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最強で最恐エリア⒑~決戦中編~


 ドーグは先手を譲るがごとく、中指をくいくいと挑発する。


 ここまではシナリオ通りですね。


 ドクタ達が考えた作戦通り、最初は譲ってくれた。


 どうか、初手で決まりますように。


 ナターシャと安全な所まで待避したドクタは柄にもなく神に祈った。




「テスタさん作戦Aです」


「分かってましゅ」


 ヴァロードが先行で、後ろに風の精霊に力を借りて、テスタが6メートルほど浮上し飛んでいる。


 ヴァロードにも風の力を付与しヘイスト効果を発動させ速力がアップし、コマ送りのように距離は縮まり5メートル付近で土魔法を発動させる。


 魔法とイメージで、起こる現象をイメージし、自信の魔力と魔法力の範囲内ならば発動する。


「むっ」


 突如として、ドーグの立っている3メートル四方の地面から生えてきた土の槍に右眉をピクリとあげる。


 しかし、ドーグの体を傷つけることはできなく、槍は壊れるが、想定の範囲内。


 ドーグが意識し、ピンポイントじゃなく、範囲で。


 魔法を放ったのは理由がある。


 土槍の檻。


 土の槍は長さ5メートルほどありさしものドーグも動くにはタイムラグが生じる。


 それをヴァロードが狙ったのだ


 屈んだすぐ後ろにはテスタの姿。


「精霊しゃん、刃でしゅ」


 精霊に力を借りるときも、魔法と同じでイメージが鍵を握る。


 さらに、魔法の場合は自分の力以上のものはだせないが、精霊魔法の場合は違う。


 そもそも攻撃魔法は魔力や、イメージした魔法の攻撃力でだいたい決まるが、精霊魔法の場合、精神力、共鳴率で決まる。


 早い話が、仲が良い時は協力的だが、仲が悪くなるとそっぽを向かれる。


 精霊は人の波長に敏感で、それが変わると、そういう事になる場合が多い。


 精霊は空気みたいなもので、場所や天候によって各精霊毎に増減があるが必ずその場所にある。


 さらに、このエリアは土と風の精霊は豊富にいる。


 抽象的なイメージを精霊に送ると、種類にもよるがいたずらっ子が多い風の精霊は最大限「頑張ってくれる」ので、味方にも被害が及ぶ。


 例えば何でもいいから吹っ飛ばしたい、とイメージを送ると、辺り一面竜巻に巻き込まれたかのように文字通り跡形もなく吹っ飛ばされる。


 だからこの一週間精霊魔法の訓練はイメージの明確化に当てた。


 具体的には対象に、どういう事象でどういった効果を与えるかだ。


 幸いテスタは、『そういう事』に長けているらしく、瞬く間に吸収し、今回精霊にお願いしたのは。


 対象:ドーグ


 事象:高密度、高速度、風による残撃6つ(鎌鼬)


 効果:ドーグの鱗をぶった斬る


だ。


 ドーグに逃げ場はない。


 決まったかの様に思ったヴァロードと、その肩の上にのったテスタは、ドーグが口を開けた瞬間悪寒がして斜めに飛び退く。


「ぐらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 龍の攻撃技にしてドーグの得意技。


 他の種族には『滅びのブレス』と呼ばれているドーグの荒吐息。


 龍の気が満ちたブレスはドーグの王者たる荒々しい力も相まって、テスタが放った精霊魔法を拡散し、

モーゼの十戒が如く、一直線に大地が裂ける。


 最強の防御魔法やどんな精霊魔法や防具や種族さえも当たれば一瞬にして無に返す。


 テスタとヴァロードは嫌な汗が頬を伝う。


 遅れていれば死んでいた。


 嫌が応にも、自分たちが甘く考えていたことを悟らされた。


「やっぱりドーグしゃんは強いでしゅね」


 そう言いながらもテスタの瞳には力があった。


「やっ、やっぱり無理だよ。ドーグ様に勝てっこないよ」


 ヴァロードは小刻みに震えており、危うくテスタが落ちそうなほどであった。


 さっきまでの勢いはどうしたのやら、眼には負の感情が多分に含まれており、勝とうという気概もない。


「まだドーグしゃんに認められてないでしゅ。死にたいのでしゅか」


 テスタは叱咤するが。心の折れたものに何を言っても馬の耳に念仏だ。


 テスタは怒りと同時に悲しくなった。ここにきてまだそんな気持ちでいるのかと。


 ドクタはできうる限りの事を教えてくれて、テスタ達に命を預けてくれた。


 テスタは巻き込まれたことに何かいうことは無いが、当の本人がこれじゃあ怒りたくなるし、少し失望もしている。もう逃げ場は無いというのに。


「もういいでしゅ。負け龍には用はないでしゅ、命乞いでもすればいいでしゅ」


 テスタは浮遊し、ドーグの方に飛ぶ。


 対象:自分テスタ


 事象:球状に風を何十層にも強固に纏って浮遊し最高速でドーグに突っ込む。


 効果:ドーグに風穴をあける。


 ヴァロードに頼れなくなった今、あたしが頑張らないとでしゅ。


 恐怖に飲まれそうになる。


 滅びのブレスと衝突すればどうなるか分からない。


 少しでも当たれば存在が消える。


 負けを宣言できるものならしたいし、ヴァロードの様に簡単に諦め、心を折られるならそうなりたい。


 しかし、ここにはテスタとヴァロードしか戦えない。


 テスタは幼龍でもヴァロードより年上だ。


 ヴァロードが戦えなくなった今私以外誰が居るというのだ。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 テスタは自分を奮い立たすように叫ぶ。


 ドーグの背丈より十メートルほど上、平行距離にして二十メートル、ヴァロードから少し離れたところで精神力を溜めている。


 ここで決めなければ負ける。


 テスタは文字通り全身全霊でドーグにぶつかってく気だ。


 ドーグはヴァロードを冷めた目で見た後、すでに眼中になく、テスタの攻撃に向け、油断斜め上を睨み臨戦態勢に入っている。


 事態が動き出したのはほぼ一緒だった。


「いくでしゅぅぅぅぅぅぅ」


 希望も不安も勇気も自信も不幸も悲しみも喜びも絆も孤独もみんな力に変えて、どうか精霊さん達、一矢報いるだけの力を貸して。


「うがぁぁぁぁぁぁぁ」








テスタは弾丸の様に一瞬で滅びのブレスと衝突し、辺り一帯轟音と激しい地鳴りが巻き起こった。



次回更新は四月中にできればなと思います。



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