プロローグ
「念願の『Different Dimension Door Bed』を手に入れたぞ!」
『Different Dimension Door』(通称『DDD』)、異世界の扉という意味を名付けられたそれはVRMMO専用ハードで、最後にBedとついているこれは長時間プレイにも対応した高級機だ。
VR機器や技術を利用したゲーム機、オンラインゲームなどが発売されるようになってから長いこと経つが、VRMMO専用機が発売されるのは初めてのことで、明日からサービスが開始される現在唯一のDDD専用ゲーム『Dead and Alive Online!』はゲーム業界から注目されているのだ。
当然、βテスターの抽選率は凄まじく、初回ロットはソフト・ハード共に予約開始後、予約過多で即終了したらしい。
「メ几
木又してでも奪い取ります!」
「のわっ!」
俺『神田 リン』はそれを運良く……ではなく、とあるコネを利用して手に入れ、春休みの半ばを過ぎたサービス開始前日の今日、うちに届いたのだ。ベッドなので業者の人に設置を依頼して部屋に見送ったあと、リビングでその喜びを遥か古のゲームに登場するあるセリフのパロディで表したところ、一人の少女から襲撃を受ける。
「何するんだよ、リサ!?」
「いえ、お約束ですから、兄さんもこれを望んでいるのだと思い……」
「いや、お約束だからって木刀フルスイングはないだろ……」
俺を兄と呼ぶこの襲撃者の正体は『神田 アリサ』、普段は可愛い妹をやってくれているのだが、時折こういうことをやってくるので困る。150cmに届かない小柄な身体ながら、運動神経抜群なのでその威力はかなりある。
「だいたい、リサはもう持っているだろうが」
「まぁ、冗談ですからね」
リサは俺と同じくコネで、俺にはある事情でできなかったβテストに参加していたのですでにDDDを持っているのだ。
それはそれとして、たかが冗談で木刀フルスイングはどうなの?
「兄さんなら大丈夫だと思ったからこそです。実際、白刃取りで防いだじゃないですか」
「心を読むな! それに何だよその無駄に絶大な信頼感は?」
「ふふっ、兄さんの事なら何でもわかっちゃいますからね。心なんて読もうと思ってなくても読めちゃいます」
……もう何も言うまい。
「設置完了しました。確認をお願いします」
そうこうしていると、部屋にDDDBの設置をしていた業者の人から確認をお願いされる。
「あ、はい」
「私も行きます」
設置状況を確認するため、部屋に向かうと、
「……でかくないか?」
そこには巨大なベッドが置かれていた。
いや、確かにDDDBのBはベッドのことだから、ベッド自体はおかしくないのだが、それはシングルサイズではなく、セミダブル……いや、ダブルサイズだ。カタログや実物を見たことはないが、おかしくないか?
「あ、お爺ちゃんにお願いした通り『Different Dimension Door Double Bed』になってますね。
はい、確認しました、え~と、確認印はサインでもよろしいですか?」
「はい、結構です」
「はい……では、これで」
「ありがとうございました、またご利用ください」
「はい、御苦労様でした。
さて、兄さん、それじゃあ早速キャラ設定を……ひにゃにゃにゃ!?」
「どういうことか聞かせてもらおうか?」
呆然としている俺の隣でてきぱきと手続きを済ませたリサは事情を知っている……と言うか黒幕のようなので、頬をつねりながら尋問を開始する。