リンの特殊能力

「相変わらずリ……アリアちゃんはきっついなぁ～。そんなツンツンせんでもええやん」

「ふん、兄さんに手を出そうとする男は嫌いです」

「手を出そうとするて、んな人聞きの悪い。あれはリンのことを女や思うてたからやし、今はそんな気ぃなんて見せてへんやろ」

「兄さんを油断させる罠かも……」

「リサ、そこまでだ」

「……………………………………はい」

　これ以上は親しい関係といえど失礼なので止める。すると、リサは長い間をおいた後、返事をする。

　……まぁ、リサがここまで警戒する理由もわかるんだがな。

「レ……サウザーも毎度毎度悪いな」　

「別にええよ。アリアちゃんがリンの言うこと素直に聞かんってことは、なんか理由──それもリン絡みの理由があんのやろ？」

「まあな」

　……最近は『そういうこと』はないんだからリサも心配しなくても良いとおもうんだがな。

「しっかし、二人って相変わらず仲ええよな～。今もそんな風にしっかり手を繋いで」

「何を当たり前のことを言っているんですか？　妹が兄と仲がいいのは普遍にして不変の真理でしょうが。

　まぁ私は手だけと言わず、全身のあらゆるもので兄さんと繋が……」

「はい、そこまで」

　この娘は相変わらず何を言ってるんだろうな……。

「まぁ、兄さんと手を繋いでいるのは仲がいいからだけではないんですけどね」

「へっ、どゆこと？」

「……」

「…………」

　サウザーの返事に答えていいかリサが視線で問うてきたので、無言でうなずく。

「……街中だと兄さんが迷子になるからですよ」

「へっ？　迷子ってMAP機能があるから迷子になりようがないやろ」

「兄さんの迷子力をナメないでください、たかがMAP機能程度で兄さんの迷子を抑えきれる訳がないでしょう！　東京駅に行くと言って、何故か京都駅に着くんですよ！」

　東京と京都って響きが似てるから仕方ないよね、うん。

「まったく見つけるのにどれだけ苦労したことか……」

　それでも見つけて迎えに来てくれるリサの探索力も大概だと思う。

「え？　でも去年の遠足でクラス全員遭難したけど、リンの班だけ遭難せんかったやん。それどころか、遭難したわいらを助けてくれたやん」

「去年の遠足って……『富士の樹海探索ツアー』ですか？」

　班行動で探索して目ぼしいものを見つける競争企画だったな。まぁその結果うちの班以外は遭難したんだけど。

　ちなみに男女班対抗だったのだが、未だに俺が女子班に組み込まれたのが納得いかねぇ。まぁ、俺を女子班に引きずり込んだのはリサなんだけど。

　……改めて考えると、よくこんなとち狂った企画が通ったな……。

「兄さんが迷子になるのは『街中』ですよ。『樹海』……というより、自然が多い場所だとどういうわけか、絶対に迷わないんです」

「……せやから、わいらが遭難した時は逆に助けに来れたんか。……あれ？　学園でもちょくちょく手ぇ繋いだり、わいと遊びに行くときもアリアちゃんが来たり、リンが遅刻したりするんは……」

「まぁ、そういうことです」

　ちなみに遅刻の時も結局リサに見つけてもらっているというオチ。油断すると通学路や学園の中でも迷子になります。