鑑定
「すみません、薬草は未鑑定の物しかないのですが……」
「あぁ、いいぜ。植物鑑定ならできっからよぉ。とりあえず見せてくんな」
「はい。
まぁ、こういうことです。兄さん薬草を全部出してください」
「あ、ああ」
薬ではなく薬草を求めるということは、薬草の扱いに慣れたNPCである可能性が高く、その場合、鑑定を使える可能性が高いということらしい。
「ん~と、こんなもんだな。これだけ貰っていいか?」
「いえ、こちらをどうぞ」
差し出した薬草を鑑定し終えたNPCは、その中からLP回復効果のある癒草を二つ選んでそう言うが、リサは断って、NPCが選んだものよりも品質の良い癒草三つと、痺草を渡す。
「俺が選んだのより高品質だし多いけど、いいのか? それに何で痺草まで?」
「ええ、構いません。痺草の方は多く渡した癒草と合わせて痛み止めにしてください。
それとお水です
この娘の汚れは私が拭っておきますから、あなたは薬を作ってください」
「何から何まですまねぇな」
そう言うと男は肩に掛けた鞄から調薬道具を取り出して薬を作っていく。
「ほれ、ね……兄ちゃん、先にこれを飲ましてやってくれ」
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アネスポーション 品質:5
痛覚を麻痺させ、痛みを感じなくさせる薬品。
痛みを感じなくなるだけで、LPは回復しない。
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男が渡してきた薬を見てみると、どうやらリサが言っていた痛み止めのようだ。
「ああ、わかった。
お嬢ちゃん、これを飲みな」
「う、うん、おね……お兄ちゃん。
んっ、う~、にがぁい」
……この娘、いまお姉ちゃんって呼びかけてなかったか? あっちの男も姉ちゃんって言いかけてたっぽいし。ちゃんと男型のアバターだよな?
古いVRゲームだと脳波や外見から性別がきちんと認識されないってこともあったらしいけど、今はそんなことはないし。確かステータスでも性別は男になってたはずだ。
「それ飲まねぇと、痛ぇから我慢して飲みな」
「はぁ~い」
女の子が一口飲んだ薬が苦かったので、二口目を飲まないでいると調薬をしている男が飲むよう促す。
ちなみに、このゲームの薬は基本的に苦い。
初期売りのポーションがマズイのはVRMMOのテンプレの一つで、β時代には果汁を混ぜた、これまたテンプレの『ポーションジュース』を作ろうとしたプレイヤーもいたらしいがものの見事に失敗。何でも果汁を混ぜたら毒ガスが発生したらしい。
……塩素系と酸素系の漂白剤かよ。テンプレ潰しにしても他にやりようがあったろうに。
その結果、未だにポーションはマズイままとのこと。
「じゃあ、身体を拭くからじっとしてね」
「うん、お姉ちゃん」
女の子がアネスポーションを飲み終わったのを確認すると、リサは水と布をインベントリから取り出しす。そして、まず軽く砂汚れを払ってから布を少し濡らして女の子の汚れを拭い始めた。