前へ
32/32

熟練度

「はぁ……、マジこのバカ捨てていきたい」


「いや、捨てるて……」


「そうしたいのはわたしも同じですが、我慢しましょう」


 あまりのバカさ加減に本気で捨ててこうか考えていると、リサが半ば同意してはいるが、意外なことに最終的に反対してくる。

 

「捨てるのに反対か?」


 リサならノータイムで賛成すると思ってたんだが……。


「どうしてもと言うなら是非もありませんが……樹が増えてきましたし、そろそろこのこのエリアのボスが出てくるかも知れません(・・・・・・・)ので」


「ああ、なるほど」


 樹が増えてきたのはボス出現場所の目印で、肉壁にするためか。……ん?


「出てくるかも知れない(・・・・・・)ってどういうことだ? 普通、街と街の間に居るようなボスというのはわりと強制的に戦わなきゃいけない相手じゃないか?」


「このゲームの場合だと街を繋ぐ道は複数あって、ボスが出現するのはランダムなんです。まぁ、絶対倒さないといけないなら生産職プレイヤーは苦労しますしね。

 ちなみに倒す度に他の道で復活リポップするので常にどこかの道にボスが存在します。

 道の種類としては遠回りだけど採取ポイントが多い道、モンスターも採取ポイントも道の長さも平均的な道、近道だけどモンスターの多い道、遠回りでモンスターも採取ポイントも多い道の四種類で、言った順にボスの出現率は高くなって行きます。わたしたちがいるのは平均的な道ですね」


「あとな、道よって強さも変わるんやで。出現率の高い道ほど強いんや」


「まぁβの頃のままなら、という前提条件がありますけどね」


 なるほど、生産職プレイヤー向けの道はいない可能性が高くて、近道や稼ぎ用の道だと出現率が高いのか。


「ここのボスは何なんだ?」


「確か西は……ヴァインドールという木の蔓でできた人型モンスターが数体出現だったはずです。植物系草花モンスターなので鎌や火による攻撃がよく効きます」


「……鎌か。使えんことはないが……今回はやめとくかな。訓練場でしか使ってないし」


「わいは武器は木刀これやし、属性は地なんやけど」


「木製武器と地属性って、植物系と相性最悪ですよ。よくそれで西こっちに来ようと思いましたね。せめて他の武器はないんですか?」


「ないなあ。木刀一筋やったから、木刀以外の武器は熟練度が足りひんし、TPも割り振ってないわ」


 アーツ習得するにはスキルレベルが上がる際に手に入るTP(テクニック・ポイント)を割り振る必要がある。だが、武器には隠し(マスク)データとして熟練度というのがあり、これが足りないとTPを割り振ることができないのだ。

 例えば《斬撃武器スキル》を持っているが、片手剣しか使っていない場合、両手剣や双剣にTPを割り振ることができない、といった具合だ。

 俺とリサが戦う度に武器を替えているいるのもこれが理由だ。ちなみに、《全武器適性スキル》はレベルアップの際に手に入るTPは対応武器の数の関係で他の武器スキルに比べると大量なのだが、実は対応武器数に比べると少ないのでこれも不遇な理由になっている。


「一極特化と言えば聞こえがいいが……馬鹿だろ。

 ある程度プレイスタイルを特化するのはMMOの基本と言えば基本だが、その場合は相性の悪い場所には近付かないか、相性が悪くても対応できるように……」

 

「あ、だから」


 ん? だからって何だ、リサ。…………あ。


「…………まさかお前、だから俺たちと一緒に来たのか」


「……てへっ」


 この馬鹿、俺たちに寄生して来やがった!


「よし、リサ。捨ててくぞ」


「……残念ですが兄さん、少し遅かったみたいです」


 馬鹿を捨てていくことを決めたが既に遅かったようで、リサの視線の先には緑色の人型モンスターが四体ほど居た。

スキル解説《耳系スキル》


《耳ピク》

音の方向を正確に捉えるスキル。このゲームでは可聴範囲は通常の場合は前方に偏った卵形なのだが、このスキルを持っていると真円になる。


《長耳》

遠くの音を捉えるスキル。可聴距離は伸びるが、聞き取り能力は変わらない。


《短耳》

聞き取り能力が上昇するが、可聴距離は変わらない。最初のうちは硬貨を落とした音と他の金属音を聞き分けられる程度だが、そのうち10円硬貨と100円硬貨の音の違いすら聞き分けられるようになる。


他にも高音域(超音波)を聞き取れたりするスキルなどがある。

ちなみに耳系スキルには共通して三半規管を強化する隠し効果があるので、乗り物酔いや重力攻撃に耐性がつく。

前へ目次