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スキルポイントに潜み込んだ罠

「…………できれば冗談であって欲しいんだが……」


「残念ながら真実です。ついでに言いますと、このゲームって基本的に装備不可ってことはないんですよ。

 装備適性や対応スキルのないものを装備するとまともに効果を発揮しませんし、ペナルティで総合ステータスが大きく下がるんですけどね」


 

「マジかぁ……」


 うわぁ……、まじめにショックだわ……。ある程度ハズレスキルだと予想してたけど、ハズレどころか地雷な上に、目論見も無駄とか……。


「兄さん、元気だしてください。……ん~と、これで……」


「何してるんだ?」


 orzの姿勢で凹んでいると、リサが慰めてくれるが、他事をしながらなのが気になる。こういう時は全力で……下心なしで慰めてくれるリサにしては珍しい。


「兄さんだけに地雷スキルを取らせるのは妹の名折れですから私も取ってます」


「ちょっ、馬鹿、んなことしなくても……」

「きゃっ」


 いつもとは違う形での全力だった。

 馬鹿な真似を止めさせるべく、飛び掛かり……結果的に押し倒す形でリサを取り押さえる。


「もう兄さんったら、こういうことは現実リアルの方でやってくれないと困りますよ」


「反応がおかしい! ……じゃなくて、馬鹿なことは止めろ!」


「もう遅いですよ。兄さんの行く先が地獄なら、そこに同道するのが私です。……ってああ、もう! 兄さんが押し倒してくるから手元が狂って《格闘》が別のスキルになっちゃったじゃないですか!」


「当然じゃねぇよ……ったく、お前まで地雷取ってどうすんだか。まぁ、一つとはいえ、阻止できてよかったか、ほれ」 

 


「くぅ、無念です、確認表示が煩わしくて省略したのが仇となりましたか……。ですが、これもハズレスキルなのでよしとしましょう、はい、ありがとうございます」


 よしとしましょう、じゃねぇよ……。

 スキルを取得する気配がなくなったのでリサの上から退き、リサを立ち上がらせる。



「……はぁ。で、何のスキルだよ?」


「《耳ピク》という聴力系スキルですね。耳を動かせるようになります」


 それはハズレスキルと言うよりは、ネタスキルだな。


「それのどこが聴力系スキルなんだ?」


「耳を動かすことで音の方向を捉えやすくなるかららしいですよ」


 動物の耳が動くのと同じ理由か……。


「まぁ、あまり有用ではありませんし、最初だとこれくらいしか動かせないんですけど」


 そう言うとリサは《耳ピク》のアーツを使ったのか、耳が微妙に動いている。


「獣耳やエルフ耳なら動くと可愛いんだが、人間の耳だとあまり意味がないな……」


「そういえば兄さんは猫耳やエルフ耳が好きでしたね……ふふっ」


 ……もうやだ、この家庭内ドメスティック宝狩人トレジャーハンター。一応言い訳するなら、小さい頃、遊びか何かで猫耳と尻尾を着けてたリサが可愛かったから好きになったんだぞ。……いや、本人には言わないけどな。


「ごほん、まぁ済んだことは仕方ない……けど、よくそんなにスキル取得ができたな?」


「これもβ特典ですよ。

 β特典はアイテムやステータス引き継ぎなどからテスト貢献度に応じた数だけ選択できるようになっていて、結構貢献度の高かった私はスキルポイントや技能石・硝子石ばかり選びましたから。

 β時代と同じスキル構成にしていましたが、仕様変更があった際にはすぐに対応したかったので」


「ちゃんとした理由があるのに、無駄遣いを……」

「兄さんとお揃いだと考えるとまったく無駄だとは思いませんよ」


 どこまでブラコンなんだろ、この娘は。


「もちろん果てしなくです。

 それにしても兄さんのスキルのラインナップを見る限り、配布されたポイント全部使ってませんか?」


「ああ、丁度使い切ったぞ」


 もう心を読まれたことにはツッコまん。


「やっぱり……キャラメイク時の配布ポイントって普通に……万能スキル以外を選ぶとかなり余るんですよ」


「……言われて見れば、二桁消費するのは万能スキルばっかりだったな……」


 だいたい平均が五で、高くても八くらいだった気がする。


「なら何で百ポイントも?」


「たぶんですが、罠……でしょうね。β時代の掲示板でも同じ議論がされていて、こういう結論になりました」


 ゲーム開始後にポイントを持ち越せないってなってたから出来るだけ使いきりたいと思うのが当たり前だが、それをするには万能スキルを選ばざるを得ない。それを見越した運営が仕掛けた罠、というわけか……えげつない。

 そんな罠を考えるのは……


「爺さんか」

「ええ、お爺ちゃんでしょうね」


「「……はぁ」」


 心当たりのある人物を思い浮かべ、俺たちは同時にため息を吐く。

 相変わらず困った爺さんだ。

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