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⑥①

ディアンヌとリュドヴィックが呆然としていると数人の講師たちが肩を揺らしながら、ピーターを追いかけてくる。



「ピーター様、まだまだやることは残っていますよ!」


「嫌だ……! 勉強なんてやりたくないっ」



ピーターはリュドヴィックの足にしがみついている。



「これからベルトルテ公爵家の者として、恥ずかしくないように学ばなければなりませんっ!」


「そうですわ!」



講師たちが責めるようにそう言うと、ピーターの顔が曇ってしまう。

ディアンヌと同じで、これからベルトルテ公爵家の令息として過ごさなければならないため、学ぶことはたくさんあるだろう。

だが、ピーターはそれに大きく反発しているように思う。

ディアンヌはピーターに視線を合わせるように屈んだ。



「ねぇ、ピーター。ピーターは勉強が嫌いなの?」


「……うん。大っ嫌い」



どうやら無理やり学ばせようとした結果、ピーターはすっかりと勉強嫌いになってしまったようだ。

それにメリーティー男爵家に行った時にもわかるが、ピーターは平民寄りの生活をしていたようだ。

あまり母親のアンジェリーナとの話をしたがらないため、どこで暮らしてどんな生活をしていたのか未だに詳細はわかっていないらしい。


ピーターがメリトルテ公爵家に来てから三カ月は経つ。

このままでは公の場に出られないと嘆いている。

嫌がるピーターに周りがどうするか戸惑っていた時だった。

ディアンヌはあることを思いつく。



「ピーター、聞いて! 今からわたしもがんばってマナーを習おうと思うの」


「ディアンヌも……?」



ディアンヌのその言葉にピーターが反応する。



「わたしもベルトルテ公爵家に来たばかりで、リュドヴィック様の隣に並ぶにはまだまだ足りないことばかりだから……」



ディアンヌは俯きながらそう言った。

このままのんびりと過ごしているわけにもいかない。


リュドヴィックはディアンヌやメリーティー男爵家のために動いてくれた。

なのに何も返せないのは嫌だ。

社交界に出たとしても、男爵令嬢だったディアンヌに対する視線は冷たいままだろう。

一部の人からは優しくしてもらえてはいるが、まだまだベルトルテ公爵夫人として認められていない。



「今日はわたしもピーターと一緒に受けるわ」


「ディアンヌも一緒に……?」


「えぇ、そうよ。わたしも復習したいと思っていたの。いいかしら?」



ディアンヌがピーターと共に授業を受けると言うと、彼はご機嫌で部屋へと戻っていく。

講師たちは戸惑っていたが、ディアンヌもピーターと講師たちの話を聞きながら一日を過ごした。


そしてパーティーまでの三カ月の間、レッスンを受けることになったのだが……。



「背筋を伸ばしてもう一度」


「はい!」



眼鏡をかけたいかにもという年配の女性、二人がディアンヌの前に威圧感たっぷりで立っている。

リュドヴィックの言う通り、講師たちはかなり厳しかった。

それこそ学園のマナー講師とは比べものにならないほどに。



「まだまだですわ」


「もう一度お願いいたします!」


「これではベルトルテ公爵家の家名を背負うことなどできません」


「申し訳ありません」



姿勢矯正に歩き方、立ち方や喋り方。

学園で習ったことなど何も役に立たない。

朝から晩まで机に向かって知識を叩き込まれる日もあれば、立ちっぱなしでカーテシーや挨拶のやり方を学んでいた。

食事の時間と休み時間はピーターと思いきり体を動かして遊びながら、なるべく一緒にいるようにしていた。


朝から晩まで勉強にレッスン。

リュドヴィックとはすれ違いで、顔を合わせることはない。

それよりも疲れ過ぎてリュドヴィックのことを気にする間もなく、ベッドに入った瞬間に眠ってしまう。


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