⑤⑧ シャーリーside1
二カ月前、シャーリーは衝撃的なことを知ることになる。
それはディアンヌ・メリーティーとリュドヴィック・ベルトルテが〝結婚〟したという事実だった。
(う、うそ…………信じられない)
ディアンヌをパーティーで騙して、社交界で二度と姿を見なくてもいいようにしようとした。
しかし二度と社交界に出られないどころではない。
ディアンヌはベルトルテ公爵と婚約を通り越して結婚したのだ。
皆、パーティーでディアンヌを笑った友人たちは、しばらく震えていた。
ベルトルテ公爵に睨まれたら、もっとやばいことになるからだ。
だが、誰がどう考えたってわかる。
今まで社交界に出ていないディアンヌとベルトルテ公爵に接点はなかったはずだ。
だからこそシャーリーはこう思った。
『互いの利益を優先した結婚ではないか』と。
だけど不思議なことがある。
ベルトルテ公爵が男爵令嬢であるディアンヌを選ぶメリットなど、どこにもないではないか。
相手は社交界の夫人たちや令嬢たちの憧れの的であるリュドヴィック・ベルトルテだ。
美しいシルバーグレーの髪にロイヤルブルーの瞳。
中性的で端正な顔立ちはどこにいても目を引く。
この若さで国王を支えて宰相を務めている。
(あんな貧乏で地味な女の何がいいというの!?)
どんな理由があろうともディアンヌが『公爵夫人』になる事実は覆せない。
それは今まで馬鹿にしてきたディアンヌが伯爵令嬢のシャーリーの上になるということだ。
(そんなの……ありえないわよね?)
婚約者のジェルマンもシャーリーに「おい……このままじゃやばいんじゃないか?」と、焦っているように見える。
シャーリーも内心、焦りを感じていた。
ディアンヌにしたことがバレたら、さすがに父に怒られてしまう。
(あの子のことだから何も言わないわよ……! そうに決まってる。何の知識も度胸もないもの)
シャーリーの思った通り、ディアンヌは何も言わなかったようだ。
そのことに安心したのも束の間、ベルトルテ公爵から箱と手紙が届いた。
それには父と母も驚いているのと同時に、困惑しているようだった。
中身を確認すると、そこには紫色のドレスとハイヒールが入っていた。
それもかなりの高級品だとすぐに見て取れる。
何故、ベルトルテ公爵がドレスを送ってきたのか……その理由は添えられたメモに書かれていた。
そこにはディアンヌの借りたドレスのことやハイヒールで怪我をしたため、新しいものを送ると書かれていた。
『シャーリー嬢に私の妻、ディアンヌが世話になった。以前、借りたものを返そう。反省があるのならディアンヌに近づかないでくれ』
それはシャーリーにとっても、カシス伯爵家にとってもいい意味ではないことだけは確かだった。
(ベルトルテ公爵は、わたくしがディアンヌにしたことを知っているというの?)
両親もそれを見て、ベルトルテ公爵に嫌われてしまったのではないかと焦りを滲ませる。
この手紙を見てわかることはただ一つ……ディアンヌがシャーリーとのやりとりをベルトルテ公爵に告げ口したということだ。
シャーリーの体には冷や汗が滲む。
ベルトルテ公爵にいい印象はないはずだ。
汗ばむ手のひらを握り込むのと同時に裏切られたような気分になった。
(このわたくしに恥をかかせるなんて信じられない……!)
両親はシャーリーに何をしたのか問い詰めてくる。
シャーリーはディアンヌにドレスとヒールを貸したことを説明して誤魔化すことしかできなかった。
そして問題ないと、ひたすら言うことしかできない。
その後、メリーティー男爵家に王家から援助が入ることが広まっていく。
ロウナリー国王の第一子があと数カ月で生まれる。
メリーティー男爵家で育てている果実を気に入っていたロウナリー国王が自分の子供に食べさせたいと考えたことが大きいようだ。