⑨
(信じられない! わざわざこんなことまでして嫌がらせをするなんて……)
誰にも声をかけられない理由や、ディアンヌが一人でいることで笑い声が聞こえた理由もわかってしまった。
そしてシャーリーのこの言葉でディアンヌに敵意がある視線が向けられる。
ディアンヌが、体を使って愛人の座を狙っているとでも思われていたのだろう。
ディアンヌがパーティーに参加したことがなく、無知なことを知っていて、このようなことをするシャーリーに腹が立って仕方なかった。
「あなたがこのパーティーを紹介したんでしょう!? それにドレスだって……っ」
「言いがかりはやめてくれる? そんな安物のペラッペラの下品なドレス、わたくしが勧めるわけないじゃない!」
ディアンヌを馬鹿にする笑い声が聞こえた。
悔しいけれど、この状況をひっくり返す術が見つからない。
「あなたのこと、友達だと思っていたのに……!」
ディアンヌはシャーリーを友達だと思った。
思っていたからこそ、裏切られたような気分になる。
その言葉を聞いたシャーリーの眉が吊り上がっていく。
そして彼女は怒りを含んだ声でディアンヌに言った。
「わたくしがアンタなんかと友達なわけないじゃない!」
「……!」
「勘違いするんじゃないわよ! 没落寸前の貧乏令嬢の分際で物乞いなんかするから悪いの。わたくしは身の程をわからせてやっただけ……わかった?」
当たり前のようにシャーリーはそう言って、ディアンヌから体を離した。
ディアンヌは悔しさから血が滲むほどに手のひらを握り込む。
シャーリーに怒りを感じていたが、心のどこかではショックを受けていた。
シャーリーと学園で楽しく過ごした思い出が、砂のように崩れて消えていく。
「だってもう貴族じゃなくなりそうなのよねぇ? もし没落したら、わたくしの屋敷で雇ってあげてもいいわよ?」
「……っ!」
「そうじゃないんだったら、二度とわたくしに近づかないでね。非常識で馬鹿なアンタと親しいなんて思われたくないもの!」
ディアンヌを馬鹿にしながら高笑いするシャーリーに俯くことしかできなかった。
もし彼女の言う通り、そういう場であるならばディアンヌはこれ以上、誤解されないようにここにはいられない。
結婚相手を探すどころかメリーティー男爵家の家名にも傷をつけてしまう。
それだけは避けたかったからだ。
なんとか気力を振り絞り、頭を下げたディアンヌがその場を去ろうとした時だった。
足を動かすと、後側でドレスが引かれる感覚があった。
(いけないっ……!)
そう思った時にはもう遅かった。
バランスを崩して、ディアンヌの体が前に倒れていく感覚があった。
後ろではシャーリーがディアンヌのドレスの裾を踏みつけていたのがチラリと見えたような気がした。
ハイヒールのせいで、満足な受け身も取れずにディアンヌは再び床に倒れ込む。
足が変な方向に曲がってしまったようで痛みに顔を歪めた。
ハイヒールが転がってパタリと倒れてしまう。
「プッ、アハハ! 大丈夫?」
「信じられない。下品だわ」
「あーあ、人の招待状を奪ったりするからよ。惨めねぇ」
シャーリーや他の令嬢たち馬鹿にするような笑い声が耳に届いた。
恐らくシャーリーに、ディアンヌのことを色々と吹き込まれてしまったのだろうか。
顔を上げると軽蔑するような視線を感じた。
二度も会場で転んでしまったディアンヌに送られる冷たい視線。
周囲に誤解されているせいか、手を差し伸べる者は誰もいない。
ディアンヌはすぐに立ち上がろうとするけれど、恥ずかしさと緊張で思うように体が動かなかった。