勝者の権利
家の中だとよくやられる体勢であるが、ここは外……じゃないけど、周りには大勢の人がいるからまずい。
「とりあえずリサ、どいてくれないか?」
「や、です……と言いたいところですが、TPO的に問題がありますし、兄さんはその姿ですからね」
退くよう要請すると、渋る素振りを微妙に見せながらもあっさり退いてくれる。
「ふぅ、早かったな……と言うか、早すぎだろ。十分どころか一分も経ってないぞ!?」
「ふふ、私が兄さんを見つけられないなんてあり得ませんよ。何度迷子になった兄さんを保護していると思っているのですか?」
「いや、それにしても早すぎ。それに現実とは違う姿て、後ろからだったのに……」
「? 後ろ姿や、姿が変わった程度で兄さんを見て、兄さんだとわからないなんてあるわけないじゃないですか。おかしなことをいいますね?」
おかしいのは俺なの? 違うよな?
あまりにも真顔で言うから一瞬、俺の方が間違っているんだと思ったぞ。
と言うか、リサは姿以外の何を見て俺だと判断したんだよ……。
「はぁ……、とりあえず、いきなりタックルするのはやめてく……」
起き上がりながらリサに注意をしていると、ふとにあることに気付く。
「なぁ、リサ……お前、後ろからタックルしてきたのに何で俺は仰向けだった? そもそもタックルされたのにまったくそれに気付けなかったのは……」
「もちろん私が気配を消して接近し、転んでいる最中に仰向けになるようにひひゃきゃりゃでふ」
「本気過ぎるだろっ!」
わりと予想通りの答えが返ってきたからいつも通りお仕置き。
「……いひゃく……はないですね」
だが、この程度なら攻撃と認識されないのか、まったく痛がる様子がないので頬から手を離す。
「……むぅ、痛みがないのは少し淋しいものがありますね。
まぁ、本気になりますよ。知ってますか、兄さん」
「何がだ?」
「幸運の女神には前髪しかないことを」
「ああ、確か逃げられたら捕まえるのが難しいから、チャンスが来たらすぐに拾わないといけないって意味……」
……あ、
「ええ、ですから見掛けたら即座に麻酔銃を連射して背後から狙い撃ちにするんです」
「それはずっと前に爺さんが言ってた頭のおかしな理論だろ!」
確かにそれくらいの強引さがあったけどな!
「まあ、それはさておき、兄さん」
「あまりさておきたくはないが、なんだ?」
「賭けは私の勝ちですよね?」
「まぁ、そうだな」
何でも言うことを聞く約束だったが、常識の範囲内でってつけといて正解だったな。この様子だと何を要求されたかわかったもんじゃない。
「それじゃあ、今その権利を行使します」
「早速か、ここでできることなのか?」
現実じゃなくて『ダァ!』の中でもできることか。あまり難しいことじゃないのか?
「ええ、むしろここならできることですね」
おっと、ビミョーに雲行きが怪しくなったぞ。
「その、ですね。いつもの…………本来の姿でプレイしてくれませんか?」