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初クエスト

「《影縫い》兄さん、今ですっ」


「ああ、《パーペンド》《踵落とし》!」



 リサが拘束バインド効果のある《闇属性》+《投げ》+《短剣》のアーツ《影縫い》で動きを止めた獲物に対して縦斬り《パーペンド》で斬り込み、更にそこに蹴りを叩き込むことで真っ二つにする。


「ふう、これで全部か?」


「ですね」


 『ダアッ!』を始めてから今日で三日、昨日・一昨日でチュートリアルクエストも終え、今日から本格的にクエストを受けることにし、リサおすすめのある動物モンスターの狩猟クエストを受注して草原に来たわけだが……。


「何で『野うさぎ』があんなに強いんだよ……」



「一体一体は強くないのに、集まるととても強くなりましたね。βの時はアーツを使わなくても倒せるくらい弱いモンスターだったんですけど……」


「しかもすぐに仲間を呼ぶしなぁ……。おかげでクエスト目標以上に狩ったぞ」


 そのターゲットである『野うさぎ』を見つけ狩ろうとしたら、やたら強くて危うく返り討ちにされるところだった。チュートリアルクエストで戦った『レッサー・リトルゴブリン』よりもはるかに強かったぞ。


「う~ん、これっていわゆる稼ぎ用クエストだったんですけど、野うさぎがここまで強いとなると少し街の周囲のモンスターの強さを確かめた方がいいですね。βの時とはかなり違っていそうです」


 最初の街『ビギン』は東西南北に出口があり、しばらく草原が続いているがそこを抜けると東は森と農村、北は山と鉱山町、南は海と港町につながり、西はそのまま次の街まで草原が続いているらしい。

 東西南北で出てくるモンスターの種類や強さはまちまちで、ここ西の草原は一番弱いルートだったらしいが、どうも勝手が違っているらしい。



「とりあえず、クエスト目標は達成しましたから街に戻りましょうか」


「ああ……でもその前に提出分の選り分けと、超過分を《剥ぎ取り》してからだ」


 クエスト目標も達成したので一旦、街まで戻ることにしたが、その前にするべきことがある。



「そうですね」


 まず回収した『野うさぎの身体』をインベントリから取り出し……


「それじゃあ兄さん、私が選り分けますので《剥ぎ取り》をお願いします。

 う~ん、これはダメですね。こっちは……」


 野うさぎの死体の状態を見ながら選り分ける。

 今回のクエストは『討伐』ではなく『狩猟』なので、一定数……このクエストの場合は二十体分の『野うさぎの身体』を提出しなければいけないのだが、『野うさぎの身体』の状態によって報酬が上下することになっている。

 基準は『攻撃回数』や『超過ダメージ』、『攻撃属性』などから判断され、例えば『攻撃回数』と『超過ダメージ』は少ないほど状態のいい『野うさぎの身体』となる。『傷が少ない』って状態なんだろう。


「ああ、それじゃあ……」


 装備を片手剣から解体用ナイフに切り替え、リサが選り分けたダメな分の野うさぎの解体を始める。

 このゲームではモンスターを倒したときに手に入るのは基本的には『○○の身体』という『身体アイテム』だけで、稀に追加で何かしらのドロップがあるだけなのだが、《解体スキル》には追加のドロップ率を上げるパッシブ効果と、《剥ぎ取り》という『身体アイテム』を解体して皮や骨などの『素材アイテム』やその他のアイテムにするアーツがある。街に帰ると解体屋などでもやってくれるのだが、どういう風に解体されるかは確率で決まり、早めにやった方が剥ぎ取り後のアイテム数が多くなり、レアドロ率が高くなるのだ。

 ちなみに《剥ぎ取り》はたちの悪いことに、ナイフを使うアーツなので《短剣》適性のある武器スキルがないとダメだったりする。


「こっちは……う~ん、どうしましょうか?」


 順調に『野うさぎの身体』を解体して『肉』や『毛皮』などにししていると、隣で選り分けているリサの手が止まる。


「どうした?」


「いえ、これはどうしたものかと思い……」


 どうしたのか聞いてみると、リサが一つの『野うさぎの身体』を見せてくる。

 見たところ提出しても問題ない『身体』だが……。


「これ、たぶんなんですけど、クリティカルが出て一撃、しかもジャストキルで倒せた野うさぎだと思うんです」


「あ~、そっか……」


 提出時の評価が高い身体は、《剥ぎ取り》したときにレアドロしやすい身体でもある。つまり報酬を高くするか、レアドロを狙うかで迷っているわけだ。


「それに、たぶんなので違う可能性もあるんです」


 選り分けは鑑定系のアーツがなければできないが、視力系スキルには《判別の目》というものがあるので《目力》で鑑定できる。だが、所詮は万能スキルなので精度が悪い。『良い・悪い』程度なら見分けられても、『どのくらい良い』となると、かなり微妙だ。


「それっぽいなら提出すればいいだろ。《剥ぎ取り》してもいいものになるとは限らんし」


「わかりました。では次は……」


 変に賭けに出るよりは、安定した報酬の方がいいと思い提出の方にする。







「さて、それじゃあ解体も終わりましたし、帰りましょうか」


 選り分けと解体も終わったので街に帰り始める。


「だな。それにしても野うさぎから技能石ってでるんだな」


「一応、全モンスターから出る可能性はあるそうですよ。弱いモンスターはだと確率が低いらしいのですが、比較的状態のいい『身体』だったからですかね?」


 先ほど解体した野うさぎから技能石が取れたので幸先が良さそうだ。

 ところで生き物の身体から石が出るってどういう現象なんだろうな? 胆石とか結石か? …………尿管結石じゃないよな?

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