1.失恋
とある広い草原にひときわ目立つ大きな一軒家、その中にSSS(トリプルS)ランク冒険者でテイマーの俺は恋人と一緒に住んでいた。
「ブレイブ、別れましょう。」
そういった彼女の顔はもううんざりと言った表情だ。
「なぜだ!俺は君を養えるだけの財力がある!!不満があるなら行ってくれ。」
彼女の顔は徐々に歪んでいき、まるでゴブリンかオークを見るような表情になっていった。
「なぜですって?!たしかにあなたは、このマミアカーダ王国の中でもひときわ稼ぎがいいわ!だけど不細工、いえ・・・そんな言葉は不細工に失礼ね。あなたはそう、化け物・・・オークもどきよ!」
「うっ・・・。」
確かに俺は何度もオークと間違われることがあるほどの険しい顔に醜い容姿をしていた。
召喚獣はあろうことか魔王軍が率いていそうな異形種ばかりだった。
そのせいでほかの人たちに嫌われ続けてきた。
どれだけ戦果を上げようとも、どれだけ村や町を救ったとしても、人は俺を全力で嫌い、女子供は石で、男たちは剣や魔法で俺を倒そうとした。
彼女が・・・彼女だけが、それでもみんなのために戦ってくれる俺が大好きと言ってくれた。
「遊んで暮らすために世間の目を気にしながら、我慢して付き合っていた私を褒めなさいよ!」
だが、彼女は金目当てで俺と付き合っていただけだった。
俺ではなく俺の稼ぎにぞっこんだったのだ。
解りきっていたことなのに、絶望と憤怒というどす黒い感情が俺を支配して、ついに我慢の限界を迎えて両手でテーブルを叩いた。
「そ、そんなに嫌ならここを出ていけ!」
「いや、出ていくのはお前の方だ!オークモドキ。」
男の声が玄関の向こうから聞こえてきた。
玄関の方を振り返るといつの間にか、俺とは比べ物にならないほどの美貌を持ち、鍛え抜かれた体をした男性が扉の前に立っていた。
「お、お前は誰だ?!」
「俺か?俺はSSSランク冒険者のガウパー・デル・マラカータ様だ!俺の中指を見ろ、ちゃんとダイヤのリングがはまっているだろ!?俺はそこそこ有名なのになぜ知らねえんだ?」
「あっ、あー、まあその・・・。」
「あ、そっか悪い悪い!おまえ情報を共有してくれる仲間がいないんだっけ?ガハハハッ!!」
言い返せずに怒りに震える俺をよそに彼女はその男の下へ走っていった。
そして、男の二の腕に自分の白くて細い腕を絡ませて、今まで見せたことのない満面な笑顔でこちらを向いた。
「私、この男と付き合うことにしたの。あなたと同じSSSランク冒険者だけど、あなたより稼ぎがいいし、何よりあなたと違ってイケメンだからね。」
「そう言うことだ。わかったならさっさと出ていけ!この家は今から俺たちの家だ。」
こうして俺は自分の家を追い出された。
怒りに震えて拳を握りしめる俺だったが、すぐにその拳を解いて歩き始めた。
「酒、飲まずにはいられねえ・・・。」
だが、自分の醜い姿は王国中に知れ渡っているので、上位スキル「無限倉庫」で異空間の穴を出現させ、隠密用のフードと目だけを覆う威嚇用の鉄仮面を取り出して装着し入店した。
「太っちょの兄ちゃん、何にする?」
いつもは冷やかしながら迷惑料として真っ先にチップを要求するモヒカンマッチョの店長が普通に接してくれた。どうやら、俺がブレイブだと気付いていないようだ。
「エールを一杯くれ・・・。」
「はいよ。」
しばらくして注文の品がどんと置かれた。俺はそれをコップに注いで浴びるように飲んだ。
しばらく飲んだくれていると、茶色の長髪をなびかせた猫耳の若い女性が隣に座ってきた。
「おやー、お兄さん。お一人かい?」
声をかけてきた彼女はキャットピープルという亜人の一種で、しなやかな体で敵を翻弄して攻撃をするのが得意なため、ヘイトを向けるためのアタッカーとして重宝されている。
そのため、隠すべきところは隠してあとは露出している服装を着用しているものが多い、彼女もその中の一人だ。
「ニャグラか。」
俺はこいつを知っている。こいつも俺のことを馬鹿にしたりけなしたりした連中の一人でこのお店の常連だ。
「おー、よく知ってるねー!」
酒に酔っているのか顔がほんのりと赤く吐く息もすでに酒臭い。
「当たり前だ。SSランク冒険者の中でもランクアップが約束されているパーティ『亜人の集い』のリーダーだからな。」
『亜人の集い』は、猫獣人のニャグルをリーダーに竜人族の剣士である龍五郎、容姿端麗なエルフの女アーチャーであるアップル、見た目は人と大差ないが、腕が四つある六肢族の男性タンクであるアントの4人で構成されている。
「にゃふふ・・・嬉しいにゃー。SSSランク冒険者の方に名前を憶えてもらっていたにゃんて!」
ニャグラは両手で赤くなった頬を抑えながら悶えた。中指にはまっているプラチナのリングが誇らしげに光った。
ぶりっこしやがって、お前の本性はとうに知っているのに・・・・。
「うーんでも、この人初めての匂いがしないなー。誰かに似ているような・・・。」
やばい!人狼ほどじゃないがキャットピープルの嗅覚も馬鹿にできないことを忘れていた!
「この鼻につくような特徴的な酸っぱい臭い。お兄さん、いや、おまえさん・・・もしかしてあの豚野郎じゃないかい?」
次第にニャグラの顔が険しくなってきた。
下手なことを言おうものなら、俺だとばれて戦いを仕掛けられる。
全てにおいて俺の方が有利だが、少なくともここにいる全員は敵になる。
強姦未遂、暴行、殺人未遂、いくらでもでっち上げられる。そうなれば俺の人生はおしまいだ。
酒場に冷たい空気が流れた。
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R-18版はもうしばらくお待ちください。
また、ここしばらく家庭の事情によりモチベが上がらず執筆が難しい状態が続いていました。楽しみにしてくださった皆様、お待たせして申し訳ありませんでした。