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最強で最恐エリア11~決戦後編~

遅れてすいません。

何とか4月中に書き終えました。

真相編です。



 生きているのでしゅか・・・・・・。


 地面にうつ伏せになって体がぴくりとも動かない。


 どんな状況か分からないがテスタは生きていた。


 一撃にすべてをかけたため、気力体力すべての面が空っぽ状態で意識も朦朧としていた。


 目を開けるのも億劫だが、今は戦いの最中。そう言うわけにもいかず、テスタは状況確認のため、ゆっくりとだが目を開けた。




 ヴァロードはぶるぶる震えながら見ていた。


 テスタと「滅びのブレス」とがぶち当たる瞬間を。


 勝てっこない。


 最初に思ったことはそうだ。


 次に自分の心配。


 テスタが負けたらどうなるのだろうかと。


 そんなことを考えていると、爆音と地鳴りでヴァロードは思わず顔を覆い、おさまった後、おそるおそる


 テスタが激突した方向をみた。


 テスタはすごいとヴァロードは思う。


 身長差を考えれば蟻と象。比べるのも甚だしい。


 いくら精霊魔法があっても普通なら戦う前から諦めるだろう。


 でもテスタは諦めなかった。


 ドーグ様の息吹。


 ある時は、攻めてきたヒューマンを全滅にし、エリア対戦では、相手のボスを塵とかした。


 それと真っ向勝負し。



 そして。


 一矢報いた。


 ドーグの後方にテスタがうつ伏せになって倒れていた。


 遠くからだから、どのような状態かは分からない。


 しかし、ドークの右肩部分はぽっかりと穴があき、右翼も二割ほど千切れた状態だ。


 痛みはあるだろうが、それよりもドーグの方もなにが起こったのか分からないような呆然とした表情だ。


 つまり、この一撃だけを見れば、テスタがドーグに勝ったのだ。


 それなのに僕は・・・・・・。


 ドーグの強さにただ脅えているだけだった。


 うつむくヴァロードに。


「なにやってんのよあんたは」


 その声は、安全なところに移動していたナターシャだった。




 ドクタは拳を強く握りしめる


 予想はしていた。


 ヴァロードの精神的脆さからこうなる事も、それを庇ってテスタが捨て身の一撃で勝負にでる事も。


「あんっのばか」


 隣ではナターシャが苛立った様子でヴァロードの方を見ている。


 なにもできないのがもどかしいのだろう。それはドクタも同じ事だった。


 もう待てないですね。


 ヴァロードの戦意が回復して戦うのを待つのがベストであるし、テスタもドーグもそれを望んでいることであろう。


 だが、ヴァロードの性格からそれは希望的観測であろうとドクタは思っており、テスタの容態の方が医者として、一人の人間として優先順位を判断した。


「私はテスタさんの所にいきます。おそらく、ヴァロードさんは失格の烙印を押されます。最後になるかもしれませんので、ヴァロードさんの事頼みました・・・・・・たぶんナターシャさんでないと出来ないと思いますので」


 そういってドクタは五百メートルほど前方にいるドーグの体に糸を巻き付け体が引っ張られるように飛ぶ。


 残されたナターシャもすぐにヴァロードの元へと飛んでいった。







 うっすらと目を開け、眼前にあったのは少し険しい表情で前を見ていたドクタの顔だ。


 何か暖かいものが流れてきてましゅ。


 全身に活力が漲ってくる。この感覚に覚えがある。練習の時ドクタが行ってくれた医療魔法だ。


「この勝負うぬの勝ちだ。よくぞ頑張った、幼龍テスタよ」


 既にドクタの医療魔法を受けており、穴があいた右肩や千切れた翼も回復していた。


 賞賛しているがドーグの顔は複雑そうだ。


「この闘いは時期このエリアの主を決める為の、代々のしきたりですね」


 これは確信にも近いドクタの結論で、古い文献にもあった。


 ドクタは話し始める・・・・・・今回の真相を。


「龍の儀式」


 古来龍の主を決めるために必要なのは、時期だ。


 まず、百年間幼龍でいるものが現れた場合。


 これは無条件で幼龍が時期主となる。そのものは確実に何らかの祝福があり、群を安泰へと導く。


 次に現れず、主の力が落ちたと自信が判断した場合は、群の中で主に挑戦するものが現れた場合「決闘」を行い。主に勝つか認められた場合、時期主となる。


 前者の場合は主自らが選択する権利がある。


 今回の場合は無条件にテスタがなるはずだった。


 しかし現実は違った。


 ドーグとテスタ&ヴァロードの決闘。


 ドーグはこのことを知っていたはずなのにそれをしなかった。


 それは何故か?


「ドーグさん、貴方はヴァロードさんを時期主にしたかった。だからこんな回りくどいことをして儀式を曲げてまで土俵に上げ・・・・・・テスタさんを亡きものにしようとした・・・・・・違いますか」


 努めて冷静になるよう心がけ、ドクタはドーグを見据えた。そうしないと腸が煮えくりかえりそうだから。


 始めに疑念をもったのは、ヴォロードとの決闘にテスタを巻き込んだとき、確信に変わったのは、テスタと初めて会い、その後ヴァロードがドーグの血縁だと知ったときだ。


 自分の地位を次いでほしいと思うのは親の情だ。そのためには、いくら人望があり厳格者でも曇ってしまう。


 だからといってテスタさんを犠牲にしていいはずがないです。


「ドクタの言うとおりだ。全ては儂の我が儘だ。儂の力は、全盛期の半分にも満たず老いてしまった。そこにきて、先代の主から聞いた百年幼龍維持したものの誕生。潮時だと思うたぞ。本当にすまぬテスタよ。儂は私情が入ってしまった。長は男がなり、たくさんの者と交わり子をなし強い子孫を残す。それは代々長の使命で、先代も儂もそうしてきた。

儂の場合、先代に挑戦する形で竜の儀式を行い打ち破った。その時に言われたのだ竜の儀式の伝承を。

当時の儂はそんなものは現れないだろうと高をくくっていた。

そして長い時が経ち、六十年ほど前から、儂はそろそろ長をやめようと思った。

次の長は儂の血の入った最後の孫、ヴァロードにたくそうと思ったのだ。

そんな時テスタの噂を聞いたのだ。

成長が遅いだけだろうと思っていた。

六十年、七十年進化がなく儂は焦った。

八十年、九十年経ち、儂は呪ったよ。何で儂の代でこんなことになるのかと。

だから考えたのだ・・・・・・どうすれば思い通りになるのかを。

後はドクタの言ったとおりだ」


 話し終えたドーグの姿は威厳のある王者ではなく、くたびれたおじさんという表現が似合っていた。


「ヴァロードよ、テスタまでとは言わないが、もう少し立ち向かってほしかった」


 話し始める少し前にドクタの後ろに来たヴァロードに向けた、長としてではなく孫に向けた言葉。偽らざる本心だ。


「・・・・・・ドーグ様、期待に応えられずすいませんでした」


 ドーグの本音を始めて聞き、がっくりと崩れ落ちる。


 ドーグ様はこんな僕をまだ期待してくれていたんだ・・・・・・なのに。


 恥ずかしくて、悔しくて、情けなくて、ヴァロードはドーグの顔を直視できなかった。


「ヴァロード、長にならなくてもあたしがいてあげるから心配しないで」


 ナターシャは励ますようにヴァロードに言葉をなげかける。


「ナターシャ・・・・・・ありがとう」


 これが、ヴァロードの物語ならこれで大団円だ。


 しかし、怒りにうちふるえる者が一人いる。


 この間龍達はテスタのことをだれも見てなかった。


 誰よりも勇敢に戦い、誰よりも消耗しているのにだ。ヴァロードやナターシャからは労いの言葉さえない。


 それが、ドクタには許せなかった。


 ドーグの独白もそうだ。


 テスタが勝ったからすいません。それはテスタが賭に勝ったから言える事だ。負けたらなにも言えない。死んでしまったものに何をいったところで伝わるはずがない。


「ふざけるな! テスタの命をなんだと思っているんだ。テスタはお前達の都合で生まれてきたわけじゃない。お前達のおもちゃじゃないんだ」


 敬語も冷静に考えた言葉ではなく、心からの言葉。


 誰からも望まれない命なんて本当に残酷な事だ。


 それでもあらがって見せたのだ。この理不尽な戦いも、自分の環境も。


 だから、ドクタは決断した。


 昨日から迷っているし本当にこれでいいかも分からないけど、テスタを解放しようと。少なくとも誰からも望まれない長などなるべきじゃなく、自由になるべきだと。


 テスタの方をみる。


 弱々しいながらも笑顔を浮かべゆっくりと頷いた。


 本当はこれからする手術はやりたくない。


 誰が逃げ出したものに特をする事をやりたいものか。


 誰が頑張った人の未来を潰す事をするものか。


 しかしドクタは医者だ。


 医者が私情を挟むわけにはいかない。


 患者が望めばそれを実行し、最大限努力する事が使命だとドクタは思っている。


 ドクタは、ヴァロードの手足を地表から糸で固定して。驚く周りに説明する。



「・・・・・手術を開始します。ドーグさんは分かっていると思いますが、ある部分をテスタさんからヴァロードさんへと移植します。くれぐれも動かないでください。第三改変」




 少し鉄の味がし、昨日の夜の事を思い起こした。






「おそらく明日ドーグさんはテスタさん、あなたを殺そうとするでしょう。そこで提案があります。進化したくはないですか・・・・・・ドークさんと同じぐらい」


 ドクタの結論は進化のメカニズムは三段階あるというものだ。


 第一段階は幼龍。


 第二段階は成龍。


 ここまでは大部分の者が成長する。


 第三段階聖龍。


 それはドーグ、ヴァロード、テスタ、ナターシャ、若い女龍達。全てに解析した結果、ある部分がドーグとテスタは似通っていた。


 ほかの龍達は全く育っていない。


 おそらく龍の儀式が終わり全てを話した後、そこを抉りとって飲ますのだろう。


 逆にテスタのようなケースの場合自分から進化するであろうと。


 ドーグとテスタを比較すると、いつ進化してもおかしくない状況。


 だから「明日」なのだろうとドクタは思っている。


 本音を言えばドクタはここで全部打ち明けたいが、そうすると今までやってきたことが台無しになる。


 それにドーグの思いも聞いてないし、ヴァロードがどうなるかは明日やってみないとわからない。


 しかし肩入れだけはしたかった。ほんとにドクタが思っている通りの筋書きだったら必ず後悔する・・・・・・


 そして同時に自分の死を意味する。


 ドクタはテスタが負けたらドーグと約束した通り死のうと思っている。


 ドーグの裏の意味を理解していないドクタではなかったし、ヴァロードが勝てる確率は限りなく低い。

ドクタの見立てでは最初でドーグの気迫に打ち勝てる確率は四割、得意とする攻撃をみて戦意を失わない確率は一割、その攻撃の対処法見いだせる確率は六分、打ち破りドーグに手傷を負わせる確率は二厘だ。


 テスタの場合でも最初の二つは八割ほどあると思うが、後の二つは少し確率が上がるだけでほとんど変わらない。


 だが、進化すると互角以上に戦えるとドクタはふんでいるが、テスタの出す答えは分かっていた。


「せっかくでしゅけど、やめときましゅ」


 テスタの答えは拒否だった。


「理由を聞いてもいいですか」


 ある程度の概要は理解しているが、心情や根っこの部分はその者でないと分からない。


 だから理解するために「言葉」があるのだ。


 前世と今世の最大の違いはここだ。


 前世は動物達のことを最大限理解しようと努めた。


 仕草、表情の動き、声、体調の変化・・・・・・等々。


 最終的にはなにを思っているかある程度は理解できるようになった。


 しかし、ある一頭を除き完全に理解するのは難しかった。


 今世で、ドクタがその方法が分かった時、どれほど嬉しかったか、想像得難い。


「ドクタしゃんは優しいでしゅね」


 ドクタに背を向け、テスタはそう呟く。


 俯いた視線は、四十秒ほど固まっていたが、テスタは上を向いた。


「ホントは知っていましゅた。一年に一度ここから出られる祭りの時、おじゅさまやおばちゃま達が話しているのをこっそり聞きましゅた。龍の儀式のこぉと。そしてわたしゅの事。ドーグしゃまがわたしゅを殺す事を決めましゅたこと」


 そしてドーグの方を向いた。


 その顔は・・・・・・いつもの元気なテスタからは想像もできないほど大人びた・・・・・・達観した表情だった。


「わたしゅは死にたくないでしゅ。なんとしても生きて見せましゅ。でしゅけど、誰も死んでほしくないでしゅし、わたしゅが主なんて駄目でしゅ。周りゅから指示されない主なんて、はめちゅが見えていましゅ。それにこんな事にゅなっても皆の事憎んでないでしゅ。だってそうじゃないでしゅか。ここでずっと生きてきましゅた。ドーグしゃんもナターシャしゃんも、ヴァロードしゃんも、おかあしゃんもおとうしゃんも、みなしゃん仲間じゃないでしゅか。

だからお願いがありましゅ」



 澄んだ瞳だった。どうしようもなく決意を秘め、なにも言っても変わらない、そんな眼。


 ほんとに、私なんかより断然強いんですね・・・・・・前世でも今世でもそんな想いがあれば変われたのでしょうか。


 悲観的になったドクタは心の中で首を振る。


 やめときましょう・・・・・・過去は変えられないのですから。




「あたしゅは、ヴァロードしゃんの先輩でしゅ。・・・・・・だから、わたしゅのなにを奪ってもいいでしゅから、ヴァロードしゃんを進化させてくだしゃい」


「ほんとにいいんですか。精霊の力を失うかもしれませんよ」


 ドクタの念押しにテスタは軽く首を振る。


「あたしゅにとって年が下のもにょは弟妹もどうぜんでしゅ。だがら・・・・・・お姉ちゃんが我慢しないとでしゅ」


 つらい気持ちを押し込めてテスタは無理に笑顔をつくる。


 そうしないと、気持ちが決壊しそうだから。


 精霊は新しくできた絆だ。いつでもそばにいてくれる仲間。出会った日数は浅いけど、テスタの中で日に日にその存在は大きくなっていった。本当は身を裂けるような思いだ。だけどドクタに心配かけさせまいとそういったのだ。



 いたたまれなくなったドクタはテスタの背中をそっとさする。


 どのぐらいたったのだろうかぽつりぽつりと心の奥底を溢れさせる。


「本当は精霊しゃん別れなくないでしゅ。ずっと一緒にいたいでしゅ。わたしゅがなにしたっていうんでしゅか、教えてくだしゃい」


 テスタのしまい込んだ本心だった。


 ドクタはここに来てからのことについて振り返る。


 思えばこの森の住人たちは何かにあらがっていた。


 瀕死の重傷からあらがったり、飛べない翼を何とかして飛ぼうとあらがったり、日の光に当たると消滅するのにこの森をでようとあらがったり、娘の病気を治そうとあらがったり。


 その全てをドクタは解決してきた。


 治療後、皆が皆笑顔になり、幸せに溢れていた。


 しかしテスタのケースは救いがない。


 勝って手術を行っても、負けて死んでも失う可能性がある存在が大きい。


 だからドクタは提案したのだ・・・・・・患者を幸せにするために。


「もし・・・・・・」








 手術は五時間ほどで終わった。テスタの腹を切り、人間で言う盲腸の部分にあるエメラルドの様な輝く五センチほどの物体を切り、糸でその血管部分を繋げ回復魔法をかけ、取り出し物をドーグの解析を参考にしヴァロードに繋げた。


 ここまで一時間。










「手術は完了しました」


 ドクタの顔は晴れやかで、全てをやり遂げた表情であった。


 全ての魔力を使い果たしたドクタは、ゆっくりと前に倒れた


ようやく次で最強で最恐エリア編が終わります。

5月中に書き上げたいと思います。

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