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お祭り




さて、ここの話から公開開始となります


いやぁドキドキしますね

日常コメディを書いてる作者がいきなりファンタジーだなんて…(^^;






「いってらっしゃいませライト様(ああ、私もライト様と行きたかった!)」


「うん、楽しんでくるよ」


「町中で妙な魔法は使わないように。ロイ様のせっかく祭りを壊すなよ?」


「オレも祭りを壊すような特殊な神経は持ち合わせていないよ」


メイドさんもウィザードたんもまるで子を見送る親みたいだね

王宮の外まで見送るなんてさ


「じゃ、行ってきます」


「「(行ってきます?)」」




今日は突然の王主催のフェスティバル


噂を聞いた商人達は大慌てで商品をかき集め、祭りを盛り上げる為に色々な準備をしたとか

少数の物知りな人から噂を聞いた住民もいるようで、女性陣は一夜漬けで己を磨き、男性陣は財布と相談したようだ


既に外は祭り一色で、いつもより賑やかなのはテンションの上がる騒音を聞く限り見るまでも無かった


砂漠の暑さに耐えうる家畜の香ばしい匂いは元の世界となんの代わりもないスッゴく良いものだ


「そこの嬢ちゃん、買ってくかい?」


「え?オレ?」


「そうそう嬢ちゃんだよ」


なんだか人情溢れる感じでいいなぁ…

元の世界でもこんな下町はあるだろうか


「いくら?」


「2本で1G。どうだい?」


「うん、買う買う」


焼鳥みたいなのが1周り2周り大きいヤツが2本で100円と考えるとかなり安いよね


「ほら、落とさないようにな」


おお、実際に持ってみると重量感もあって大きいな


「なんだか凄く安いね」


「だろ?本来は1本1Gなんだが、たまーに気まぐれでオマケしてるんだ。運が良ければ他の所でもオマケしてくれるかもな。ささ、楽しんできなさい」


「はーい♪」


うん、子供っぽく振る舞えたかな?

オマケされて喜ぶ幼女の図…いいね!


公共の祭りとか花火大会ってあまり行った事なかったけどやっぱりかなり楽しいよね


この串焼きもおいしいし、今日はなんだか良い日だね




サウシア憩いの場である噴水付近に来ると、子供が沢山いた


サウシアは広大な砂漠の中に出来た国だが、オアシスに置かれた魔道具によって大勢の人が住むのにも問題ないレベルの水や自然があったりする

その為国の中では砂ぼこりは発生しない


更にサウシアの特殊な魔法のお陰で汚染された水はすぐに真水に出来るから水には困らない


ってロイ王が言ってた


まぁそんなこんなだから砂漠の国だってのに贅沢に噴水を建てられた訳だ


そう言えばこの噴水の付近には大人を見掛けないけど…どうしたんだろう?


なんて考えていたら4、5人くらいの子供達がオレの方へやってきた


「ねぇ、君も俺らと一緒に来ない?」


子供達の内の1人のいかにもみんなを引っ張っていくリーダー的な子供がオレにそう言ってきた


「君?もしかしなくてもオレの事だよね」


一緒に行く…。遊ぶって事かな?


「そうそう、で…一緒に遊ぼうよ」


そう言えばロイ王が言ってたな

子供と遊んでこいって


「うん、いいよ」


オレが了承の旨を伝えると子供達はなんだか凄く嬉しそうだった

こうも喜ばれるとこっちも嬉しくなりそうだ


「俺ルイス!君は?」


名前の事かな?


「オレはライト。そう言えばここに居るのってみんな子供ばっかりだよね。親は何処かに行ったの?」


「まぁ何処かに行ったな。俺達の母親はみんな祭りのバーゲン、父親は飲み歩き、そんで邪魔にならないように俺達は祭りにはここに集まって子供だけで祭りを練り歩くんだ。ってライトはその類じゃないの?」


こっちにもバーゲンはあるんだなぁ

祭りは家族で見て回るって聞いてたけどあれは迷信だったのかな?


「オレの親はもう死んじゃったからね」


「「…………」」


おわ、空気が重くなっちゃった


「だけどその分たくましくなれたし、ルイス達よりずっと大人だよ」


「俺より小さいのに」


うぐ…痛い所をつかれた


確かに俺は130だか140だかのミニマムガールだが…


「そ、それはそうと何処か行かないの?」


「…そうしたかったんだけどな。今回の祭りは急だったろ?だからみんな前もって小遣いを貯める事が出来なかったんだ」


なるほど、急に催しものを行うとこういう事があるのか…

これは後でロイ王に言っておかなきゃな


祭りは急にやるもんじゃないって


しかしお金か…

オレは結構な大金を持ってる訳だが、ここで助けるのはよくないな


…いや、今日は祭りだ。子供達には笑顔をお届けするのが大人の務めなんじゃないか?


「ふ、では諸君にオレが大人だと言う証拠を見せてやろう!」


取り合えずオレは純銅のGを出した


これには1000円くらいの価値がある

子供からすれば1000円は大金なのだ


…いや、まあ調子こいて銀のG(諭吉さん1人分)なんて出したら…ね

見た目相応に振る舞えって言われてるしオレみたいな小さい子が一万円なんて持ってたら確実に怪しまれる訳でして…


「純銅だ!かっけー!」


子供にとって野口さんは英雄だ

5000円の人は第2の母だ

諭吉先生は神だ


そして節約家だったオレにとってもそれは当てはまる


しかしそんな人が大金を手にすれば無駄遣いしちゃうのは仕方無い事である


そんなこんなでオレは子供達に純銅を二枚ずつ渡した


「も、もしかしてくれるのか?」


ルイス率いる子供達はメチャメチャ目を輝かせてこちらを見ていた


しかし本質的なところはケチなオレは条件を出す事にした


「いいよ。でもその代わり、今度は逆にオレが困ってた時は助けてね。助け合いは大事だからね」


「ああ!その時はみんなでライトを助けるぞ!」


もちろん相手は子供だ

期待なんぞしちゃいない


そもそもオレがお金で困る事は無いし、これから困る事があるとも思えない


あるとすればまだ女の子の体に慣れてない事かな

ホント風呂の時とか罪悪感が凄くて凄くて…


「この祭りは王様が言って出来た祭りだ。でも俺達はライトが居なかったら祭りもクソもなかったと思う。この祭りはライトのお陰で出来るんだ」


そういってルイスはオレに手を差し伸べてきた


「早く行こうぜ。みんな売り切れちゃうからさ」


ルイスを含め子供達はみんな笑顔だった


…そうだな、オレにロイ王、しぇんぱいにウィザたんにラミスさんに志願兵のみんな

今回の戦争で戦う人はみんなこういう子供の笑顔を守る為に戦うんだよな…


いい国じゃないか、サウシアって

オレの故郷は表の顔から裏の顔まで暖かかっただろうか…





ルイス率いるオレ達一行は色んな店で何かを買い、何かを食べ、そこら辺を歩いていた


そんな時にちょっとした…いや、ちょっとでもない事件が起きた


「おいそこの子供達!逃げろ!」


「え?」


ルイス達は何がなんだか分からないといった様子でキョロキョロしていた


そしてオレは上を見た


「…!?」


上から角材が降ってきたのだ


しかももうヤバい辺りまで落ちてきていた


「みんな!ルイスに寄るんだ!」


オレがそう言うと子供達はみんなルイスのそばに寄った


アドレナリンやら何やらが沢山分泌されてるのか、オレの脳内は高速で働いた


『魔法は使うな』


くそ!他に手は?


…あ、そうだ!チートナイフがあった!

これで角材を真っ二つにしてうまくかわせば…


「とりゃああああ!」


オレは無心で飛んで角材を切り裂いた


人間離れしたジャンプで飛び上がり、その後は謎の職人芸で角材をスライス状にした


すたっ


「ふぅ、危なかった…」


「「おおおおおおお!」」


その後すぐに拍手喝采が起き、オレは目撃者の質問責めにあった


もっと目立たずに出来なかったのかと思う頃にはすでに時遅し


鰹節みたいになった角材がふわふわと降りてくる光景が一番印象的な時間となってしまった





時は既に夕方


本当の祭りはこれからという時間帯だが、子供はそろそろ帰らなきゃいけない


ルイス以外の子はみんな親が連れ帰っていって、残ったのはオレとルイスだけだ


そんな虚しさ募る中で、オレ達は再び噴水の所へやって来て色々話していた


「昼間のライトは凄かったなぁ」


「そ、そうかなぁ…」


アレは我ながらやり過ぎたと反省してるよ…


「ライトの持ってたナイフってあんまり切れない銅製のナイフだったよな。あのナイフであの角材をスパパンスパーン!だもんな。ライトって凄いな」


違うんです…

ナイフが強いんです…


「なぁ、ライトって何処の国から来たんだ?」


「えっ?」


な、なななんでそれを!?


「その赤い目。生まれて初めて見た。やっぱり外から来たんだろ?」


「…まぁ…そうかな」


子供って凄いな

賢い子供はホントによく人を見ている


「その髪も地毛だろ?」


「地毛?確かにそうだけどなんで?」


「サウシアに金髪の人はいないからな。いたとしても貴族がオシャレ気分で染めただけだ」


…うーん、よくよく考えてみると確かにサウシアには金髪の人は居ないな


ロイ王を含めほとんどの人が茶髪でごく少数が黒だったり青だったりしてたな


ちなみにルイスはキレイな黒、VIPメイドさんは爽やかな青だった


「ルイスは外人は苦手か?」


「まだライト以外の外国人は見た事がないから分からない。でもライトは良い外国人みたいだね」


良い外国人…か

確かにこの国を救おうとしてるし良い外国人なのかもしれない


じゃあ悪い外国人は大国の権力者達なのかな?


「ルイスは外の世界の話聞きたい?」


外の世界と言ってもオレが知ってるのはこの世界の更に外の世界の話だけど


「聞きたい聞きたい!サウシア以外にはどんな所があるのか知りたい!」


ルイスの顔は誰が見ても輝いて見える程にキラキラオーラを漂わせていた


ま、参ったなぁ…

聞きたい?なんて言っちゃったけどこの世界だとサウシア以外知らないや…

薬で覚えた情報もすぐに忘れちゃったみたいだし…


調子こいた事は言わない方が良いなぁ


「それはねぇ…」


「ルイス〜!帰るわよ〜!」


「げ…母さんだ。ごめんなライト。俺んち時間厳守なんだ。また今度会えたら聞かせてくれよな!」


「あ、うん…」


ルイスはそのまま母親の所まで走って行ってしまった


「…助かったぁ」


ルイス母GJ!

すこぶるGJ!


「…でも、ちょっと寂しいかな?」


人間不審なオレにとって純粋無垢な子供は一番心を開いて話せる相手だ


…と、遂に1人になってしまったがどうしよう


そうだ!夕方から夜にかけては大人の時間

つまりお酒やらなにやらが売店の主流になる筈だ


ケチで節約家のオレもお酒の誘惑だけには弱くて高いお酒もついつい買ってしまう癖があった


そんなオレが酒と聴いて黙っていられるだろうか?

答えは否、無理な話である





とあるBARにて



「お、お嬢ちゃん?大丈夫かい?」


「ん〜?何が〜?」


「親御さんは居ないのかい?」


「親御さん〜?随分前に死んじまったよ〜。いまオレ酒飲んでるうん酒飲んでるうめー!」


「(こりゃ完全に酔ってるなぁ…)おい誰が冷たい水を持ってきてくれ!それとこの子の親御さんを探してくれ!」


「おっちゃんもっと酒くえよ〜」


「悪いなお嬢ちゃん。金は持ってるようだがこれ以上はお嬢ちゃんの親御さんに申し訳ないからな。これでおしまいだ」


BARの店主はライトに水を差し出した


「ん〜?なんだか飲みやすそうな薄さだな〜。オマケに臭いもしない。なんだろう…」


ゴクッゴクッ…


「はぅあ!?つ、冷たい!あああ頭がいたい!割れる割れるぅ〜」


「(それもそうだろう。店主である私自らが魔法で作った極寒冷水だからな。どんな酔っぱらいもこれで吹き飛ぶ筈さ)…すまんなお嬢ちゃん」


ライトが悶絶している中、店の外から市民がある人物を連れてきた


「オヤジさ〜ん!お嬢ちゃんの父親と名乗る人を連れてきたぞー!」


その人物は背丈の高い銀髪の青年だった


「すみませんなぁ…。勘定は要りませんからお嬢ちゃんを安静にしてやって下さい」


「…そうか。迷惑をかけた様だな」


その青年は純金貨を一枚置いてライトを背負い出て行ってしまった









「………ううぅ〜」


「…気が付いた様だな」


…あ、頭が痛い…


「…身体年齢も考えずに酒など飲むからだ。子供はミルクでも飲んでればいい」


「あんた…だれだ…?」


やっと視界もよくなってきた…

しかし誰だこいつは?

銀髪に黒い衣…うーん、わからん


「…ロイ王の回し者だと思ってくれればいい」


「そうか、あの王の回し者か…。何か言ってた?」


「…お前の見張りを頼まれた。見張りと言っても危なくなったら助けろと言われただけだが…」


「ふーん。…王宮で見掛けなかったな。名前は?」


なんか怪しいなぁ…

ロイ王をロイ王呼ばわりだし忠誠心はあまりないみたいだが…


「…お前が来るような場所に俺が居なかっただけだ。名前は無い」


「名前が無い?名称は?」


「我が主は黒陽と名付けて下さった」


黒陽?

鍵とか金庫とか文房具の?


それに我が主って事は…


「…1つだけいいか?」


「ん?…!!?」


シュンッ

パッ

ドーン

パリンッ!



黒陽は突然火の玉をオレに向かって撃ってきた

それをオレが魔法の盾で受け止めた


火の玉は威力が強いのか魔法の盾は限界耐久力をこえて消えてしまった


「あ、あぶねぇ…。な、何するんだよいきなり!」


「…手合わせ願おうか」


「て、手合わせって…」


「…ではゆくぞ」


黒陽は3つ程の火の玉をオレへ向かって撃ってきた


さっきの威力をみる限りじゃこれは片手じゃ防げないようだ


オレは魔法の盾を両手で展開し、なんとか防いだ


「…見た目よりは出来るようだな。ならこれはどうだ」


今度は多種多様の玉を20つくらい出してきた


おいおい…すでにロイ王より強いんじゃないか?


「…本気でやらないと死ぬぞ」


黒陽はその大量の玉を一斉に撃ってきた


ちょっとこんな小さな子になんて事を…


パッ

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドーン!


あの程度の魔法が束になったところで魔法の盾の上位魔法、魔法の壁を崩す事は出来なかったようだ


「…ロイ王よりは強いようだな」


「今度はこっちの番だ!」


ここは人もいない様だ

恐らく国の外なのだろう

それなら無茶してもOKって訳だ


ガンガン攻めるよ!


「…変わった魔法だな」


オレが両手に込めているファイアボールやアイスジャベリンを見て黒陽はそう言った


魔法国のサウシアでもなかなか無い攻撃魔法を沢山持ってるヤツには言われたくないなぁ


「これ、当たったら死ぬよ?」


「…そうか」


オレは魔法を解き放った

撃っては込め撃っては込めの繰返しはまるでベジタブル王子の気弾ラッシュを連想させるものだった


こういう時はこう言うんだよね


あーたたたたたたたたたあたぁああああ!

…ふん、大したこと無かったぜ


何ですか今のは?


ダニィ!?


ってさ

…あ、まさかオレも…


「…確かに強力な魔法のようだが、精度が悪いな」


あ〜やっぱり?

気弾ラッシュは尺稼ぎの定番だからね…

やっぱ大技で倒すのがどの世界でも王道のようです


「…次は俺からいくぞ」


シュンッ


「なっ!?」


黒陽は一瞬でオレの所まで間合いを詰めてきた


そして蹴る体制に入った


「ドラゴンスケイル!」


ガッ!


「うわぁぁぁぁぁぁ!」






(※ドラゴンスケイル

物理攻撃を80%シャットアウトする物理攻撃に関しては最強の防御魔法

しかし衝撃は防げないので吹き飛ばされます)







ライトに見える傷が無いあたりはドラゴンスケイルがちゃんと機能してると見ていいだろう

しかし黒陽の蹴りはかなり威力があったようで、ライトは勢いよく飛ばされてしまった


その拍子にライトは気を失ってしまい、眠ってしまった


「(戦闘能力は皆無か。まだ力を使っていない様だったな。恐らく守る事しか頭に無かったのだろう)」


黒陽はライトとの戦闘でライトの基本的な戦闘能力を考察した


「(酔っていたというのもあるが、あまり頭はよくないようだ。相手が頭のキレる奴だったら辛い戦闘を強いられるだろう)」


ライトがあまり頭がよくない事も見抜いたようだ


「(しかしおかしい。こんな娘がロイ王より強いとは…。最近のロイ王やカースジックの魔力は人の枠を越えた。そしてこの娘はその2人よりも強かった。…見たところ唯の人間の様に見えるが…)」


黒陽はライトがイレギュラー的な存在だという事に勘づき始めた


「(…今はあまり考える時ではないな。それに夜の砂漠にこんな小さい子を寝かせたままというのはよくない)」


黒陽はライトを軽々とお姫様抱っこした


金髪の幼女をお姫様抱っこする黒い衣を纏った銀髪の青年という絵図はなかなか魅れるものであった










この銀髪の人の名前…

はい、凄まじく厨二病です


まぁ凄まじく厨二な人生を歩んでいるキャラなので仕方ありませんね

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