う通り斯々然々とロイ達に説明した


「なるほど、それじゃあ先程の声はハトル様のものだったのか」


『理解したようだな』


またその声は放たれた

ライトを除く3人は慌てて光る石の方を向いて立て膝をついた


『私はここなのだが……』


3人が声のする方を向くと、そこには含み笑いを浮かべたライトと黄髪紅眼の中年男が立っていた

ちなみにライトの笑みが間違えて光る石の方へ立て膝をついた3人に対するものなのか自分の場所を間違われたハトルへ対するものなのかはライトが後頭部を押さえることで判明した


「「も、申し訳ありませんでした!」」


『まぁいい。手短に済ませるぞ。干渉する時間は最小限にしたいからな』


「「…………」」


3人は緊張したようすで頷いた

平常を装っているライトもどこか緊張しているようだ


『私はハトル。このアルスフィガーデンの神をやっている。今回私がここに現れたのは私の隣にいる者。ライトをこの国から外へ出す為だ』


「ハトル様、ライトは、スターライト・エクスシーションは我々の国にとってもはや欠かせない人材です。何用でライトをサウシアから放すのですか?」


ロイは内心ビクビクしながら神に質問した


「(やっぱこの名前酷いなぁ……。まぁ元の名字も大概だけど……)」


『この娘は特別だ。同じ所に放っておくと世界のバランスを大きく変えてしまう。身に憶えがない訳ではないだろう?』


3人はすぐに察した

魔法に関してはそこそこの使い手であったロイとカースジックは膨大な魔力容量を手にし、あまり魔法を使えなかったシェリルはロイ達同様に膨大な魔法容量を手にし、結構な呪文を覚えた。

威勢はいいが剣の腕はまちまちだった勇士達へ強力な装備を与えて最強の軍を作り上げた。

これまで二回の襲撃をほぼ1人で終結させ、二回目にはたった1人で敵軍の全てを無に帰させた

これだけの功績をサウシアに来て1年足らずで為し遂げたライトをこのまま置いておけばどうなるか……


3人は冷や汗をかかずにはいられなかった


『恐らくお前達が生まれる前の魔王と勇者の伝説の話を知っているか?』


ハトルはそう言って伝説について語り出した。その内容はこうだ


選ばれた青年は神の空間からゲートを潜り、この世界に現れた

草原に現れた青年は最初、右も左も解らず路頭に迷ったが、なんとか街に辿り着き、先立つものを求め冒険者となった

武器も無く魔法も使えない彼は無謀にも討伐任務を受け、討伐対象に散々ボコられ帰還。宿代を借りて借金生活に入った


ある日、青年が懲りずに討伐任務に出た時に偶然近くにいたいい歳の剣士は彼の倒されても何度も何度も立ち上がるその姿を見て是非弟子にしたいと思い彼に弟子にならぬかと提案したらあっさり返事を返され、2人は師弟の間になった。体術も剣術も魔術もからっきしの青年にとってその話はとても魅力的だった


月日は流れ、青年を見た目だけは良いと嘲笑っていた冒険者達は彼の出世振りに驚いた。半年以上も前までは根性だけのどうしようもない弱者だった青年は体術だけで大抵の魔物は倒せるようになっていたのだ

1から10とある冒険者ギルドのランクはあっという間に5まで上がり、彼はまだ若いその見た目で体術だけで中級者やベテランの冒険者と肩を並べ、誰もが彼の頑張りを認めるようになった


「倒されても何度も立ち上がり、1人になっても尚戦い続け、遂には魔王を倒したという伝説の猛者の事ですよね」


ハトルが話している途中、カースジックがそう言った


「(……今からきっとイイトコなのに)」


『その通りだサウシアの者よ。知っているから言いたい事をさっさと話せ、と言いたいのだろうがそうはいかない。この伝説は知らぬこの伝説に深く関わりのある者がいるからな』


ライトを除く3人は最初は何の事だかわからないようすだったが、すぐに気が付いた


「……? まさか!?」


「(それって……)」


「(ライトちゃん!?)」


この場で『魔王と勇者』の話を知らない上に神を呼び寄せたイレギュラー的存在。それは言うまでもなくライトだけだった


「……?」


「ハトル様! 一体、一体ライト様と勇者にどんな関係があるのですか!」


「そこのシェリルの疑問は我も同じですハトル様。どう見ても子供のライトと勇者にどんな関係……ま、まさか勇者の子!?」


『ライトはタクミだ』


「タクミ……。勇者と同じ神の恩恵を受けた特別な種族ですか」


タクミとは、まんま拓海の事であるがこの世界では特別な種族として扱われている

彼がランク10の先にある『エピック』というランクになった時、人々は超人的な拓海をタクミと称す事で自分達と住み分けた

それほどまでに彼は強力だった

そして、同じように普通の人間からしたらずっとかけ離れた力を持つライトもタクミと呼ばれるだろう


「その種族は特別で、容姿は人間とほぼ同じの強力な種族……でしたよね」


『そうだ。そして勇者とライトの関係、……それは今は言えないが1つだけ言おう。2人は会った事がある』


3人は驚きを隠せない表情でライトを見た

しかしライトにはその時の記憶……というよりもう1人の存在の記憶がない為に先程から混乱していた


「(いったい何時会ったのだろうか……。もしライトが産まれた時だとしても恐らく十数年前かそれ以下。しかし物語の勇者は何十年も前の人物だ。少なくとも最近までは勇者が生きていたとなると大変な話だぞ)」


『惜しいな、サウシアの長。勇者は生きている』


「「!?」」


『いや、勇者と呼ばれていた者の話だがな』


3人が唖然としている中ライトは口を開いた


「おっtあだっ! ハトルの言うことはいつも長いよ。もっと分かりやすく簡単に伝えたい事だけを教えて」


「「(それでも呼び捨てなんだ……)」」


頭を押さえながらライトはそう言った

するとハトルはすまなそうにこう言った


『神も人と同じで長く世を見れば話も遠回しで長くなってしまうのだ……すまない。それでは簡単に説明しよう。ライトを、この膨大な力を何度も何度も戦争に使わないで欲しいのだ。見ての通りライトは幼い。同族の討ち合いを見ていてはただでさえ曲がった心が余計に曲がってしまう。この力はもっと良く使うべきだ』


「曲がった心ってなんだよ曲がった心って……」


『お前達の物語の勇者も戦争を歩きすぎた為に異物を取り込んで今は変化している。どこかへ消えたのではなく、誰も気付かないのだ。勇者の姿に』


3人は黙って頷くしかなかった

話の内容は結局長く回りくどいものだったが、幼い子どもを戦争に何度も引き込んみ、危険な目に合わせた事実だけは明白なのを彼らは痛感していた

シェリルはライトの今までの行動を自分当てはめて顔を青くし、カースジックとロイは今更ながらにも後悔とライトへ対する謝罪の念を抱いていた


『サウシアの王よ』


「はい、なんでしょう」


『この国は他国へ一切の侵略行為をせず、ただ防戦するだけなのだな?』


「その通りです。広大な砂漠に囲まれたサウシアは侵略するにもされるにも遠征が必須です。ただひたすら領土を拡大しつつ防戦を張るのがサウシアを確実に成長させる手段です。それにサウシアは少なくとも我の代では平和主義国家です。こちらからけしかける事はありません」


『そうか、では国を守る力さえあれば良いのだな?』


「はい」


ロイのしっかりした応答を聞いてハトルは少し考えた


『守る力というよりはこれは侵略向きの力だが、これがあればお前達は防戦で負ける事はそうそう無くなるだろう』


そう言いながらハトルは一冊の本をロイに渡した


「これは……?」


『その書は力を身に付ける為の書だ。読むだけで力が備わる。お前自身とお前の信頼する者に読ませるといい』


「(ライトが渡してきた読むだけで魔法が使えるようになる不思議な本と同じようなものなのか)」


『その本は力の解放自体は速効性がある。だが力というのは知識や経験によって少しずつ得ていく方が好ましい。この国の何処かにいる教本を持つ少年を探す事を薦める』


「(教本……ルイスの事かな?)」


ハトルはライトを含む4人を見回した


『すべき処置は済ませた。後はライトを連れ出すだけだが、その前に別れの挨拶でもしておくといい』



ライトはロイ達と挨拶を済ませるとハトルの所へ戻ってきた

ロイ達はハトルに向かって立て膝をついた


『済んだようだな。アルスフィガーデンに住まう全ての者よ、心を常に保つのだ!』


ハトルはそう言い放つと、ライトと共に姿を消した


ロイ達はただ黙って先程まで小さな女の子と神が居た場所を見詰めていた




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