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ある宗教の話



今回は説明回…なのですが、物語に関わりがあったりするので読んでおくことをオススメします


今回が説明回なので次回は早めに投稿します




「神様はあまり世界に干渉しないんじゃないの?」


まさか重大ななにかが起きたとか?

ふふふ、やっとオレの時代が来たんじゃないかな?


「相変わらず目立ちたがりだな。残念だが問題は無い」


…つまんないのー


「何がつまらないのだ。平和な事は良い事だろう?」


「そりゃそうだけどさ…」


「そうだ。お前の前世はなかなか酷かったが平和ではあっただろう?」


…………。


「まぁそれは置いといて、だ。今回は話しにきた」


「へぇ、神様も暇なんだね」


「そうだな。この世界はわりと平和な方だからな。神が暇なのは良い事だ(今は沸き潰しの仕事の真っ最中だがな)」


「ふーん」


神様って仕事に追われてるイメージがあったけど違うんだね


「追われぬように各世界に最低一体は神が存在するのだ。それでも間に合わない時は暇な神に召集を掛けて対処している」


神様の社会は意外と効率がいいみたいだ


「…お前と話すと話題がずれる」


「しょうがないじゃん。おっちゃんが人の心を勝手に読んで返してくるんだもん」


「それは悪かった。では本題に移ろう」


和やかな空気の中、おっちゃんは話を始めた


「お前はこの世界の宗教については聞いた事はあるか?」


「宗教?」


なんたら教ってのが一番有名って事しか知らないな


最初に飲んだ薬で学んだ事の大半はやっぱりうろ覚え状態だな…


「なんたら教ではない。リスエル教だ」


そうそう、そんな感じの


「この宗教はお前の世界にもあったある宗教と同じくらいこの世界では知れ渡っている。そんな宗教はある程度の知識を持ってないと対処に困るのは解るな?」


なんか響きがあの宗教っぽいから適当に『世界に光あれ!』って言っておけばいいんじゃないかな


「それは宣教師に対する対処法だ。それにお前の思ってる宗教とは大部違うぞ」


全く…と呆れた様子でおっちゃんは続けた


「取り合えずこの宗教の内容について話すぞ」


「うん」


「ではこの世界に散らばっているリスエル神話の1つを話そう」


神話…ねぇ?

まあ神様が話せばなんでも神話になるんじゃない?


「この世界のどこかにある少女が居た」


なんか普通の始まり方だ


「その少女の家族はみんな流行り病に苦しんでいた。いや、その少女の町全体が病に苦しんでいた」


…救ってあげなよ


「少女は神に願った。どうかみんなを救ってくれと」


「普段飢餓や流行り病などで大量の人間が死ぬ事は想定内。つまり放っておくのだが、私は気紛れでその少女の前に現れた」


お前だったのか

…っておっちゃんはこの世界担当の神様だから当たり前か


「頭が悪いのかどうかは知らないが少女はあっさり私が神という事を認めてくれた。お陰で早く少女の願いを叶える事が出来た」


なんかおっちゃんの私情が入ってるような…


「少女は私から力を貰いうけ、その力で人々を救った。そして少女は他の場所でも病に掛かった人々を救い、消えるように去っていった。人々は少女を聖女として崇め、祠や神殿を建てて祀った。…要点をまとめるとこんな感じだ」


…消えるように去っていった?


その少女は生身の人間だったんだろう?


「残像を使うお前が言うか。周りからすればお前も消えたり現れたりしてるのだぞ?」


なるほど、それも少女の力だったのか


「その少女はどんな力を持っていたの?」


「私の能力は存在の心を読み取り、それを力として与えるもの。少女の心は驚く程に汚れのない綺麗な心だった。清き心はどんなものでも浄化するだろう」


なるほど、浄化の力か


「浄化の力もそうだが、肉体の巻き戻しという能力が一番強かったようだ」


「肉体の巻き戻し?」


「そうだ。この能力を使うと怪我をする前、病気になる前まで肉体の状態を戻す事で対象の肉体を健康だった以前の状態にする事が出来る」


凄いな

それじゃあ元々が健康だったらどんな病に掛かっても平気じゃん


「そうだ。逆に元々が五体不満足だったり遺伝子レベルで駄目だったりする場合は無理だがな。五体不満足の場合は初期の成長過程、…つまり胎児の状態まで戻せばなんとかなるだろうが、胎児まで戻してしまうと栄養を取る方法が無いから死んでしまう」


うわぁ、殺人的な能力とも言えるな

悪用されれば大変な事になるんじゃないか?


「その通りだ。その少女が生きていれば誰でも不老不死になれるのだからな。一部の者が少女の能力を擬似的に使う為に能力の効果を調べていたら案の定発見してしまってな。欲に狂った者達はその少女を取り合ったのだ」


「やっぱりこの世界にも私欲が一番なきったない生き物っているんだな」


「ほう?お前はそうでないと?今までに私欲を優先して起こした行動は無いと?」


…うぐぐ、どうせオレは欲まみれの腐れ外道だよ

まさに自分の能力で良い生活送ってるよ…


「お前は自分や自分と同じ種の生き物の醜さを知っている。だから醜い者を見てもそう驚く事はないだろう。なにせ自分の人生を変える程の衝撃を受けたのだからな」


ああ、そうだな…


「しかし少女は違った。前のお前と同じだ。人の醜さを知らない無知なる者だ。お前は1人の者だったから良かったが、少女は大勢の醜態を目の当たりにした」


可哀想だな…

もしかしたらオレの出来事はずっとずっと優しいものだったのかも知れない

どの道許しはしないけど


「自分に優しくしてくれる者からいろいろな者まで。少女の自分以外へ対する考えは変わっていった。人の自我が完全に生まれるまでには個人差があるが、五歳までには完全に生まれる。少女の自我は生まれて10も経たない幼いもの。壊れるのに時間は掛からなかった」


うわぁ…


「自我が崩壊した少女は周りの者達を見境なく赤子に変えていき、そして肉体の限界を超えて滅びた。この話はあまり語られていない真実だ」


赤子に変える?それと肉体の限界になにが?


「赤子に変えるという事は対象の精神を間接的に弄る事になる。直接的に弄るよりはマシだが、肉体に多大な負担を与える事にはかわりない」


「注意ってもしかして…」


先人の痛みを気持ちだけでも分けあって教訓とするって訳か


「その通りだ。むやみやたらに…ましてや怒りや憎悪に任せて力を乱用すればロクな事がない。下手したら身体だけでなく魂まで消滅するぞ」


「そ、そりゃ酷いね…」


魂があれば今のオレみたいに人生をやり直せるかもしれないのに


「ああ、しかし魂が消滅すれば待っているのは虚無だ。何もない所を永遠にさ迷う事になるだろう。もっともそうなれば自我も心も無いから当の者は気にしないようだがな」


…?つまりリスエル教の少女って…


「どうだろうな。虚無という世界があるのは創造神様から聞いた事はあるが、それは魂の消滅した者が行く所。神であっても行けない世界。神だからこそ行けない世界。つまり真相は謎なのだ」


確かにそんな世界に行った人って帰って来なさそうだもんね


にしても、神だからこそ行けないってなんだろう?


「神と呼ばれる我々の存在はお前達と似たような『心』又は『感情』と呼ばれるものを持っている。しかしお前達のそれと我々のそれは似て非なるもの」


…?…?


「神の心はお前達の心と違って喜と哀と少々の怒しか持っていない。だから多少のケンカはしてもお前達のように命を掛けたケンカはしないのだ」


ますます解らない…


「少しは頭を使え…。…つまりだな、神の心が崩壊する事はないんだ。だから虚無には行けない」


…やっとわかったよ

おっちゃんの言う事って少し難しいんだよなぁ


「更に言えば、お前が虚無に行ってしまったら私どころか恐らく創造神様でさえどうにも出来ないのだ」


つまり心の崩壊は永遠の死を意味するのか


でも身体の崩壊とはあまり結び付かないような…


「違うぞ。お前は既に力の使いすぎによる危機察知を何度かしているであろう?」


危機察知?


「苦しくなったり凄く疲れたり吐き気がしたり…とあるだろう?」


……!


「気付いたようだな」


無理して複製した時

残像をし続けた時

モノを創り過ぎた時


そういった時、オレはいつも身体に起こる違和感に襲われていた


「だがそれは初期警告だ。限度を超えるとその程度ではすまないだろう」


オレは背筋がゾッとするのを感じた

あれ以上苦しい事があっては堪らない


「だがお前は自然と力を停止したりいち早く停止させようとしただろう?」


そりゃしない方がおかしい


「心が崩壊する、あるいはそれに近い状態に陥った場合、その者は痛みも苦しみも気にせず力を使い続けるだろう」


「…………。なるほど…」


「それでは何の為にお前を飛ばしたのかわからん(また憎しみの対象を持ったまま死なれては困るのだ)」


なんとなく言いたい事はわかった


「…うん、この世界、今の生活、人間関係…。なんだかんだで気に入ってるんだよね。だから大丈夫」


オレはできるだけ良い笑顔を見せた


「そうか…(人を信じる事は一番リスクが高い。しかしお前には人を信じるという事を覚えて欲しい…。なんとも無茶苦茶だな…)」


少しの沈黙の後、おっちゃんは話し始めた


「宗教国リスエルシアという国がある」


リスエルシア?

なんともヤバそうな国名だなぁ

某宗教だって宗教名そのものを国の名前にはしないってのに


「そうだ。それくらいにあの国はリスエルを持ち上げている」


「それでその国がどうしたの?」


「リスエルシアではリスエル教に関する話が沢山ある。そしてその話の中ではある神がよく出てくる」


まさか…


「そう、アルスフィガーデンの神ハトル。つまり私だ」


そう言えばそんな話を聞いた気がするなぁ


「本当によく出てくるから憶えておくといい(自分達の世界の神を認知しているのは良いことなのだが、ほとんどの説が間違っているんだよな…。神自らが信仰者の前に現れるのもアレだし…)」


「…まぁ行くかはわからないけど分かったよ」


「それならいいが、過激な者達はリスエルシア以外にもいるからな。気を付ける事に超したことはない」


そう言うとおっちゃんの身体がだんだん薄くなってきた


「帰るの?」


「ああ、神は世界の傍観者であって住民ではない。長期滞在は好ましくないのだ」


長期滞在って…多分1時間も居ないぞ?


「本来神が世界に干渉する際はその世界の時を止めてから行う。お前みたいに神が話しかける事は異例なのだ。ではな」


そのままおっちゃんは煙のように消えた


ボカッ


「…………」


消えた筈…なんだがなぁ


そんな事を考えながら俺は眠りについた









「ライトの調子はどうだ」


「はい、今のところ交戦がないのでなんとも言えませんが、相変わらずです」


「そうか」


「………」


「………」


「あの…」


「なんだ?」


「ライトの能力の事ですが…」


「ああ、あれは私がやったのだよ」


「やはりそうでしたか。本来なら残像だけだったのでおかしいとは思っていたのですが…」


「不満だったか?」


「いえいえ、それに今はもう使えないので」


「そうか…」


「………」


「………」


「………」



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