前へ次へ
22/32

薬草


 このゲームでは空腹度や渇水度というパラメーターもあり、それによってステータスが変動する仕組みになっている。そして飲料系アイテムは渇水度の回復アイテムで、水もその一つ。水は下級の渇水回復アイテムで、チュートリアルクエストの報酬の一つだったし、野うさぎ狩りの行きと帰りで採取していたアイテムにもあったので、今ちょうど持っている。

 とはいえ、俺たちは《全属性適性》があるので水魔法を使える。だから節約のために水魔法を使おうと思ったのだが、その前にリサがNPCに対して質問をしていた。


「水ですか。用途は何ですか?」

 

「リサ? 用途って何を……」

「こいつ汚れちまってんだろ、だから拭いてやんだよ。ちっとばかし怪我もしてっしな。薬草もあったらもらえねぇか?」


 当たり前のことを、と続けようとしたが、それを遮るようにNPCが返答する。


「こういうイベントだと、当たり前だと思えることでもきちんと質問した方がいいんですよ。そうすると追加情報がもらえたりしますから」


「なるほどな」


「この場合だと、まず必要なのはある程度きれいな水アイテム」


「まぁ泥水はダメに決まっているわな」


「ええ、そんなものを渡すとイベント失敗なりますね。NPC好感度もかなり下がります」


 たいていのVRMMOではNPC好感度というものが存在する。これの高低でイベントの有無や進行に影響があり、クエストやイベントをこなしたり、プレゼントをしたりパーティを組んで冒険するなどの友好的な交流を持つことで上昇し、クエストやイベントを失敗したり盗みや暴力など敵対的な交流で下降する仕組みになっている。

 ちなみに中期頃のVRMMOでは現実リアルの人間並に感情豊かで、対応も現実の人間同様にしなくてはいけなかったのだが、『人間相手ならともかくNPCにまで気を使いたくない』『遊ぶためにゲームやってるんだけど』など、軽い気持ちでゲームを(ライト)楽しみたい層(ユーザー)には不評らしく、近年では敢えてNPCをリアルにはしていないものが多い。…………このゲームはどっちなんだろ?


「ポーションじゃダメなのか?」


「う~ん微妙ですが、たぶんダメです。傷薬とか回復アイテムと言われたのなら、できるだけ質のいいポーションの方がいいのですが、今回は薬草と指定されましたから」


 薬草はポーションの素材になるアイテムで、これ自体も回復アイテムなのだが、回復量が低く、しかも安定性に欠けるのだ。その上……


「薬草は未鑑定のが多いぞ」


 ドロップや採取アイテムは鑑定しないと効果がいまいちわからなかケースがある。

 その場合、アイテム名が『薬☆草』や『YAKUSOU』、『約草』とか『焼く草』なんてふざけた感じになり、俺たちの持っている薬草もそんなものがほとんどだ。……と言うか、最後の二つは本当に薬草なのか? 視力系スキルのいくつかにはパッシブ効果で《自動簡易鑑定》っていうのがあって、少しだが鑑定できているので薬草系アイテムというのは間違いないんだが……。ちなみに、ちゃんとした鑑定は《感覚拡張スキル》+《知識スキル》で開放されるアーツだ。


「さすがにこれを適当に渡すのはだめだろ」


「まぁ、薬草系アイテムには毒草の類いも含まれていますからね」


 毒草が薬草カテなのはどうなんだろうな? いや、現実的に考えればわりと真っ当なんだけどさ。

 未鑑定アイテムは一度使えばある程度効果がわかったりする(ただし、確実にわかるわけではない)ので、いわゆる漢鑑定が可能なのだが、その無駄に現実的な仕様の所為でやりにくい。俺も一度やってみたが、見事にハズレの『痺草ひぐさ』という麻痺効果のある草だったのでしばらく動けなかった。



「もしかしたら、このままでもいけるかもしれません」


 どうしたもんか頭を悩ませ、サウザーに盛って鑑定してみるかと考えていたら、リサがそんなことを言い出した。

スキル解説《感覚拡張》・《知識》


『感覚拡張』

 《感覚拡張》は視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感と第六感を拡張するスキルで、《目力》や《耳ピク》がこれに含まれる。

 初期状態で取れるスキルは一次スキルで、第六感を拡張するスキルは二次スキル以降のため、現在これを取得しているプレイヤーはいない。

 ちなみに、各感覚の万能スキルは存在するが《感覚拡張》の万能スキルは存在しない。



『知識』

 《知識》は生産・製作や採取など色んなスキルの補助スキルカテゴリ。

 レベル上げは本を読むなどして『知識を蓄積する』という独特の方法。

 鑑定のアーツを取得するのに必要なのだが、鑑定はNPCショップでやってもらえる上に、補助スキルなので効果を実感しにくい。また、レベル1の『知識を蓄積していない状態』では何の効果もなく、βの頃に『地雷スキル』の烙印が捺されてしまったため、取得者が少ない。

 ちなみに《知識》スキルのレベルが高いと生産・製作の成功率や採取のレアドロ率、モンスターとの戦闘時のクリティカル率などが高くなる。


 《植物知識》や《動物知識》、《鉱物知識》などがある。ただし万能スキルは存在しない。

前へ次へ目次