戦術なんてなかったんや
さっそく勢いががが
響さんの初期より人気が無い…だと?
というか今の響さんも響さんの初期より人気が無い…だと?
―サウシア北の砦
敵軍はまたもや現れた
見張りの話によると数が少なく、武装らしきものはしてなかったらしい
武装してないとなると偵察隊か魔術師隊なのではないかと推測された
武装しない分素早く無駄の無い行動が出来る魔術師隊は少数でも厄介だ
国特有の魔法もある為敵軍の戦闘力は未知数だ
しかし魔法大国サウシア以外の国の魔法学はそこまで進んでいないようで、攻撃魔法の射程距離はせいぜい10m前後だ
そこでこちらは長距離魔法に特価した魔術師と弓兵部隊、それとオレの僕部隊から魔法を使えると言う数十名を配置する事にした
ちなみにサウシア開発は中断された
「…今回はどんな外道業をやってくれるんだ?」
「外道って…」
北の砦に着くなり作戦会議が始まったのだが、いきなりダークSUNになんか言われた
オレはそんな事したっけ?
…あ、確か今の僕って
ん?そういやどうやって僕にしたんだっけ?
「…今回の敵は魔法を使ってくる事は言うまでもないだろう。素早く懐へ飛び込んでも魔法の餌食になるのがオチだ。よって奴等の射程外で我々が長距離魔法を放ち牽制する。それでも近づいてきたら矢を浴びせて追い返せ」
「「了解」」
今回指揮官役に抜擢されたダークSUNは作戦を魔術師や弓兵に伝えた
サマになってるじゃん
「あの、オレは?」
「…お前はもし敵が砦まで接近してきたらそいつを生け捕りにしろ。それまでは見学だ」
「一応理由だけでも教えてくれないかな」
ここまできて見学っちゃないよ
「…前回の戦いはお前の力を見極める為にお前だけでやらせた。だから今度はお前にこの国の…魔法大国サウシアの力を見てもらう。策士の才があるのだろう?だったら自軍の力量がわからなければ策も練れないだろう?」
「わ、わかったよ」
オレが理解の旨を伝えるとダークSUNは味方の方へ顔を向けた
…なんだか戦闘の時だけはダークSUNよく話すね
「…作戦は伝わったと思う。まもなくこちらの射程内に敵軍が入る。急いで配置へつけ!」
「「了解!」」
ダークSUNのGOサインと共に魔術師隊や弓兵部隊は散らばっていった
なんだかダークSUNが凄く頼もしく見えた
十数分の間の後、敵軍が現れた
数は少なく50人といったところだろうか?
しかし味方の魔術師隊は容赦なく攻撃を開始した
「フレイム!」
1人の魔法をきっかけにあちらこちらで『フレイム』という単語が発せられた
そしてオレの隣にやってきたダークSUNは説明を始めた
「…彼らの使っている魔法は『フレイム』という。一般人が魔法学の勉強を始めて1年もすれば習得出来るという簡単な日用魔法だ」
「日用魔法?そんな火力で大丈夫なの?」
フレイムって名前と日用魔法って聞く辺りじゃガスコンロ級の火力って事になるな。悪くはないけど…ちょっと弱いかな?
「…その為の『シャワー陣形』だ」
「『シャワー陣形』?」
「…陣形とは言うが難しい事はない。散り散りになってただひたすらフレイムを撃つだけだ」
「魔法の連射って大丈夫なのかなぁ?ロイ王ですらあのザマだったのに普通の魔術師だったら無理じゃない?」
失礼な気もするが事実だから仕方ない
「…?何を言ってるんだ?…ああ、そうか」
…?
「…お前は魔法はどうやって学んだ」
「遺跡とか独学とか…」
もちろん嘘だ
「…正直に言おう。お前の魔法は馬鹿みたいに威力が高いが馬鹿みたいにコストも高い」
「そうなの?」
「…ああ、しかし我々の魔法は威力を制限し魔力伝達の効率化を行ってコストを下げている。威力は極端に下がるが適所適所で調度いい威力の魔法を使えるのが特徴だ」
それ以前に魔力の使い方が違うんだけどね
だけどなんとなく分かったよ
オレの魔法ほどの威力は出せないけど彼らは魔法の連射が出来るって事だけは分かった
「…そして今のシャワー陣形だが、日用魔法とは言え炎だ。当たると熱い。それが大量に降ってきたら?」
あまり考えたくはないな
只でさえサウシア圏外のここは暑いのにこれ以上熱い思いはしたくないだろう
つまり日用魔法は牽制にはぴったり…なんだと思う
「…敵を牽制、あわよくば撃退までできるシャワー陣形は対少数部隊には有効的だ。まだまだ国民の少ないサウシアが戦争で勝つには頭を使い、もっとも効率のいい戦い方をしないといけない」
なるほど…イマイチ理解できん…
オレが戦場の方を見るとこちらの魔法が一方的に相手側へ降り注ぎ、相手側が侵攻を躊躇している様があった
「好調…なのかな?」
「…イマイチだな。牽制はしているものの相手が動いてくれなければただの無駄撃ちだ。…フレイム停止!陣形を維持しつつ相手の出方を見ろ!」
「「了解」」
ダークSUNの号令を近場の魔術師が聞くと、次々に伝達が回ってフレイムが止んでいった
な、なんだか急に緊張してきた…
「…戦場を堪能しているようだな」
も、もしかしてオレの心境に気付いて皮肉でも言ってるの?
「…大丈夫だ。彼ら(魔術師隊や弓兵達)はライトの出る幕なんて与えないぞ」
オレは黙って頷いた
「…ん?…まずいな」
「どうかしたの?」
ダークSUNが少し眉間にシワを寄せていたから聞いてみた
「…ライト、あれを見ろ」
オレはダークSUNが指差す方向を見た
土煙だ
「ダークSUN、あれって…」
「…ああ、あの小部隊は我々の戦力を少しでも減らす為の罠だったようだ。早めに止めておいて正解だったな。…弓部隊!矢の準備だ!」
「「了解!」」
ダークSUNの一言で弓兵部隊は一斉に矢をつがえた
「…ライト、お前も準備しとけ。敵は数にものを言わせて突破してくる可能性がある。正直な話、熱いのを我慢して矢を避けて猛攻されたら我々は簡単に陣形を崩されてしまう。これは敵が臆病者であってはじめて成功する戦法なのだからな」
「準備って言ったってどうすれば…」
「…防具は着けてないし魔法でも使う予定なのだろう?だったら適当に魔法でも撃ってウォーミングアップでもしておけ」
なるほど、ウォーミングアップか
俺の魔法はかなり遠くまでまっすぐ飛んでいくものばかりだから射程距離はかなりのものだ
弾道が山なりなサウシアの魔術師達と違う為シャワー陣形に入る事は出来ないが、ずっと遠くからでも強力な支援が出来る
しかも惑星ベジタブルの王子を連想させる連射をしても魔力切れなどしないもんだから薄い弾幕で怒られる心配もない
弾幕濃いよ もっとやれ
…てな訳でオレは右手に炎系魔法のエクスプローション、左手に氷系魔法のアイスジャベリンを込めた
「(それはちょっと強すぎるんじゃないか?)」
「よーし、ウォーミングアップ始めるよー!」
言い終わると同時にオレは両手の魔法を解き放った
魔法はまっすぐと飛んでいき、土煙を上げる敵の後軍へ突っ込んでいった
「ーーーーー!!」「ーーーーー!!」「ーーーーー!!」「ーーーーー!!」「ーーーーー!!」
向こうから被害にあった敵軍から大きな声が上げるのを聞いてダークSUNはこう言った
「…奴等はバリア的なものを張ったようだが防ぎきれずライトの魔法の餌食となったようだ。自国が戦力で優位だから勝てるなどと浅はかな考えを持つからこのような目にあうのだ。ライトも戦場において油断だけはするなよ。奴等のようになりたくなければな」
「う、うん」
確かにそうだ
いくらオレが常人より強くても勝てない相手はいるだろう
それも今まさに
『小国の分際で生意気な』
なんて無茶苦茶な憎しみで形相を変えているであろう敵軍も当てはまるかもしれない
それに怒り狂った人間は何をしでかすかわかったもんじゃないしね
「…射程距離内に敵軍侵入!魔術師隊はシャワー陣形!弓兵部隊は射程距離に自信のある者だけ支援!」
「「了解!」」
「フレイム!」「フレイム!」「フレイム!」「フレイム!」「フレイム!」
あちらこちらで魔法を唱える声にオレは身体が震えあがった
これが異世界なんだ
これが魔法なんだ
これが戦略なんだ
これが…戦争なんだ
最初の少数部隊が散り散りになってフレイムシャワーを掻い潜る
それに続いて先ほどのオレの攻撃を喰らってない連中が散り散りになった少数部隊に着いて行く
「…突破されるぞ!もっと速く撃て!」
ダークSUNの掛け声で魔術師部隊の攻撃は更に激しくなった
しかし敵軍は相当我慢強いのか怯むことなくどんどん迫って来ていた
乗っていた馬が力尽きてもそのまま走って来る様子はもはやホラーだった
なんかさ、頭に懐中電灯を2つくくり付けて『祟りじゃー!』とか『タクミを殺せぇぇぇ』って言い出したらもうあれだよね
「…弓兵部隊!射程距離内に入ったぞ!一斉掃射!」
「「了解!」」
ダークSUNの掛け声で大量の矢が一斉掃射された
「放て!放てぇぇぇぇ!」「早く撃つんだ!」「敵を排除するんだ!」「追い返せ!」
矢は山なりに飛び、そのまま敵軍に届くかと思われた
「「ーーーーー」」
しかし矢は敵軍に届く前に落ちてしまった
「…くそ、厄介だな。奴等全員魔術師だ」
「え?じゃあさっきのって…」
「…ああ、魔法だ。恐らく風属性の魔法で矢の勢いを弱らせたのだろう」
そ、それは厄介だな
「ライト、行けるか?」
…えっ?
…えっ?
「…………」
「…どうした」
「わ、わかったよ。どうすればいい?」
「…好きに暴れてこい」
…うぬぬ
好きに暴れてこいって言われましても…
くそう、こうなったら破れかぶれだ!
「…先頭不能にすればいいんだね?」
「…?…ああ、そうだな。殺すのもよし、気絶させるもよしだ」
ダークSUNにそう言われてオレは戦場へ躍り出た
残像は使わずに敵軍の前線付近に着くとオレはすぐに注目された
敵軍は相変わらずいやらしい笑みを浮かべていた
今の僕部隊といい敵軍といい、向こうの国はロリコン大国なのか?
「とんでもねぇ上玉だ、生け捕りにしろ!無事帰還したら今夜はパーティだぜぇ。うへへ!」
「「じゅるり」」
うわぁ…
こんな奴等にだけはやられたくないなぁ…
オレは目の前の犯罪者達に寒気を感じながら強力な魔法を両手に込め、ライトニングテンペストの時みたいに意味ありげな動きをした
「おいおい、こんなところで儀式か?可愛いねぇ」
「「ふひひ」」
ふふふ、こいつらは達人級の魔法がこんなに無駄な動きが必要だとは気付いてないな?
達人級の魔法は発動まで隙だらけな上、よろめいたらそこで失敗というなかなか酷い仕様だが、この世界でこの魔法を知らない本物の人間は儀式だと勘違いするようだ
お陰で準備は整った
さぁ、動けぬ恐怖に心を震わせるがいい!…なんてね
「『麻痺の嵐』!」
言葉を発すると同時に両手に込めた魔法を地面に解き放った
するとオレを中心として半径十数mくらいの範囲で麻痺の魔法が充満した
範囲内にいた敵軍は汚ない笑みを浮かべたままばったばったと倒れていった
「お、おい、貴様!何をした!」
すると範囲外にいた敵軍の1人がそう言ってきた
オレは演出の為に右手に麻痺の魔法を込めながら残像でそいつに近付くと
「何って言われても1つしか無いじゃないですかぁ。あんたらが喧嘩を売った国は魔法大国なんですよぉ?魔法以外に何があるっていうんですかぁ?」
そう言ってオレはそいつに麻痺の魔法を撃った
そいつは変な形相のまま、まるで棒のように倒れた
演出、大事デス!
タトエ臭イ台詞デアッテモ大事ナノデス!
ああ、色んな漫画を読み漁っていたあの頃の片鱗がががが…
いや、まぁ、異世界だし?ここ異世界だし?別にいいんじゃね?多少病気ってても…いいよね?
「て、撤収だぁぁぁ!みんな殺されるぞぉぉぉぉ!」
敵軍の中の1人がそんな事を言い出した
するとすぐに同じような事を言い出す奴が現れ、やがて連鎖が始まった
こうなっては敵軍に勝機はもはや無かった
倒れたままの味方をほっぽりだし、一目散に自国へと逃げようとする敵軍
麻痺から立ち上がって周りの状況に驚き逃げ出したり降伏したりする者
厨二…ではないが、色々とスパイスのきいた台詞1つでこれとは…。まったくあっぱれな世界だ。超いいね
追撃の様子は無かった
ダークSUNは今回は敵を逃がす事にしたのだろう
砦に戻るとオレは魔術師の人達や弓兵の人達に厚く歓迎された
「女神の帰還だ」
「見た目とは裏腹に頼りになるな」
「あの逆境をよく変えてくれたな!」
「流石は王様から高く評価されているだけはある」
「この国を守ってくれて、ありがとう…!」
「酒は…ダメか。ならなにか美味いものを奢らせてくれ」
「聞きしに勝るな!凄まじい魔法だったぞ!」
沢山の人に囲まれ、沢山の称賛を贈られて困惑していると、ダークSUNがみんなをまとめてくれた
「…そこまでにしておけ。帰ったら宴でもしながらいくらでも話せるだろ?ここ(砦)の警備には酒と肉を送らせよう」
ダークSUNの言葉を聞くと、それもそうだ、それがいいとみんなお互いに頷きあっていた
・・・・・・・・・・・・
―サウシア宮殿
―王の間
戦いが終わった後、オレはロイ王に呼び出されて戦況について詳しく聞かれた
麻痺の魔法については言わないでおいた
あの魔法は危険すぎる
広めるときっとロクな事がないはずだ
…それにしても
今頃兵士のみなさんは宴会でドンチャン騒ぎなんだろうなぁ
オレも酒が飲みたい!
「すまないな、本当だったら宴会の場にいたであろうに」
ロイさん、あなたオレの心境読んでる?
「だ、大丈夫ですよ。美味しいお酒さえ用意してくれればそれで十分です」
ふふ、さりげない反抗
これくらいしといた方がいいよね、たぶん
「バカを言うな。酒は大人になったら飲むものだ」
お、おい…!
あんたは仮にも2回も戦いを勝利へ導くという結構凄い事をやってのけた奴の言い分を子供だからと言ってダメダメと言うのか?
我ながら無茶苦茶だとは思うがオレからお酒を取り上げたらやばい事になるよ?
怒っちゃうよ?ねぇ?大人げなく見た目相応に駄々こねちゃうよ?
「ちょっとだけでいいですから、お酒を下さい」
いやまじで
「もうちょっと大人に…」
「お酒お酒お酒ぇ〜!」
「(やはり子供ではないか…)」
…ぐぬぬぅ
やはり効果なしか
きっとこの王様はいいお父さんになれるぞ、たぶん
「本題に入ろう」
遂には本題に入ろうずと言われた
仕方無い
さっさと終わらせて1人でお酒を楽しもう
オレは黙って頷いた
「活躍してくれたところで悪いが、今回の戦いで我が国とかの国『新エイナ帝国』は完全に敵対国となった」
「へぇ、それは大変ですね」
「あ、後で良いお酒あげるから許してくれ…」
ふふふ
「新エイナ帝国ってなんですか?」
帝国って時点で臭いな
なんかこう、ラスボス臭を漂わせた噛ませの匂いがするというか
今回の戦いは完全に向こう側が噛ませだったから間違いないよね
「新エイナ帝国は最近あちらこちらの国に戦争を吹っ掛けて領土を増やしている大型発展途上国だ。その領土は我が国サウシアの何倍以上と言われている」
敵さんはいわゆる戦争屋ってやつか
まぁ戦略ゲー、RTSゲー、領土マップゲーでも序盤にガンガン領土を増やした方が後に響くからね
戦力、権威、名声
この3つは高ければ高いほど外交で多少の無茶も上手くいく
領土が広ければ戦力が上がりやすくなり、領土が広ければ他国との交流も盛んになり名声が上がる
権威と領土が欲しけりゃ貯まった戦力で適当にどっかの国を潰せば手に入る
良くも悪くも名声も手に入るし一石三鳥だ
とにかく領土は広ければ広いほど良い方のスパイラルが続くわけだ
振り分けゼロ、斧軍拡、斧ラッシュ、奪った都市で図書館を建てたら即ビーカー全振り…って、いつの間にかゲームの話に…。こりゃ悪い癖だな
「…ライトよ、聞いておるのか?」
「…え?…あ、はい。もちろんです」
「ふむ、今日は無理か。それもそうだな。今日はもう休むといい。シェリル」
「はい、お任せを」
「にゃ!?」
オレは突然現れたシェリルさんに抱き抱えられた
「そうだ、部屋に我もよく飲んでいる良い酒を贈っておくからシェリルとゆっくり宴会でもするといい」
お酒くれんの!?
「え?いいんですか?」
「ああ、だがなかなか強い酒だから水かジュースで割る事を薦める」
「では失礼します」
シェリルさんはロイ王に一言告げると王の間から出ていった
いやったー♪
酒が飲めるぞ〜♪
あれ?だけどなんだかイヤな予感がするような
「ライト様、私、結構お酒には強いんですよ。どちらが先に酔うか勝負しませんか?(これは!これはいよいよ私の時代が来る!?ライト様を堪能出来る時代が来る!?)」
これはリアルで酔った美人さんを見るチャンス!?
ふ、ふはは!オレの時代が、オレの時代が来るぞ!ふはははは!
「いいね、だけど見くびって貰ったら困るな。オレも結構酒に強いよ?」
「ふふふ、望むところです」