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⑦⑤

ディアンヌの言葉に、シャーリーは馬鹿にされたと感じたのか肩を震わせている。

そしてブツブツと何かを呟きながら、ディアンヌを血走った目で睨みつけている。



「わたしの上に立つなんて許されないのよ……! あの時に没落していればよかったのにっ」


「……失礼いたします」


「──待ちなさいよっ!」



肩を掴まれたディアンヌは、シャーリーの腕を思いきり振り払う。

そしてはっきりと彼女に告げた。



「もうあなたとわたしは関係ないわ。これ以上、わたしたちに近づかないで」



これはディアンヌなりの最後の警告だった。

シャーリーからお茶会の誘いが来た際、リュドヴィックはこう言っていた。

『次にディアンヌに危害を加えるようなら許さない』と。

そして今回、夫人たちにこの件が解決できるように相談もしてくれていたらしい。

リュドヴィックの気持ちはとても嬉しかった。

けれど、自分で決着をつけなければならない。



「どうしてよ……アンタがわたくしより幸せになるなんて許さないんだから」


「離してください。これ以上はリュドヴィック様を呼びますから」


「何よ、何よっ……! アンタなんか、わたくしの前からいなくなればいいのにっ」



その言葉と同時にシャーリーはディアンヌの腕を引いてテラスのフェンスに押しつけている。

ここから突き落とそうとしているのだと理解できた。

怒りからか皆が見ていることすら忘れてしまったのだろうか。

彼女の血走った目を見ていると、正気には思えなかった。


(まさかこんなことをするなんて……!)


そんなシャーリーにディアンヌは叫ぶように言った。



「……っ、こんなことをしてどうなるかわかっているの!?」


「アンタが消えたらそれでいいのよっ! わたくしの上に立つなんて絶対に許さない! 消えろ、消えなさい!」



シャーリーの叫び声は大きく響いていた。

いつの間にかテラスに入ってきたリュドヴィックが、シャーリーの腕を掴む。

ディアンヌから引き離すと、シャーリーは壁に体を打ちつけてうずくまる。

そしてディアンヌを守るように抱きしめると、地を這うような低い声で言った。



「こんなことをして許されると思うのか?」


「だって、だって……こんなの嘘よ! ベルトルテ公爵だってこんな女と好きで結婚したんじゃないんですよね? 偽りの結婚なのよっ! みんながそう言っていたわ」



シャーリーは大粒の涙を流しながら首を横に振る。

リュドヴィックに訴えかけるように叫ぶ。

社交界では二人の結婚は偽りだと思われていたらしい。

けれどリュドヴィックは冷静に切り返していく。



「私はディアンヌを心から愛している」


「…………は?」


「これ以上、妻を傷つけるつもりなら容赦はしない」


「な、何を言っているんですか? わたくしはちょっと喧嘩をしただけで本当は仲のいい友人なんですから。ねぇ、ディアンヌ?」


「……」


「学園時代から助け合っていて……それでっ! ディアンヌがわたしを馬鹿にしたから頭にきてしまっただけなんですっ」



まだ言い訳を繰り返すシャーリーにリュドヴィックはあることを告げる。



「ガラスの外側を見てみろ」



テラスの扉は大きく開いている。

シャーリーの暴言を聞いて集まってきた貴族たちが眉を顰めながらコソコソと話している。

ジェルマンは俯きつつも、額を押さえて首を横に振っていた。

もう終わりだと悟っているからだろう。



「え……? どういうこと?」


「今までディアンヌに吐いた暴言は、すべて中に筒抜けだ」


「…………は?」


「それに困っているディアンヌをパートナー必須のパーティーに出席させて、安物のドレスやハイヒールを貸したことも、彼女に恥をかかせようとしたこともすべて知っている」


「…………な、に?」


「今まで悪どいことをしてきた報いを受ける時だ。シャーリー・カシス」



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