⑤③
カトリーヌの言葉に苛立ちを感じていた。
やはり最初からすべてララに責任を押し付けるつもりだったのだろう。
けれどディアンヌよりも、ララの方が我慢の限界がきたのだろう。
今までの怒りをぶつけるようにララは叫ぶように言った。
「あなたたちがそうしたんでしょう!? ワタシたちを騙して奪い取ったくせにっ」
「……はぁ?」
「こんなのっ、こんなのひどすぎるわ!」
カトリーヌはララと視線を合わせると、彼女の頬を叩くために腕を振り上げたようだ。
そしてララの頬を思いきりバチンと叩く重たい音が聞こえた。
ララの体は床に倒れ込んでしまう。
ディアンヌはララに手を伸ばそうとしたが、なんとか我慢するように手を握る。
「騙されて奪われる方が悪いんでしょう? 底辺の分際で、わたくしに楯突くんじゃないわよ。わたくしのそばにいられるだけ、ありがたいと思いなさい……っ!」
その間にディアンヌは這いながら、ララとカトリーヌの元へ向かっていた。
同時にポケットに入っていた赤い果実がプチプチと潰れて、真っ赤な果汁が服に染みていく。
今、腹部は血に濡れているように見えるだろう。
カトリーヌの足を掴んだことで、ララへ向いていた視線が再びディアンヌへと向いた。
「目障りな虫と一緒ね。どうしてこんなに生命力が強いのかしら……服が汚れちゃうじゃない」
「……っ」
「さっさと死になさいよ! 身の程知らずがっ! 踏んでも踏んでも足りないくらいだわ」
ガシガシとディアンヌを蹴り飛ばすカトリーヌ。
ディアンヌは薄っすらと目を開いた。
視界は揺れているが、扉が開いて光が漏れていることに気づく。
恐らくピーターやリュドヴィックはこの光景を見ているはずだ。
「やめてくださいっ!」
ララがカトリーヌの行動を防ぐように足を押さえるが、すぐに蹴り飛ばされてしまう。
このままだとララに危害が加わってしまうと判断したため、パタリとディアンヌの手から力が抜ける。
それを見たカトリーヌが勝ち誇ったように笑っている。
そしてディアンヌの位置からはわからないが恐らく部屋にある鏡を見て、自分の髪を整えているようだ。
そしてディアンヌの体を踏みつけると、最後の仕上げとばかりに暴言を吐き散らしながらぐりぐりと力を込める。
「お前ごときが、リュド様に触れるんじゃないわよ! わたくしにこんな思いをさせるなんて死んで償いなさい」
「…………」
「ゴミは掃除したことだし、あとはリュド様がここに来るだけね。あぁ……やっとわたくしのものになるのねぇ」
カトリーヌのその言葉と共に足が退けられた。
彼女に踏まれて乱れた髪の隙間から、目に涙をいっぱい溜めたピーターの姿が見える。
ピーターは肩を揺らして泣くのを我慢しているようにも見えた。
そしてその後ろにはリュドヴィックの姿がある。
(よかった……! カトリーヌがララのことを言っていたことが聞こえたはず。これでララが救われるわ)
かなりの長い時間、リュドヴィックたちは扉の外でカトリーヌが話していたことを聞いていたはずだ。
「──お前が真犯人だっ!」
「なっ……!?」
ピーターがカトリーヌを指差しながらそう叫ぶ。
それにはカトリーヌも意味がわからずに戸惑っている。
「リュド、早く捕まえよう! カトリーヌが犯人だったんだ」
「……な、なにを!」
カトリーヌの驚く声が上から聞こえた。
ピーターがディアンヌを踏んでいたカトリーヌの足に掴みかかる。
それには足を退かし忘れたカトリーヌも動揺しているようだ。
何故ここにピーターがいるのかわからないからだろう。
「……っ、ディアンヌをこれ以上傷つけるな!」
ディアンヌがピーターの言葉に感動しつつ、起き上がるタイミングを窺っていた時だった。
コツコツと音を立てて、真っ黒なブーツがこちらに近づいているのが見えた。
それと同時にカトリーヌの声色が変わる。