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⑤⑥

ディアンヌがそう言って笑っても、リュドヴィックの表情は曇ったままだ。

何故かと疑問に思っていると、どうやらディアンヌの顔半分にはカトリーヌに踏まれた靴の跡があるらしい。

リュドヴィックの手がディアンヌの頬に触れた。

彼のロイヤルブルーの瞳と目が合うと心臓がドクリと跳ねる。

頬に触れた対応と近づいていく距離に居た堪れなくなったディアンヌは誤魔化すように彼の手を握った。



「リュドヴィック様、メモを読んでくださりありがとうございます」


「ディアンヌ……どうしてこんな無茶なやり方を?」



リュドヴィックは少々怒っているようにも見えた。



「直接、聞いてもらわないとララとララの家族を救うことができないと思って……」



ディアンヌの言葉を聞いたリュドヴィックの視線はララへと向かう。

ララとカトリーヌの会話の流れはある程度はわかっただろうが、詳しくはわからなかったのだろう。

胸に手を当てたララは震える唇を開く。



「ワ、ワタシはカトリーヌ様にディアンヌ様に危害を加えるように命令されましたっ! そうしないと家族を消すって言われたんです」


「……!」


「ですが、ナイフを向けたワタシにディアンヌ様は手を差し伸べてくれたんです」


「ララ……」


「ワタシはどんな罰でも受けます! ですが、どうか……レアル侯爵領にいる家族を助けてください!」



ララは涙ながらにリュドヴィックに深々と頭を下げる。

そしてディアンヌもララと一緒に頭を下げた。



「わたしからもお願いします! ララの家族を助けたいんですっ」



ララは驚いたようにディアンヌを見ながら顔を上げている。



「ディアンヌ様、どうして……? ワタシはディアンヌ様にあんなことをしたのに」


「ララは何も悪くないわ。それに家族を守りたいって気持ちは、わたしにもわかるから……」



ディアンヌはララの手を握りながら笑みを浮かべた。

そうするとララは緊張の糸が切れたのか大号泣している。

座り込んでしまったララの背を撫でながら、リュドヴィックを見た。



「すぐにレアル侯爵に連絡を取る」


「リュドヴィック様、ありがとうございます!」


「ララ、詳しく話を聞かせてくれ」


「……っ、はい」



ララは涙を流しながらも、今まであったことや家族の状況を話していく。

レアル侯爵に騙されて多額の借金を背負わされていたこと。

家族がレアル侯爵領で暮らしていくために、ララが奉仕という形でカトリーヌの侍女として働いてきたことも。

ララの話を聞きながらディアンヌは涙が止まらなかった。

顔中が固まってカピカピになりつつも、ララと抱き合って泣いていた。



「……そんなことが。気づけなくてすまない」


「い、いえ……ワタシが未熟なばかりに」


「この国の宰相としても、屋敷の主人としても申し訳なく思う」


「とんでもございませんっ!」


「私の責任だ」


「ベルトルテ公爵、頭を上げてください……っ!」



リュドヴィックが軽く頭を下げると、ララはパニックになっているのか手を前に出しながらブンブンと横に振っている。

それからリュドヴィックは「すぐに対応する」と言って、ロウナリー国王に早馬を送る。

屋敷の使用人たちとも定期的に話をする機会を設けるそうだ。

それからカトリーヌがしたディアンヌへの数々の嫌がらせも明るみになり、彼女に協力した料理人も解雇。

ディアンヌはリュドヴィックに黙っていたことを怒られることになる。



「どうしてすぐに報告してくれなかったんだ?」


「リュドヴィック様は忙しそうでしたし、屋敷にいなかったので……」


「……」


「それにピーターやマリアが守ってくれましたから!」


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