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納品と報酬

「『野うさぎ二十体の狩猟』でございますね、ではこちらに『野うさぎの身体』をご提出下さい。 はい、では査定いたします。番号札十七番でお呼びいたしますので、少々お待ち下さい」


 ビギンに戻り、総合ギルドに『野うさぎの身体』を提出すると、査定の為にしばらく待たされることになった。


 このゲームでクエストを受ける方法はいくつからあり、そのうちの一つが『ギルド』から発注される依頼を受注することだ。チュートリアルクエストもここで発注されていた。

 『総合ギルド』は『商業ギルド』や『職人ギルド』や『冒険者ギルド』など数ある『ギルド』を統括するギルドで、ここでは全てのギルドからの依頼クエストを受注することができる。俺たちが受けた依頼は本来なら狩猟ギルドの管轄だ。ちなみにプレイヤーギルドの発足もここで行うことになっているらしい。

 もちろん各ギルドでも依頼を受注できるのだが、ここでは全てのギルドの依頼を受注できるので選択の幅が広く、管轄は違うが獲物や目標場所の被る依頼を同時受注するときに便利だ。ただし総合ギルドで受注する場合、マージンの所為で報酬が少し下がっている。



「……なんか妙に現実的と言うか、お役所仕事的だな」


「まぁ、総合ギルドの仕事はある意味、お役所ですからね」


 確かにそう言われればそうなんだが……夢がないな。


「お待たせいたしました、番号札十七番の方、査定が終了いたしましたので五番窓口までお越しください」


「お、できたみたいだな」


「本当のお役所仕事と違って、あまりたらい回しにされないし、時間があまりかからなくてすむのはいいですね。現実リアルのお役所だと……前に婚姻届けを受け取りに行った時はとても時間がかかりましたから」


 さて、ツッコむべきか否か。『何のために』や『誰と』するんだっていうのはやぶ蛇だしなぁ……。


「ツッコむなら現実リアルでお願いしますね。常に身綺麗にしてますから、いつでもOKです。

 あと、もちろん兄さんと結婚するためですよ?」


 …………何で後半は『なんでそんな当たり前の事を聞くんですか?』的な疑問形なんだ?


「え~と、五番窓口はこっちだな」


 とりあえずスルーするか。


「あ、待ってくださいよ。もう、相変わらずいけずですね」


 スルーだスルー。





「すいません、十七番の者ですけど」


「はい、お待たせしました。番号札をこちらにお願いします」


「はい」


「はい、確認しました。

 査定の結果ですが、通常品質のものが十一点、高品質のものが七点、最高品質のものが二点でしたので、基本報酬千六百ril(リル)と追加報酬五百ril、合わせて二千百rilとなります」


 rilというのはこのゲームでの通貨単位。二十体で千六百ということは一体あたり八十ってところか。それに提出したものの中に高・最高品質のものがあったから報酬がアップしてるな。


「更に初回高品質納品特典として技能石スキルストーン、初回最高品質納品特典として技能硝子石スキルグラストーンを贈呈させていただきます」


「初回特典、ですか?」


 更に追加ボーナスがあるみたいだが、リサも聞き覚えがないようだ。


「はい、ギルドからの依頼では内容を公開していませんが、達成条件の他に特典条件を設定しております。今回は高品質品と最高品質品の納品が該当しておりました。こちらは初回のみですのでお一人様一品ずつとなっております。お受け取り下さい」





「……特典条件ですか、これもβの時にはなかった仕様ですね。やはりβと同じと考えるのは危険そうです」


 報酬を受け取り、窓口を離れたところでリサが口を開く。


「やっぱり変更点が多いのか?」


「ええ、好意的に考えるとβテスターを飽きさせない措置でしょうけど……」


「爺さんが関与している以上それはないな」


「ええ、お爺ちゃんですからね。まぁβ知識による独占や、ゲームが偏るのを防いでいるんでしょうね。何もかもを変えているわけではないですし、うまくバランスを取ってます」


 まぁ、β知識でスタートダッシュかまされて非テスターとの差が大きくなるのは問題だし、テンプレ構成や最短攻略法が流布されると作業ゲーになるからな。


「そういや、こんなにも早く最高品質品なんて出るもんなんだな」


 こんな序盤で出るもんじゃないと思うが。


「それはあの依頼における最高品質って意味ですね。

 私の見立てでは今回納品した『野うさぎの身体』は一番良いのでも、いいとこ百点満点中三十点くらいです」


「それがどうして最高品質に?」


「それはあの依頼が初級依頼だからですよ。初級なので『二十五点以上なら最高品質』という感じなのでしょう」


 そういうことか。


「もうあまりあてにならないβの時の話ですが、『野うさぎの身体』は四十~三百rilでNPCショップに売却できましたし」


「かなり開きがあるな」


 

「品質もありますが、ショップ毎に買い取り価格が違うんですよ。買い叩くところもあれば品質に関係なく一定の価格だったり、至急必要だからといって高額で買い取ってくれたり様々です。ギルドは相場くらいで買い取ってくれるんですけどね。

 たぶんこの仕様は変わってないでしょうね」


 これまた妙にリアルだな。プレイヤーを含めて変な商人に引っ掛かりたくなかったらギルドに納品するのがいいのか。最高ではないが最低でもない。それにギルドは貢献すると特典があるしな。


「ま、何にしても意外と早く技能石と技能硝子石が手に入ったな」


「ええ、じきにレベル十になるスキルもありますから、派生や統合ができるようになりますね」


 スキルか……俺は……俺らはこれもなんとかしないとな。

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