初ログイン
「ごちそうさま」
「お粗末さまです。美味しかったですか?」
「ああ」
いつもながらリサの作る料理は美味しい。たかがおにぎり程度で何を、と思うかもしれないが、俺が好きなのは具のない塩むすび。具がない塩と海苔だけの味付け故に、ごまかしが効かないのに、過不足なく俺好みの味付けなのだ。
顔を洗い終わり、さっぱりしたところで時間を確認すると、あとほんの少しで十時となるようだ。
「よし、そろそろ時間だな。
俺のキャラネームは名前と同じ『リン』でIDはこれな」
「私のはこれです」
IDは口頭だと伝えにくいので紙に書いて交換する。
リサのキャラネームは、
「『アリサリア』か……」
「はい、いつも通りリサで呼んでくださいね。すぐに兄さんを見つけてみせますから」
「なら、ちょっと賭けるか?」
「賭け、ですか?」
「ああ、一時間以内って約束だったけど、十分以内に俺を見つけられたら俺が何でも…………常識の範囲内で言うことを聞く。逆に二時間以内に見つけられなかったら俺の言うことを聞く、って感じで」
「いいですね、俄然やる気が出ました」
「よし、それじゃあ時間だしいくぞ」
十時になったので、二人でベッドに寝転がり──
「起動!」
同時にDDDを起動する。
「ここが『ダァ!』の世界か……」
タイトル画面を経由して、『ダァ!』の世界に降り立つ。ログイン制限がある所為か、サービス初日ながらもスムーズにログインできた。
今までいくつかのVRゲームをやって来たが、リアルさが段違いだな。さすがは専用機。
周囲を見渡すと、誰も彼もが俺と同じように周囲を眺めていたり、手をグーパーして挙動を確認していたりとDDDの使い心地を確認している…………なんてことはなく、
「急げぇぇぇぇ!」
「とりあえずお前はポーション確保、俺は防具を見てくる」
「誰か、一緒に初心の森に行きませんかぁ~?」
どこかへと猛ダッシュしていたり、知り合いと合流したり、呼び掛けをしたりしている者が多数いる。
コイツらはβ組か、wikiで情報を仕入れた奴らだな。猛ダッシュしている奴は美男が多いので、おそらく減少補正の分をスタートダッシュで補填したいのだろうな。
ちなみに極端な美男美女は多くないが、だいたい整った顔をしているので、減少覚悟である程度いじっているらしい。あと、色補正だと減少補正がないので色白か色黒な肌や、カラフルな髪が多い。
さて、俺も何かするかな。リサが捜しているが、別にじっとしているなんて言ってないからかまわんだろ。賭けは俺の勝ち……っつーか、負ける要素が無い。せめてもの情けとして、この最初の町には居てやろう。
「兄さん見つけましたっ!」
「うぉっ!?」
内心、余裕ぶって歩き出そうとしたその時、突然背後から声と共に衝撃が来る。衝撃自体は大したことがないのだが、歩こうと体重移動をしていたためバランスを崩し転てしまう。
「痛…………く……はないな」
目まぐるしく変わる視界が落ち着き、青い空が目に映る中、転けた痛みに耐えようとしたが、どうも痛みがあまりない。
……ああ、現実じゃなくて、VRだったな。それに町は戦闘不可区域のハズだし。
「…………それより、何が……」
ん~と、確か衝撃が来る前に『兄さん』って…………ってことは、
「リサ?」
「はい、約束通り十分以内に見つけましたよ」
丁度腹の辺り重みがあるので目を向けながらリサの名前を出すと、そこには、肩の辺りで切り揃えられた黒髪に青い瞳で小柄な女の子──現実のものと寸分違わぬリサの姿があった。…………ただし、俺の上に馬乗りの状態で。