クレーマー
「さっきのクエストは準備不足だったから、次のを受ける前に色々買い揃えてからにするか」
「そうですね、チュートリアルクエストでもらった初心者用ポーションが無ければ危なかったですね」
窓口から少し離れた場所でさっきのクエストの反省会を始める。
やっぱりチュートリアルクエストである程度アイテムや初心者用装備をもらったからってすぐにクエストを受けたのは失敗だったな。初心者用装備は耐久値が無限なだけで攻撃力補正がほとんどないもんなぁ。チュートリアルクエストを受けた時点で持っている武器スキルに対応している武器全部もらったけど……使い道なんてあるのか?
「ああ、野うさぎに返り討ちとか恥ずかし過ぎることにならなくて良かったな。危うくあいつみたい伝説を作るところだった」
「伝説って……、あの人と同じになるのは嫌ですね」
俺らの中で……、いや俺たちの通う学園で伝説といえば、去年……高等部一年の一学期末の試験で百点を取った俺たちの同級生のことだ。
全科目で百点満点を取ったのではなく、総合で百点。これだけならただのバカで、伝説にはならないが、こいつはある一教科以外を名前の書き忘れで零点を取った。逆に言うと、その一教科は百点満点だったわけだが、その一教科がよりにもよって『保健体育』だったというある意味ファインプレイ。ついたアダ名は『天上天下性我独尊』と『性帝』、うちの学園の男子のカリスマだ。……ちなみに俺たちの知り合いでリサは奴を嫌っている。
「まぁ、伝説にはならないと思いますよ。たぶんあれだと返り討ちにあった人は少なからずいますから」
「それもそうか」
β時代は稼ぎ用クエストだったらしいから、俺たちみたいにろくに備えをせずに行った奴もいるか。
「それじゃあ、行きましょうか、はい」
「ああ」
「なんでや!? なんでこんなに報酬が少ないんや!?」
とりあえず買い物に行こうと歩き出そうとしたその時、少し前まで俺たちのいた場所、五番窓口から関西弁の大声が聞こえてきた。 揉め事か? 聞く限り、報酬に納得がいってないみたいだが。
「ですから、最低品質品を持ち込まれても困るんです。一応、数だけは揃えていますので失敗扱いにはしませんが、この品質では報酬も出せないんです」
「なんでや!? βの時や昨日までは最低品質でも多少減額しても報酬はもらえたやろっ! だいたいβの時よりウサギが強かったんやから、報酬も高うなるのが筋やろが!」
ふむ、最低だと報酬なしか……気を付けた方が良さそうだな。
……ん? あいつ……もしかして……。
「リサ、ちょっと……」
「……いえ、私も行きます……」
関西弁の男に少し心当たりがあるのでリサから離れて確かめようとしたが、リサはそれを断る。
まぁ、あの関西弁の男が『あいつ』ならリサもついて来るか。つーか、リサも『あいつ』と思っているなら確定かな? とりあえず装備を変えて……
「βの時がいつを指すのかはわかりませんが、以前、最低品質品を持ち込む方が大量に居りましたので、次にまたそういう事態になった際は最低品質品には報酬を出さないようにする規定になっておりました。そしてここ数日の依頼状況を鑑み、本日よりその規定を実行することになりました。
あまりに低品質なものばかりではギルドの信用に関わりますので」
「信用ってなん……」スパーン、スパーン!
関西弁の男が理路整然と説明する窓口の人になおもいい募ろうとしたその時、男の頭に打撃が加えられる。
……まぁ、犯人は俺たちなんだけど。