④⑧
あっという間に一日が過ぎてしまい、ベルトルテ公爵邸に帰る時間になってしまう。
ディアンヌも荷物をまとめて執事に運んでもらっていた。
ライ、レイ、ルイやロアンたちと抱き合いながら、別れを惜しんだ。
大号泣するライたちはディアンヌがいなくなることが悲しいようだ。
ピーターもまだライたちと一緒にいたいのか、「帰りたくない」と駄々を捏ねていた。
余程、楽しかったのだろう。
ディアンヌが馬車に乗る様に促したとしても、ピーターはその場から動こうとはしない。
するとリュドヴィックがピーターと視線を合わせるように膝を突く。
「ピーター、また遊びに来よう」
「でも……」
「私もとても楽しかった。今度はもっと長期間、休みを取れるようにする」
「リュドがそう言うなら……我慢する」
リュドヴィックの言葉にピーターは納得したようだ。
そんなピーターの姿に、声を掛けたリュドヴィック自身も驚いているように見える。
「もちろんメリーティー男爵たちが受け入れてくれるのなら、だが」
「是非とも、またいらしてください! 我々はいつでも大歓迎です」
「いつでもいらしてください」
「ありがとう、助かる」
リュドヴィックはそう言って軽く頭を下げた。
ディアンヌと手を繋いでいるピーターの反対側の手を握り、微笑んでいるリュドヴィック。
そんな彼を見て、メリーティー男爵はポツリと呟くように言った。
「ベルトルテ公爵は、あんなに雰囲気が柔らかかっただろうか」
「いいえ……前はもっと冷たくて怖い感じだったような気がするわ」
「ああ、まるで別人のようだ」
メリーティー男爵と夫人は、三人を見送りながら呟くように言った。
「……姉上、幸せそうでよかったね」
「本当によかった……素敵な家族ね。ディアンヌもベルトルテ公爵に愛されていたのね」
「さすがディアンヌだな。自慢の……っ、自慢の娘だっ!」
「父上、泣いてばかりいないで。ほら、鼻水を拭いて」
「ロアンッ、自慢の息子よ……!」
「くるしっ……母上、父上を止めてよ」
ロアンはワンワンと泣き叫ぶメリーティー男爵に抱きしめられながら、微笑む男爵夫人に助けを求める。
自らを犠牲にするようにして、婚約者を探してくるとディアンヌはパーティーに向かった。
しかし結婚して、メリーティー男爵家を救おうとするディアンヌに対して罪悪感を覚えていた。
不甲斐ない自分たちに情けない気持ちになりつつ、ディアンヌを犠牲にしてまで幸せになりたいとは思わない。
ディアンヌが帰ってきたら温かく迎えようと思っていた。
爵位よりも大切なものがあるから、と。
しかし二人の予想に反して、ディアンヌは短時間にすべてを手に入れたのだ。
そしてメリーティー男爵家に様々な恩恵を与えてくれたのだ。
ベルトルテ公爵だけでなく、王家の援助まで。
今のロウナリー国王が成長して、またメリーティー男爵家のフルーツを食べたいと言ってくれた。
こんな幸運は二度とないかもしれない。
それと同時に、ここまで耐えてきてよかったと思った。
それもすべてディアンヌのおかげだった。
最初はベルトルテ公爵家に男爵令嬢が受け入れられるのか心配はあったが、どうやら大丈夫だったようだ。
あとはディアンヌが幸せになってくれたら……そう願うばかりだったが、仲睦まじい様子に安心していた。
ベルトルテ公爵の協力も得て、あとは自分たちがディアンヌや公爵に応えるように努力してかなければならない。
「わたしたちもディアンヌに負けていられないわ。死ぬ気でがんばりましょう! みんなで協力してメリーティー男爵領を立て直すのよ!」
「もちろんだ。ベルトルテ公爵やロウナリー国王の期待に応えてみせる!」
「僕も協力するから!」
「「「オレたちも!」」」
メリーティー男爵家ではディアンヌの知らないところで闘志が燃え上がっていたのだった。
* * *