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⑤⑤

ピーターはディアンヌの服をギュッと握っている。

これから起こることをピーターに聞かせたくはなかった。


(それにピーターに何かあったら嫌だもの)


ディアンヌはピーターにあることを耳打ちする。



「ピーター、真犯人が見つかったから、マリアと一緒にエヴァにもあなたの活躍を教えてあげて」


「わかった!」



ピーターは元気よく返事をすると、「早くエヴァのところに行こう」と、マリアの手を引いて部屋の外に向かう。

ディアンヌはチラリとカトリーヌを見る。



「なんで……? どうしてよっ」



爪を噛みながら呟くカトリーヌはかなり焦っているように見える。

自分の計画通りにいったと思いきや、一転して最悪な結末を迎えつつある。

リュドヴィックはディアンヌを守るように立っている。

今はそのことが心底気に入らないといった様子だ。

リュドヴィックの大きな背を見ていると、低い声が耳に届く。



「このことはレアル侯爵に報告させてもらう。今すぐにベルトルテ公爵邸から出て行ってくれ」


「なっ……! わっ、わたくしは何もしておりません! 悪いのはララですわ」


「すべて聞いていた」


「…………え?」


「扉の外で、君たちの会話をすべて聞いていたと言っている」



リュドヴィックの有無を言わせない態度に、カトリーヌは唖然としている。

そして先ほどディアンヌやララへ言った言葉を思い出しているのだろうか。

瞳は左右に揺れて、動揺しているように見える。



「カトリーヌ・レアル……以前からマリアから話は聞いていた。ララにすべてを押しつけていたそうだな」


「ぁ……」


「それからディアンヌをこのような形で傷つけようとした。私は君を許すつもりはない」


「……ち、ちがう! 違うんですっ」



ディアンヌはリュドヴィックが自分のために怒ってくれたことが嬉しかった。

カトリーヌはその場にペタリと座り込んでいる。

俯いていて表情は窺えないが、ある言葉がディアンヌの耳に届く。



「わたくしを……騙したのね?」



そしてカトリーヌは少し離れた場所にあるナイフを手に取った。



「──お前のような貧乏令嬢は、リュド様の隣に相応しくないのよっ!」



カトリーヌがナイフを振り上げようとした瞬間だった。

リュドヴィックは凄まじい速さでナイフを蹴り上げる。

カンッという音と共にナイフは遠くに飛んでいってしまう。

カトリーヌはナイフを持っていた手が痺れているのか、手首を押さえていた。



「誰が相応しいのかは私が決める。ディアンヌは素晴らしい女性だ」


「……リュドヴィック様」


「私が君を好きになることは絶対にない。二度と私の名前を呼ぶな。今すぐに消えてくれ」



ディアンヌがリュドヴィックの華麗な足捌きに感動していると、ピーターがマリアとエヴァと共に屋敷を警備している男性を連れてくる。

どうやらピーターが連れてきたようだ。


リュドヴィックの指示でカトリーヌを拘束していく。

カトリーヌはリュドヴィックに直接、拒絶されたことがショックだったのだろう。

人形のように動かなくなってしまい、そのままズルズルと引き摺られるように連れて行かれてしまった。


ディアンヌがホッと息を吐き出していると、ピーターが突撃するようにこちらに走ってくる。

ピーターを受け止めたディアンヌが、服が汚れてしまうことを気にしていた時だった。

ピーターが嬉しそうに顔を上げる。



「ディアンヌ、真犯人を捕まえたね! ボクたちで悪いヤツをやっつけたんだっ」


「ありがとう、全部ピーターのおかげよ!」



はにかむように笑ったピーターを眺めつつ、頭を撫でていると……。



「ディアンヌ、大丈夫か!? ケガはないか?」


「はい、わたしは大丈夫です」



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